5話 連れていく
「ぷにゅ……寝てたの」
盗み聞きに気づき、フォル達を巻き込んで喧嘩をしていたところまでは記憶にある。その後からは記憶がない。
途中で寝たのだろう。
「……ぷにゅ……いたずらしほうだい」
ゼーシェリオンはまだ寝ている。エンジェリアが起きているのに気づいていない。
エンジェリアは、ゼーシェリオンの頬を突いて遊ぶ。
「……何してんだ? 」
「遊んでたの。それより、エレをゼロと一緒にいさせるの。今日も一緒なの」
「……全部世話しろと? 」
エンジェリアは、こくりと頷いた。
「……はぁ。分かった。世話してやるから、とりあえず着替えろ」
「ふにゅ。勝負服にお着替えなの。エレは決めたの。ゼロがエレを守るって聞かないから、エレは、ゼロに守られておくの」
「そこは守るだろ」
「守らないの。守る必要ないの。エレはゼロに守られながら一緒に戦うんだから……あれ? なんかおかしい気がする……おかしゼロなの! 」
自分の発言に疑問を抱いているが、それが分からなくなっている。寝起きは、頭を使いたくないため、日中以上に混乱しやすい。
「……なんでそうなったんだ? それより、今日どっか行く予定でもあるのか? 」
「昨日の喧嘩を買い行くの。フォルと一緒に。エレは買われた喧嘩は買うようにする事にしたの」
「売られた喧嘩な。それなら俺も一緒に行く。見届ける権利くらいあるだろ」
エンジェリアとしてはゼーシェリオンを連れて行きたくはない。だが、エンジェリア以外は、ゼーシェリオンがついていく事に賛成するだろう。
そうだとしても、エンジェリアから、それを告げる事はできなかった。
「……みんながどう言うかなの。エレはそれに従う。ゼムは賛成? 反対? 」
「オレは、ゼロが選んだなら良いと思う。昔の事は知らないけど、今は、オレ達も守るから」
「……フィルは? 」
「おれも賛成。ここに置いてくよりは、だけど」
ここに置いて行ったとしても、危険なのは変わりない。それはエンジェリアも理解している。だが、それでも、賛成したくはない。
「……ルーにぃは? 」
「賛成したとして、もし何かあれば誰がその責任を感じる? それを考えていれば、俺は賛成しても良い」
ゼーシェリオンが怪我をすれば、エンジェリアだけでなく、フォル達もその責任を感じるだろう。守れば良い。それはそうだが、それで守れる保証などどこにもない。
エンジェリアも、イールグの意見には賛成だ。
「……クルカムは賛成? 」
「ぼくは、何があったのか知らないので、気にしないで欲しいですが、ゼロ様はエレ様といた方が良いと思います。師匠からも、二人が一緒にいる時が一番力を発揮すると言っていたので」
エンジェリアとゼーシェリオンは、二人一緒の時に使える切り札がある。戦力的には、一緒にいた方が良いのはあるだろう。
「……フォルは? 」
「僕は反対だ。またエレを悲しませたいなら止めないけど」
「悲しませたいわけじゃないが、俺だって、一緒に行きたい。見えないところでエレに何かあるのはいやなんだ」
「そんなの分かってる。でも、君が原因でエレに何かあるかもしれないとは考えられないの? それに……」
フォルは未来視と似たものを使える。フォルが反対する理由がそこにあるかもしれない。
エンジェリアは、未来視を使い、いくつかの可能性を視た。
ゼーシェリオンかフォル、どちらかが怪我をする未来しか視る事ができない。
「フォル……」
「僕は良いんだ。ゼロは、回復力が高いとしても、大量の血を流せば、貧血でエレを襲う可能性がある。君が怪我するだけで済まなくなるんだ」
エンジェリアの血は特別だ。ゼーシェリオンの好物でもある。貧血になり、血を求めた際、真っ先に狙われるのはエンジェリアだ。
ゼーシェリオンが怪我をするという事は、こういう危険性もある。
「……だからって、待ってるなんて」
「……フォル、ゼロを連れてくの」
「でも」
