15話 実験の謎
エンジェリア達は、フィルの話を聞くため、別の部屋に移動した。
「……みんなの事だけど、日記に少しだけ書いてあった。次の儀式……実験の標的らしい。それを実行する前に、あそこの儀式殿は使われなくなったけど」
実験に使う判断基準が増えたと喜ぶ事はできない。今はまだ無事逃げられていたとしても、いつ捕まるかは分からない。
急いで探した方が良いが、エンジェリア達が動きすぎると、逆に危険に晒す可能性がある。
「……エレ、ゼロ、君らに仕事をあげるよ。あくまで管理者見習いとして相応しいか判断するために。僕らはそれを確かめる。って名目付けておけば、勘繰られる事はないんじゃないかな。管理者達にも、多少危険な魔物討伐の仕事を何件か回して試していたから。魔物討伐の仕事がないから自分達の足で魔物を探す」
フォルがなぜ動き回っているのか。神獣達は、その理由を何としても知ろうとするだろう。
フュリーナ達を先に保護されては実験に使えないから。
管理者は人手不足。見どころのある相手がいれば、見習いとしていれようとするのは、裏があるなどと思わないだろう。
「ふにゅ。エレ達は魔物さんを探すの。魔物さんを探しに向かっている途中で、昔の仲間に会ったとしても不思議じゃないの。昔の仲間に会って、昔話に花を添えて、一緒にもっとお話ししたいってなって、一緒にいるのは何もおかしくないの」
「うん。何もおかしくない。そういう偶然は良くある事だから」
全てを偶然で済ませる方法。あとから怪しまれはするだろう。だが、あとで怪しまれたとしても、再開して保護さえすればどうでも良い。
「ぷにゅ。お次は、リミェラにお話を聞かないといけないの。ゼロ、いこ」
エンジェリアは、ゼーシェリオンの腕を引っ張り、部屋を出た。
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リミェラが、ノーズとヴィジェと一緒に楽しくお茶を飲んでいる。邪魔しては悪いとは思うが、遅くなればなるだけ、フュリーナ達に危険が迫る。
「リミェラねぇ、話、良いかな」
「良いよ。何から話せば良い? 」
「呼ばれた時の功績。二人が何をして呼ばれたの? 」
「一度目は、魔物討伐。二度目は、異病の治療。三度目は、魔法の研究。それ以外にも呼ばれたけど、これらと同じようなものばかり。魔物討伐は、わたし達が相手にしていたのよりは弱いけど、人の子が相手にするとなれば苦戦する魔物。異病は、その地の環境が原因になっていた。魔法は、当時では珍しい回復系の魔法の研究」
どれも、それ相応の知識と実力がなければ成し得ない事。だが、この功績では、御巫でなくともできる人物はいるだろう。これだけで、ノーズとヴィジェが特別で選ばれたとは思えない。
もし、これで特別だとするのであれば、神獣を実験に使う方が良い結果が得られるだろう。これら全ては、多くの神獣が日常的にやるようなものだから。
「……これだけなら普通なの。エレ達の間だと良くある事なの」
「それ自体には深い意味はない。そう思うよ。目的は呼び出した事。神獣達は、わたしを何度か一人で呼んだあと、ノーズとヴィジェも一緒にと招待した。その時は、二人は別の場所に案内されていた」
「うん。でも、わたしもヴィジェもその記憶を覚えてないのよ。その記憶があれば、役に立てたのに。ごめんね」
「覚えてない? そういえば、前に聞いた事がある……エレ、前に言っていたよね? あれが一番良い結果だったって」
ギュリエンの事だろう。
エンジェリアは、こくりと頷いた。
「ギュシェルは、あの連中からしてみれば、実験に使ったとしても良い存在……利用されるために集まってくれている都合の良い存在とでも思っていただろう」
「うん」
