俺の後夜祭は雪奈先輩たちにのせいで悲惨に
トラブル続きだった文化祭は後夜祭に突入した。
まぁ後夜祭と言っても、校庭を解放してるだけの話。
冬のこんな寒い時期でも後夜祭は行われるから不思議だ。
しかし自由参加のこの行事に文実はやはり駆り出されるようで、用意されていたステージが雪を押し退け校庭に設置させられた。
「はぁ」
白くなる息が霧散していくのを寒空のした明かりの届かない校舎裏で過ごす。
向こうにいったら何押し付けられるかわかったもんじゃない。
それにしても寒い。
「体に雪積もらせて何してるの?」
「あぁ、雪奈先輩。俺にもう仕事回さないでください」
「うっうん。でも後は後片付けだけだから」
「何のようですか?」
「南くんは楽しかった?」
「正直来年から文化祭なくていいですね」
「ははは・・・・・・まぁでも私は楽しかったわよ」
「そりゃなによりで」
でもさ、誰かが楽しんだ分誰かが辛いんだよ。
俺が辛い思いしたとまでは言わないけど、楽しめる側の貴女が羨ましいです。
今日のホームルームなんて酷かったもんだよ。
クラスメートいわく俺はずっとサボってなにもしてなかったらしい。
まぁこれを言ったのはヘラヘラと最悪の作業効率でグダグダやってた、所謂人気者と呼ばれるやつなんだけど。
あいつらの棚にあげる物言いは割りと本気で殺意を覚えるね、うん。
「来年から私も大学生でしょ」
「受かればいいですね」
「A判定貰ってるから」
「まぁ雪奈先輩なら大丈夫ですよ」
「ってそうじゃなくて、この後の後夜祭の最後にステージの一番前に来て」
「仕事ですか?」
「違う」
「なら行きます」
「絶対だから、来なかったら校内放送でするから」
校内放送で何するの?
俺がそう聞こうとした時には既に雪奈先輩は居らず、かといって追いかける気にも慣れずまた息を吸っては吐く作業を繰り返す。
早く帰りたいな。
「夏夜君」
「あれ、姉ちゃん。外部客の人はもう帰ってるはずだけど」
「卒業生ってことで特別に入れてもらってるの」
「ふーん」
「夏夜君も来年は受験生なのね」
「三、四年周期で来るんだから珍しくもないよ」
「私ね、声優として人気出てきたわよ」
「おめでとう」
「だからこれからは夏夜君と触れあう時間も減るけど、その分愛をもって接するから」
「あっあぁ」
座る俺にじりじりと間を詰めてくる。
「夏夜君は家で家事してればいいの、私がずっと養ってあげるから」
「いっいや、悪いよ」
「ううん、私は夏夜君さえ幸せならいいの」
「なら俺一人ぐ━━━━━━」
「それはだめ」
「ですよね」
「夏夜君が悪い女や男に襲われたらどうするの?そんなこと無いようにー私と二人で一生実家暮らししましょ」
わっ悪い女や男だと。
男だと!
それはノンケの俺としてはかなりの恐怖だぞ。
つい最近いった先頭でもゲイさんがイチャイチャしてたし。
別にするなとは言わないが場所を考えて欲しい。
「それに私、定期的に夏夜君を抱き締めないと死んじゃうし」
「死なないよ」
「今日はまだ、だから━━━━━━」
「南春華さん!居ますか!」
表のステージから姉ちゃんを呼ぶ男の声。
「夏夜君一緒に来なさい」
「はいはい」
姉ちゃんのとなりを歩き、ステージまで行く。
ステージの上には姉ちゃんを見て笑みを浮かべた後輩がマイクを真剣な表情で握りしめてる。
その後輩の前に姉ちゃんがおどりでた。
まぁ何をするかは予想つくけど。
「南春華さん、俺と━━━━━━」
「絶対に嫌、だって私には心に決めた人が居るもの」
お願いします、お願いしますからその続きは言わないで。
「わっ私もいますよ春華さん!」
主役だったはずの後輩はいつの間にかステージ上から消え、その代わりに雪奈先輩がマイクを握りしてる。
後輩から奪ったのかな?
さっさと退散すべきかそれとも沈静化を計るべきか。
たぶんどっちも上手くいかないと思う。
「居ますか!?み━━━━━━」
「雪奈、そんな風に言ったら夏夜君に迷惑じゃない」
「そっそうですね、こんな風になんて南くんに・・・・・・」
何なのこの人達。
姉ちゃんはともかく雪奈先輩はそんなに俺の事が嫌いなの?
自分卒業するからしっかり傷跡残してくれて本当にありがとう。
「もうやだ」
もう帰ろう。
高校もやめてやる。
とにかく雪奈先輩は他人ですらない、存在も知らんその他大勢だよ。
「夏夜君大丈夫?」
「俺の名前マイクで言うなぁ!」
周囲の視線に絶えきれず俺は残りの仕事なんて放り出して学校を出た。
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「ふーん、期待はずれ」
「苺さんはどんなの期待してたんですか?」
後呑みすぎです。
「さぁ?きゃははは、楽しいなぁ。南くんとお喋りするのって本当に楽しい」
「そりゃ何よりです」
「ありゃ?どこ行くの」
「そろそろ帰ります」
椅子から立ち上がり壁にかけた上着をとる。
あれ?
リビングのドアが開かない。
「つ・か・ま・え・たっ」
「ちょっ、抱きつかないでください」
「お姉さん酔っちゃった」
「知ってますよさっきから泥酔ですもんね」
「月がきれいですね」
「月なんて見えません」
「酷い!」
「何で!?」
何なのこの人面倒。
好きじゃない思出話させられておまけに帰れないし。
年始めからこんなんとか明日を生きるのが嫌になるよ。
それにこの人胸がゲフンゲフン。
とにかく離れて欲しい。
「鍵欲しい?」
「はい」
「きゃっ合鍵なんてまだ早いわよ」
「ちげーよ酔っ払い、ここのドアの鍵開けて」
「まだまだ夜はこれからよ」
翌朝、二日酔いに見舞われたことは言うまでもないだろう。