「回避出来ないなら、フォルには痛い思いさせちゃう。ごめんね。でも、ゼロはエレが守るから。ゼロが絶対に狙われない方法があるの。消失の風って言って」
エンジェリアの言葉に反応したのは、ゼーシェリオン達、ジェルドの王だ。
それもそのはず。消失の風は、災悪をもたらす風。
「本気か? 」
「うん。消失の風がゼロを守ってくれるの。でも、それは危険すぎるから、似たものを作ってもらうんだけど。シェルス、シェフィー」
エンジェリアは、聖獣を呼び出した。
「この二人がゼロを守るの。消失の風と似たようなものを」
「……隠魔法で良くない? 隠蔽魔法とか」
「ふにゃ⁉︎ そ、それがあったの! フォル天才」
いくら擬似的に作り出した消滅の風と言えど、危険なのは変わりない。隠蔽魔法であれば、危険性はない。
「隠蔽魔法使うの。それでゼロを連れていけばゼロは安全。何もしないでいればだけど」
「ゼロが何もしないなんてしてくれるとは思えないけど」
「……大人しくするから、連れてってくれ。大人しくするから」
エンジェリアからしてみても、ゼーシェリオンの大人しくしておくには信用がない。できれば連れて行きたくはないのだが、エンジェリアにはゼーシェリオンがいなければならない。
愛魔法の使えない今はなおさら。
「どうする? 最後の判断は君だ。今見習い試験中だと言っても、僕らは君を守る王。愛姫、最終判断は君がすべきだ」
「……連れてくの。条件付きで。隠魔法は使わない。使ったとして、ゼロはエレを守る事を優先するから。その代わり、エレの側にいる。離れない。ゼロを連れていくのはエレの最終切り札のため。それを忘れない事」
連れて行きたくはない。その想いを抑え、連れていく事を選んだ。
「ありがとな、エレ」
「愛魔法が使えないから、ゼロが側にいてくれないと、エレは自分の身を守る事なんてできないの」
愛魔法以外に方法はなくはないが、暴走の危険性がある。それ以外にも、魔物討伐の時のように、一部の感情が出過ぎる事もある。
最も安全で確実な方法がゼーシェリオンと一緒にいる事。二人でのみ使う事のできる切り札に頼る事。
「……ゼロ、エレはゼロを置いて行きたいの。一緒に行って欲しくなんてないの。それもちゃんと理解しておいて」
「ああ。分かってる」
「でも、ゼロが一緒だと安心するのもあるの。ゼロがいてくれるだけで安心する。エレが絶対に守るから。今のエレにできる限りの方法で、ゼロの事だけは守るの」
愛姫としていた頃のエンジェリアなら、何の心配もなくゼーシェリオンを連れていけていた。だが、今はそんな事ができない。
その原因は理解しているが、今のエンジェリアにはどうする事もできない。
エンジェリアは、ゼーシェリオンに抱きついた。
「ごめんね。エレがみんな守らないとなのに、守れなくて」
「お前のせいじゃねぇだろ。愛姫の力の危険性を知ってるからこそ使いたくないつぅのは、お前が俺らを、世界を想っているからだろ」
「おんなじ理由で魔法使えないのと、封印魔法を施したのもいるからね」
「自分で言うか? 」
魔法を使えないのはゼーシェリオン。封印魔法はフォルの事だ。
二人は、エンジェリアが魔法を使うのを制限しているのも、誰よりも理解してくれているのだろう。
「……でも、それでも大丈夫な二人と違って、エレは何もできないから。こんな時、エレが二人とも守ってあげられれば」
「一人でも守ってくれれば十分だよ。それに、世界を想ってとかそんなのの前に、そんな魔法使えば、かなりの負担になるんだ。できるだけ負担を少なくしておかないと、また知恵熱出すよ? 」
「ああ。効果の強い魔法ほど、処理が面倒だし、効果維持とかに頭使うからな。ずっと、魔法演算しているようなもんだ。エレには負担だな」
ゼーシェリオンが理解したように言っているのを見て、エンジェリアは、ぷぅっと頬を膨らませた。
「エレの頭はフォルらぶにだけ使ってるだけなのー! 」




