13話 前回の世界
エンジェリアは、ゼーシェリオンとフォルの協力もあり、愛姫の役割と、王達との関係に関してはある程度まとめられた。
「ふみゅ。起きた事を書かないとないとなの。まずは、エレは昔、ジェルドの王の代理さん達にいっぱいお話を聞いていたの。愛姫がどうあるべきっていうのが全然分からなくて。この世界で覚えてる記憶の中では、その時に初めてフォルと会ったの。ひとめぼれ」
「そうだったね。あのあと、君が知恵熱を出して、僕がみんなのとこに行って、エレの看病を代わる代わるやってたよね。僕は、ゼロと一緒に」
「ああ。フォルが俺にエレの事もっと知りたいから教えて欲しいって頼んできた時か。あの時、聞いておきながらほとんど聞かずにエレの事ばかり見てたよな? 」
エンジェリアが知っているのは、自分がジェルドの王の代理達に、愛姫としての役割と責任を聞いて、色々と考えているうちに熱が出た事。
そして、熱で寝込んでいると、エンジェリアの看病にゼーシェリオン達が来た事。
ゼーシェリオンとは交流があり、まるでいつもの事のようにエンジェリアの世話をしてくれていた。
それ以外の事は知らない。フォルがエンジェリアの話を聞き出していたなどという事については知らない。
「こんな重大な事を知らなかったなんて。エレの看病をしてくれたあとから、みんなと交流を持つようになったの。少しお話をするとかだったけど、フォルは、ずっと逃げて、エレとお話してくれなくて、悲しかったの」
フォルは、昔、エンジェリアが近づけば逃げるというのをなん度も繰り返していた。エンジェリアは、その度に、ゼーシェリオンとフィルに相談していた。
その悲しみを、今、フォルに直接言う。
「ごめん。それより、そのあとの話をしようよ。そういう事は忘れて」
「……(かきかき)エレは、毎回フォルに逃げられてとっても悲しかったの。フォルは、なぜかいつもエレが話しかけると逃げていたの……っと」
「僕が悪いから書かないでください。お願いします」
エンジェリアは、フォルが誤ると、ノートの書いた文字を消した。
「次なの。フォルが逃げなくなってくると、エレ達は、フォルとフィルの婚約者を決めるお話が出てきたの。それがさっきのあれなの」
「うん。僕らは婚約者を決めると言って呼び出されたら、エレとゼロに決まって、一緒に暮らすようになったんだよね」
婚約者になる相手は一緒に暮らす。それが、フォルとフィルの婚約者になるという事。
それは、エンジェリアが望んだ事だ。
「フォルとフィルは神獣の王。そのための教育があったから、エレはいつもゼロと寂しく待っていたの。でも、おかえりなさいを言えるのは嬉しかった。ただいまが嬉しかった。一緒が嬉しかった」
エンジェリアとゼーシェリオンは、一緒に暮らせるようにはなったが、フォルとフィルに会えない時間は長かった。
それでも、一緒に暮らす喜びは変わらなかった。
「一緒に暮らす事ができただけで嬉しかった。それは僕もだよ。神獣の王の教育といえば、二十日間の野宿は大変だったよ。君らが迎えにきてくれた時、ほんとに嬉しかった」
「俺は、エレがいつ迷子になるのかってヒヤヒヤしていたけどな」
「それは、エレもびっくりなの。まさか迷子にならなかったなんて。すぐに迷子になると思っていたのに」
フォルとフィルが神獣の王の教育で二十日間、魔の森で武器支給なし魔法禁止サバイバルを行った最終日、エンジェリアとゼーシェリオンは、フォルとフィルに迎えに行った。
エンジェリアは、迷子になりやすく、迷子にならないと驚かれるほどだった。
その時、エンジェリアは、ゼーシェリオンと一緒だったからか、迷子になる事なく、魔の森へ辿り着く事ができた。
