俺の先輩の姉は企んでいる
あれから三日。
パンク寸前の俺を気遣ってくれて、金森先輩は少ない残り時間を俺の整理に割いてくれた。
その時間は無駄だったけど。
部外者に相談なんてもっての他。
金森先輩の事も大宮さんの執拗なアプローチも、俺のキャパシティ余裕で埋め尽くしてくれる。
本当に大宮さんの邪魔さ加減には脱帽だよ。
「どうしたんですか先輩?難しい顔して」
「お前は相変わらず偏差値二十三くらいの頭悪そうな顔してんな。よくうちの大学はいれたよなお前」
「昨日ネットで調べたんですけど━━━━━━」
「はいはいすごいですね」
「最後まで聞けー!」
「それより何で部室に二人だけ?」
「みんな遅いですね」
「という事で俺は帰るから皆が来たら俺の分の交通費を持参の上で家まで呼びに来ないでください」
「帰しませんよ」
「・・・・・・」
コンコンコン
ノックをしただけで返事を待たなかった来訪者はどことなく金森先輩に似ていた。
しかし決定的に違うのは服装だろう。
ずいぶんと活発な服装ですね。
「へぇーここが林檎のサークルか」
「金森先輩の知り合いですか?」
「林檎とは姉妹をやらしてもらってるよ」
じゃあこの人が逃げたって言う・・・・・・逃げたは違うか。
まぁなんにしろこの人が金森先輩のお姉さんか。
「金森苺です、よろしくね」
「お姉様、何で、どうしてここに!?」
そして金森先輩は苺さんが現れた直後にやって来た。
「あぁ、りんごー」
「だっ抱きつかないでください」
「久し振りに可愛い妹にあえて私超ハッピーだよ」
「私はお姉様のせいで大変な思いしてるのに」
「まだ怒ってるの?」
「当たり前です!」
「でも私はやりたいことがあるから家を出ただけだよ、林檎もやりたいことが有るんならそれくらいしないとね」
「貴女のせいでいろんな人に迷惑━━━━━━」
「いろんな人?林檎は自分にしか迷惑がかかってないって思ってるんでしょ」
姉妹喧嘩ですよね。
どんな事情があるのかは詳しく詮索しないですけどこんなところで喧嘩しないでいただけますか?
「・・・・・・違います」
「じゃあ誰に迷惑かかってるの?」
「南くん」
「誰かなそれ?」
「私の後輩です」
そう言いながらこちらを指差す。
迷惑なのは貴方ですよ。
「へー、何だか私が迷惑かけたみたいだね」
「・・・・・・」
「でも南くんも大方、林檎の我が儘に付き合わされてるだけでしょ?」
何だよその目。
何でそんな目で実の妹を見れるんだよ。
違う。
その目は俺に向けられてるのか。
なら納得だよ。
「まぁ、いいんじゃないですか?言うほど迷惑してませんし」
「嘘でしょ」
何を根拠に断定したんだよ?
「この子は昔からそうだったもの」
「お姉様」
「何かな?」
「もう帰って」
「せっかく会いに来たのに」
「お願いだから帰って」
「・・・・・・南くん」
ちょっ、何でそで引っ張るんですか?
お姉さん一人で帰ることを強く奨めますけど。
「ちょっと話あるから」
「分かりました」
「南くん待ってください」
「すぐ帰ってきますよ」
先輩の返事を待つことなく俺は引っ張られ部室をあとにした。
それから歩く事数分。
俺はヘルメットを渡された。
「後ろのって」
「へ?」
「だからバイクの後ろのって」
「へ?」
何で?
何でこうなった?
