俺の年越しとはコタツムリ
コタツムリ
あるべき姿
年越しの
夏夜、年越しの俳句。
何て馬鹿なこと考えるくらい暇。
もはや暇を暇で潰してその上からさらに暇がのし掛かるのを繰り返す魔の無限ループ。
この無限ループからは誰も逃れられないのだぁ。
「なにやってんだろ俺」
はぁ、今年も残すところあと十分か。
今年は何だかんだで、俺にとって激動の一年だったな。
どうせ激動するなら右手に球状のオーラを乱回転させれる超必殺技的なの貰いたかったな。
そしたら悲しみを背負う少年漫画の主人公に早変わりだし。
目からビーム口から破壊光線、掌からでる地獄の業火で空を飛ぶ。
中々にカオスだな。
てか今ごろ中二病発病とか遅すぎだろ嫌すぎだろ。
ゴーン
あっ、年明けた。
明けちゃったよ新年始まっちゃったよ。
しかし悲しいことに誰にも明けましておめでとうとは言えず、家でコタツムリ。
この時間帯は回線混むからな。
姉ちゃんにメールは送りたくないし。
ピーンポーン
誰だよこんな時間に。
ガチャ
「今晩は」
「あぁ、大宮さんか」
「露骨に面倒そうな顔しないでよ」
なら帰れよ。
「この振り袖いいでしょ」
見せびらかすように一回転するもそれすらあざとく見えてしまうから不思議である。
「ん、あぁいいんじゃね?」
「じゃあ早く夏くんも着替えてきて」
「じゃあお休み良いお年を」
パタン。
鍵も閉めたし寝るか。
ピピピピピピピ
「うるせぇ!」
「夏くん、うるさいじゃなくて着替えてきて」
「嫌だね」
「轟さんと梨木さんもここに呼んじゃおっかな?そうしたらきっと轟さんが金森先輩もつれてくるよ」
だって雪積もってるじゃん寒いじゃん何より面倒じゃん!
「さーん、にーい、い━━━━━━」
「身支度してくるから十分くらい待ってくれ、その間炬燵にでも入ってろ」
「はーい」
はぁ。
大宮さんがリビングにいったことを確認して着替え始める。
あぁさみぃ。
こういう日はカイロとマフラーとコートは決してかかせない。
たぶんこの三つがなかったら俺は凍死すると思う。
「おい、行くぞ」
「炬燵から出れない」
「炬燵ごと放り出したろか?」
「早くいこう」
面倒だな、何て言うかこの一言に限る。
面倒だな。
ガチャ
戸締まりも完了したし、さっさといって帰ってくるか。
はぁ。
やっぱり寒いな。
雪積もってるから当たり前だけどさ、こういう日は家を出たらダメなんだって。
「そういや、その巾着袋って何入れてんの?」
「ハンカチとティッシュと携帯とお財布」
「思ったより普通だった」
「このサイズだとこれが限界」
「はぁ、寒い」
それから歩くこと二十分弱。
この辺の人で賑わう神社に到着。
こう言うところにくるとすこし昔の修学旅行を思い出す。
俺の班の勘違い野郎が誰でも知ってる知識をひけらかしてるあの光景。
鳥居の真ん中は神様の道だから端を通るとか誰でも知ってるんだよ。
それを専門知識だぜすごいだろ的なニュアンスと顔で自慢げに言うあいつは本当に苦手だ。
まぁ修学旅行も学祭のあとだからな、俺はずっと一人だったけど。
「あったこ焼き売ってる」
「さっさと御参りして帰ろう」
「夏くんこっちこっち」
「あー引っ張るな引っ張るな」
「たこ焼きくださーい」
「おう、お嬢ちゃんたち兄妹かい?仲いいから二つおまけしてやるよ」
はじめて兄妹とか言われた。
このオッサン眼鏡かコンタクトしろよ。
「恋人同士━━━━━━」
「じゃないです」
「そっそうか、ほら三百円」
「夏くん」
「俺が払うのかよ」
財布から百円を三枚とりだし目の悪いおっさんに渡す。
たこ焼きとか今食いたくないのに。
「はいあーん」
「いらん」
「ほんとに?」
「晩飯食べたし腹も減ってないから」
「そう?ならいただきます」
参拝の列に並ぶとそこにはあまり見たくない顔が・・・・・・。
「苺さん、お久し振りです」
「うん、久しぶりだね。今日はまた違う女の子と一緒なんだね」
「予定では今ごろ寝てますけどね」
「夏くん、何方ですか?」
「あぁ、初対面だったね。わたし金森苺、苺ちゃんとでも呼んでね」
「金森ってもしかして・・・・・・」
「林檎ちゃんのお姉さんだよー」
「うわー、しまい揃ってすごい美人」
「そんな見え透いたお世辞意味ないよ辰巳さん」
「わたしまだ名乗ってないですよ」
「そうだっけ?」
この隙に帰ろうそうしよう。
「夏くんどこいくの?」
俺今お前の死角にいたよね。
足音もこれだけの人数がいて聞き分けるのも難しいだろうし。
なんだろ、索的スキルでも持ってるのかな?
「いや、寒いからさ」
「なら私が暖めてあげるね」
「なっ!」
苺さんが俺の腕を抱き、俺としては補食される寸前の恐怖と柔らかい夢見心地の二つの狭間をさまよってる。
何でしょうこれ。
「ほらっ順番も回ってきたよ」
「はぁ」
「ずるいなぁ」
取り敢えずお願いは決まってる。
だから俺は五円玉を賽銭箱に放り、鈴をならす。
参拝の作法をし、お願い事を。
早く一人暮らしできますように。
神頼みするレベルで困難な状況なんだよ。
「やっと帰れる」
「南くんはこのままお姉さんと一緒だよ?」
「はっ!?」
「金森さん何いってるんですか?」
「あら、どうして貴女が出てくるの?」
「そっそれは━━━━━━」
「あっもしかして思い人だったかしら?でも悪い気はしないわ、だって奪ったもの勝ちなんですもの」
「なら私も」
大宮さんの伸ばした手は俺に届くことなく、苺さんが俺を引き摺る。
どうやら人にはここを押さえれば力が入らなくなるみたいな場所があるみたいでなんの抵抗も出来ない。
そのまま黒塗りの高級車にってこれ拉致だよね?
「じゃあ私の実家じゃない方の家にいこっか」
こうして俺の新年は拉致から始まった。
《続く》




