11話 見慣れない魔法陣
エンジェリアは、珍しく早くに起きた。
ゼーシェリオン達を起こさないようそっと離れる。
――フォル、エレも一緒だから。
眠っているフォルの頭を撫でると、隣に寝転んだ。
「……エレ? 起きたの」
眠そうにフォルが目を開けた。
「ふにゅ。おはよ」
「うん……おはよ」
「眠そうなフォル久しぶりに見たの。可愛い」
フォルが朝起きて眠そうにしている事は少ない。あるとすれば、前日にフィルの前で大泣きした日くらいだろう。今のように。
「もう少し寝て良いの」
「起きるよ。今支度するから」
「……むぅ、起きたらエレにぎゅぅから始めるべきだと思うの。昨日、フィルにはぎゅぅした気がするのに、エレにはしてくれない」
「……ぎゅぅすれば良いの? ぎゅぅ」
寝起きでなければ、顔を真っ赤にして反論していただろう。
フォルがエンジェリアを抱きしめる。
「ふにゅ。満足」
「エレ起きてたでしょ」
「ぴにゃ⁉︎ な、なんの事? 」
フィルがエンジェリアの頭を撫でて、フォルには聞かせられない事を聞く。
エンジェリアは、誤魔化そうとしたが、どう誤魔化せば良いか思いつかず、慌てている。
「起きてたなら、フォルの話聞いてた? みんなの事」
「……うん。無事で良かった。でも、今もそうかは分かんないから、できるだけ早く見つけないと」
「それなんだけど、みんなを見つけられる魔法具でもあればと思っているから、いつも通りやってくれる? 」
「お任せなの。ノーズねぇとヴィジェにぃの事に見習い試験の事があるから、遅くなっちゃうけど、設計図の準備は任せるの」
フォルはこうなっている時、エンジェリアのわがまま以外は話を聞いていない。この話もフォルは聞いていないだろう。
「任せた。でも、今はそっちは考えないで。ノーズとヴィジェの捜索の事だけ考えて」
「分かってるの……ぷにゅ? リミェラねぇがくるまでは何もないから、今はフォルのらぶを考えるべきなのかも? 」
「フフ、そうかも」
フィルが笑うところはいつぶりだろうか。エンジェリアは、フィルをじっと見つめる。
「笑ってる方がすきなの」
「……おれ、朝食作ってくるから」
「逃げた……フォル、おきて〜」
フィルが朝食を作りに行ってしまう。
「ん……エレ……おはよ」
「うん。おはよ。やっとちゃんと起きてくれたの」
「ああ、そういえば、フィルにも伝え忘れてたんだけど、ノーズとヴィジェのいる場所に行く方法分かったよ」
「ぷにゃ? それならエレも分かっているの。みんなで一緒にどこってやっていたの。だから、ほめて? ご褒美」
エンジェリアは、フォルの言っていた通り、居場所を見つけたと思っている。その褒美を求める。
「ローシャリナに扉があるの。そこへ行くの」
「そこまで分かったんだね。良く頑張ったね」
フォルがエンジェリアの額に口付けをする。
エンジェリアは、頬を赤らめて喜んだ。
「そこまで調べられたらたいしたもんだよ。でも、残念。それだけじゃいけないんだ。あそこの扉を開くためには蛇氷種がいないといけない。あの時は偶然開いていただけで、その方法じゃないと奥まではいけないんだ」
「ぷにゅぅ。分かったの。ついてく。フォルはその蛇氷種の場所を見つけたの」
「うん。ちょうどリミェラも来たから、準備して行こうか」
「みゅ」
エンジェリアがフォルと話していると、リミェラがやってきた。
「おはよう。夜の話だけど、詳しく聞かせてもらえる? 」
「えっとね、どこか分かんないけど、蛇氷種が扉を開けてくれるから、ノーズとヴィジェはそこにいるの。だから早く行こ」
「その前に、フィルが朝食作ってくれてるんだから、食べてから。それに支度とかもあるから」
**********
支度を終えたエンジェリア達は、フォルが会ったという蛇氷種に会いに向かった。
「お待ちしておりました。フォル様。双子姫様も」
「ぷにゅ。エルグにぃの宮で働いていたの。覚えてる。キプスなの」
