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俺の二月十四日の乗り切り方 前

旅行から帰って来て約二週間。

本日、二月十四日。

俺にとって、命に関わりの深い今日は家からでないと決めた。

外に出たら悲しみと嫉妬で殺意の波動に目覚めそうだから。

だいたい企業戦略にまんまと乗せられるやつらが悪いんだよくそっ!

百歩譲って本命チョコなるものは許そう。

腹立つけど。

でも義理チョコって何だよ。

そんなことするから馬鹿な男どもが『もしかして、こい

つ俺の事好きなんじゃね?』とか勘違いすんだよ。


「はぁ、取り敢えずカップラーメンでも食べるか」


朝と昼の間くらいの遅い朝食はてきとうで良いはず。

そう思い自室からキッチンに移動した。

その際テレビもつけた。

あんまり静かすぎるのも考えものだし。


『今日は二月十四日、待ちに待ったバレンタインデー!』


誰も待ってねぇよ。


『早速街の人たちに聞き込みをしてみましょう。すみませーん』

『えっはい』

『バレンタインデーですね』

『そうですね』

『誰かにチョコ渡すんですか?』

『会社の同僚に義理チョコをあげる予定です』


やっぱりテレビ消そう。

お湯を注いだ三倍カップラーメンを片手にテレビの電源を落とした。

義理チョコってふざけてんのかよ。

俺は義理でも貰ったこと無いのに。


「そろそろで来たかな」


そりゃあんな姉が居たんじゃ誰も渡せないよ。

まぁ友達が居ないってのもあるけど。


ズズズッ


くっそ、このラーメン異様にしょっぱいぞ。

今年はもしかしたらとか期待したよそりゃ。

でも朝起きて姉ちゃんに言われたのが『夏夜君は私以外の人のチョコ要らないよね』だぞ。

貰うなって意味だろ。

チキショー!


ピーンポーン


「誰だよ飯中に!」

「何やねん、せっかく来たってんやからもうちょい歓迎せぇや」

「げっ、中谷」

「げって何やねん」

「・・・・・・何のよう?」

「えっとやな、詩音に言われてこれ作ってんけど貰ってくれへん?」


後ろで組まれた両手から差し出されたのは綺麗に包装のされた、臭いからしてチョコレートだろう。

いや、その。

ごめん。俺貰えない。

何て事も言えるわけもなく、てか正直に義理でも嬉しい。


「ありがと」

「その代わりホワイトデーはキャンディかキャラメルがええな」

「おっおう」


お返しって指定されるもんなのか?

初めて知ったよ。

てか何故その二つ?


「まぁ、夏夜のうちに対する気持ちの現れを示してくれるもんやったら何でもええわ」

「まぁ考えとく」

「おう!じゃあ飯の途中やった見たいやしそろそろ行くわ。じゃあな」

「じゃあな」


彼女を見送りラーメンのもとに戻ると四分の三ほど残ってた三倍ラーメンがさらに倍増していた。

その代わりスープは激減してて、何とも悲しいラーメンになってしまった。

このチョコどうしよ?

姉ちゃんが帰ってくる前に処理しないとだけど、なんか臭いでばれそう。

取り敢えずラーメン食うか。


■□■□■□■


中谷から貰ったチョコは結局食べた。

消臭剤もまいたしたぶんこれで微かな臭いも残らないだろう。

にしてもあいつのチョコは苦かった。

ビターとかじゃなくて、うん。

苦かった。

配分をミスったのかもともとそう言うやつなのか、でも初めてのチョコは苦くても美味しかったと言える。

これで姉ちゃんにばれなければなおよし。

ばれたらきっと大量のチョコを食べさせられる。


ブーブー


『夏夜先輩のチョコは預かった、欲しければ今すぐ大学前の公園に来て下さい』


秋菜の馬鹿野郎は訳のわからないことをメールで送ってきた。

いや行かないよ。

これ以上リスクは犯したくない。


『追伸、来なければこちらから行く』


さて行きますか。

だいたいあいつは俺の姉を知ってるはず。

なのにそれでも今日と言う日にチョコを渡すと言うのだから、馬鹿もいいと

ころだ。

何だ、死にたいのか。自殺か?

それとも俺を殺したいのか?

物騒な日常で何よりだよ。

それから数十分後、指定された公園に居たのは秋菜だけじゃなかった。


「あっ南くん」

「夏夜先輩おそーい!」

「先輩走ってください!」


サークルメンバーがはからずも結集してしまった。

いや、俺ははかられたのか。


「おい秋菜」

「何ですか?」

「俺の姉の事知ってるよな」

「はい勿論。チョコなんて渡したらどうなるかも予想できてますよ」


それでもやるってのはどう言う事だよ。

しかもこの感じだと後ろの二人も確実にわかってる。

分かっててやるほどの価値がそれにあるのか?

