少年の幼き日の記憶
前の話から約2週間程度遡っています。
明晰夢というのがある。
夢を見ながらこれは夢だと認識してみる夢のことだ。
今俺はそれを見ている。
公園で女の子と遊んでいる夢。
「ねえいーくん。大人になったら私と結婚してくれる?」
「大人になったらね」
ままごとの最中少女はそんなことを言った。
夢にしては中々リアル。
「その言い方。信じてないでしょ」
「だって絶対○○ちゃん忘れてるって」
大人びた会話をしているが、お互いに中身を理解していない子供の会話。
「だったら……えい!」
そして彼女は俺にキスをした。
「やくそくだから。ぜったいにいーくんと○○は結婚するんだから!! 」
思い出した。これは夢じゃなく実際に合ったことで……彼女の名前は…………
「ちょ……あーちゃん?」
あやか。
……そうだ。
あやかちゃん。
苗字も漢字も思い出せないが、俺は彼女の名前を知っているし、この子のことも知っている。
名はあやか。
ショッキングピンクの髪の毛。
そのことが意味するのは彼女がギフトホルダーだということ。
「なに~? 文句あるの!!」
「まだ結婚とか早いよ。パパも結婚は地獄っていってたし」
「ひっどいよそれ」
俺達は幼なじみでよく公園で遊んでいた。
「そんなこといういーくんはお仕置き」
あーちゃんは幼き俺に触れた。
「体力きゅーしゅーしてやる」
彼女の能力は、柳動体
触れたものを吸収する。
「やめてよあーちゃん。今時ぼーりょくけいヒロインなんてはやらないよ」
「ぼーりょくけい?」
あれ? 自分の記憶なのに自分が何を言っているのか分からん。
「一樹くーん。迎えに来たよ」
「ママだ!」
母さんは過去も今も変わっていない。
純白の髪。
「おばさん!」
「年相応の扱いをしてくれるの。あやかちゃんだけだよ」
母さんは何とも言えない表情をとっていた。
そうだよ。何で俺は忘れていたんだ?
まるで今まで記憶を封印されてきたような感覚だった。
「いーくん酷いの。あたしのことぼーりょくけいって言ったの」
「こら一樹くん。ちゃんと謝りなさい」
ほんと客観的に見れば怖くないんだよな。
「やー、べー」
舌を出す幼き俺。
少年ゆえ反抗は仕方なし。
「セッカッコー、ホクトウジョウ○ガンケン、テヤー」
なお逆らうと理不尽に吹き飛ばされる模様。
「一樹くん。命は投げ捨てるものじゃないんだよ」
「びえええええん」
ガチ泣きした。
「うるせえ」
当身。
息がつまり泣き止んだ。
「すぱるたなの?」
「英才教育だよ」
いいえ、ただのDVです。
いやはや、我が母は遠き記憶の中でも何も変わっていない。
「今日はパパの誕生日だからね。お手伝いするんでしょ?」
「う……うん」
「じゃ、いこ」
母さんは手を差し出す。
母と子ではなく姉と弟に見えるのは気のせいじゃあるまい。
「……いいな、いーくんは。ちゃんとしたパパがいて」
「パパなんてみんないるでしょ?」
幼子は自分の常識がすべてだと思っている。
だから俺もこの時は、全ての仮定に母と父がいるのを当たり前だと思っていた。
「いない。あんなのパパじゃない」
「?」
この時のあやかちゃんの表情は当時の俺には分からなかった。
「じゃあね、また明日も遊ぼうね」
「うん! それと結婚の約束もだよ」
「仕方ないなー。うん、約束」
そう。
これは嘘偽りの無い俺の記憶。
忘れてはいけない純粋な思い出。
だが何だろう。
ここから先、恐ろしいものを感じる。
知ってはいけない、これを知ってしまったら俺が俺じゃなくなってしまうようなどす黒い何か。
母さんと手を繋いで向かう帰り道。
幼き俺はあることを聞いた。
「ねえママ。あーちゃんのお父さんお仕事何やってるの?」
「……なんでそんなこと聞くの」
「お家広かったから」
母さんは困ったような顔をしていたが、確か本当のことを答えていた。
「あそこはね――――」
「起きろ」
頭に強い衝撃が走った。
どうやら俺は眠っていたらしい。
頭を押さえようとするが手が動かない。
「ん?」
目を開いたはずなのに辺りが真っ暗。
足をばたつかせようとするがこれも駄目。
というか俺を叩いた男の声を聞いたことが無い。
初対面の相手にいきなり叩くのは失礼ではないのだろうか。
現状確認。
手も動かない足も動かない目を開いても真っ暗。
アンサー。監禁されてます。
では次のクエスチョン。
やったのは誰でしょう。
最初に犯人じゃないかと思ったのは真百合だ。
前科があるからね、仕方ないね。
ただ今されている緊縛は何というか……暴力的だ。
全力で俺を縛っている。
動けそうにありません。
「あの……ここどこですか?」
口だけは動くのでコンタクト。
「……………」
ただノーコメント。
「一応確認取りますけど、何でこんなことしたんですか。理由によってはタダじゃおきませんよ」
確かに俺をガチガチに縛れば身動きは取れない。
ただ真百合がした時と違い、俺は手も足も出なくても戦える。
持っているギフトは倍以上に増え、何より傷つけることにためらいはない。
「何でこんなことをするかだと? ふざけているのか?」
あれ? こいつまるで自分が正しいことをしていると思っているぞ?
「ふざけてるって……俺何かしたんですか?」
「記憶が無いのか……それとも演技なのか? どちらにしても有害であることに変わりはない……」
「…………」
今起きていることを推理して一つ解を導いた。
ただその解があまりにも突拍子無さ過ぎて回答欄に書き込む勇気が無い。
訂正、今俺が思っている答えを答えだと思いたくない。
俺が考え得る限り最悪の可能性が、考え得る限り最も近い答えだった。
今俺がされている拘束は、凶悪な犯罪者を捕らえるかのようなそれだ。
口の中の水分が汗と化し、背中からにじり出している。
乾ききったその口で、違うことを望みながら俺は問うた。
「もしかして俺、逮捕されてます?」
最初この小説を投稿してから一年がたちました。
約90話ですので4日に一度投稿している計算です。
数学って素敵ですね。
一応話の大筋は9割決まってますので今の所エタる予定はありません。
これからも応援よろしくお願いします。




