13話 神獣達の目的
「……でも、思い通りになんていかないの。もし、本当に王が神獣達の味方をしたとしても」
「そこまで考えてないんじゃないの? 」
「……分かんないの。そんなの。他にも何かあるかもしれないから探す」
エンジェリアは、他の本も読む。
「……エレ、僕らは実際に目の当たりしているからこそ、あの脅威をしている。どれだけの被害を及ぼすか。それを知っているけど、神獣達はそれを知らないんだ……王が止めた。偽の愛姫はそう言ったんだろうね」
ジェルドの王が本当に止めていたのであれば、世界は生まれ変わっていない。それが答えだ。だが、神獣達はそんな単純な事に気づいていないのだろう。
世界は別の理由で滅びたとでも思っているのだろう。
「……少しだけ、師匠から聞いております。神獣達は、都合の良い伝承ばかり耳に入れていると。その、前回の世界という話も、そんなに甘くないと師匠は言ってました」
「なんでエクーが知ってんだ? 」
「さあ? 分かりません。ですが、師匠は、怒りの日は自然災害と魔力災害だから止める事などできないと言ってました。王は止められるだろうけど、止めるまでに出る被害は想像もできないものとなるとも」
エクルーカムは、ジェルドの怒りを調べていたのだろう。その言葉は全て正しい。今回の世界は前回の世界の痕跡が少ない。その少ない痕跡だけでここまで調べ上げるのには尊敬する。
「……これは、魔法書なの。全部禁止指定魔法……言いづらい、禁呪しかないの」
「儀式のために使おうとしていたんだろうね。それは回収するよ。禁止指定魔法取り締まりの仕事を担う身としてね」
「ふにゅ。お願いなの。他にも何か……みゅ? 」
エンジェリアが二冊読んでいる間に、ゼーシェリオンとクルカムが残りを全て読んだようだ。本だけでも十冊以上、その上書類まであったのだが。
エンジェリアは、棚を三度見する。棚から視線を逸らし、ゼーシェリオンとクルカムを交互に三度見する。
「エレが遅いだけだ」
「えっと、なんかすみません」
ゼーシェリオンが呆れた表情で、クルカムは申し訳なさそうな表情を見せる。
「……二人はどんな情報を入手できたの? 」
「ぼくは、歴史についての記述と人体実験についての記述がありました。どうやら、怒りの日を擬似的に行うための実験も行っていたようです。儀式も、それ関連かと」
「俺の方は、魔法書だったな。全部禁呪。これも預かってくれ」
ゼーシェリオンが、禁止指定魔法関連の魔法書をフォルに渡した。
「ふにゅ。二人ともいっぱい情報なの。でも、文字の情報以外にも確認するべき情報はあると思うから、お次は……どこにしよう」
「次は、あの壁の傷とかはどうだ? 」
祭壇の奥に抉られたような跡がある。
エンジェリア達は、祭壇の奥へ向かった。
「ふにゅ……良く見るとなんだか気になる事だらけなの」
「そうですね」
「……これ、この抉られた跡って、えっと、確か、こっちでは……風の怒りじゃねぇか? 」
風の怒り。ジェルドの怒りの一つだ。
エクルーカムがクルカムに話していたように、ジェルドの怒りは自然災害と魔力災害。ジェルドの怒りと一括りに呼んでいるが、そこには多くの種類がある。
「ふにゅ……でも、本物はもっと威力があるの」
「……風のジェルドの怒りは、すでに解決済み、か。神獣達は、風の怒りがこの程度だと思っているようだね」
「……あの、因みにですが、本物はどのくらいの威力なんですか? ここは強化性の壁のようですので、実際に外で起きるとこれだけでも相当な被害になるでしょう」
「……もう使わないだろうから良いかな」
フォルが風の花を用いて風魔法を使う。風が壁を破壊する。
壁の一面が破壊されただけでなく、その余波は、両側の壁にまで渡る。
「本物はもっとすごいよ。僕はこの程度しかできないけど。イヴィに任せれば、本物の威力を味わえる」
クルカムが呆けた表情のまま動かない。
「……奥に何かあるの」
「この先は行かないで。君らにはこんなもん見せたくない」
