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俺のサークルメンバーは花火をするみたいだ

「花火じゃごらぁ!」


人の泊まってる部屋をノックなしに開けたと思えば何を叫び出すのやら。

演奏を聞き終えて約一時間半、四日目の夜はこうしてぼーっと過ごすのも悪くないと思ってたのに。


「台無しじゃねぇかぁ!」

「秋菜が来たんですから台無しなんてあり得ませんよ?」

「なにその自信?」

「だいたい何が台無しなんですか?」

「質問を質問で返すな」

「早く花火しましょ?」

「初耳なんだが」

「なら今聞きましたね」

「まぁ花火くらいなら付き合ってやるけど」

「じゃあ先に行ってますから早く来て下さいね」

「はいはい」


まったく、騒がしいやつだ。

でも花火なんて何年ぶりだろ?

高校の時は一度もしなかったからな。

てことは中学の修学旅行以来だから五年ぶりくらいか。

久しぶりだな。

外に出るとサークルの面々と海那と翠さんに碧ちゃんがきゃっきゃっと騒いでいた。

男の俺としては、とても入りづらい。

こう言うことに慣れてる人ならなんとでもなるだろうけど、あの姉ちゃんのおかげでなれてません。


「せんぱーい!」

「おっおぉ」


少しずつ歩みを進める。

楽しそうな笑い声に近づいて行くのを実感した。


「遅いですよ」

「うるせぇ」

「そんな先輩に」

「うわっ!」


ロケ花が頬を掠めたぞいま。


「ちっはずしたか」

「秋菜?」

「だが私にはまだこれだけの爆竹がある!」


四つの爆竹を指にはさみ握り混み、もう一方の手には着火材が握られている。

すなわち。


パパパパパパ!


激しい炸裂音が何度も空気を揺らし続けた。

そしてこの馬鹿はしてやったりと、耳を塞ぐ俺をどや顔で見てきたではありませんか?

まぁ爆竹は許してやる。

お前も等しく被害を受けるわけなのだから。

だけど・・・・・・。


「そのどや顔とロケ花は許さねぇ!」

「痛い痛い痛い!」

「ロケ花を人に向けて撃つなって教わんなかったのかあぁ!?」

「グリグリしないでください!」

「まぁまぁ、その辺にしといてあげませんか?」

「金森先輩のお言葉でも関係ありません。これは教育すべきことなのですから」

「そうですよね、なら私も」


そう言い、手を握る金森先輩。

それに合わせたかのように悲鳴を倍増させる秋菜。

うん、お前なにしたんだ?


「熱かったですよ蜂花火」

「あぁぁぁ!」

「火傷こそしませんでしたけど危険ですから。そんなことも分からないんですか?馬鹿ですか死ぬんですか?」

「ごめんさない」


何か、可哀想だからうめぼしはやめてやるか。

あと金森先輩は怒らせないようにしよう、うん。

さて、気を取り直して俺は何しようか?


「南先輩」

「ん、何?」

「先輩は蜜柑のこと嫌いですか?」


まぁ一人称が自らの名前ってやつは話してると時々こんがらがって面倒だし。


「蜜柑はサークルのメンバーとして先輩ともあと二年付き合って行かないといけないわけです」

「いや、嫌いじゃないから安心して。なんなら金森先輩が卒業したら俺サークル出てもいいけど?」


正味な話、俺を引き込んだ人が居なければ俺がそこにいる理由なんてほとんどないに等しいから。

ということは、あと一年半でサークルを抜けれる!

あんまり長居してたらこの間みなたいな事がまたおらないとも限らないし。


「てか梨木さんは何ゆえこの謎サークルに?」

「秋菜に引っ張られました」


あの馬鹿が被害者を増やしてたのか。


「お疲れさまです」

「先輩は何で入ったんですか?」

「たまたまだよ」

「たまたま?」

「たまたま姉とのメールの内容を見られて、たまたまその内容が俺を勧誘するに足りたんだろう。つまりは偶然だよ」

「辞めないでくださいね」

「何で?」

「秋菜の相手を私一人に押し付けるんですか?」

「まぁ時々顔は出すようにする」

「はい」


そりゃ秋菜の相手を押し付けたんじゃ可哀想だよな?

あいつ馬鹿だし、無駄に手かかるし。

しかも他人には辛辣な一面もあったりするしな。


ヒュゥー・・・パン!