「そのあと、エレは、フォルの看病で忙しかったの。フォルは、あまりむりしちゃだめって言ったのに。ここまで、エレの楽しい思い出なの」
このあとは、何年もエンジェリアにとって、思い出したくないような内容だ。
エンジェリアとゼーシェリオンは、ジェルドの兵器。一定の年齢となったあとは、エンジェリアとゼーシェリオンは、兵器として扱われていた。
記憶を消され、引き離され、何も知らないまま、兵器ミディリシェルと兵器ゼノンとして何年もの間過ごしていた。
兵器ミディリシェルは失敗作。すぐにそう判断され、エンジェリアは、牢の中で暮らす事になった。
もう一人の兵器を気にしながら、全てを諦めていた。
十年ほどだろう。エンジェリアの兵器生活は。
「フォルがお迎えに来てくれた時、嬉しかった。それまではずっと、悲しいしかなかったのに、初めて嬉しいができたって感じだった」
「僕は複雑だったよ。やっと、好きな子に会える。なのに、好きな子は、全てを諦めて、僕の事なんて忘れている。寂しかったよ。それだけなら良かったけど、精神的にかなり不安な状態で、何かの拍子に壊れるんじゃないかと心配もあった」
エンジェリアを牢から出してくれたのはフォル。エンジェリアは話に聞いただけだが、ゼーシェリオンは、フィルが連れ出したようだ。
その時のフォルの表情は、良く覚えている。どこか寂しそうで、悲しそうで、嬉しそうだった。
「エレはフォルがお迎え来てくれて嬉しかった。フォルがだいすきって思い出せて良かったの。また、みんなと一緒に暮らせて良かった」
「そうだな。そのあとは、最後の時まで楽しく過ごしていた」
「うん。最後の時、最後の神獣の王なんて言われる理由が理解できた。それに、孤児院の事も思い出した」
ジェルドの王と呼ばれる前の事だ。エンジェリア達は、孤児院で一緒に暮らしていた。
エンジェリアは、孤児院の外を知らないが、孤児院の外は、人が住む場所ではないと言われていた。
エンジェリア達は、孤児院の中だけでも十分楽しく暮らせていた。
「あの人が来る前までは、本当に楽しかったの」
「うん。選ばれたんだとか言って、良く分からない場所に連れてかれたんだよね。それで、僕らは違う場所へ飛ばされた」
「うん。世界に飛ばされたの」
エンジェリア達は、別々の世界に飛ばされ、そこで、ジェルドとしての役割を知らされた。
それぞれのジェルドとしての役割を知り、自覚する時間は違った。
エンジェリアはかなり遅く、何日も飛ばされた世界で過ごす事となった。
「エレは、思い出したくないの。書きたくもないの。色々あったで良いと思う」
「うん。そこはそれで良いんじゃない? 」
「ああ。それで、そのあとに、ジェルドとして暮らす事になったんだよな。このくらいで良いんじゃないか? あとは、これを物語にして書くだけで」
「ふにゅ。書くの。ゼロが言ってくれた事とかも覚えているからみんなにゼロをすきになってもらえるような……のは書かない。フォルもすきにならないように書かないと……エレ専用みたいに書けば良いのかも」
本を配るという事は、魅力的に書けば、ゼーシェリオンやフォルを好きになる人々が出てくるだろう。エンジェリアは、なんとなくそれが嫌で、対策をしてから書く事にした。
ゼーシェリオンとフォルを狙う人がいないよう、愛姫と王達の関係を細かく書くなどが良いだろうか。
「……むずかしい」
「愛姫と王の関係は、王は愛姫以外を愛する事は決してない。愛姫は王以外を愛する事は決してない。それで良くない? 」
「ふにゅ。そうするの。フォルありがと。これでエレは執筆に入れそうなの」
「良くそんな言葉知ってるね」
「ぷにゅぅ。この紙に書けば良いんでしょ? がんばる」