「みゅ? 見せたくないなら、何があるか教えるだけなら良いの? 」
「……人体実験に使っている子どもを置いている場所だ。前に報告書で似たようなのを見た事がある。他の種もこんな場所を作っていたなんてね」
人体実験に使われている子ども。それは他人事と思えない。
エンジェリアとゼーシェリオンにも経験があることだ。
エンジェリアは、走って奥へ進んだ。
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今は使われていないのだろう。誰もいない。だが、かつてはここで子供達が神獣に道具として使われていたのだろう。
その痕跡は至るところに存在する。
「……ゼロ、エレ、こういうのをなくしたいの。運悪く捕まって、売られて、人体実験をさせられる。運が悪かったんだ。仕方ないんだ。次は幸せになれるようにね。転生前の行いじゃないのか。そんな言い訳は聞きたくない」
「ああ。そうだな。運が悪かったんじゃねぇよ。仕方なくなんてねぇよ。転生前なんて関係ねぇよ。どんな理由があろうと、人体実験なんてするべきじゃない」
「うん。だからなくすの。愛姫として、お願いなの。負けないで。その言い訳に逃げないで。エレはずっと、ゼロの夢を見るから。応援するから。協力するから」
エンジェリアのわがままだというのは理解している。だが、ゼーシェリオンにだけは、その言い訳をしてほしくない。こんな現状を認めてほしくない。
エンジェリアは、ゼーシェリオンの手を握った。
「そんな事しねぇよ……戻るか。ここにいてもいやな記憶が蘇るだけだ」
エンジェリアは、ゼーシェリオンと一緒に、魔法陣のある場所へ戻った。
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「祭壇は危ないもんとか多いから僕が調べておいたよ」
「あと気になるのは、あの魔法陣なの」
エンジェリア達は、リミェラ達の邪魔はしないよう、静かに魔法陣を調べる。
「……ぷにゅぷにゅ。これは、ムームニルに似てるの。これも実験なのかも」
「ああ。ムームニルの魔法はこんな単純じゃねぇがな」
「ふにゅ。こんな小さい規模じゃないの。それこそ、世界の時を止める事だって簡単なくらい。やっぱり、神獣達がやっている実験って、ジェルドの怒りの再現だと思うの」
解除しようとしている時は何も思わなかったが、ジェルドの怒りの話を聞いたあとだと、この魔法陣も、その実験だと気づけた。
エンジェリアは、じっと魔法陣を見つめる。
「ふにゅ。フォル、調べるのこれくらいで良い? 」
「うん。上的だよ。おかげで神獣の目的も少し見えてきた。他の御巫候補の排除のほんとの目的とかはまだ分かってない部分もあるけど」
「……御巫候補の排除……分かんないの」
「推測程度で良ければ聞く? 」
エンジェリアは、こくりと頷いた。
「御巫候補が本物に近いと言われるようになると排除している。今までの推測はそうだった」
「ふにゅ。本物の御巫はエクシェフィーの御巫夫婦だけにしたいからだと思っているの」
「うん。でも、今手に入れた情報でこういう考えもできるんじゃないかな? 神獣は、御巫候補を本物の御巫に近いとまで言われるようになるのを待つ。そして、ジェルドの怒りの実験の贄とする」
実際、ノーズとヴィジェはジェルドの怒りの一つ、時の怒りの実験に巻き込まれていた。
この推測を肯定するだけのものはあるが、否定するだけのものはない。
「ふにゅ。そうかもしれないの。フォル天才……でも、それって、みんなも巻き込まれる可能性があるの。今危ないのは、月鬼達とリグ達」
国王としての活躍。それは、次の本物の御巫の可能性が高いと言われる日も遠くない。
「王としての義務もあるからね……それ以上に活躍する御巫候補を作り出せば、その御巫候補を狙うだろうけど……」
エンジェリアとゼーシェリオンではそれができない。
「その役目、わたし達にやらせて」
「元々、本物に近いって言われてたから、俺達以上の適任者はいない。じゃない? 」




