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俺の姉と温泉旅行

飛行機と電車とタクシーを乗り継ぎやっとの思いできた草津温泉。

テレビでしか見たことの無い湯畑に少し感動しつつ、公共温泉だったりお土産屋の並ぶ道を行く。


「姉ちゃん」

「何?」

「今日泊まる宿ってどんなの?」

「あそこに見えるのよ」


姉ちゃんの指の指した方向にはいかにも高そうな温泉宿を発見!

あれなのか。

あれかのかー。

でもまぁ、姉ちゃんは声優の仕事だけで一生食っていけるって豪語してたし多分間違いじゃないだろう。

姉ちゃん、ありがとう。

それから数十分後、チェックインを済まし俺は二人分の荷物を部屋に置いた。

姉ちゃんはと言うと、来る前から友人だと言ってた女将さんと仲良く話してた。


コンコンコン


「はい」

「南くん奇遇だね」


何でこの人は俺の行く先々に居るんだろ。


「お久し振りです、苺さん」

「うん、元日以来だね。元気してた?」

「おかげさまで」

「うん、お姉さんは安心したよ」

「どちら様?」


その瞬間和風旅館の廊下が、氷で出来た城の独房まで続く冷たい通路に見えた。

不思議と背筋も氷ってる。

久し振りすぎる感覚。いつもはどうしてたっけ?


「始めまして、金森苺です」

「始めまして。私の夏夜君になんのようかしら?」


私のを強調したことに突っ込むのは最早野暮って奴なのだろうか。

そしてさすが苺さんと言うべきか、姉ちゃんがギリギリヤンデレ無い間合いを保ってる。

やっぱり年上って恐い。


「少し世間話を」

「そう。でも手を出したら・・・・・・」

「わかってますよ。それじゃ失礼します」


品格をうかがわせる素振りで離れていく彼女を見送ることすら許されず、俺は部屋に引きずられた。


「夏夜君」

「なっ何?」

「あの人とはどういう関係?」

「先輩の姉さんで、深い関係なんて皆無」

「どうしてなの?」


何が?

大体予想つくけど何が!?


「私じゃダメなの?」

「は?」

「いつもいつも夏夜君は他の女と楽しそうにして、私といるときは全然笑わない。私じゃ夏夜君と一緒にいれないの?」

「そんな事無いよ」

「じゃあお姉ちゃんと結婚してくれる」


話が飛躍しましたねぇ。


「でも実の姉と結婚は無理だよ」

「なら死ぬまで一緒に生活したい」

「・・・・・・俺は普通に暮らしたいんだよ」

「普通って?」

「とりあえず温泉行こうよ」

「うん」


これ以上は俺の胃に穴が開きかねん。


「夏夜君夏夜君」

「ん?」

「この旅館ね、全客室に露天風呂ついてるの」


まさか。

いや、このまさかってのがある種のフラグに違いない。

そんな事あるわけ無いな。

うん、これなら大丈夫。


「一緒にはいろ?」

「・・・・・・」


もう嫌だ。

フラグもへったくれもねぇ。

しかしここで姉ちゃんのご機嫌を取っとかないと後が恐いとかのレベルじゃない。

恐怖すらも感じない闇の中に突き落とされるかもしれん。

別に姉ちゃんと入るのが嫌じゃないんだけど、むしろご褒美ですらあるんだけど。

あの人がヤンデレじゃなかったらの話だけど。


「いや?」

「嫌じゃないけどさ、その恥ずかしい」

「たまには良いじゃない」

「・・・・・・」

「お姉ちゃんはね、夏夜君に幸せになってほしい。でもお姉ちゃんも幸せになりたい。だからこれくらいの我が儘聞いてほしいの」

「分かったよ」


俺の幸せを願うのなら、早く弟離れしてくれよ。

仕方なく俺はさっさと服を脱いでタオルを腰に巻き露天に出た。

そこにあったのは壺湯タイプの湯船で、二人で入るには些か小さい。

そして姉ちゃんは確実にこの事を知ってて、一緒に入ろうなんて言い出したに違いない。

仕方ない、適当にかけ湯を済ませて湯船に浸かった。

はぁ。


「お待たせ」

「姉ちゃ・・・・・・」


振り返るとそこには一糸纏わぬ姉さんが立っていた。

これは本格的に俺の夏夜がが荒ぶるぞおい。

とにかく見ないようにしないと。


「夏夜君とお風呂なんて何ヵ月ぶりかしら?」


はいそこおかしいですね。

普通は何年ぶりとかになるはずなのに、姉ちゃんは今何ヶ月っていった。

おかしいよ本当に。


「夏夜君は今、幸せ?」

「姉ちゃんは?」

「うん、それなりに。憧れてた仕事で成功して、事故も病気もなく元気に暮らせてる。あとは夏夜君と重なるだけ」


ワタシ、ニホンゴワカラナイ。


「夏夜君は?」

「強いて言うなら・・・・・・」


ちょっと待て、本当にこれを言ってもいいのか?

一人で暮らしてみたいなんて、まるで姉ちゃんを拒絶してるように聞こえなくもない。

そんな風に言われた姉ちゃんはどんな行動を取るだろう?

考えたくない。

悪意の無い拒絶ほど辛いものも無いし、あの姉ちゃんの今までの行動から見るにろくなことにはならん。

これは言わない方がよさそうだ。


「強いて言うなら就職を無事に済ませたい」

「もし駄目だったらお姉ちゃんが養ってあげる」


姉ちゃんの言葉に苦笑いを浮かべながらいつのまにか何処かに飛んでいた恥ずかしさを思い出す。

そういや、俺今姉ちゃんと混浴してるんだった。

どうしよ。

逆上せてきたのに出れない。

無意識に隠してたけど、これは生理現象だから仕方ないよね?

でも見られたくない!


「夏夜君どうしたの?顔色悪いよ」

「いっいや、何でもないよ」

「ううん。夏夜君に関しては夏夜君以上に私が理解してる、そんなお姉ちゃんが言ってるんだから間違いない」


理解してるんだったらさっさと風呂からあがってくれ!


「逆上せた?」

「姉ちゃんともっと一緒にいたいな」


逆効果だろ俺!

なに宣ってんだよ。

あーあこれで余計姉ちゃんは風呂からでなくなったぞおい。

まじで神様、居るなら助けて。

いないなら今この瞬間に産まれろ!


「ふふっ、お姉ちゃんも夏夜君と一緒にいたい」

「あっありがとう」


あーどうしよ。

まじで限界が近いぞこれ。

吐き気もしてきた。

目の前がチカチカしてもう無理だ。


「夏夜君!なつ・・・や・・・・・」


■□■□■□■


柔らかくてすべすべしてる。

枕の感触じゃないな。

それに頭も撫でられていように落ち着く。

なんだろ、もうずっとこうしてたい。


「起きたの?」

「うん」

「昔はよくこうして、夏夜君に膝枕してたわね」

「つい最近もしてたろ」


膝枕は偉大だな。

ヤンデレ属性の姉ちゃんとの会話が今までに無いレベルでほのぼのしてる。


「でも気絶するまで我慢してお姉ちゃんと一緒に居たかったなんて嬉しい」

「うっうん」

「夏夜君が大学を卒業して社会人になっても、こうしてまた旅行しようね」


俺が苺さんと話していた時の鋭い目付きを毛ほども感じさせないほど柔らかな姉の笑顔に俺は小さくうなずいてまた目を閉じた。

気絶なんて余計疲れるだけ。

その疲労感に俺は深く眠った。

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