俺のギターは一向に上達してないらしい
練習を初めて二週間が過ぎ去った。
中谷は二つギターを持っていた。
買うはめにならなくてよかった、うん。
でもなぁ。
「あぁ!また指つったぁ!」
「ほんま指固いな」
「そんな二週間で柔らかくなるかよ」
「まぁちょい休憩や」
「あぁ」
この二週間でコードは覚えたし、ゆっくりなら押さえられる。
楽譜も読める。
かなりの上達では?
「ほんまなっちゃんは上達せんの」
「すみません」
中谷からすれば、俺の上達速度は遅いらしいです。
なんだろ、目から汗が・・・・・・。
大学近くの公園で練習するのもしんどいし、講義速ささむたびにダッシュで戻らないといけないし。
本当に何で引き受けたんだろ?
指も傷だらけだし。
「どうや?ギター楽しいやろ」
「指つったり切れたりするのが無ければな」
「それはギターを弾くものには避けては通れん道や。誰もが経験するんやからあきらめんかい」
「はいはい」
この人はやっぱり自分中心に考えることが多い。
それでいて押し付けてる事も多い。
しかし俺のレベルになるとそれくらいなんともない。
なれてしまってるからな。
「ところで聞いてええか?」
「ええよ」
「何でここ最近は直帰するようなったん?」
「は?」
「夏休み前までは、ようわからんサークルの部室いっとったやん」
「あー」
「何で?」
「まぁ、サークルやめたってだけだな」
「ふーん」
でもなぁ、あの部室結構気に入ってたんだよな。
苦手な紅茶を飲みながらバカの相手をしたり。
金森先輩の話を聞いたり。
結構気に入ってたんだよな。
「今日はもう解散にするか」
「え?」
「あんまりこん詰めすぎてもあかんしな」
「・・・・・・」
「その代わり明日までに指柔らかくしとけよ」
「それは無理」
「無理でもやるんや!」
「がんばります」
「そのギター持って帰って練習せぇよ。じゃあまた明日」
「じゃあな」
見た目の清楚さとは行動がま反対だな。
言葉遣いがいいだけましか。
さて、公園のベンチに俺とギターと缶コーヒーが取り残された。
七限目に講義あんだよな。
一度帰ってもいいんだけど電車代が勿体ないし。
かといってここにいても暑いし暇だし。
日射病になる勢いで照らされてる勢いだし。
はぁ。
「先輩!」
「うおっといつの間に俺の背後に回った?梨木」
「何でサークル来ないんですか?」
「俺はやめたの」
「林檎先輩からはなにも聞いてない!」
あの人言ってないのかよ。
「金森先輩には言ってあるし、承諾ももらってるから」
「嫌です」
「誰もお前の意見なんて聞いてない」
「夏休みに言ったじゃないですか、秋菜ちゃんの相手押し付けるつもりですか?」
「悪いな」
「何でやめたんですか?」
まぁ、話せねぇわな。
あんなプライベートなこと軽々しく言えないよ。
「答えたくないならいいです」
「ありがとな」
「でも来週は林檎先輩の誕生日ですからね」
そうなんだ。
「私と━━━━━━」
「俺はいかないよ」
「何で!?」
「まぁ、事情があんだよ」
「いつも事情があるとかいって何言ってくれませんよね」
「そうか?」
「私の初めての先輩なんですからもっと、先輩の事知りたいです」
「またの機会にな」
「ほら、またそうやって逃げる」
頬を膨らませて拗ねる梨木さんの頭を何となく撫でる。
髪はさらさらしてて撫でやすい。
そして顔が赤い。
「もしかしたら何か頼み事あるかもだからそんときはよろしくな?」
「・・・・・・はい」
「じゃあ一回━━━━━━」
「ところでそのギター何ですか?」
「これ?あぁ、うちのクラスの奴と学祭出ることになったから練習してんだ」
「へぇ、ちょっと貸してみてください」
「おぉ、もしかしたら弾けたりする?」
「はい」
最近、見た目とのイメージがどんどんずれていくんだけど。
そんな俺の気も知らず、梨木は音を奏でていく。
俺が指をつらせたコードをあっさり押さえて次々に音を出していく。
なんか悔しい。
「その指だと初めてのまだまだ見たいですね」
「まぁな」
「私も初めはよく指を切りましたね」
だから?
