またあした
『ああ、もう……どこ行ったんだろ?この辺だと思うんだけどなあ』
友達とはしゃいでいるうちになくなったハンカチがなかなか見つからない。あれ、お母さんにもらったやつなんだけどなあ……。
『あの……』
『んー、ここしかないと思うんだけどなぁ』
『あのっ……!』
『わっ!びっくりしたぁ……えっ、何?』
『あの……何か探してるんですか?よかったら手伝いますけど……』
『…………』
たしかこの人、同じクラスの浅野君だよね?いつも暗いし誰とも話さないから、あんまりいい印象ない人だけど……あと、一応クラスメイトなんだけど、何で敬語なんだろ?もしかして、同じクラスなのに覚えてないのかな?
色々思うところはあるけど、せっかく手伝ってくれるのだから、お言葉に甘えるとしよう。
『じゃ、じゃあ、お願いします』
『…………』
浅野君は頷いて探し始めた……と思ったら立ち上がり、こっちを見た。
「あの……何を探してるんだっけ?」
「…………」
天然か!
そこ知らずに探そうとしてたの?いや、先に言わなかった私も悪いんだけどさあ!
そんな彼を見ていたら、おかしくなってきた。
「ふふっ、君おもしろいね」
「えっ?そ、そうですか?」
「あと敬語じゃなくてもいいよ。私達同じクラスじゃん」
「ええっ!?」
「何でそこで一番驚くのよ……」
それからしばらくしてハンカチは彼が見つけてくれた。
お礼をしたら、彼はすぐに走り去っていった。せめてお礼ぐらい言わせてほしいのに……どんだけシャイなのよ。
とはいえ、同じクラスなので翌日普通に再会した。
下駄箱で遭遇した彼は「うわあっ!」と驚いた。いや、何でよ。
でも、それ以来自然と目で追うようになっていた。
特にかっこいい見せ場があるとかじゃないし、何かに打ち込んでいるとかじゃない。
ただ、その空気感が……たまに見せる不器用な優しさが、私には眩しく見えた。
初めての恋が静かに始まった。
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穏やかな風が二人の頬を撫でて通り過ぎていった。だが、寒さはあまり感じなかった。
いつの間にか彼女の頬には一筋の涙が伝っていた。
でも、その顔はどこか清々しくて、今が夜なのも忘れていられた。
「愛美さん……」
「いいの。次は自分で何とかするから……祐一君、まだ私完全には諦めてないからね……油断しないように」
「……うん」
「はぁ〜すっきりした!ああ、もう、今日はヤケ食いでもしよっかな」
「…………」
「黙ってないで何か言ってくれると助かるんだけど」
「いや、何と言っていいのか……」
「まあ、確かにそうだよね。よしっ、帰ろっと。もうこんなに暗くなっちゃったし」
「あっ……」
「ここでいいよ。今二人きりで帰ったら、うっかり抱きついちゃいそうだから」
「…………そっか。じゃあ、また明日」
「うん!また明日、学校で」
愛美さんはハンカチで涙を軽く拭ってから、駆け足でその場を後にした。
僕はその背中が見えなくなるまで見送った。




