9話 宝剣ミディリシェル
最奥に辿りついたエンジェリア達は、逸れていた間に起きた事を報告しあった。
「ふにゅ。おかえりなさい、エレの守り手」
「ああ、そうだった。オレとフィルが守り手としてエレを側で守っていたんだった」
「……みゅ。なんか良くわかんないところで黄昏てるの。そんなの当たり前なの。ゼムはゼロの自慢のおにぃちゃんなんだから。いつもいつもゼロがうるさいくらい自慢してたの。エレを守るの当たり前なの」
エンジェリアはそう言った後、ゼムレーグに抱きつこうとしたが、避けられて失敗に終わった。
「ふぇ? 」
「……そろそろエレの婚約者に怒られそう。ゼロにも」
「……そんな事ないと思うけど。エレが知らないだけなのかもしれないの。それより宝剣探しなの。最後の最後でお宝探しなんてみんな面白い事考えるよね」
エンジェリアはそう言って無邪気に笑った。
「……そうか。この笑顔を守りたかったのか」
「うん。愛姫はオレ達の前で無邪気に笑う。その笑顔をずっと守りたい。それが一番の願いだったんだ」
エンジェリアが一生懸命宝剣を探している。いくら待っても近くに来ないゼムレーグとイールグに疑問を抱いても気にしていなかった。だが、話し声を聞こえてゼムレーグ達を見てみると宝剣探しをせず、楽しく話をしているのを発見してしまった。
「……しゃぁー! エレ一人に探させるなんてひどい。しゃぁーってするの」
エンジェリアは両手をあげて威嚇している。
「ごめん、手伝うよ」
ゼムレーグが手伝いに来ているが、エンジェリアは不満を表情に出していた。
「手伝うんじゃなくてエレが代わりに」
「それは……あまりオレが甘やかしていると怒られそうだから」
「……ふにゅ。ゼムが怒られるのはやなの。仕方ないからちゃんと探すの」
エンジェリアは嫌々宝剣探しを再開している。
適当に壁でも見てみるかという理由で見た壁に傷のようなものがある。エンジェリアはそれをじっくり見ているとある事に気がついた。
「……ふにゅ。なんだか文字みたいなの……ぷにゅぷにゅ……むじゅかちいの……でもがんばってみるの」
壁の傷は古代の文字。その内容はエンジェリアが使う星の音の呪言に使われる言葉。
「星の音鳴り響く、世界の入り口を開け」
エンジェリアがそう言うと、文字の書かれていた壁が動いた。
「ふにゅ。とっても古典的なの。なんだかぷみゅって感じなの」
壁の奥は暗くてエンジェリアでは周囲が見えない。だが、ゼムレーグであればこの空間も明るい場所と変わらずに見る事ができるだろう。
「ゼム、宝剣は? 」
エンジェリアは、ゼムレーグを頼るとこくりと頷いているのが見えた。
「ある。明かりがあれば良いけど」
ゼムレーグが冷静にそう言っているが、何もしていない。
「……ゼム、光魔法苦手? 」
「うん」
「任せろ」
イールグが光魔法を使ってくれたようで、周囲が明るくなった。
「さすがなの。みゅ? 」
エンジェリアの宝剣が丁寧に植物で作られた台に置かれている。その隣には本とペンダントが置かれている。
ゼムレーグが台の方へ向かいペンダントを手に取った。
「これ、オレが昔使っていた守護のペンダント」
「こっちは昔の魔法の書物なの。魔法以外にも色々と載ってるの」
エンジェリアは本をじっくりと見ている。
「これはルーにじゃない? 」
「そうだと思うの。ふにゅ……宝剣懐かしい」
エンジェリアは宝剣を手に取った。
「……りゅりゅ」
エンジェリアはりゅりゅに宝剣の点検を頼んだ。
「はいでちゅ。魔力回路の確認完了でちゅ。問題ないでちゅ。今すぐのでもできるでちゅ」
「お願い」
エンジェリアが頼むとりゅりゅが宝剣と同化した。
「問題ないでちゅ」
「戻って良いよ。ありがと、確認してくれて」
これで宝剣が正常に機能している事を確認できた。りゅりゅが宝剣の同化をやめてエンジェリアの頭の上に乗った。
「お安いご用でちゅ。でもちゅかれたので寝るでちゅ」
りゅりゅがそう言って姿を消すとエンジェリアは宝剣を収納魔法にしまった。
「……むにゅぅ? 」
「エレ? 」
「りゅりゅはエレに似ているはずなのに何故かちょっぴり誰かに似てるの」
エンジェリアはその誰かが思い付かずに悩んでいる。だが、どれだけ悩んでもまるでその誰かの記憶だけが抜けているように思い出せなかった。
「そうなんだ。オレも一応チェックしておこうかな。長年使ってないから不具合起きているかもしれないから」
「どうやって? 」
エンジェリアはきょとんと首を傾げた。
ゼムレーグの持つ守護のペンダントはその名の通り所有者を守るペンダント。それにはいくつか種類があり、ゼムレーグのものは、呪いとも呼ばれるような特殊な魔法から守るものだ。
