俺の今年の夏の自由ももう終わり
最終日の朝。
今日の午後一時半の電車で帰宅予定なため、あまり時間は残されていない。
つまり俺の夏休みの自由はあと数時間しかないと言うことだ。
家に帰れば姉ちゃんが待ち受けていて、俺の自由を遠慮なしに喰らっていく。
まぁ、生まれてこの方ずっとだけど。
「おはよ」
「海那か、おはよ」
「今日帰っちゃんうんだよね?」
「まぁな、五日間世話なったよ」
「うん。で、さ、出来ればメアドとか交換━━━━━━」
「無理」
「まだ最後まで言ってない!」
男のメアドでも姉ちゃんはヤンデレるんだからお前のメアドなんて入れれる分けないだろ。
おかげさまで俺の携帯の電話帳はすっかすかだよこの野郎。
「まぁ諸事情があってな、メアドと携番渡すからそれで許して」
まぁ着信も場所によっちゃ受けないしメールも場合によっちゃ即消去だけど。
なんなら一時的に着信拒否もあり得る。
「うん、時々連絡するね」
「はいはい」
「あとね、私志望校君の大学に変えたから」
「今変えて大丈夫か?」
「私を誰と思ってるのかな?」
誰ってそりゃ・・・・・・。
「何そのバカを見る目」
「まぁ受験頑張れ」
「受かったら下宿もするしあのサークルにも入るから待っててね」
「待ってても何も俺はあと二年在学しないといけないから」
「素直に待ってるでいいじゃん」
「でも金森先輩はほとんど居ないぞ」
「私あの人苦手だし」
「さいですか」
「じゃあまた会う日まで」
「はいはい」
「あっ」
しまった。
いつも姉ちゃんにしてるからつい頭を撫でてしまった。
気を付けてたのにここに来てボロがでてしまっぜちくしょー。
てか君もなんで手に頭すり付けてきてんの?
可愛いからやめてくんない?
「じゃあ行くよ」
「うっうん」
重たい荷物をもって民宿を出る。
金森先輩たちはもう一泊するらしいので適当に挨拶を済ませた。
後まだ時間もあるし源五郎さんのとこいってみるか。
■□■□■□■
カランカラン
ふぅ、疲れた。
「いらっしゃいませ、今日は凄い荷物ですね」
「まぁそうですね。珈琲ください」
「南さんは今日お帰りですか?」
「はい、最後に源五郎さんの珈琲飲んどこうと思って」
「ありがとうございます」
珈琲のいい薫りが強くなってきた。
湯気が立ち上るこの珈琲は何度口にしても俺にシンプルなおいしいを伝えてくれる。
今日も珈琲は美味しい。
「今日は藍那さんは店に出ないんですね」
「基本的に私が出れないときに出てもらってますから」
「にしてもこの店の雰囲気いいですよね、落ち着いてて俺好きですよ」
「私の趣味でレイアウトしてます」
「最高です」
「あっ」
「藍那、今日は図書館か?」
「うん」
「こんにちは」
「そういや今日帰るんでしたね」
「うん」
意外と皆知ってて驚き。
いつ帰るかなんてあんまりいってないはずなんだけどな。
「何時に帰るの?」
「予定では一時半のの電車で帰るつもりだけど」
「ふーん、さよなら」
「おぉ」
カランカラン
何だったんだ?
ってこんな時間、そろそろ駅に向かわないと。
ったく商店街から駅まで離れ過ぎなんだよ。
「お代は結構です」
「マジすか?」
「その代わり、あの子が南さんと同じ大学に受かったら仲良くしてやってください」
「了解」
あいつも進学だったんだ。
しかも俺と同じ大学。
何て言うか、俺の影響でないことを祈ろう。
俺なんかが誰かに影響を与えたなんて考えるだけでもおぞましい。
「またいつか来ますね」
「その日が来るまで南さんのダーツに期待し続けますよ」
「さよなら」
「ありがとうございました、またのお越しを待っております」
カランカラン
さて、少し急ぐか。
何でこんなに駅と商店街が離れてんだろ?
だから利用者も減るんだよ。
それともあれか、商店街が駅近くからここまでスライドしてきたのか?
全くもって謎だ。
それに荷物も重いし、暑いし、早く家に帰りたい。
■□■□■□■
到着した電車にのって少しの間、発車までこのがらがらの車内で過ごすことになった。
別に誰かがホームまで見送りに来てくれるなんて言う感動的で漫画的な事があるわけでもなく時間を浪費していく。
暇だ。
窓を開けて外の風景を見ても暇だ。
冷房があまり聞いてない分開けておいた方が涼しいかもしれないくらい暇だ。
そうこうしてるうちにようやく電車は走り出した。
やっとだ。
ん?
何か聞こえる。
この音はトランペット?
初めて聞いたときと同じ感覚と感動が俺の体を包み込んでいく。
そんな漫画的展開はあり得ないが、時間外れの演奏は藍那さんがしてるんだと思い込もう。
この演奏は俺のためにしてるんだと勘違いしよう。
それだけで自由との別れは少しだけ楽になった。
それから乗り継ぎなどを繰り返し数時間。
やっとの思いで俺氏帰宅完了。
姉ちゃんは仕事でまだ居ないみたいだしさっさと荷ほどきしてしまおう。
■□■□■□■
「夏夜くんお帰りー!」
「たっただいま」
ソファーでテレビを見てる俺に後ろから抱き付いてくる。
「もぉ、お姉ちゃんすごく寂しかったんだから」
だから毎日意味のわからない量のメール寄越してたんだね。
「メールは送れど返ってこないし」
「ごめんってば」
「それに・・・・・・」
「そっそれに?」
「夏夜くんの服から女の子の臭いが凄くするんだけど何で?」
「えっと、行った先の民宿に高校生の娘さんが居たから」
「七人」
「えっ?」
「金森さんと轟さん、その娘さんを除いたら五人」
そもそもの話なんで俺の服の臭いかいでんの?
んでもってかぎ分けれるって普通に凄いよこの人。
「夏夜くんはお姉ちゃんに内緒で他の女の子と仲良くしちゃうんだね」
「そう言うことじゃ━━━━━━」
「じゃあ体も一杯触られたよね、うん。だからお姉ちゃんがもっと抱き締めて慰めてあげる」
姉ちゃんの髪からはいい香りがして、頭を撫でられる度に思考が真っ白になる。
生暖かい吐息が耳元を掠める度に背筋がゾクゾクとして非常に落ち着かない。
「お姉ちゃん、明日オフなんだ」
「うっうん」
「映画見に行って、お昼ご飯食べてゲームセンターでプリクラ撮ったり、いろんな事しようね」
「わかった」
あぁ、俺帰ってきたんだな。
「楽しみだね」
「うん」
その後はと言うと案の定姉ちゃんがやたらと引っ付いてきて暑苦しかった。
自由な時間も終わりです。




