17話 奇跡の訪れ
エンジェリアが使える魔法は限られている。ゼーシェリオンは、この地形では魔法が使いづらいだろう。
「ぷにゅぅ。これは退避が無難かもだけど」
「難しそうだな」
「迎え打つしかなさそうですね」
エンジェリア達が逃げられないようにするためだろう。中からは出る事のできない結界が張られている。
エンジェリアは、収納魔法から魔法杖を取り出した。
「風の魔法杖なの。これでエレも少しくらいはお役にたつの」
「十分すぎるくらい役にたつ」
エンジェリアは、自分たちの周りに風を纏わせた。魔物を近づけなくす。防御魔法を使えば良いが、維持するのを考えるとこっちの方がやりやすい。
――エレ達が昔やっていたのだとしても、こっちが楽なの。でも……これ
やりやすいが、エンジェリアの防御魔法のように強力ではない。これでは時間稼ぎにもならないだろう。
「この間にいつもの防御魔法を……ぷにゅぅ。こんな事ならちゃんと武器持ってきておけば良かったの。ここだと宝剣使えないの忘れてた」
宝剣を使う事ができれば、魔物の群れも難なく討伐できる。だが、この遊園地内では、宝剣を使う事ができない。それだけではなく、最近のエンジェリアとゼーシェリオンは宝剣を頼りにし過ぎていたため、替えの武器をほとんど持っていなかった。
エンジェリアは、この魔法を閉じ込めてある魔法杖以外は持っていない。ゼーシェリオンも変わらないだろう。
「エレの準備不足なの」
「ぼくも、この前剣を壊してしまい、今は変えを探し中です」
「誰もまともな武器を持っていないの」
魔法で応戦するのは難しいだろう。エンジェリア達は、とにかく自分の身を守る事しかできない。
「エレー、防御魔法だ」
「みゅ⁉︎ 」
エンジェリアは、聞こえてきた声に従い、防御魔法をかけた。
眩い光の閃光が魔物達を一掃する。魔物がいなくなったのを確認し、魔法を解いた。
「やっぱり、ここにいてくれた。奇跡はあるの」
「ああ」
今にも泣き出しそうな表情で、エンジェリアとゼーシェリオンは、声の主とその仲間を見た。
みんな、もう数えきれない年数が経っているというのに、まだギュゼルの時に使用していた制服を着ている。
「この程度、二人ならわけないと思うたんだが」
「武器がないの。この地形で魔法が相性悪いのに武器がないの……ふにゃ⁉︎ 紹介するの。この子はクーム……」
エンジェリアは、クルカムの事を自然とクームと呼んでいた。それは、今まで気にしてはいなかったが、フュリーナが弟の方に大事にしていた子の話をしていた時に出ていた愛称だ。
クルカムがエクルーカムと出会う前をエンジェリアは聞いていない。それで気づかなかったが、間違いはないだろう。
クルカムとフュリーナが見つめあっている。
「姉上? 」
「ええ」
「クームってフュリねぇが使ってた愛称だから言い慣れてたの……みゅ? エレはクームと何度か会った事がある気がする。その時はエレねえちゃんって可愛らしく」
エンジェリアは、クルカムとフュリーナの関係に気付き、余計な事まで思い出している。
「いつの話ですか。エレ様はエレ様です。双子姫とか、そんなの知りません。というか、管理者の手伝いをしてる中で思い出したので、今更変える事なんてできませんよ」
「なんでなの。エレを子供と思ってるんだ」
「……先ほどは助けていただきありがとうございます。デューゼ様」
「……ぷしゃぁー! クームがエレを無視するのー! 」
エンジェリアは、クルカムに猫パンチを繰り出す。いつも通り威力は全くない。
「エレ、そんな事より、フォル達と合流」
「エレの居場所なら分かるから勝手にくるの」
エンジェリアは、フォル達に呼びかけていない。だが、フォルはエンジェリアに居場所追跡の魔法具を与えている。それを起動しておけば、フォルはこの結界の中にいようと居場所は分かるだろう。
