俺の姉とテーマパーク
この時期のテーマパークはとても混む。
東京と銘打ってるが千葉にあるテーマパークに匹敵する人気を誇るこのテーマパークも例外ではなく、電車は混んでるし寒いし個人的にはあまり楽しくない。
「やっぱり混んでるね」
「うん、だから来年の期限ギリギリにしよって言ったの」
「だって次いつお休み貰えるかわかんないし」
「まぁいいけど」
ここでご機嫌を稼いどかないとな。
「それに思ったよりカップルさんいない」
「そうだな、どっちかって言うと高校のグループとか仲間内で来てるっぽい」
「優越感」
ない。
全くもって一部の欠片も優越感のゆのじも無い。
むしろ仲間内でこれるあいつらに劣等感すら抱くね俺は。
「取り敢えず写真とろ?」
「うん?おぉ」
腕を組んで入場口すぐにあるこのテーマパークのシンボルを背景にツーショット。
これでまた俺と姉ちゃんのツーショットが増えたわけだ。
不思議だなぁ、俺の写真って学校行事でもなけりゃ九割がた姉ちゃんと二人だもん。
「またアルバムが増えた」
「ふーん」
「何だか機嫌悪い?」
「そんなこと無いよ」
初めて姉ちゃん以外の人とクリスマス過ごせると思ってたのにこれだからな。
何も怒ってないよ。
「じゃああれ乗ろ?」
「ジェットコースターか」
見るからに怖そうだなぁ。
ジェットコースターとかフリーフォールとかのあのフワッとした感じがまじで苦手何だよな。
あとジェットコースターの登ってるとき。
俺がこの世で最も恐れてるものの一つだ。
人間なんてこの世のものの半分が恐怖の対象なのだから仕方ない。
「それに乗れる人が限定されてあんまり並んでないし」
「・・・・・・」
「あって、でも夏夜君絶叫系マシーン苦手だっけ?」
「姉ちゃんが乗りたいならついていくよ」
大丈夫。
自己暗示で何とかしてみせる!
そして並ぶこと約五分。
あまりの絶叫度にここまで避けられるアトラクションも如何なものか。
ギィィ
「わっ動いた。ドキドキする」
怖くない怖くない。
俺は風になるだけ。そう、誰よりも早く駆け抜ける風に俺はなる。
風は俺で俺は風。
突風。
だから怖くない。
怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない。
「きゃゃゃゃ!」
「・・・・・・」
恐怖のあまり絶叫すらもでなかった。
代わりに出たの三滴の涙と五滴の涎だけ。
そんな俺の恐怖を他所に、コースターは加速を続け回転したりトンネル潜ったり俺の恐怖心のリミッターを全力でこじ開けてくる。
そして恐怖の限界を越えたとき俺は老師を見た。
『人は簡単には変われない』
ありがたやー。
「お疲れさまでしたー」
あー、頭がクラクラする。
「大丈夫?」
「大丈夫、悟り開いたから」
「次は軽いのにしようね」
「・・・・・・うん」
たった一回の搭乗でここまで俺を追い込みさらには悟りを開かせるとは、やはり侮りがたし。
侮ったこと無いけど。
それにしても人間は簡単には変われないか。
よく分かってるようで分かってなかったな。
なんでたかだかテーマパークのアトラクションでこんなこと考えさせられないとなんだろ?
「じゃあ次はどうする?」
俺としては休憩もとい帰宅したいけど、そうも言えない。
「そろそろお昼ご飯食べよ?」
「そうね、あんまりぴったりに行っても混むしね」
やはり腕は組むんですね。
そして二、三言の会話を交わしレストランに入店。
しかし考えることはどいつもこいつも大差無く既に大にぎわい。
「こんなことも有ろうかとあらかじめ予約しておいたわ」
「さすが姉ちゃん」
「二時間後に」
じゃあ何でここまで来たんだよ。
「仕方ないからもう少し遊びましょ」
「姉ちゃん」
「どうしたの?」
「俺、実は今日サークルの皆とクリスマスパーティーの予定だったんだ」
言ってどうすんだよ。
姉ちゃんの機嫌損ねるだけだろ馬鹿。
うつむく俺を優しく包み込む姉ちゃんはどんな顔をしてるのだろう?
