俺の後輩は結構腹黒かもしれん
二日後。
とうとう雪が降ってきました。
「寒いなぁ」
「せやな、もうちょいでクリスマスやし」
「本番の二日後だっけ」
「おぉ」
「そっか」
多目的しつの暖房をいれて荷物を置く。
少し休憩。
「私すぐに講義やからもういくわ」
「あぁ」
俺はたしか四限六限で今年の講義終了だったな。
まぁ単位は間に合ってる出席も足りてるから出席しなくても良い訳だけどな。
はぁ、クリスマスか。
取り敢えず自分のパート弾くか。
ガラッ
何で金森先輩がここに来た?
俺殺られるのか?
ついに殺られちゃうのか?
あれしきのことで殺られちゃうんだ俺。
「秋菜ちゃん達は来てないんですか?」
「はい、もしあれでしたらしばらく出てますよ俺」
「そう━━━━━━」
金森先輩の言葉を遮ったのは俺ではなく誰かに金森先輩が押されたからだ。
そのせいで四つん這いになり、何故かドアは凄い勢いで閉まった。
だいたい予想つくよ、どうせ秋菜の馬鹿野郎に梨木が何か吹き込んだんだろ。
想像つくわ。
「いてて」
さて、ここで心配して大丈夫ですか?と一声かけるべきか、かけないで置くべきか。
ちょっとシュミュレーションしてみよう。
まずかけない方。
『人が倒れても心配の一つもしないんですね』
うん、毒づかれるな。
ならかけるか?
『私を裏切った方に心配なんてされたくないです』
何だろう、自分の想像なのに傷ついた。
「流石私を裏切った南くんですね、人が倒れても無視ですか」
「・・・・・・」
「何で開かないの?」
鍵はここにあるから、ドアに細工でもしたか?
まぁ一時間もすれば中谷が戻ってくる。
そうして沈黙が続く。
俺はこんな居心地の悪い沈黙を何度も味わってきた。
周りに責め立てられるより、何も言わず黙られる方がどんな場面でも辛い。
「南くん」
沈黙を破ったのは金森先輩だった。
「何ですか?」
「私あれから考えたんです」
俺を消し去る方法ですか?
大丈夫です、すでに消え去ってますから。
「でもどうしてもわからないことがあります。それは南くんが何故、一人悪役にならなくちゃいけないのか」
「・・・・・・」
「私は少し感情的になってました、その事については謝罪します」
「何故俺が一人悪役になるか、ですよね?」
「はい」
「その場で持ち合わせ手札で出せる最善がそれだったからです」
「意味がわかりません」
「人は結局、その場その場の限られた手札と自分の知恵で出せる最善を尽くす生き物なんです。そして、あの時の俺が思い付ける最善が自ら悪役を演じること。わかりましたか?」
「いいえ」
確かにこれではわからないだろう。
この考え方だって、皆が皆そう思ってるわけではないのだし、それを前提に話を進めるのもおかしい話だ。
でもこれ以上に俺の意思を伝える言葉や方法など俺には思い付いても実行できない。
これがこの状況で尽くせる最善なのだ。
「貧乏クジをわざわざ引いたのは何でですか?」
「俺が貧乏クジを引くことで誰かが、あの場合だと先輩が当たりを引く確率が上がるからです」
「自分を犠牲にしてるのはなぜですか?」
俺の憧れた主人公は事故犠牲に対してふざけるなと答えた。
でも俺はあそこまで悪役にもなりきれないし、そんな役回りを受け入れられない。
これを言えば少しは事態が好転するかもしれない。
一度はあきらめた居心地の良い場所に戻れるかもしれない。
そんな思いがあと一手を遮る。
「俺は・・・・・・」
これを言ってしまって良いのか。
俺のやって来たことは無駄にならないのか。
そんな思いが言葉を濁させる。
大丈夫、だよな?
先輩はもうあれが演技だと言うことには気付いている。
そのうえ俺にそんな役回りを進んでやるのは何故とまで言ってる。
「南くん?」
「俺は先輩の味方ですから」
これが限界。
あの作戦をどっちが持ちかけたか何てのはまだわかってないはず。
ならここで要らぬ一言を言えば、あの姉妹関係は悪化する。
姉を持つ身としては、上が出来すぎる人だってことの辛さはわかるから。
「答えになってませんよ?」
「・・・・・・」
「南くんだけ怪我して消えていくなんて不公平です」
「貧乏クジですからね、仕方ないですよ」
「それでも私は嫌です」
「はぁ、じゃあどうすれば良いんですか?」
「私が卒業したら私の━━━━━━」
ガラッ!
「秋菜・・・・・・お前」
「久し振りですね、先輩」
この馬鹿野郎は今ごろ何のようですかゴラァ。
「秋菜ちゃんがやったんですか?」
「なっなんのことでしょう?」
「秋菜ちゃん集合」
「はい」
ご愁傷さま。
何て言うとでも思った?
言う分けねぇだろ。
「あぁぁぁ!」
「痛かったですよ」
「ごめんなさいごめんなさい!」
夏休みの花火を彷彿とさせるな。
痛め付け方も同じだし。
それから十数分の拷問の後、金森先輩は俺にサークルの出入りを許可してくれた。
結局私のなんだったのかは分からず仕舞いだかまぁ、忘れよう。
時間も結構たっていてそろそろ中谷が帰ってくる時間。
ガラッ
噂をすればほら。
「待たせたな」
「おぉ」
「じゃあ早速やろか?」
「そうだな」
そういって中谷がギターを出すとしまったと言う顔をした。
「どうした?」
「三弦切れてんの忘れとった」
「予備は?」
「きらしてもうてる」
「あぁ」
「しゃあない、今日は各自練習っちゅう事で解散するか」
「オッケー、鍵返しといてな」
「じゃあな」
「また明日」
さて、練習がないと言うことは俺がこれからかなり暇と言うことだ。
面倒なので講義はサボりたい。
出席も足りてるし。
サボろう。
■□■□■□■
寒かった。
「あっ、そういや姉ちゃん今日休みだったな」
ガチャ
リビングには案の定姉ちゃんがいた。
「ただいまー」
「ちょっと来て」
「なに?」
言われた通り姉ちゃんの前にたつ。
「すこし甘えたいのだけどいい?」
「ベタベタするの辞めたんじゃないの?」
「たまの休みくらいいいでしょ」
俺の返事も聞かず姉ちゃんは、俺を引き寄せ立ち位置を入れ替えソファーに押し倒す。
無心になれ、無心になるんだ。
「夏夜くんの匂い」
「・・・・・・」
「頭撫でてほしいな」
「はぁ」
それから数十分後、頭をなで続けてると姉ちゃんは寝てしまった。
俺の服をまるで父親の敵のように握りしめてだ。
結局帰ってきてた時点で俺は残りの講義は受けられないのな。
まぁいい、今日の俺は機嫌がいい。
このまま寝てしまおう。




