エレベーター
ぼくは、エレベーターの中で生まれた
ちっぽけな銀色のエレベーターだ
今日できたばかりのエレベーターだ
ぼくは誰だって?
ぼくはただのロボット
そのへんのロボット
ポンコツなロボットだ
「目覚めたかい?」
「君はだれ?」
「私はマザー」
「マザー?」
「あぁ、君の生みの親だよ」
「なんでぼくは、部屋にいるの?」
「君に選んでもらうためさ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
ゾゾゾゾゾゾゾゾッ
エレベーターの中は白い霧に包まれた
「怖いよ…」
「そうだろ?」
「なんでぼくを恐怖に陥れるの?」
「君がどちらを選ぶか見るためさ」
パカリッッッ
天井が開いた
はるか遠く、はるか遠く、はるか遠く
青空が見える
霧にぼやけた青空が見える
パカリッ
天井は閉じた
ほんの一瞬の青空だった
「君は青空を見たいかい?」
「見たいけど、怖いよ」
「見たいなら、そこのバイクを漕ぐといい」
「バイク?」
モクモクモクモク…
深い霧から現れた
銀色のバイクだ
「そこのバイクを漕ぎ続ければ、エレベーターは上昇する」
「漕げば青空を見ることができるの?」
「あぁ、そうだ」
ピカッッッ、ピカッッッ、ピカッッッ
ロボットの眼は、赤く点滅した
闘牛を誘うマントの色だ
「ぼくは漕ぐよ」
「怖くてもかい?」
「あぁ、少しでも上を目指したいんだ」
ギコギコギコギコ…
ギコギコギコギコ…
ロボットは漕ぎ続けた
ウィーーーーーーーーン
エレベーターは動いた
しかし、青空には向かわない
向かったのは,地の果てだ
「なんで漕ぐと、下がっていくの?」
「聞いていた話と違うじゃないか」
「マザー、どういうこと?」
「それは君が無能だからだよ」
聞いたことこの無い声
マザーの声じゃない
ぼくと同じロボットの声
金色のロボットだ
「君は不良品だ」
「なんでそんなこというの?」
「君のエレベーターは、漕ぐと下がっていくからだよ」
「君は違うの?」
「あぁ、ぼくのエレベーターは青空に向かっていくさ」
「そんな」
「ポンコツはいくら頑張っても、無駄なんだよ」
「そんなこと言わないでよ」
「ぼくが漕いであげようか?」
「いや、いいよ」
「ちょっと貸してごらんよ」
金色のロボットは押しのけた
銀色のロボットを押しのけた
ギコギコギコギコ…
ギコギコギコギコ…
ウィーーーーーーーン
エレベーターは上昇した
青空へ上昇した
「なんで君が漕ぐと上昇するの?」
「それは僕と君とでは、ものが違うからだよ」
「そんな」
「僕が漕ぎ続けてあげようか?」
「えっ…」
「僕が漕げば、君は青空へ到達できる」
「見たいけど…」
「どうする?」
ロボットは考えた
ズタズタのプライド
青空への渇望
ロボットは考えた
そして、気持ちを押し殺した
「少し漕いでくれない?」
「全く世話が焼けるなぁ、少しだけだぞ」
金色のロボットは漕ぐ
エレベーターは上昇する
金色のロボットは漕ぐ
エレベーターは上昇する
金色のロボットは漕ぐ
エレベーターは上昇する
……
「まぁ、この辺にしとこうかな」
「ありがとう」
「青空へ少しは近づいたと思うよ」
「そうだね」
「それじゃあね」
パカリッ
天井は開いた
金色のロボットは立ち去った
青空は近かった
気づくと霧は晴れていた
エーーーーーーーーーーンッ
エンッ、エンッ、エンッ
エーーーーーーーーーーンッ
ロボットは泣いた
大泣きした
ロボットは悔いた
ポンコツを悔いた
とにかく悔いた
なんで自分は銀色なんだ
なんで自分は不良品なんだ
マザーーーーーーー
「漕いでごらんなさい」
「マザー?」
「今の気持ちで漕いでごらんなさい」
「漕いだらいいの?」
「そうです、漕ぐんです」
ギコギコギコギコギコ…
ギコギコギコギコギコ…
ロボットは漕ぎ続けた
ウィーーーーーーーーン
エレベーターは、上昇した
ちょっとずつではあるが、上昇した
金色には敵わない
しかし、明らかに上昇していた
「ぼくのエレベーターが上昇してる!!」
「それが君の燃料なんだね」
「燃料?」
「あぁ、1体1体、燃料が違うんだ」
「ぼくの燃料はなに?」
「君の燃料は悔しさだ」
「そうなんだ」
「君のエレベーターは、悔しい思いをすればするほど上昇する」
ロボットは漕ぎ続ける
ウィーーーーーーン
エレベーターは上昇する
すっかり寒くなった
すっかり暗くなった
冬の星空だ
「ありがとう、マザー」
「私も嬉しいよ」
「ぼくは漕ぎ続けるよ」
「君なら漕ぎ続けるだろう」
「あぁ、青空に向かって!!」
銀色のロボットは漕ぎ続けた
とにかく漕ぎ続けた
エレベーターは上昇した
少しずつ上昇した
青空に近づいていた
ちょっとずつ近づいていた
銀色のエレベーターの隣には、金色のエレベーターがあった
金色のロボットは漕ぎ続けた
銀色を見ながら漕ぎ続けた
眼は燃えていた
嫉妬の炎で燃えていた
エレベーターは上昇する
星空へ上昇する
プツンッ
エレベーターは落ちた
マザーがやった




