俺のパートナーの家
「お前、実は金持ち?」
「何で?」
いやいやいや、こんな高級マンションに学生で一人暮らしとかさ。
一人じゃ広すぎるだろこの部屋。
セキュリティも見た感じ厳重だし。
「この部屋爺ちゃんのやねん」
「ん?」
「爺ちゃんがこの部屋買ったはええけどすぐに実家に戻ってん。やから私がこの部屋使わしてもらってる」
「なるほど」
「リビングは爺ちゃんが残した家具そのまんまやけど私の部屋は私仕様やからな。覚悟せいよ」
「なんのだよ」
「じゃあこっち」
中谷のあとに続いて彼女の部屋にはいる。
うん、中谷の部屋じゃなくてぬいぐるみたちの部屋じゃね?
辛うじてベッドと机とテレビが機能してるけど、これってぬいぐるみたちの部屋だよな。
蛇や亀や熊といった動物からキャラものまでいっぱいある。
「よくこんなに集めたな」
「せやろせやろ、この蛇シリーズなんて日本各地にちゃうのあるんやで、コンプすんのめっさ時間かかったわ」
ネットをさらえば見つかりそうだけど言わないでおこう。
「私的にはこの法被を着た蛇がいっちゃん好きやな」
ふーん。
何て言えばいいの?
可愛いねでいいの?
それとも微妙な顔すればいいの?
教えてよ。
「どうやろか?」
「・・・・・・何が?」
「このぬいぐるみたちや!正直引いたんちゃう?」
「いや、可愛いと思うよ」
「そっそやろか」
「ほら、この熊のぬいぐるみなんか結構好きだよ」
「そっちかい」
そっち以外にあるか?
もしかしてそっちで伝わった?
反応を見るからして多分そうだろう。
フォローしとくべきだな。
「いや、中谷も可愛いよ」
「うっうるさいねん、狙いすぎて気持ち悪いわ」
「そこまで言うか」
のわりには顔赤いけどな。
まだまだポーカーフェイスがなってないな。
「じゃあ晩ごはん作るん手伝って」
「はいよ、なに作る?」
彼女の部屋からリビングに付属したキッチンへと向かった。
「焼き飯」
「オッケー、卵スープでも付けるか」
「せやな」
料理を初めた。
■□■□■□■
意外と中谷は料理ができた。
一人暮らしなのだから当たり前かな?
いやでも、一人暮らししててもしない人はしないらしいしな。
「ご馳走さま、後片付けは俺がやるよ」
「おおきに」
皿を回収してながしに浸ける。
これ洗い終わったら帰るか。
「なぁ、夏夜も酒呑む?」
「今か?呑まねぇけど」
「えぇ!一人酒さびしぃわぁ」
夕食中から梅酒呑んでたけど完璧に出来上がってるし。
空き缶の裏見たけど最高に弱いやつだぞそれ。
しかも一本半でそれ。
酒弱すぎだろ。
「それとも私と酒は呑まれへん言うんか?」
うわー、テンプレな台詞。
本当に言う人いるんだ。
「明日本番だぞ?」
「分かっとる。緊張して手が震えて何もならへんねん、呑んで酔ったら多少はましになるやろ」
「はぁ」
正直帰りたい。
早く帰って姉さんのご機嫌とらないと大惨事を目の当たりにしてしまう。
「もうちょいそばおってや、お願いやから」
「少しだけだぞ」
「ありがと」
手を吹いて中谷と反対のの辺に座る。
炬燵とはいいもので、入るとなかなか抜け出せなくなる。
イッツコタツマジック。
「何で隣ちゃうん?」
「酔っぱらいよ隣とか怖くて座れねぇよ」
「来ないならこっちからいこうホトトギス」
訳のわからないことを言い切り中谷は炬燵に潜った。
その時点で出るべきだったのだろう。
こんな酔っぱらいが炬燵に潜ってすることなんて想像つくだろ?
