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俺の文化祭の記憶

あれから一週間後、俺や雪奈先輩の力によって書類上はあと二日以内に承認されれば一週間後に文化祭をおっぱじめられるようになった。

この学校では文化祭一週間前から、つまり今日の内に申請しておけば泊まり込みが許可されている。

しかし文実に残された仕事は片手で数えれる程の人手では到底足りない。

どうにかして協力者を集めないと。


「正門の看板はあと何れくらいで出来そうですか?」

「見ての通り間に合うわけがない」

「ありがとうございます」


サボり組はなに言っても無駄だろうし、そもそも俺には人を連れてくる力がないし、何処も作業に終われてるのに、俺の頼みなんか聞き入れるお人好しは多分いない。

どうすれば良い?


コンコンコン


「入ってください」


雪奈先輩の返事に入ってきたのは紛れもなく姉ちゃんだった。


「春華さん!どうしてきたんですか?」

「霞ね、久しぶり。今日は文化祭が近いって聞いたから覗きに来たの」


何故こっちを見る姉ちゃん。


「ところで霞」

「はい」

「文実はこれだけ?」

「えっと、皆サボってるんですよ」

「でもどうみてもこのペースじゃ間に合わないわ。そうねぇ、泊まり込みの申請を通す代わりに一、二時間の手伝いをしてもらったらどう?」

「そんな事して良いんですか?」

「貴女は気付いてないかもだけど、私の時もそうしたのよ」


あの二人なに話してんだろ。


「おい南、ぼーっとしてんならお前も看板作り手伝えよ」

「あっ、はい」

「南くん、ちょっと来て」

「すみません、後で手伝いに来ます」


先輩に一言断りを入れ姉ちゃんたちの方に向かう。


「姉ちゃんなに?」

「随分と人手が足りてないのね」

「まぁね」

「だからお姉ちゃんが時間の許す限り手伝ってあげる」

「それより今日の仕事は?」


声優になって今年で二年目。

まだまだ若手なのだから遅刻とか絶対に許されないだろ、いや若手じゃなくても許されないけど。


「今日から三日間オフなの」

「なら家出やすんで━━━━━━」


俺の言葉を遮るように姉ちゃんは俺の事を抱き寄せた。

俺の狭くなった視界から見えるのは真っ赤になった雪奈先輩と、うらめしそうにこちらをにらむいつぞやの後輩。

なんかしらんが優越感。


「委員長、このダメダメで頭の悪い南先輩を抱き締めてるのは誰ですか?」

「南くんのお姉さんの南春華さんよ」


そしてその事実を知った瞬間その後輩は少しの笑みを浮かべた。

ニヒル気取りですか?

気持ち悪いだけなんで帰ってください。


「あっ看板手伝いまーす!」


そんな後輩が意外にも自ら仕事に参加したのだから驚きだ。

これも姉ちゃんのおかげ?


「そろそろ離して」

「まだ夏夜分を補給しきってない」

「ななな夏夜分とは一体なんですか!?」

「霞も知りたい?」

「是非」

「夏夜分さえあれば例え火の中でも水の中でも宇宙空間でも汚染空間でも無傷で生きていける奇跡の成分よ」


なんて万能なんでしょ。

でも、その成分放ってる俺が脆いしそもそもそんな成分ないから。


「先に行っておくけど霞。夏夜君に抱き付いたりしたらこの文化祭、霞だけのせいになるように潰すわよ」

「・・・・・・心得ます」

「ならいいの 」


だれか俺の意見を聞き入れてくれる方はおらぬでしょうか?


「よし、そろそろ大丈夫」

「さいですか」


そうこうしてるうちに、作業時間延長の申請者が会議室前にゾロゾロと。

その中には本来こっち側で作業してるはずの生徒の姿もちらほらと見られた。

そして俺はある名案を思い付く。

何も知らない奴等の悪意をサボり集団に向けつつ人員も確保する最高の作戦だ。


「雪奈先輩、申請の説明は俺がやります」


しかしこの作戦でいくら悪意を分散させれても多少はこっちにも向く。

この際誰に多く向けられるかが問題で、それなら発案しゃの俺が妥当だろう。

なにより雪奈先輩にこのやくは些か向いてない。


「じゃあ申請書の配布をする前に、文化祭実行委員から話があります。それは申請の条件に文実の作業の手伝いを追加すると言うこと」


俺の説明に皆が揃いも揃って同じ反応をする。

まるで自分は誰よりも働いてるのにこれ以上仕事を増やすのかと言わんばかり。

まぁ文実に当たってないやつは良い、問題はその文実に当たってる人間だ。


「今年は文化祭実行委員の作業が一部の人のサボタージュにより!大幅な遅れを見せてます。具体的にはこの場に申請書を取りに来ている文実さんのおかげで遅れてる」


俺が言葉を発する度に騒ぎ大きくなる。

この手の騒いでる自分超輝いてると勘違いしてる奴等の相手は意外と簡単。

あいつらは輝いてるのではなく、自分達の手で貶めた生徒を見て満足してるにすぎない。

そんな勘違い野郎共の相手なんて簡単じゃないはずがないだろ。


「本来なら一クラスから二人で充分進めれる筈のスケジュールを狂わせた一部の人のおかげで申請許可に、一クラスから毎日五人の手伝いに来てもらう事になりました。これを破れば申請は即刻削除、四時半までにここに来てくださいね」


はぁ、これで学年関係なく嫌われた。

でもこれで取り敢えずの人員は確保できた。

後は確保した人員の仕事ぶりなんだけどあんまり期待はしてない。

なんせ嫌々だからな。

ここで俺がもっと対人に強かったら士気もあげられて万々歳だったんだろうけど無い物ねだりもよそう。

計二十四枚の申請書を配り終え俺は看板作りに混じった。

それから程無くして約束の人手が来た、案の定殆どが文実さんで結局初期とあまりメンバーは変わっちゃいない。


ドンッ


「ちっ、ちゃんと前向いてあるけよクズ」


俺への風当たりが少し強くなったくらいだ。

それ以外何ら変わりのない時間。

まぁ風当たりが強くなったのは姉ちゃんがやたらとベタベタしてくるってのも有るんだけど。

今の三年はオープンスクールの文化祭で姉ちゃん見てるもんな。

どういうわけか姉ちゃんが見学者引き連れてたし。


「このペースだったら間に合いそうだね」

「ですね」

「私、春華さんに負けないからね」

「そうですか、頑張って下さい」

「だからね、この後━━━━━━」

「なっつや君」


人を落花生売ってる人みたいに呼ばないで。


「一緒に帰ろ?」


そうだなぁ、俺もそろそろ帰るか。

時間も結構遅いし。


「雪奈先輩、お先失礼します」

「ううん、また明日もよろしく」

「姉ちゃん手離して」

「いや」


姉ちゃんに手を引かれて学校を出るのは凄く恥ずかしかった。


《続く》

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