「ええ。お久しぶりです。妹姫様。ゆっくりと話たいですが、今はそんな事をしている時間はありません。いつまでここが安全かなど分かりませんから。今すぐに扉を開きます」
キプスが、儀式殿の奥の扉を開く。
かつてあの世界の魔力を辿ってきた先で見た巨大な扉に紋章。ノーズとヴィジェがいるのはここの奥で間違いないだろう。
エンジェリアは、ゼーシェリオンと手を繋いだ。不安と期待が渦巻いているのが、共有で伝わっているのだろう。
「大丈夫だ」
「うん」
「……そうだ。クルカムってエクーに魔法かなり教わってるらしいから、エレの力になってあげて」
「はい。ぼくがどれだけ力になれるか分かりませんが、全力で協力します」
「ありがとなの。キプスも。道中気をつけて」
キプスが本家へ行く事は予想がつく。昨日のフォルの仕事のあとにこの話をした事と、安全かどうか分からないという言葉で。
エンジェリアは、キプスに笑顔を見せたあと、扉の中へ入った。
**********
かつて見た景色。ノーズとヴィジェの姿は魔法の中に入って見えない。
「これを三人だけで解けたら、帰ってから明日の朝まで結界魔法をずっと張っといてあげるよ」
「ぷにゃ⁉︎ そ、そんな事を⁉︎ ゼロ、クーム、がんばろ」
「……これ、解くのかなり難しいと思うけど大丈夫? フォル」
リミェラは、もうこの魔法をある程度解析できたのだろう。
「このくらいやってくれないと。それに、ヒントくらいなら渡すから。全然解けなかった時だけだけど。リミェラねぇにも協力して欲しいんだ。可愛い義弟の頼み、聞いてくれる? ヒント係二」
フォルが可愛らしく頼んでいる。リミェラにはいまだにこれが通じると思っているのだろう。
「う、うん。それは良いけど……うん」
「……ゼム、クームやるの。まずはこの魔法陣の効果を知る事からなの。前は急いでいたから、うまく解析できてないと思うから」
「はい。解析でしたら得意なので任せてください」
「ふにゅふにゅ。解析は得意……ゼムは処理能力が高い……エレは、魔法の解析も得意だけど、それ以上に魔法の改竄が得意なの。役割、役割」
エンジェリアは、ゼーシェリオンとクルカムの得意分野で勝手に役割分担を決めた。
「分かりました……えっと……そうですね。まず、この魔法陣はかなり複雑です。複雑に絡み合っているので、詳しい事は一人では分かりません」
「ふにゅ。一つずつ紐解いていくの。クーム、その魔法陣描ける? 」
「はい。縮小して描いてみます」
クルカムが、ノーズとヴィジェを捉えている魔法陣を縮小して模写している。
「そのまんまなの。同じに描くなんて難しいのに」
「多少変わるのにな」
「師匠にずっとやらされてたので。師匠のおかげです」
エクルーカムが誉められているようにでも感じたのだろう。クルカムが照れながら答える。
「エクーは君がそれに向いていると判断したんだろう。それをここまでできるようになったのも君の努力のおかげ。エクーはそれを後押ししただけじゃない? 」
「そうでしょうか? 」
「……クルカム、エクルーカムは、貴様が何に向いているか。それを気づいてそれを伸ばしていたんだ。それで身についたものは、間違いなく貴様の力だ」
「は……はい! 」
エンジェリアは、クルカムが描いた魔法陣をじっと見つめる。この魔法陣を紐解いていけば、ノーズとヴィジェを助けられる。
だが、これは失敗すれば、中にいる二人が無事では済まないだろう。
魔法陣はそういう仕組みになっている。
「……クーム、喜んでいるところ悪いんだけど、ちょっと良いかな? これ、失敗できない」
「そうですね。一度でも間違えれば……」
「失敗なんてしないの。何度も、こういう事はあったから。落ち着いてやれば大丈夫……って言えれば良いのに」
見た事ない類の魔法陣。これを一度で解く事ができるのか。
「……エレ、キミは似た魔法陣で解き方を学んでいるよ。今回は複雑だけど、一つ一つは単純だからそれを見つければ大丈夫」
「ぷにゅ。クーム、一個ずつがんばるの」




