俺の演奏パートナーはいじけてしまった
残り二週間。
指をつったり切ったりすることが減ったことを実感してた頃。
「もう無理や」
パートナーが練習で借りた、多目的室で挫けています。
「急にどうしたんだよ?」
「何て言うかもうアカン、あんたにギターの腕で抜かれてもうてもう無理やねん」
「俺の方が上手いわけ無いだろ、もう時間無いしあわせようぜ」
「ちゃうやん、私はギター好きでかれこれ十一年練習してんねん。せやからのにあんたと同等レベルとかもう挫けるしかすることないやん」
「何訳わかんねぇこといってんだよ。あれか?ナーバスになってんの?」
膝を抱えて顔を腕に頭を渦組めたまま一行に動こうとしない。
正直言って相手すんの面倒。
そんないじけるくらいならもう学祭諦めようぜとも言えないし。
なにより申請書はもうだしてしまっている。つまり、今から曲目を変えたり出演を取り消すのは少し無理があるわけだ。
「結局中谷はどうしたいわけ?」
「あんたより上手くなりたり」
「なら練習しろよ」
「練習なんて一日中しとるわ!」
「なら足りてないんだろ」
「ほならどうせぇっちゅうねん。寝る時間も削ったし飯の時間も削った、勉強は手ぇ抜かれへんしどうやって練習時間増やせばええねん」
「しるかよ」
帰っていいかな?ねぇ俺帰っていいかな!?
「才能の有る奴はええよな、大した練習せんでもあっという間にうまなるんやから」
「・・・・・・なら辞めるか」
「えっ?」
「正直俺もお前のわがままに付き合ってる理由無いしな、本人がそんなこと言い出したんじゃ辞めるしかないだろ」
「でも学祭の申請だしたしもう━━━━━━」
「実行委員会には俺が頭下げてやる」
「・・・・・・」
「じゃあ辞めるってことでいいんだな?」
「いやや」
おかしい、少し前までならこんなことでここまでイライラしなかったのに。
何が原因だ?
カルシウム不足?そんなのいつもの事だし・・・・・・。
思い当たる節が一つしかない。
たぶんサークルのせいだな。
なんだかんだ言ってもやっぱり未練は残るよな、居心地よかったし。
でもあんなこと言っちまったし、もう戻らないとも決めたしなぁ。
早くあの事は忘れよう。
「じゃあどうすんの?」
「・・・・・・」
「はぁ、一旦休憩にするか」
「ありがとう」
「飲み物買ってくるけど何がいい?」
「オレンジジュース」
「はいよ」
多目的室を出て自販機に歩みを進める。
何でまた急にあんなこと言い出したかな?
中谷の奴、才能がどうとか言ってるけどふざけてるよ。
あれくらいで才能を羨んで落ち込んでたら俺はどうなんだよ?
何でもできる姉ちゃんと産まれてからずっと比較され続けて、もし俺が中谷レベルのメンタルだったら死んでるね、確実に。
ガコンガコン
オレンジジュースとアップルジュースを両手に来た道を引き返す。
「夏くん」
はぁ、渋々振り返るとそこにはやっぱり大宮さんがいた。
なんでこのタイミングで会うかな?
「前々から思ってたけど何で勝手に大学に入ってきてんの?」
「私ここの学生だよ?」
「えっ!?」
「一回生。一浪しちゃってね」
「で、結局なんのよう?」
「報告します」
「報告?」
「先輩が入っていた眼鏡っ娘愛好団を潰すことに決定しました」
「頭おかしいの?」
「夏くんよりかは全然正常だけど」
そうかよ。
「夏くんならわかりますよね?あんな上部だけの人間関係を引き裂くのなんて簡単だってこと」
どいつもこいつも俺の神経を逆撫でるようなことしやがって・・・・・・。
「少しひびが入ればそこから広がるように割れていくと言うことを夏くんは知ってるよね?昔もそうしたんだから」
「・・・・・・」
「夏くんを拒絶したあの高校時代のクラスも、金森先輩のサークルも私に必要ないしね」
「あのサークルには手を出さないでくれ」
「なら━━━━━━」
「なに条件つけようとしてんの?」
あんまりすると俺もきれるよ。
人間なんだから当たり前だろ、でもそれを我慢しないと人間やってられない。
頭にきたからすぐにわめき散らす奴なんてのは進化しきってない。
その辺の動物が喋れるようになったのと大差ない。
だから怒りは我慢する。
誰かに喚き散らすかはその時による。
「えっ?」
「俺はお願いしてるんじゃないけど」
「じゃあ壊しちゃうよ」
「お前なんかじゃあのサークルの脆い関係でさえ崩せないよ」
「・・・・・・」
「俺の友達なんだから俺の大切なもの壊さないでくれよ」
「・・・・・・友達」
まずったかな?
でもまぁ大丈夫だろ。
それより先に中谷の奴をどうにかしないと。
「じゃあ俺いくか━━━━━━」
「友達なら一緒に遊びにいったり手を繋いだりも当たり前だよね?」
「俺が忙しくなかったらな」
「そんなのいや」
「学園祭前でいろいろとあるんだよ」
「いろいろって何?」
「いろいろはいろいろだよ」
「それが知りたいのよ!」
「・・・・・・」
「ごめんね、こんな変な女嫌だよね。何でも知りたがる面倒な女嫌だよね。でも私は夏くんが女の人といるだけで気が狂いそうなの」
姉さんとキャラ被ってますよ。
「私は夏くんがいないとダメなの、夏くんが他の女と仲良くなんて私が捨てられたみたいだもん。いや、そんなのいや。夏くんに捨てられたら私はこの先どうすればいいの?」
「捨てるって何?」
「私の事を嫌いになること」
「なら一生ないから、むしろあのサークル壊そうとしたりする方が俺がお前嫌いになる確率上がるぞ」
「でも私は夏くんを拒絶した━━━━━━」
「勘違いするなよ、俺が拒絶したんだよ」
「ならいいです」
ふぅ、そろそろ戻るかね。
でもこいつまで病むとは聞いてないぞ。
なに?ヤンデレさんが二人もいるって、これなんてギャルゲ?
ドキドキヤンデレパダイスですか?
血みどろのパッケージが目印ですかこの野郎。
漸く来た道を引き返すことが出来た。
ガチャ
「少しは現金・・・・・・出ないみたいだな」
相変わらず膝抱えて座ってる横の人。
「中谷?オレンジジュース買ってきたぞ」
「・・・・・・」
返事がない、ただの中谷のようだ。
てかよくよく見たら寝てるじゃん。何でそんな体制で寝れるんですか?
絶対背中とか痛いだろ。
こんだけ気が小さいと、二週間前でもあんまり眠れなくなるのかな?
まぁ確かに俺も本番前の舞台袖で吐くかもだけどな。
でも俺の場合今までそう言う経験がないってだけで、三回くらいやれば緊張はしてもガチガチにはならない。
暖房いれてんのに少し肌寒いのはなぜ?
すきま風かな?
まぁ俺は起きてるからいいけどこいつは寝てるからな、風邪でもひかれたら俺の努力が水の泡になってしまう。
「おやすみ」
上着をかけてやる。
実のところこれは姉ちゃんにしかやったことないんだよな。
普通やらないんだろうけど。
「さて、俺は楽譜でも見直しますか」
こうして本番まで残すところ十三日となった。




