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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
6章 黒白の悪魔
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黒白の少年VS灰色の青年 2

 良い子の皆は真似しちゃだめですよ

「所長さん。一つ聞きたいんですけど、俺はもう3回ギフトを使いました。ですがあのクソバエは明らかに看守に危害を加えました。これはクソバエ明らかにルール違反ですよね」

「そうね」

「それでもまだ俺はルールを守る必要がありますか?」


 俺はこのゲームが公平でないことを主張する。


「…………」


 所長さんは数秒考え自らの決定を俺に伝えた。


「この懲罰の目的は2つあってね。1つが痛みを覚えるってことなの。殴ったほうは拳が痛いかもしれないけれど、殴られた痛みと等しくないってことを身体に叩き込むため」


 それは言われなくても分かってる。


「とはいえこの目的は果たす必要が無かった。120822番、あなたはちゃんと痛みを理解したうえで相手を傷付けている」

「当たり前です。そこら辺のごみ共と一緒にしないでください」

「でもね、だからこそ2つ目の目的をあなたは理解しちゃいないし、これから理解しないといけない。どんなことがあってもルールは絶対に守らないといけない。たとえそれが不合理なものでも、理不尽な状況になっても遵守しないといけない」

「……」


「いい? 法律ってのはね、あなたの何倍の賢い人間が何度も何度も推敲して、何度も何度も繰り返してようやく今の形になっているのよ。それなのに自分勝手に適当な理屈をつけて反論して守らないあなたを罰するの、これはたとえ理不尽な状況になってもルールは絶対、それを理解するまでこの懲罰は終わらない」


 言いたいことは分かったし、十分正論だと思う。


 少なくともこの人はシロだ。


「了解です、ですが所長さん。あなたの思い通りにはならないと思いますよ」


 あなたには従う。


 だがその上で俺は抗おう。


「クソバエ、お前は自分の治療と、回復。さっきの操作でもう3つ能力を使ってる」

「勝手な妄想だな。あの看守が勝手に動いたんだ」

「…………そうか。ならそういうことにしといてやる。お前はまだ能力を2回しか使っていない。それでいい」

「……? どういうつもりだ」


 ここで終わらせたくないだけだ。


 まだ殴りたりない。


「分からないのか? お前があまりにも使えな……弱すぎて勝負になっていないから未だに殴り合えって所長の命令を達成できていないんだ。仕方ないから尻拭いをしてやろうっていう俺の心優しい提案をしてやっているんだ。終わったら靴でも舐めて感謝しろよな」


 俺はギフト複数持ちと戦った経験が無い。


しかし全く情報が無いわけじゃない。戦闘スタイルが似ている以上、俺がしそうなことがこいつのやりそうなことになる。


そして今回いつもの戦闘と少し事情が違う。


 能力の使用制限があることとダメージが自分にフィードバックすること。


 この二つをうまく利用する。


「わかるぜ、てめえ自分が殴られてもオレにフィードバックするから非道ひどいこと出来ないって魂胆だろ。そりゃオレだって痛いの嫌だからなあ。だからオレが苦しまねえように痛みつけてやんよ」


 肉体的苦痛がお互いに共有する。

 そういう時どうやって敵を落とせばいいか。


 精神的に追い詰めるに決まっている。


 ではどうやって追いつめる?


 洗脳? 幻覚?


 いいやそれはあり得ない。


 こいつは間違いなくそういう系の能力を持っている(気がする)


 でもここで絶対に使ってこない。


 何故なら洗脳や幻覚は一種のオ○ニーだからだ。


 例えばとあるいじめっ子といじめられっ子がいる。


 いじめっ子をJ、いじめられっ子をNとしてNがJに仕返しをする道具ギフトをDに借りるとしよう。

 その時Nは自分がJをいじめる夢を見せる道具を借りてそれを使うとする。


 空しくなるのがオチだ。


 だって現実は何も影響が無く、明日も嫌な夢を見たということでもっと虐められるだけだろう。


 俺が犯された聖少女アイアンメイデンを使わないのと同じ理屈だ。


 ただしこの考えに一つ問題がある。


 そもそもなんでこんなこと起きるかといえばNがそんな道具を使ったからであり、明日になれば倍返しされることを考慮していない阿呆だからである。


 クソバエが目先だけしか考えていないNなのか、それとも自分は分かっていると思っている頭悪いと気づいていないSなのか……多分こいつはSだと思っているがもしかしたらNかもしれない。


 そういう時はNをSにまで成長させる。


 ではなにをするのか?


 挑発安定。


「催眠系の能力者って絶対にオ○ニー好きだよね。だって自分の妄想を他人に垂れ流すんだよな。まさかクソバエはそんなことしないよな?」

「……」

「え? もしかしてやろうって思ってたの!? うわぁ……公衆の面前でオ○ニーするなんてひくわぁ。超引くわぁ。そんなに好きなら一章童貞やって四六時中オナってればいいと思うぞ」