それに機能を確認するのであれば、それ系の魔法を使う必要があるだろう。
「そういう類の魔法は多少使えるけど、自分にかけるのはちょっと抵抗あるかな」
ゼムレーグがそう言いながらも、なんの躊躇もなく魔法を自分にかけている。
「もし何かあってもエレがいるから大丈夫なんだけど」
「……ふにゅ……躊躇しろなの」
「あはは、オレがそんな事する性格に見える? 」
エンジェリアはふるふると首を横に振った。
「うん。ちゃんと機能してる」
「……ルー、本読むの」
エンジェリアは話を逸らそうとイールグに本を渡した。
「あれ? この本って」
ゼムレーグが何か言いかけたが、イールグが本を開いたためか言葉を止めていた。
「……読める? 」
「当然だ。この程度の文字で苦戦するようでは古代の事は何も学べないからな」
「さすがなの。さすがは黄金蝶なの。ならエレはルーにぃが本を読んでいる間にゼムの魔法を見て楽しんでいるからごゆっくりなの」
エンジェリアはそう言って、ゼムレーグをじっと見つめた。
ゼムレーグが笑顔でエンジェリアの願いを聞き入れてくれる。
「良いよ。どんな魔法をご希望かな? オレ達のお姫様は」
「なんでも良いの。ゼムの魔法すきだから」
目を輝かせてエンジェリアはそう答えた。
「なら、この魔法はどうかな? 」
雨のように降る氷の花が光に反射して光っているように見える。
「エレはゼロとゼムの魅了効かないはずなのに魅了されてるの。とっても繊細できれいな魔法に魅了されちゃってるの」
エンジェリアはゼムレーグの魔法から目を離せずにいる。
「ありがとう。ゼロの方が綺麗だと思っているけど、エレがそう言うならそうなんだろうね」
「そうなの! ゼム魔法はとっても繊細できれいなの! みんなにとってもすてきな景色を見せてくれるの! 」
「……エレ、嬉しいけどそこまでオレのためにムキになって言われるとどう反応して良いか」
エンジェリアは、わずかに表情を曇らせたゼムレーグを思って言った事だが、ゼムレーグが困ったような表情を見せてそう言った。
「……ふぇ」
「……エレ、オレは大丈夫だからもっと頼って? 今までの分を含めて。オレだけじゃなくてみんなもそうしてくれると喜ぶよ」
「……アスティディアでエレが迷ったら探す……迷う前にちゃんと面倒見ておくの。エレは……迷子が得意らしいから。ゼロがそう言うの」
エンジェリアは自分から迷子が得意と言うのを躊躇い、ゼーシェリオンを言い訳に使った。
「ゼロもいつも言っていると思うけど、自覚あるなら迷子にならないように気をつけて」
「……ゼム、知らないものってとっても気になるの。きれいな蝶々とか気になるの。ついついついて行きたくなっちゃうの。見てみたくなっちゃうの。それがエレという生き物なの。その好奇心は消すのができないの。賢いゼムならその続きは言わずとも理解できると思うの」
エンジェリアはゼムレーグを諭すようにそう言った。
「それで危険な場所に足を突っ込まれるのを守るこっちの身にもなって」
ゼムレーグにそう言われてエンジェリアはぷぅっと頬を膨らませて不貞腐れた。
「読み終わった。いくつか今すぐに使えそうな魔法もあった」
「ふぇ⁉︎ もうなの!? というか理解したの⁉︎ あれを短時間で⁉︎ 前に読んで理解したの!? 」
今は使われていない文字で書かれた本。半日で半分読めれば早い方だろう。
そんな本を読み終わったイールグにエンジェリアは驚いたと言わんばかりのポーズをとった。
「普通だろう? フォルと暗記勝負した時はこの量をこの半分の時間で全部覚えていたぞ? 流石に慣れない文字だと少々苦戦したが。ちなみにフォルはその半分だ」
「……黄金蝶の普通を信じちゃだめなの。それでその本は参考になったの? 」
「魔法以外にも魔力の無駄をなくす方法とかはかなりためになったな。現在使えている魔法でも魔力をもっと減らして威力はそのままで使えるかもしれない」
「ルーならできるかもしれないね。魔力との親和性といい、明らかに今の世界ではイレギュラーな存在だから。記憶がないだけで昔の世界と関わりがあるのかも」
あり得ない話ではない。記憶よりも気質の方が残りやすい。
エンジェリアはイールグに抱きついて匂いをかいだ。
「どう? 」
「匂いだけじゃわかんないの。でも、なんだか懐かしい感じ。エレの魔力にも反応してる気がするの。でも……でも……何があってもルーにぃはルーにぃなの」
「……エレ、そろそろ戻ろう」
そう言ったイールグは若干照れくさそうにしていた。
「みゅ、戻るの」
エンジェリア達は、イールグが覚えられそうな魔法の話をしながら根の洞窟の出口へ向かった。