打ち上げ花火って何度聞いても頼りない音だすよな。


「上がりましたね」

「まぁな」

「梨木ちゃんも向こうで見よ?」

「うん」


碧ちゃんに連れられて行ってしまった。

俺へのお誘いはなしですかそうですか。

まぁ、知ってたけど。


「酷い目にあったですぅ」

「秋菜ちゃんが悪いんです」

「ごめんなさい」

「秋菜」

「慰めてくれるんですか?」

「ばーか」


最近気づいたことだが、こいつは頭を押さえて遠ざけるとほとんどの攻撃が俺に当たらなくなるのだ。

そして何故さ押さえてる手は攻撃しない。

この辺が馬鹿たる由縁だろう。


「はぁはぁ、疲れました」

「お疲れ」

「隙あり!」

「あまいね」


繰り出された右ストレートは俺に届かない。

そのリーチのなさを恨むんだな。


「仲いいですね」

「はい!」

「心外です金森先輩。こんなちびの馬鹿と仲がいいわけ━━━━━━」

「ちびって言うなぁ!」

「いてっ。直ぐに叩くなよ」


腕の振りが見えなかったぞいま。


「静に花火でも見てませんか?」

「はい」

「うす」


さっきの見ちゃうとな。

そんな俺の微妙な心持ちを気にもせず、花火は夜空に咲き誇る。

小さな波の音と大きな破裂音だけがその場の空気を揺らして、支配していた。

今年の旅は成功か失敗かで言えばやはり失敗になるのだろう。

何かを得る目的で来たわけではないが、それでも何かしらを得ることは必然といってもいい。

普段とは違うことをしてるのだから。

しかし今回は何も得なかった。

失敗もいいとこだ。


「金森先輩は就職とかどうするんですか?」

「大学卒業と同時に父の下で数年修行して家業を次ぎます。そしてそれから一、二年で親の決めた相手とお見合いして結婚ですかね?」

「・・・・・・家次ぐのって長女とかがするもんだと思ってた」

「本来ならそうなんですけど、お姉様はそう言うのがお嫌いな人でして、私が高校三年の時に家を出ました。優秀な人だっただけにいろんな人が惜しがりましたよ」

「・・・・・・よくわかりませんけど、大変なんですね」

「はい、南くんには理解できないだろうけど大変なんです」

「嫌です!」

「は?」

「だってそれじゃあ金森先輩とは卒業したら二度と会えないみたいじゃないですか。そんなの嫌です」

「いや、会えますけど」

「えっ?」

「まぁ頻度はかなり落ちますけどね」


秋菜はそこに目をつけるんですか。

いや、たぶん俺と同じことを考えてる。

しかしあえて口には出さず、いつもの自分ならみたいな考え方で導きだした台詞に違いない。

俺なんかは家業を次ぐとか政略結婚みたいなのはよくわからんし、金森先輩とは他人な訳だから口出しもできない。

不用意に首突っ込んでいい話じゃないんだし。

だからあいつは、ギリギリのラインまで踏み込んだに違いない。

まぁ、ほとんど俺の想像なんだけど。


「先輩方が卒業したら三年に一度くらいに同窓会っぽいの開くから来て下さいね」

「気が向いたらな」

「絶対行きます!」

「はい」


でも金森先輩が少し羨ましいことも事実。

そろそろ俺も就活の準備を始めていかなくてはならない。

現役で就職して、二、三年で家を出て一人暮らしするのが取り敢えずのベスト。

しかし就職難だし、そううまくもいかないんだろうな。

そう考えると姉ちゃんもあれで立派に社会人をやってるわけなのだから、尊敬はする。

てかまじで就職どうしよ?

大学なんて通いやすさとレベルで決めちまったからなんも考えてなかったぞ俺。

どうすっかな?


「じゃあ、俺そろそろ戻りますね」

「はい、お休みなさい」

「今夜は私が寝かしませんよ先輩」

「永眠させてやろうか?」

「やれるもんならやって━━━━━━」

「私、まだ怒ってるんですよ?秋菜ちゃん」


頑張れよ秋菜。

死ぬなよ。


「じゃあお休みなさい」


挨拶だけを済ませ、何とも言えない気持ちをそのままに布団に潜った。

漫画や小説ならここで美少女が布団に潜り込んできてムフフな展開になるのだろうけど、あいにく現実なんでね。

それにそんな展開になられても迷惑だし。

とにかく明日には帰るのだから早く寝よう。

帰ったら姉ちゃんに構ってやらないといけないと考えると、ここに永住したくなるがそうもいってられない。

とにかく寝よう。

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