 すこし演技臭かったがこれだけ言えば十分。


 で、次どうするか。


 俺は拘束をして致命傷にならないようリンチにしようとした。

 クソバエもそうするだろう。


 縄でも出して緊縛するか? それは確かに辛いが先程俺が見せた鬼神化オーガニゼーションが強く印象づいている以上生半可な力では意味をなさない。


 ギフトは使わないと言ったし俺自身も使う気はないが、クソバエは確信を得ることはできない。


 不意に近づいたところに約束を反故して一撃、そういう汚いイメージがこびり付いているはずだ。


 だからこそ確実な拘束が望ましい。


 物理的な拘束……ではなくもっと超常的なモノ。


 例えばそう……『時間』や『運命』を使った拘束とかね。


「ぴゃーぴゃーうるせえ、取りあえず一回沈んどけ。時縄時縛タイムアップ


 俺を含め周囲の動きが止まった。

 流れた血も空中で止まっている。


 間違いなく『時間』が止まっている。


 ただ俺はまだ動かない。


「はあ」


 クソバエはため息をつきナイフを創造した。


「ああああああ、うっぜえええ。こいつマジうぜえ。決めた。ぶっ殺す」


 おいおい刺したら死ぬのお前だぞと内心思っていたがクソバエには秘策があるらしい。


 服の中から小箱を取り出す。


「赤だったよな」


小指の爪くらいの大きさしかないまがまがしい赤いカプセルを取り出した。


「確か一時間後だっけか。さっさとダウンしてリンク切ってもらわないと」


 カプセルを割りナイフに塗りながらそうつぶやいた。


 なるほど、遅効性の毒か。


 それなら自分は切られたダメージしか存在せず、相手に多大なる被害を与えることができるだろう。


 感心したが、そういうのを持ち歩いているということはそういうことなのだろう。


 真っ黒じゃねえか。


 そして俺は予定を変更した。


 俺は『時間』による影響を無視できるので、動けないと思って近づいてきたところをいきなり襲ってぶん殴る。これが当初の予定。


 ギフトは使わないつもりだったが、気が変わった。


 使う。


 所長さんには悪いがこれは自衛。


 緊急避難という奴だ。


 クソバエがナイフで刺そうと近づいたところで


反辿世界リバースワールド


『世界』を止めた。


 既に『時間』は止まっているが優先権は『世界』が上。


 企み通りクソバエを含む俺以外『世界』の全てが止まった。


 ただこの能力今でも保つのは5秒ほどが限界。


 テキパキと行動。


 まずナイフを奪います。(1秒)

 刺します(2秒)

 クソバエの持っている小箱を回収します(3~4秒)

 箱を空けながら距離をとります(5秒)


「痛っ」


 クソバエは自分の手の甲に傷がついているのに気を取られこちらの注意がおろそかになる。


 その間箱の中身を確認した。


 中には赤と青の2種類のカプセルが入っていた。


 数は赤いのが3つ青いのが8つ。


 全てのカプセルを色ごとに分けて取り出す。


「おい! まさかてめえ!」


 漸くクソバエが事態に気付く。


「なんのこと?」


 目の前でカプセルを落とす。


「っ!!」


 懐にしまった箱が無いことに気付いただろう。


「おっと、足が滑った」


 左足で赤のカプセルを、右足で青のカプセルを踏み潰す。


「何となく答えが分かった上で聞くんだけど、このカプセル何?」

「…………」

「言うわけないもんな。毒だからな。で、多分この赤いのが毒だろうな。じゃ、青いのはなんだと思う?」

「…………」

「まだダンマリ? いいよ答えてやろう。解毒剤だろ?」

「…………」


 おお、目が血走っている。


 ちょーこえー。


「でも待てよ。普通に考えてこんなの囚人が持っているわけないよな。俺の勘違いだよな。ごめんごめん」

「…………」

「きっとこれサプリだよね。健康医薬品。テレビの通販で売っているみたいな」

「…………」

「あ……でもそんなの囚人が持っているわけないし、そうか! 分かったぞ! これクソバエ持病持ちなんだ。糖尿病患者みたく薬を持ち歩いていたんだな。うん、納得納得」

「何が言いたい!! 」


 そんなキレなくても俺がやりたいのは変わらない。


「俺が提案するのはちょっとあれなんだけどさ、俺の靴舐めさせてやろうか? 」

「っっ」

「俺だって自分の靴が汚くなるの我慢しての提案だからな。それはちゃんと分かっててほしいんだけど。嫌ならいいんだよ。このままDKOになって1時間たつのは抗えないけどね」

「~~~~!」


 血管が浮き出てる。


「あれれ~? クソバエどうしたのかな~?」

「……」


 何も言わないか。


「仕方ないな。どうせクソバエのことだ。クソみたいなプライドが邪魔するんだろうな。優しいから助けてやるよ。だからしっかりと味わえ」


 上段回し蹴りで靴を口の中にねじ込みクソバエを蹴り飛ばした。


 多分過去最高の回し蹴りであり同時に、これ以上綺麗な蹴りを今後一切放つことはできないと実感できた。


 当然ダメージは自分にも返ってくるがそんなことどうでもよかった。


 俺を支配していた感情は痛みではなく快感だった。


 クソバエを蹂躙した。

 こんな感情今まで感じたことは無い。


 機械的に悪い奴を殺した時と別の何かを感じた。


 それがなぜなのか今の俺には分からなかった。



 『時間』が動き始める。



 クソバエの限界が来たのだろう。

 俺も意識が朦朧としだした。


 ここで俺はまた気を失う。


 ただ最後にもう一度倒れているクソバエを蹴り飛ばし、ひとまず俺は満足し意識を手放した。



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