俺の泊まってる宿の娘は図々しすぎる
翌日、携帯の電源をいれるとメールの受信ボックスの数値がカンストしていた。
メッセージアプリの通知も勿論だし、着信履歴を見れば姉の名前が限界までずらりと並んでいた。
いくらなれたといっても、これはさすがにゾッとしてしまう。
取り敢えず。
『ごめんなさい、携帯見てませんでした』
これだけを書いて返信しておいた。
コンコンコン
「はい?」
「朝御飯出来てるよ」
「あっあぁ、ありがと」
「でさ、ちょっとお願いなんだけどいい?」
「断る」
「絶対に逆らいません?そこまでは言ってないよ」
「その通り、俺は逆らわないなんて欠片も言ってない」
「えっこの薄汚い俺の悦びを満たすためにこきつかって、さらに罵って欲しいの?私には出来ないよ」
「・・・・・・」
「ごめんってば、でお願いなんだけど━━━━━━」
「嫌だ断るききたくない」
「ふーん、私の水着姿が見たくないんだ」
「別に興味もない」
どうせなら藍那さんの水着姿が見たいね。
「藍那ちゃんも来るって言ってたかな?」
「・・・・・・」
「今ピクッてしたよね、反応したよね?」
「俺は海水浴なんてしない」
「せっかく目の前が砂浜と綺麗な海だってのに勿体無いな」
「でもまぁ、荷物番くらいならしてやっても構わん」
「本当!?藍那ちゃん以外にも二人来るからよろしくね」
「はいはい」
「あとね、今日の朝御飯は私が作ったんだ」
その朝食は普通に美味しかった。
■□■□■□■
「やっほー!海那来たよ」
「・・・・・・こんにちは」
貴方達すでに水着ですか。
てか一人はどう見ても小学生だしもう一人は・・・・・・なんか男っぽい。
「えっと、この人だれ?」
「いまうちの民宿に泊まってる南夏夜だよ、私が誘った」
「海那がねぇ」
何だよその品定めするような目付きは。
「私は蓮谷翠、でこのちっちゃいのが妹の碧。よろしくね?」
「おっおぉ」
白ビキニが姉でフリルのたくさんついた子が妹か。
なるほど。
まぁ覚えなくてもいいでしょ。
「藍那は来てないの?」
「まだ来てないね」
「てか碧もいい加減離れな、いつまで私の後ろに隠れてるの?」
「・・・・・・うぅ」
「相変わらず人見知りだね」
「海ねぇが人なつっこ過ぎるんだよ」
「うん、じゃあ先に遊ぼうか」
砂浜にレジャーシートを敷き四方に荷物をおいていく。
ビーチパラソルをさして俺の仕事は終わりっと。
「じゃあ私達泳いでくるから碧もその気になったら来てね」
「碧ちゃんまってるよ」
「うん」
二人は去っていき、この場にはまだまだ警戒している少女と藍那さんをまだかまだかとまつ俺だけがいる。
「君は泳がないの?」
「・・・・・・すみません」
「ちょ!なんで泣きそうなんだよ?」
「ごっめんな・さい」
「怒ってないから」
「・・・・・・はい」
なにこの子?
俺そんなに怖い?
「私・・・泳げません」
「そうなんだ」
じゃあなんで来たんだよ。
「おじさんは泳がないの?」
「お兄さんな。俺は泳げるけど好きじゃないだけ」
「おじさんも水怖いの?」
「いや別に、碧ちゃんは怖いんだね。あとお兄さんな」
「そっそんな事無いもん」
なんの強がりだよ。
「いや、怖いもんは怖いでいいと思うぞ。誰も笑ったりしねぇよ」
「ううん、学校のみんなは笑ったし」
「俺はその学校のみんなとは違うと言うことだな」
「・・・・・・」
「まぁ笑ってもらった方が楽なら笑うけど」
「笑わないで」
「はいはい」
「なんで泳げるのに泳がないの?」
「疲れるし」
それなのにあの二人はどこまで行くつもりだ?
