20話 暗い迷路
ゼーシェリオン達と合流し、結界の外へ無事出れたエンジェリア達は、フュリーナ達と一緒に別荘へ戻った。
「ふにゃぁ。こんな場所でも落ち着くの」
常に狙われる心配のある場所だが、何日か過ごしているのと、ゼーシェリオン達と一緒にいれるという事で、落ち着く場所となってきている。
エンジェリアは、ソファに座り、ふぅっと力を抜いた。
「ここでそんなに落ち着いてられるなんてたいしたもんだ」
「デューゼにぃも慣れれば落ち着くよ。ここ、家具とか普通に良いから。このふかぁなソファを前にして落ち着かないエレはいないの」
テンデューゼは、ここがどういう場所か知っているのだろう。ギュリエンでは、外へ出る事はまずないため、外の情報を得る事には慣れていない神獣が多かったが、テンデューゼはその頃から外への情報を仕入れている。
ここの事も知っていたのだろう。
「あんな状況でも情報収集だけは抜かりないか。確か、ここの治安がここまで悪くなったのは数百年前。どこだかの国が滅んで、そこから逃げてきた人達で溢れて治安が悪化したとか」
「おお。そこん国が争いばっかり繰り返す国で、自分達から喧嘩ふっかけて負けて逃げてきたってさ」
「……」
フィルもテンデューゼもエンジェリアに気を遣っているのだろう。その争いばかりする国というのに心当たりがある。そして、そうだとすれば、エンジェリアには嫌な記憶しかない。
「……エレ、このソファよりも良いソファ見つけたんだけど、今度エクリシェに置いてあるの変えてみない? 新しいカタログに載っているこれなんだけど」
フォルもこの別荘で普段通り過ごしている。定期的に送られてくるカタログを見て、新しい家具を考えていたようだ。
エンジェリアは、フォルにカタログを見せてもらう。だが、写真だけではふかふかさを知る事ができない。文章で書いてもあるが、実際に自分で体感してみなければなんとも言えない。
「ふにゅぅ。保留なの。エレは自分で座った感触を一番信じるんだから。自分で座ってないと分かんないの」
「それもそうだね。試しに一つ買ってみて、それで気に入ったら他も変えよう」
「ふにゅ。そうするの。って、そんな事より、次は何をするの? エレ達いっぱいがんばっているから、そろそろちゃんとした試験に移っても良いと思うの」
エンジェリアも詳しくは知らないが、管理者になるための試験は、こんな行き当たりばったりで決めていない。まずは様子を見るためにこういう試験をするが、ちゃんとした試験が用意されている。
「本来ならそっちを先にやるんだけどね。ある程度分かったあとで仕事とか回すから。今すぐやる事もないからね」
「ぴにゅ。何やるの? 何やるの? 詳しいお話は知らないの」
エンジェリアが、目を輝かせて聞いていると、突然窓が割れた。
「またなの。もうめんどくさいの」
「金目のものを出せ! 」
「どうして? どうして、そんな行いをするの? 」
エンジェリアは、収納魔法から宝剣を取り出そうとしたが、ノーズのその言葉で出すのをやめた。
「かんけぇねぇだろ! とっとと金目のものを出しやがれ! 」
「そう。そうなんだね。そんなふうに人を襲って奪っても、何も良い事なんてないよ。人を救い与える方が、得られるものも多いよ。色々ともらえる。その方が素敵じゃない? そう思うなら、帰って」
盗みに来た野盗が帰っていく。
「ノーズねぇすごいの」
「ノーズ、せめて窓代請求してよ」
「ご、ごめん。そこまで気が回らなかったよ」
エンジェリアは、割れている窓を魔法具で直した。
「これで直すからお金かかんないの。それより、試験なの。エレは試験を受けて管理者になるんだから」
「うん。そうだったね。試験はただの迷路だよ。迷路を抜ける事ができるかどうか。迷路の中でどんな行動を取るか。それを見るんだ。ちなみにこれは、三人別々にやってもらうよ。みんな別の場所に転移するから、入るまでは一緒だよ」
そう言ってフォルが転移魔法を使った。