案の定です。
「ええ感じの座椅子やわ」
「誰が座椅子だよ」
「夏夜」
「ぶっとばすぞ」
「わー、怖いわー」
まじで投げ飛ばしてやろうかこの女。
「背もたれも暖かし最高や」
「その背もたれは俺の胸な」
「ええ感じに安心感ある」
その代わりにあなたの胸をゴホンゴホン。
心頭滅却。
そんなげすいこと言ったら一生いじられるに決まってる。
「こないだアニメで見たみたいにやってや」
「俺見てねぇし」
「腕を私に回すだけやって」
「やろん!」
「ここに夏夜の携帯あんねんけど、どないしたろかな?」
「いつのまに・・・・・・分かったよ」
はぁ。
俺携帯のためだ仕方ない。
俺は言われた通り腕を中谷に分かっとる回した。
つまり抱き締めたのだ。
やっベー、何か、何か。
髪とか超いい匂いだし、抱き心地もよすぎる。
「いっ意外とはずいな」
「ならやらせんなよ」
「まだや、まだそのまんまでおって。ようやく落ち着いてきたんやから」
「はいはい」
まだ七時か。
■□■□■□■
んっと。
ちょっと寝てた。
「今何時だ?」
えっと、十時ちょっと過ぎか。
そろそろ帰らないとな。
「おきろ中谷、ほら」
「んー、いやや」
「なら責めて俺の服だけでも離してくれ?」
「いややー、まだ居れ」
偉そうに言うなよ。
「んっと、電話か。もしもし?」
『お姉ちゃんだけど今大丈夫?』
恐れていた事がついに。
「すぐ帰るから」
『そう?ならいいんだけど・・・・・・』
だけどなに!?
もし帰って来なかったら殺るぞ的なことですか?
「んんっ、もっと強く(抱きしめて)や」
『今のは何?』
「・・・・・・」
『な・つ・や・君っ。今のは何かな?』
「てっ、テレビ」
『ふーん、何て言う番組?』
「録画なんだ」
「それでも番組名はあるでしょ」
どうしよ、回避できる気がしない。
それもこれも全部中谷の阿保が寝ぼけてるせい。
俺は悪くない。
『まぁ、帰ってきたら聞くよ。だから今は早く帰って来て』
「はっはい」
嫌な電話だった。
「夏夜ー」
「俺そろそろ帰るわ」
「私な、小中高でぼっちやってん。意外やろ?」
何となく想像はつくよ。
そんだけ強引だとね、仕方ない。
まぁ、俺も小中高でぼっちだから人の事言えないけど。
「でな、大学でも仲ええ人全くできんかってん。やから学祭のパートナー頼んでも断られてばっかやし」
「えっ?」
「何かこっちが理由つけてた見たいに初めゆうてたけど、実は断られとっただけやねん。最後にお前に声かけて、あかんかったら一人で出よって思っとったくらいやもん」
なんの前触れもなく唐突に始まりだした身の上話。
彼女は彼女なりに苦労して、俺を選んだのだ。
そんなに断られ続けても誘い続けるとか俺にはちょっと無理かな。
たぶん三人目くらいで折れて泣きながら帰ってる。
中谷は全員に断られても一人でやるつもりだったから。
「成功、させような?」
「中谷それ失敗フラグだから」
「そんなもんゲームの中だけの話や、私には関係あらへん」
「そうか」
「そやそや」
「じゃあそろそろ帰るわ」
「おう、長い間すまんかったな」
「じゃあまた明日」
「また明日ー」
中谷が退いてくれる。
姉ちゃんの事を考えると帰りたくないが、それでも帰るしかない。
玄関から出ると冷たすぎる空気が出迎えてくれて、火照った体にまとわりついて気持ち悪かった。
緊張で手が震えだす。
今ごろになって、今ごろでよかった。
あいつの前でこんなに震えてたらカッコつかないし。
あいつの努力を無駄にしないためにも必ず成功させよう。