まぁ、なれてるだろうし俺はなにもしないけど。
「隣座っていい?」
少し警戒が解けてきたか。
まぁぜんぜん警戒されてるけど。
「いいぞ」
俺のとなりに体育座りでちょこんと座る様は、その筋の人間に受けそうだな。
俺は決してロリコンではありません。
決してロリコンではありません。
大切なことなので二回言いました。
「おじさんは━━━━━━」
「お兄さん」
「・・・・お・・兄さんは、最初から泳げた?」
「練習はしたよ」
基本的なことだけ。
早く泳ぐ必要も無かったし。
「練習する?手伝うよ」
「・・・・・・」
「そっか、じゃあ頑張れよ」
人見知りなこの子からじゃ絶対に手伝ってと言えないと思ったから、俺からいってやったのに。
まぁ本人が望んでないことをやってやることもないか。
だいたい思い返したらただの自己満だし。
「碧、ちゃん?」
「藍那お姉ちゃんだ!」
振り返ると黒いビキニと白い薄目のパーカーに体を包んだ藍那さんがいた。
うん。想像通り破壊力抜群です。
その胸に碧ちゃんは飛び込んだ。
「碧ちゃん、そこの人は?」
「海ちゃんのお友達」
ではありません。
「南夏夜です」
「九樹藍那です」
「このおじさんも泳げないんだって!」
「俺は大学生だし泳げない訳じゃないから」
てかこいつどんだけ藍那さんになついてんだよ。
変貌なんてレベルじゃねぇよ。
「私達の仲間だね」
「もしかして藍那さんも泳げないんですか?」
「だからなんですか?」
「いや、別に」
「私は泳げないんじゃなくて泳ぎたくないんです」
「じゃあ実際には泳げるんだ」
「でも藍那お姉ちゃんいつも泳げないからって私と遊んでくれるよ」
「・・・・・・」
「まぁいいか」
俺はあくまで旅行者。
現地の人たちと深く関わる必要もないわけだ。
「ふぅ。あっ、藍那ちゃん遅いよー!」
「こら抱きつくな海、濡れる」
「海那の次は私だからね」
この空間に居合わせてる俺超いたたまれないんですが。
何この百合空間?
意図して俺排除しようとしてるよね。
「よし、藍那ちゃんも連れて泳ぐぞ!」
「私パス」
「ごめんね翠ちゃん。私も少し休憩」
「えぇー!じゃあ南さん━━━━━━」
「俺は荷物番なので」
てか俺誘うのかよ。
お前の中の誘う基準が気がかりで仕方ないわ。
「貴方に拒否権はない!」
「初対面の奴にそんな事言われる日が来るとは思ってもみなかった」
「いいからいいから」
「引っ張るな」
翠さんに引っ張られ海に入っていく。
姉ちゃん以外の女子に触られると反射的に後ろをみてしまう。
仕方ないよな?
「私の妹と何話してたの?」
「へ?」
「私の妹に手を出したら埋めるよ」
どこに。
「小学生なんて口説くかよ」
「そならいいんだ」
今姉ちゃんと同じ感じの気配がしたけど気のせいだよな?
「あの子には私しか居ないから」
「そっそうか」
「そうだ、ビーチボール取ってきてよ」
「はいはい」
これだけのために呼ばれたのか。
いや、まぁ期待なんてしてなかったけど。
言われた通り俺はビーチボールを海那に持たせて行かせた。
今度も藍那さんはいかないみたいだ。
「貴方は行かなくていいんですか?」
「面倒だし」
それよりその砂の城なんですか?
かの有名なテーマパークのシンボルみたいで地味にすごい。
「毎年やってたら上手くなった」
「聞いてもないこと答えたんですね」
なにもしてないのに、何もしてないからこそ眠たい。
少し寝よう。
二人の少女の会話をBGMに俺は眠った。