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真っ暗で何も見えない。手探りで探していると、壁のようなものがある。
光魔法で明るくしようとするが、光が出ない。
「ここで光魔法は使えないよ。この空間は特殊で、光を通す事がないんだ」
「じゃあ、暗いままなの? 」
「そうだね。でも、暗いのは怖くないよ」
「ふにゅ。大丈夫なの。フォルが一緒にいてくれるから」
エンジェリアは、フォルの手を握る。
「らぶなの。という事で、早くいくの」
壁にぶつからないよう気をつけながら、エンジェリアは、先へ進んだ。
「普通なの。ただの迷路なの。暗いだけで何もない。おかしいの」
何か仕掛けがあると思っていたが、ただの迷路のようだ。エンジェリアは、その事に疑問を抱くが、先に進む事だけに集中する。
もしかしたら段差があるかもしれない。フォルが支えてくれるだろうが、自分でも気をつけようと、足で段差がないかしっかり確認しながら歩いていく。
「これは暗いのが怖くないとしてもむずかしいの。転びそう」
「大丈夫だよ。転ぶ事はないから」
「ぷにゅぅ。分かったの」
転ばないと分かれば、何も気をつけずに進む。きっと段差などないだろうと。滑るとかは考えていない。
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しばらく進んでいるが、何も起こらない。何も起こらなすぎて油断していた時、突然変化が起きた。
真っ白い雪景色。地面が赤い。
『エレは連れて行かせない! 俺がエレを守るんだ! 』
『邪魔だ』
『やめて! ゼロにいじわるしないで! 』
エンジェリアの過去。幻覚だろう。
景色が変わる。真っ白い部屋。あの研究所だ。
『エレ、だいしゅき』
『ゼロ、らぶ。だいちゅき。エレがじゅぅっと、ゼロを守るから』
『ゼロがエレを守るから』
楽しそうにしているが、楽しい事などない。毎日毎日実験ばかり。そんな中でも互いの存在を確認し合い、互いに依存してきた。
互いに抱きしめ合い、ずっといつかの自由を夢見ていた。
今でも覚えている、忘れたい過去の幻覚が次々と見える。幻聴が聞こえる。
「……エレは……ずっと……ふにゅ。エレは、変わんないの。ゼロの夢を叶えて、みんなで一緒にらぶにゃんするの」
折れる事などない。諦めたいとは思わない。どんな事があろうと、何を見ようと変わらない。
景色が変わる。花畑。エンジェリアは、泣いている。
『エレは、醜いのかな? 女の子は美しくないといけないのかな? どうして、がんばって生きているだけで、こんなに笑われないとなの? 』
『頑張るのが醜いわけねぇだろ。お前は十分美しいよ』
『でも』
『どれだけ風が吹こうと、嵐が来ようと、懸命に生きた花は美しいだろ? 削られても、割れずにいた宝石が美しく高値で売られているだろ? 人もそうなんじゃねぇのか? 』
『どういう事? 』
『壊れるまで我慢しろってわけじゃねぇが、どれだけ周りに笑われようと、醜く、足掻いて、努力して、そうやって生きる方が美しいだろ。なんでもできて、高いものに身を包んで、そういう奴を笑う奴よりもよっぽどな』
エンジェリアの忘れられない記憶。嫌な方ではなく、良い方で。
ゼーシェリオンの言葉で、エンジェリアは救われた。今でも、その言葉は救いだ。
「……うん。エレは美しく咲く一輪のお花なの。宝石なの」
エンジェリアは、迷路のゴールを目指して先に進む。
「さすがだね」
「ふにゅ。エレはみんなと一緒だから、みんながすごいの。早くゴールいくの」
「うん。みんなじゃなく君がすごいんだよ。これを抜けてゴールまでみんなが行けたわけじゃない。いけない方が多かったんだ」
「そうなの? とりあえず、ゴールまでがんばる」
まだ油断はできない。これ以外に何か仕掛けがあるかもしれない。それに、エンジェリアはそもそも迷わずゴールできるかも怪しい。