「どこいくつもりですか?」
「外は暑いからね、喫茶店でも入ろうよ」
「それなら徒歩で行けるとこありますけど」
「そんなに私の後ろに乗るが嫌?」
「はい」
「正直でいいねぇ、お姉さん好きだよそういうの」
さいですか。
「でも私、話終わったらそのまま帰るし乗って」
「はぁ」
仕方なくヘルメットを受け取りバイクの後ろに乗る。
バイクかぁ。
正直怖いんですよね。
俺のイメージ、転けたら一撃な気もするし。
「しっかり捕まってての」
「どこに?」
「胸でも腰でもどこでも。私怒らないから」
「しっ失礼します」
お言葉に甘えて・・・・・・なんて出きるわけもなく控えめにお腹辺りに両腕を回した。
「いっくよー!」
「うぉあったぁ!」
勢いよく加速していくバイクに振り落とされそうでとても怖いですね、はい。
内心こんなこといってるがたぶん顔は恐怖ですごい事になってそう。
そして走ること数分。
俺の行きつけの喫茶店に到着した。
「初バイクの気分はどう?」
「最悪です」
「ありゃ、乗り心地悪かったかな?」
俺はヘルメットを返しつつ脈を整える。
はぁ、怖かった。
大体俺は基本的にスピードの出る者は苦手なんだよ。
車とか電車ならいいけど、飛行機とかもダメだしな。
「じゃあ取りあえず入ろっか」
「はい」
カランカラン
適当に空いていた向かい合う形の席に誘導され、アールグレイを二杯注文された。
アールグレイってなに?
「まぁ早速本題に入るわけだけど」
「はい」
「花宮君から話は聞いてるよ」
は?
「大丈夫、まだお母さんたちには言ってないから」
あのすかし野郎、事態をややこしくしやがったな。
「何で君が恋人の振りなんてしてたの?」
「・・・・・・」
「ふーん、そうなんだ」
何も言ってないんですが。
「で、一週間の猶予をもらって、助けてってすがられて。どうするつもり?」
「まだ・・・何も」
「じゃあ私の案なんてどう?」
「何でですか?」
「私の案なら君が失敗しない限り親も説得できるだろうし、君も私のせいにして逃げれる。良かったじゃない」
「何で説得できるって言いきれるんですか?」
「うちは父親より母親が力持っててね、まぁいわゆる尻に敷かれてるってやつだね」
だからそれとこれがどう関係あんだよ。
尻に敷かれてる?
だからなんだよ。
「そして母親は若い頃に男の子に苦労したんだって」
「つまりだめ男に捕まってたのか」
「まぁそう言うこと」
「で?」
アールグレイって紅茶だったのか。
出てきた紅茶を一口。
うっ。
やっぱり紅茶苦手。
「その男運の悪さを思い出させれば、自分の選んだ花宮君ももしかしたらだめな奴かもと思うかもでしょ」
そうか?
「思い出させるにはどうするか、分かったでしょ?」
どうする?
本当にこれで金森先輩を助けれるかと言うと微妙だと思う。
だけど俺が解決策を持ってないのも確かだし。
何より、この作戦には金森先輩の気持ちが一欠片程しか折り込まれてない。
「私は気が短いの、今すぐ答えて」
「・・・・・・」
「早く」
「分かりました」
「そう、ならいいよ。林檎にも話つけとくから明日の午前十一時にこの喫茶店に来てね」
「はい」
「何て言うか今日中に考えとくように」
カランカラン
苺さんの最後の一言を無視して俺は店を出た。
大学・・・・・・戻りたくない。
何て言うかもう帰りたい。
帰ってジュース飲んで姉ちゃんの帰りを待ちたい。
もうシスコンって呼んでいいからさ、帰らせて。
そんな事を思いつつも何だかんだで大学に戻ってしまった。
「あれ、秋菜は?」
「帰りましたよ」
何で?
「お姉様とどんな話をしたんですか?」
「世間話ですよ、金森先輩」
「そう・・・・ですか」
「すみませんけど俺今日は帰りますね」
「はい」
「さよなら」
「さようなら」
疲れた。
何時までこんなのが続くんだよ。
誰か俺を助けて。
解消しきれない心を抱えたまま俺は帰路についた。
明日なんて来なくていいよ。