きっと笑ってる。
姉ちゃんはどなときでも笑顔で感情を表現してた、だこら今回もそうに違いない。
「私を選んでくれてありがと」
そうとりますか。
まぁ姉ちゃんだもんな、わかってたさ。
「うん。次あれ乗ろっか」
そして俺の指の先にはフリーフォール『天国と地獄』。
うん、俺死んだ。
■□■□■□■
あれから数時間、間に五分程度の休憩を挟んではいるものの片っ端から絶叫マシーンにのせられ続けて夜。
クリスマスバージョンのエレクトリカルパレードが園内をぐるりと一周するイベントがやっている。
マスコットが無駄な装飾をつけまくった乗り物にのり、その周りをスタッフが踊る。
あのマスコットの中も人間も大学生かもう少し上くらいの人かと思うと何だかやるせない気持ちになるが仕方ない。
「あれ、夏くん何でここに?」
「同じこと聞き返すよ大宮」
「私は声優イベント」
「お仕事お疲れ様です」
「一人?」
「姉ちゃんが珈琲買いに行ってくれてる」
「先輩とかぁ。あっだから先輩今日の仕事断ったんだ」
「断った?」
「うん。先輩声優としても見た目としてもうちの事務所ナンバーワンだから今日のイベントで司会のお姉さんの約来てたんだけどね、用事があるって。そしてそのおこぼれを私が頂戴したわけ」
通りで可笑しいと思った。
絶対にとは言わないが、これまでを見てて姉ちゃんはこの時期家に帰ってこないこともあったくらい。
そう言うことか。
はぁ、そう言う話されるとサークル方に行けなかったのが悔やまれる。
「でも確か、大晦日は東京で年越しイベントだったはず」
「だから?」
「そのイベントはさすがに断れないし、でも私は残念なことにその日フリーだし。だから初詣一緒に━━━━━━」
「大宮さん」
「ひゃっ!せっ先輩、二日振りです」
「うん、二日振り。何で私のスケジュール知ってるの?」
「普通にイベントのキャストネットに出てますし、今日のイベントの回ってきた経緯も聞きましたから」
「それで、初詣一緒に何かしら?」
珈琲を受けとりベンチから立ち上がる。
避難しよう。
「夏夜くん」
「はいすみません」
立ち上がるなってことですね分かりました座ってます。
「そうだ、そのイベント大宮さんも連れていってあげる。旅費とかは私が負担してあげるから、これも経験でしょ?」
「いっいえ、オフの日までお仕事は遠慮したいです」
「観客席から見てるだけでいいの」
「そっその日は家族で━━━━━━」
「そう、家族と用事ならしかたないわね」
家族を理由にしたのを瞬時に逆手にとられた。
分かりやすいミスを犯しておろかな奴め。
一時期はドキドキヤンデレパラダイスの線も疑ったけどそれはないな。
お前はヤンデレでもなければ、て言うかまず俺にデレてないし。
「お先に失礼します」
とぼとぼと肩を落として歩き去っていく。
これから一人で帰るのだろうか?
いや、事務所の人かなにかいるだろ。
「いま言ってた通り大晦日、お姉ちゃんは家にいません。それどころか新春スペシャルとか言う理由でラジオにもでないとだしで、暫く帰ってこれないの」
やったぁぁぁぁ!
俺の願いが叶った。
サンタさんありがと!
俺のほしいプレゼントくれて本当にありがと!
これからは毎年あんたの祭壇を家につくって五時間の礼拝するよ。
「パレードも終わったしそろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
出場ゲートはやはり人で賑わっていて、カップルや子連れの家族でたくさん。
それは電車の中まで続き満員のなか押し潰されそうになっても姉ちゃんは俺の左手を離さなかった。
家に帰ると手のひらの横に手の痕がついてたがまぁ一日寝れば治るだろう。
こうして、結局いつも通りの一日を過ごしてしまった。