「犠牲者は全員実験体にする価値があるのか。神獣達はそれを確認していたんじゃない? 」
「……ごめんなさい。ずっと、隠していて。ゼロと一緒に、見ていたのに、フォルにお話してあげられなくて」
エンジェリアとゼーシェリオンの秘密。誰にも言えずにいる事。
エンジェリアとゼーシェリオンは、フュリーナ達と一緒にいた。あの現場を終始見ていたのは、エンジェリアとゼーシェリオンだけだろう。
「突然、おっきな魔物さんが襲ってきたの。でも、それはみんなでどうにかできた。そのあとなの。突然神獣さんがやってきて、変な魔物さんを召喚したの。あの魔物さんと似ていたけど、中身は違う」
「俺らも協力していれば、みんな無事だったんだろうけど、神獣が使った結界に閉じ込められている間に……」
「エレ達が泣いていると、神獣さんが、不思議な魔法を使ったの。潜在的に眠っているものを引き出すような魔法。それが終わると、どっかに行ったの」
エンジェリアとゼーシェリオンは、申し訳なさげに隠していたあの日の事を話した。
「それが、みんなが次の実験体に選ばれた理由か……これなら、今はまだ選ばれていない月鬼達が選ばれないようにできるかもしれない。管理者達にでも頼んで、その魔法で何も視られないようにすれば良いだけだから」
「そんな事できるの? 不思議なの。できないと思うの」
「できるよ。簡単じゃないけど、方法ならあるんだ。認識操作系の魔法になるのかな。禁止指定魔法に入っているようなもんだから、君は使っちゃだめだよ? 失敗すると魔物が大量に出てくるから」
禁止指定魔法の多くは、何かしらのデメリットがあるものが多い。成功した時も何かある魔法もあれば、失敗した時にだけ何かがある魔法もある。
フォルが使おうとしている魔法は、後者の方のようだ。
エンジェリアは、気になりはするが、フォルがこれ以上教えないだろう。そう分かっていながらも、じっと見つめる。
「これ以上は教えないよ。やらないと言っても、機密事項にも値する事だから。でも、ギュゼルに入れれば教えてあげる。他の禁止指定魔法についても詳しく。君が望むならだけど」
「ふにゅ。がんばるの。いっぱい魔法を教えてもらうの……むにゅ? エレ達が使っているのも今では禁止指定魔法って言われているの」
「禁止指定魔法というか、伝説の魔法なんて呼ばれているけどね。まぁ、僕ら以外は使えない魔法だからそう呼ばれても不思議じゃないけど」
星の御巫には、愛魔法が使えるという条件がある。だが、その愛魔法とエンジェリアが使えるはずの愛魔法は別物だ。その愛魔法こそ伝説に魔法となっている。
「ぷにゅぅ。座るの。フォルも座って……フォルが先に座って」
「う、うん」
フォルがソファに座る。エンジェリアは、フォルの上に座った。
「エレをすきにして良いの。魔法を使う前にいっぱいおやすみしておかないと。エレを使えばおやすみできるの」
エンジェリアがそう言うと、フォルがエンジェリアを抱きしめた。
「うん。これ抱き心地良い。僕の抱き枕にしたい。もちろん、専属の抱き枕」
「ぷみゅ……ゼロ、エレからやってみたけど、これ恥ずかしいの。今すぐにでもやめたいの」
「自分からやったんだろ。つぅか、俺には良くやってるよな? 暇な時は毎回これやって俺に甘えてんだろ」
ゼーシェリオンに甘えるのと、フォルに甘やかされるのでは違うのだろう。エンジェリアは、頬を赤らめている。
「お顔がぽかぽか」
「君って良く分からないとこでこうなるよね」
「……みゅぅ。みゅぅ……ゼロのところへ逃げるを選択なの……ってしたいの」
「もう少しだけこうしていて。すぐに終わらすから」
安心させるような声音。エンジェリアは、不思議に思いながらも、フォルに抱きしめられていた。