エンジェリアは、ブレスレッド型の魔法具を起動する。
「これで良いの。あとは楽しくなっているだけ」
「そんなもんがあったんだな。それ初めから使っとけよ」
「エレだってフォルに知られたくない事くらいあるの。フォルに内緒でプレゼント探しとか、ゼロと楽しく遊ぶとか」
どこかへ移動するより、ここで待っている方が安全だろう。下手にどこかへ動けば、また何か危険な目に遭うかもしれない。
「……でも、エレはねむねむさんをしたいの。ゼロ、どうすれば良いと思う? 」
「寝んな。我慢しろ」
エンジェリアは、「ふぁぁ」とあくびをした。
「相変わらずエレ様は可愛らしいですね。ゼロ様もエレ様の世話をずっとし続けていたんですね」
「もう趣味になってるからな。リーグにぃも分かるだろ? 孤児院の子供達の世話をずっとしてきていたから」
「そうですね。面倒だと思った事もありましたが、やっていくうちに成長とか楽しみが増えて、世話する事に楽しさが出てきましたね。それで、いつの間にか世話をする事が趣味になっていました」
ギュゼルの仲間、リーグリードが楽しそうにそう言った。その言葉にゼーシェリオンがこくこくと頷いている。
リーグリードは、孤児院で年下を相手にしてきていたが、エンジェリアとゼーシェリオンは、ほとんどの転生で同い年だ。成長を見守るというのには納得がいかない。
「しゃぁー、しゃぁー。エレとゼロは同い年が多いんだからおかしいの。一緒に成長してきたの」
「そうだな。年齢は同じだな」
「……むにゅ。そういえば、ミュンねぇとリーガにぃはどうなったの? こんな状況だけど……ううん、こんな状況だからこそ、関係が深まる事もあると思うの」
ギュゼルの仲間、クリンガーとミュンティンは、エンジェリア達が一緒にいた頃、婚約をしていた。政略的なものだったが、それでも互いに良い関係であるように見える。
「そうですわねぇ、どう見えます? 」
「ふにゅふにゅ。とっても仲が良さそうなの。これは、前よりもお近づきしている気がするの。ふにゃ⁉︎ もしかして」
エンジェリアは、あるものを見つけ、驚きのポーズをとった。
あるものとは、クリンガーとミュンティンの左手の薬指にある指輪だ。
「婚約指輪ですわ。結婚は王の代理として主様に指輪を授けられる慣わしですので」
「そんなのがあった気がするの。それで、フュリねぇはどうなの? リーグにぃと」
フュリーナとリーグリードは、エンジェリア達が一緒にいた時、互いに片思いをしていた。互いにその想いを伝えられずにいたが、この長い時間で何か進展はあっただろうかと楽しげに聞いた。
「な、なんの事ですか? リーグとはただの幼馴染ですよ! 」
「そ、そうです! ただの幼馴染ですよ! 」
フュリーナとリーグリードが、顔を真っ赤にして反論する。まだ何も進展していなかったようだ。
「……デューゼにぃ、ルノが怒ってたよ。いつになったら帰ってくるんだって」
「そおか、心配かけていたな」
「それと、なんで庇ったんだって」
「弟だかんな。フォルもルノも、俺の宝物だ。宝物を失うと思うと身体が勝手に動くもんだ」
ルーツエングのいとこであり、ルノの実兄。テンデューゼは、ルノを守った事に後悔などしていないようだ。それが原因で、こんな状況になっているとしても。
「変わんないの。エレのだいすきな居場所が帰ってきたみたい。エレとゼロがずっといたいって思っただいすきな居場所。クームもフュリねぇに会えてとっても嬉しそうなの」
「そうですね。ずっと、どこにいるか分からず、あんな事にもなって、師匠に拾われたおかげで居場所はありましたが、姉上が無事なのかずっと考えていて……本当に心配していたんです。連絡一つよこさずに、どれだけ長い間」
「ごめんなさい。盗聴されている可能性があるから、連絡するわけにはいかなくて。私も、ずっとクームの事が気がかりだったよ。元気で本当に安心した」