確実に無い。

リスクばかりが増してリターンが低すぎる。

どうやってもリスクリターンの計算が合わん。

良い思い出を得る変わりにに思い出と書いてトラウマと読む思い出も植え付けられるんだから採算が合わなさすぎる。


「でもやる意味も価値もあります」

「意味がわからん」

「夏夜先輩鈍感ですもんね」

「うるせ」

「じゃあ私から」


そう言って梨木が近づいてきた。

手に持っていた袋にはクッキーが詰まっていて、梨木は俺の反応を窺うように見上げてくる。

相変わらずよく人を見る奴だ。


「えっと、ありがと」

「それだけですか?」

「あんまり経験がなくてな、すまん」

「まぁあのお姉さんが居たんじゃそれも仕方ないですね」

「まぁな」

「じゃあ次頑張ってねぇ」


振り返り軽快な足取りで元の位置に戻っていく。

まるで演劇を見てるような感覚に陥りそうになった。


「じゃあ次は秋菜が行きますね」


処理しないといけないからなるべく早く済ませたいのだけど。

どうせ全部義理チョコとか言う謎の風習だろ?

さっきも貰ったよ苦いのを。


「手作りチョコです!」

「おっおう」

「お返しはキャラメルでお願いします」

「そのキャラメルって何か意味あんの?」

「えっ、あっ。にゃんでも・・・・・・」

「はーい回収。最後お願いします」


真っ赤になった秋菜を梨木が回収した。

あれ?

何か聞いたら不味かった?


「南くん!」

「はい」

「えっ!」

「危なっ」


今時こんなラキスケが有るんだな。

なんて冷静気取ってるけどヤバイ。

顔面に伝わる胸の感触が・・・・・・。

押し倒されるような態勢の俺の顔には素晴らしき感触が全体に伝わって理性の防衛戦が爆撃されたかのようだ。

いや実際に俺は二つの大型爆弾に爆撃されてるのか。


「イテテ。えっ・・・・・・きゃあー!」


体を起こした俺にマウントポジションを維持しつつ、今起きたことの理解をすると平手打ちを繰り出してきた。

理不尽だ。


「あっ。ごっごめんなさい!」

「いや、取り敢えず降りてください」

「そうですね」


ようやく立ち上がり、叩かれたほほのいたみを確認する。

上の下ってとこか。

俺が悪いのか?

俺は立ってただけで、何もないとこにで足引っ掻けたのは先輩だし。

やっぱりリスクリターンが合わん。


「大丈夫ですか?」

「はい。先輩もどこか痛めませんでしたか?」

「南くんのおかげで無傷です」


重心が大幅に右にかかってる。

普段は均等にかけてる体重を急に片方だけにするとか狙ってる?

一言かけて何も言わなかったら帰ろう。


「左足、挫きました?」

「・・・・・・お恥ずかしながら」

「はぁ、おぶりましょうか?」

「えっそっそんなの家までなんて悪いです。それに歩けますから」

「何言ってんですか、最寄り駅までですよ。俺も用事ありますし」

「それなら、お願いします」

「秋菜もおぶってください!」

「アホ」


秋菜の馬鹿野郎をいなしつつ、梨木さんの下心があるのではと言いたげな視線も無視して金森先輩をおんぶした。

平常心平常心。

心を乱されてはいけない。

あれはただの肉の塊なんだ。


「重くないですか?」

「人一人分の重みですから大丈夫」

「意地悪」

「落としますよ」

「すみません」

「イチャイチャすんなー!」

「蜜柑ちゃんの言う通りだ」


じゃあ行きますか。

片手に先ほど貰ったお菓子を、もう一方は金森先輩が落ちないように太股辺りに回してる。

これでセクハラって言われたらどうしよ?

公園を抜けて大学を横切り、見慣れた道を行く。


「南くん、口開けてください」

「えっ。はい」

「えいっ」


可愛らしい掛け声と共に口に入ってきたのは甘い甘いクッキーだった。


「どうですか?」

「美味しいですよ」

「このこのこのっ」

「秋菜、後でうめぼしするから。今のうちに俺を蹴ったことを後悔しとけ」

「やーい、ここまでこれるもんなら来て下さい」

「やだよ走るなんてしんどい」

「私が重いからですか?」

「四十キロの荷物持って普通に走れるほど鍛えて無いんですよ」


言葉を選び間違えたかな。

でもまぁ間違ってないしいいだろ。

何か最近イライラする。

旅行に行ってからだ。

あの時から何かがおかしい。


「痩せた方が良いんでしょうか?」

「金森先輩はそのままで良いですよ」

「何て言ってる俺かっこいいとか思ったりしてませんか?先輩」

「梨木、俺に限ってそんなことは絶対無いから」

「自信無いんですね、知ってましたけど」


本当にこいつは、最初あったときとは全然違うよ。

なれてくれたのか、嘗められてるのか。

恐らく後者だろう。


「梨木と秋菜は金森先輩と同じ方向だったな」

「途中までですけど」

「じゃあ後は頼んだ」


最寄りの駅につき金森先輩をおろした。

まだ歩くと痛むみたいで少し危なっかしい。

そんな先輩を二人に任せて俺は帰宅した。


《続く》

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