少年の檻
あれから何があったのかほとんど覚えていない。
人間嫌なことはすぐ忘れるというがあれ本当だ。
ただ忘れかかった記憶の中で、覚えている断片を組み合わせる。
まず俺にかけられた罪状は殺人。
誰を殺したかというと俺の知らない人。
被害者は青銅高校の男子生徒数十名。
寮内で自殺していた。
真犯人はリンで間違いない。
ただ稟はもう存在しない。
俺の中では存在しているが、世間一般では存在しないことになっている。
しかし稟が殺した人間は存在している。
俺はアリバイを説明しようとしたが、稟といたといっても通じなかった。
逆に何をしに東京に来たのかと聞かれ何も言い返せなかった。
まあ向こうも都合の悪いことを聞かないようにしていた雰囲気があった。
そういうことでのらりくらりとしているうちに俺は牢屋の中にいる。
牢屋に入れられたのは早苗の時以来だが、流石は国家施設しっかりしている。
良い鉄格子で鬼人化を使ってもこじ開けることは難しいだろう。
たしかこの鉄格子の主成分は支倉が作っているんだっけ?
支倉は色々なものを発明し、超合金に関しては本来の10年20年先をいっていると聞く。
ほんと凄い一族である。
……今はほとんど関係ないが。
で、それだけでも大問題なのにさらに厄介なことがある。
本来逮捕されて一定期間拘留し、そこから裁判やらなんやかんやあって監獄に入れられる。
しかし俺はその裁判をすっ飛ばして監獄に入れられるらしいのだ。
流石に俺も抗議したが上からの命令だの、喚くなとまともに取り扱ってくれなかった。
悪意が感じられます。またあの女神だろうか?
俺が逮捕され3日足らず。
四肢をガッチガチに縛られ、目隠しされた状態で何かの乗り物に乗らされた。
揺れ具合から見て船だろう。
24時間乗船していた。
ただ場所を悟られないように何度も周回していたので、直進すれば10時間くらいで目的地にたどり着くことが出来ただろう。
漸く降ろされ拘束は解かれたが目隠しは外すことが出来なかった。
ロープを持たされ、数キロ歩いた。
これも何度か同じ道を通っている。
流石に疲れを感じたころ、
「止まれ」
先導者が俺達に指示。
止まったらいきなり床が崩落した。
ように感じただけで実際はエレベーターの中に入れられ、ものすごい速さで降りているだけである。
体感なので発言に責任を持たないがざっと300メートルくらいだろう。
それからまた数百メートル歩きやっと目的地に着いたらしい。
長かった。
ここで俺はやっと目隠しをはずされた。
長いこと潜水し、やっと空気を吸える時に似た開放感を得るはずだった。
しかしそれを俺は得ることが出来なかった。
理由は二つ。
俺が見た光景は毒ガスに似た、汚らしいものだからだ。
見た目で分かるこの世の汚物。
人ではないヒト。
つまり極悪人。
それらが俺の視線の中に10.20と入ってきたら気分は誰だって悪くなる。
二つ目、これは俺が予想していなかったことだ。
右目と左目で見えるものが違う。
左の眼で見るモノに関しては何の問題もない。
だが右目で見ると色彩がぼやけて見える。
全体的に色が落ちている。
「…………はあ」
ため息をついた。
「なんやあんさん。しけた顔して」
「…………」
隣にいた男が話しかけてきたが無視。
「ちょい聞いてますか? 返事くらい……」
頭突きで黙らせる。
「そこ! 次動いたら殺すぞ」
看守に注意され俺は止まったが
「てっめえ」
俺に話しかけた男は怒りを抑えることが出来ず突撃。
やはり短絡的。生きる価値なし。
殺そう。
「回廊洞穴」
次元に穴を空け、男の胴体を真っ二つにした。
この一撃を喰らえば何人たりとも無事では済まないだろう。
「は、ゴミめ」
文字通りゴミを見る目で俺はその男の死体を見つめるがピピピと首元から音が出た。
音がしたところに手を当てる。
冷たい金属内に一か所熱がこもっている。
首輪をつけられているのか?
次の瞬間、その首輪は爆発し、俺の体は17個に分裂した。
「なんやあんさん。しけた顔して」
「…………」
俺の意思抜きで『世界』が巻き戻っている。
反辿世界の能力そのものだが、俺こんなことできたっけ?
出来たんだから、まあいいか。
「ちょい聞いてますか? 返事くらい……」
もう一回頭突き。
看守から注意され、頭突きされた男から突撃を受ける。
反撃し、爆破。
二度も巻き戻ったが今度は目隠しをされたままの時だった。
揺れから察するにまだ船に乗っている。
一度経験した退屈な待ち時間を繰り返した。
この後百回ほど死にました。
で、得たことは
1、反辿世界の死後逆行を使えるようになったが真百合のそれとは違い、3時間以内のどこかで完全ランダム。
2、両手両足さらに首に輪が取り付けられ、看守が信号を送ると爆発する。
3、俺が捕らえられている刑務所は、馬喇田木収容所。俺も名前を知っており、創設100年経過しているが脱獄者は歴史上一人もいない(ただし死者はかなりいる)。ギフトホルダーのための刑務所だ。
そして、俺が一番驚いたことは
4、俺の容姿が変わっている。
昔早苗は毛先2割だけが赤色で現在は4~5割みたく、俺も髪の色が変化した。
端的にいうと白くなった。
もう少し詳しく言うと5割ほど白くなっている。
黒と白が入り混じった髪の毛。
バーコードが一番俺の特徴を掴んでいる。
黒白黒白黒白黒白黒白ではなく黒黒白黒黒白白白黒白みたいな。
ついでに右目が赤くなった。
スカーレットだ。
何というか……一目でギフトホルダーと分かる特徴的な人間になってしまった。
それこそ、母さんみたいに。
囚人番号120922番を与えられ普段はこう呼ばれるらしい。
俺が入れられる独房はすでに先客が一人いた。
一人に一つの独房では数が足りなくなるから仕方ないのだろう。
その男は灰色の髪。
年齢は20代前半。
単なる同居人、
「初めまして、だよね」
「ああ。そうだな。はじめまして、だ」
まさかこいつと深い仲になるとは、この時の俺は知る由もなかった。