正直言うと、貴女の体験談なんて毛ほども興味ないですから。
そんな勝手に遠いめされたら帰り辛いっしょ。
「あっすみません、勝手に話してしまって」
「いやいいんだけどね」
「じゃあ私そろそろ講義なんでいきますね」
「おぉ」
俺は帰りますか。
どうせ次の講義までやることないし暑いし厄介なやつに会いたくないし。
でもなぁ、こんなときに限って面倒なやつにあったりするんだよな。
ギターをケースにしまい持ち上げる。
はぁ。
暑い。
公園を出たときだった。
「なーつーくん」
「げっ」
大宮の出待ちをもろに受けてしまったわけだ。
「暑苦しいから抱き付くな!」
「夏くん成分補充まであと三時間」
「はい三時間!もう終わりな」
「ケチ」
「誉め言葉です」
「せっかくの休みだから会いに来たのに素っ気ない」
「誰も頼んでないし」
「・・・・・・」
黙んなよ!
なんなの?
こんなに暑いのに抱きつきやがってなんなの本当に!?
「もしかして夏くん、私の事嫌い?」
「よくお気づきで」
「うわー、結構傷つく」
「なら離れ━━━━━━」
「夏くん成分で回復だにゃ!」
にゃっにゃ!?
だめだ、頭が本格的にいたくなってきた。
心なしか吐き気もする。
視界も歪んできてるし、まじでしんどい。
「しんどい」
「大丈夫?」
「無理っぽい」
「私にできることならなんでもするよ」
何でも?
まぁ追っ払うか。
「俺そこのベンチにいるから向こうの自販機かコンビニで緑茶買ってきてくれる?」
お金を渡しながら駅の方向とは真逆を指差す。
向こうなら走っても十分くらいコンビニも自販機もないからな。
お金はくれてやる。
「うん!」
案の定走っていきやがった。
俺も急いで駅に向かおう。
■□■□■□■
追い付かれたし。
なにこいつ、何で追い付けたの?
何で冷えた緑茶持ってんの?
ふざけろよ。
「もぉ、おいてくなんてひどい」
「マジな方でお願いですから家までついてこないで」
家の前と言う、姉ちゃんとの遭遇率高めのデンジャラスゾーンにて、大宮さんを家にあげるかあげないかで抗争中であります。
「帰って」
「何でそんなに私の事無下にするの?」
「きら━━━━━━」
「私はこんなに好きなのに!」
ご近所様に聞こえたらどうするつもりだ?
腹切ってもらおう、うんそうしよう。
そうすればなにもかも万事解決だ。
「何で拒むの?」
「俺は好きじゃないし、あんまりベタベタされると帰って迷惑なんだ」
「なら後ろから見てればいいの?」
「友人からじゃダメ?」
「そんなのあの女に潰される。だから一気に畳み掛けたいのよ」
「俺は潰れるくらいの関係なら要らないと思ってるから」
「・・・・・・」
「友人からな?」
「うん」
「じゃあ今日はもう帰れ」
「わかった」
別れ際になにもされないように距離をとる。
俺が身に付けた回避術の一つ、とりあえず距離をとる。
これは人間関係にも応用できるはず。
まぁ使ったことないけど。
「そんなに警戒しないでよ」
「すまん」
「でも警戒は解かないんだ」
「まぁな」
「じゃあまた暇な日に会いに来るね」
「うちの家と大学にはくんなよ」
「はーい」
タッタッタッと走っていく彼女を見送り俺は家に戻った。
もう今日の講義はサボろう。
必修でもないからいいだろ。
そうと決め俺はとりあえずのうたた寝を初めてた。




