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俺の夏休みが終わって残暑が厳しい

あれから約二ヶ月。

九月も中旬に差し掛かり、残暑が厳しすぎる今日この頃。

涼しい教室で俺は講義を受けていた。

あれ以降からも大宮さんのアプローチは絶えることなく続いたし、それを姉ちゃんに見つかればヤバイと言う状況も変わらない。

なにか変わったとするのなら、俺がサークルを追い出されたことと季節が移り変わろうとしてるくらいだろう。

すべての作戦は苺さんが企てたことだと、逃げればよかった。

はじめの頃ならそれで逃げれたかもしれないが、今となってはそれも出来ない。

正確には俺のなにかがそれを許してくれない。

逃げることはいい。

むしろ逃げないなんてのはおかしい。

逃げたらいけないのは、家畜と囚人くらいなものだ。


「何でだろな」

「何が?」


やべっ、口に出てたか。

隣の名前も知らない女性が話しかけてきたよ、やべぇよ何かいい匂いする。

見た感じも清楚そのもので俺のストライクゾーンのど真ん中だよ。

百六十キロのストレート投げられた気分。

どんなんかは知らんが。


「何でもないです」

「そうですか」


その女性は俺との会話が打ち切られるやいなや大きな物音をたてて立ち上がった。

教授は彼女訝しげに見つめる。

それんな視線を無視して鞄にノートをいれて出ていってしまう。

何だったんだ?

それから数十分後。

六限目の講義を終えた俺は直帰しようとしていた。


「あの」


誰か呼ばれてますよ。


「南夏夜さん?」


ほら、南夏夜さん。貴方ですよ?

俺と同名の貴方ですよ?


「無視せんとって」


声の主が俺の服の袖を掴む。


「何ですか?こんなこと一生に一回で十分なんですけど」

「えっ」

「何のよう?てか、誰ですか?」

「一応同級生やけど?」


関西の訛りがつよい。

そっちの出身かな?


「ウチは中谷(なかたに)優子(ゆうこ)、優子ちゃんって呼んでや。私はあんたの事なっちゃんって呼んだるから」

「頼んでもないんですが」

「ほんなら南ちゃんなんてどないや!?」


声でかいな。


「呼び捨てでいいよ」

「なら夏夜やな」

「そうだな」


用件なに!?


「学園祭、一緒に出てくれへんか?」

「いろいろと飛んでてわからん」

「ウチ学園祭の舞台で演奏したいんや!」


だからなんやねん!


「でもウチギターは弾けてもドラムは物理的に叩かれへん、ベースも弾かれへんやん。やからあんたにリズムギター頼みたいんよ」

「・・・・・・」

「安心して、ウチはギター弾きながら歌える。幸い、学園祭まではあと三ヶ月あるんやからまだまにあうやろ」

「じゃなくて何で俺?」

「ダーツ」


その決め方流行ってんの?

俺もその決め方したけどもしかして流行っちゃってるパターンですか?


「やってくれんやろうか?」

「俺ギター弾けないけど」

「知らん」

「知らんじゃねぇよ!」

「弾けへんのなら弾けるように練習せぇや」


何だよこの人めんどくせぇ。


「あんたはウチに選ばれた時点でやるしか、選択肢は残ってへんの。わかった?」

「ごめんだけど他あって」

「せやかて、あんたで最後やし」


うちのクラスメート面倒くさがりすぎだろ。


「しかも何人かは色眼鏡で見てくる気色悪いやつもおったしな」

「ソロでやりゃいいじゃん」

「いやや!」


何の我が儘!?


「お願いやから」

「・・・・・・失敗しても文句言うなよ」

「もちろん言う!」

「おい」

「せやから失敗せんようにみっちり叩き込んだるわ」

「お手柔らかにお願いしますね」

「それはウチの気分次第やな」


おいおい。

何で引き受けちまったんだ俺?

いつもなら断固拒否してたのに。

そういや最近、押しに弱くなったよな。


「せんぱ━━━━━━」

「じゃあ来て、さっきの講義抜けて楽器とってきたんや」


だから急にいなくなったんだ。

俺の意思を無視してつれて駆け出していく。

誰かに引っ張られるのは馴れた。

っとそうだった。

今日は姉ちゃんが早く帰ってくるかもなんだった。


「今日は忙しいからまた明日にしてくれる?」

「まぁしゃぁないな。ほなまた明日」


ものわかりのいい人でよかった。

腕も離してもらい俺は振り返り正門へと向かった。

途中、とても暗い顔をした秋菜がいたが俺はなにもみてない。

あいつに関わったらまた、あのサークルにつれてかれかねん。

気まずいし、部長である金森先輩にも来るなと言われたし。

行く意味はないだろ。

とりあえず帰ろう。


■□■□■□■


「姉ちゃん何で抱きついてくるの?」


いつもながら不思議である。


「だって最近夏夜くん冷たいんだもん」

「まぁ忙しかったしね」

「それにまた別の女のにおいを二人分もつけたし」


悪寒が走ったぜ。


「きっとお姉ちゃんの接し方が間違ってたんだね」

「えっ?」

「そりゃ顔会わせてる間ずっとベタベタされるの嫌だよね。だから私はやめる」


まじで!?

やったー!

これで姉ちゃんの呪縛から解放されて自由な学生生活が送れるぜヒャッホー!


「夏夜くんが完璧に私のものになるまでゆっくり時間をかけていくね。四六時中ベタベタすることら無くなるだろうけど、そのうち夏夜くんから求めてくるように頑張るから」


気分にどん底ってないんだな。


「すーっ、はぁ。だからこうして抱きつく回数も減る」

「うん」

「その分、お姉ちゃんのの心を伝えれるようにするから」

「・・・・・・」

「そしたら他の女なんかじゃ物足りなくなるから、他の女のにおいなんてつけてこなくなるでしょ」

「俺疲れたから寝るね」

「私も明日早いから寝る、おやすみ」


その瞬間、俺の頬に柔らかいものが触れた。

それは紛れもない姉の唇。

不意打ちはなれとか関係ないから。

不意打ちはずるいよ。

結局深夜まで俺は眠れなかった。

コメントにて、商業作品と同姓同名のキャラクターがいることを教えていただきました。

よって『南春香』を『南春華』に変えさせていただきます。

皆様には大変迷惑をお掛けしました。

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