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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
6章 黒白の悪魔
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少女たちの戦い 1

『境界上の少年少女』にタイトルを変えたいと思っていますが、『チート戦線~』も割と気に入っていますので、心の中でこういうタイトルもあると思っていてください

 6月の炎天下、私はとあるファミリーレストランで待ち合わせをしていた。


 こういう所に来たことは一度もないがどうすれば良いかの知識は持っているので抜かりはない。


 ドリンクバーを頼み時間を潰す。


 待ち合わせ時刻から5分すぎて、その人はやってきた。


 その人は色々な人間を見てきた私からしても特徴的な人相をしている。


 真っ白な髪。

 真っ赤な睛。

 真っ平らな胸。


 初見では間違いなくこの人の年を当てることはできない。


「初めましてだよね。えっと……真百合ちゃん」

「はい。お手数をおかけして申し訳ございません」


 嘉神君の実の母親。


 嘉神育美。


 容姿は嘉神君と全く似ていない。


 本当に親と子なのか怪しいところだ。


「わざわざ話したいことってなんのこと?」


 そう、私が直接この人を呼び出したのだ。


 その理由はとあることを聞くためだった。


「お義母様、単刀直入に聞きます。十年前何があったのですか」


 嘉神君の11年前の足取りも9年前の足取りもつかめている。


 なのに、10年前の数か月間どうあがいても探し出すことが出来なかった。


「………………」


 笑顔のまま顔を作っているのだけれど、お義母様の瞳の色が変わった。


 鮮血で作ったビー玉のような(なお嘉神君は赤黒い)それは狩る側の眼だった。


「何のこと? 10年前か~。あいつが6歳の時だから……」

「小学校に入学するときの頃です」

「…………………」


 沈黙。


「忘れちゃったよ。これでも40いってるんだからね。仕方ないね」

「嘘が下手ですね。息子様の方がうまいと思いますよ」

「……」


 やはりこの人は何かを知ってる。


 決定的な何か。


 核そのものを持っている。


 ならば私は躊躇わずカードを切る。


「隠し事は止めましょう。嘉神育美さん。いいえ、あえてこう呼ばせてもらいます。


超者ランキング0位、

人類最凶


空亡育水そらなきいくみさん」


「その名前を聞いたの久し振りだよ」

「私も初めてあなたの資料を拝見した時は驚きました」


 空亡育水。


 この名前で検索すれば出てくるワードがある。


 ワンカルテット集団殺戮事件。


 前世紀最大の事件といえば間違いなくこの事件になる。


 11月11日から一週間かけて行われた能力者による集団無差別大量虐殺。


 犯行グループ〝レジスタンス"は革命という名のテロ行為に走り数千にも及ぶ人々の命が儚く散っていた。


 その実質的なトップがこの空亡育水。


 警察は彼女を奇跡的に捕まえることが出来たが、殺戮の連鎖は止まらなかった。


 彼女の遺志を継ぐ者が彼女の開放を求め更なる殺戮に走った。


 そこでとった警察、いいえ国が行った処置はその彼女自身にかつての仲間を捕らえさせる方法。


 超法規的に彼女を解放し、テロを鎮静した。


 その名残が、彼女を容姿になぞって白仮面となり現在も犯罪者が犯罪者を捕らえる文化が根付いている。


「一応訂正しておくけど、あたし無差別殺人はしてないからね。あの組織の中にいたのも事実だし、そこで一番強かったのも事実。強者こそ絶対のルールがあったから、象徴としてトップになっていたけど実質的なボスはパパだったし。で、パパの頭のネジが外れて凶行に走ったわけ」

「そうだったんですか」


 それが正しいかどうか、正しく判断することは出来ないが今もこうして日常生活を送れるということは問題ないと判断されたというわけだろう。


「嘉神君が強いわけです。嘉神と空亡の血筋なんて」

「ま、空亡は7血のなかでもいろいろと特殊らしいしね。むしろ恐ろしいのはなんの血筋も関係なしに『物語』の能力を持っている幸ちゃんのような存在だよ」

「あなた、面識が?」

「あ、やべ。そういやなかった。まだ知らない設定だった。ごめんごめん」


 …………はあ。


 何を言っているのか分からない。


 最近こういう自分一人でしか分からない言葉を呟くの流行っているのかしら?


「失言つながりに一つ言わせて。真百合ちゃん、さっさとあんたがうちの息子を頼らなかったからこっちは無駄に3756回ループしたんだ。3時間×3757回、合計すると約一年間・・・、あたしは息子に会えなかったんだけど、そこら辺の謝罪はまだだった気がするんだよね」

「…………」


 やっぱり。


「知っていたんですね。あなたは知っていてあえて私を助けなかった」

「そうだね。そうなるよ。でも仕方ないじゃない。あれ真百合ちゃんが思っているより巨大な力が働いているんだよ。冷静に考えて見なよ。日本の20%を牛耳っている宝瀬の、それも大事な一人娘がたかが億単位の年収の玩具にされるなんて、普通に考えてあり得ないでしょ」


 それもそうだ。


 ただたった一つだけあり得る組織がある。


「支倉」


 あの事件、支倉が一枚かんでいた。


 世間では日本の二大トップとされているけれど実際は違う。


 独裁と批判されないように支倉は色々と名前を持っている。


 そういうのを全て加味すれば、この世界の40%を支倉は支配している。


 もし宝瀬と合併すれば、この世界の半分をお前にやろう状態になってしまうだろう。


「ま、そこはあたしとしては割とどうでもいいけどね。問題はその裏にある存在」

「その裏?」

「神様」

「神様なんていないわ」


 この世に神はいない。


 いるとすれば、絶対神たる嘉神君だけ。


「真百合ちゃんには関係ない話だったね、10年前あたしたちに何があったかどうかと同じ」


 どうやら教えてくれるつもりはないらしい。


 私もはいそうですかで教えてもらえるなんて思っていない。


「これを」


 私は小切手を差し出す。


「必要な額を書いてください。お金、必要なんでしょ?」

「……!!」


 嘉神君の両親は本来上流家庭よりも稼いでいる。


 ただそのお金を自分で使っていない。


「いくらですか? 10億? 100億?」

「1000億だよ。残り、200億だけど」


 思っていたより高額だった。


 少し自分の個人資産を崩す必要がある。


「安心してください。何があったのか私は彼に伝えることはしません。お義母様、あなた達二人で抱え込む問題じゃないんです。私に頼ってください」

「いいや、これはあたしと一芽くんだけで抱え込む問題だ。だから絶対に教えない」


 あらそう。


 まあ私もここで教えてくれる確率は10%くらいだって思っていた。


 仕方がない。


 フェイズ1は終了。

 フェイズ2に移行。


「ばらしますよ。あなたのこと」

「あはっ。交渉が無理だってわかったら脅迫? ダメだね真百合ちゃん。そんなことしたら余計に伝えようとは思えなくなるよ」

「そうですか」

「それに、あたしもそろそろ自分のことばらすつもりだったから。何の問題もないよ」


 ああ。なんということだ。


「本当にあなたと嘉神君は似ていませんね」

「そう?」


 ええ。


 ここまで頭が悪いとは。


「私がばらすのは貴女のことでもありません。あなたが4月末の事件を知っていて助けることが出来て、あえてそれをしなかったということです」

「…………!!」

「分かりますか? 私が何を言いたいのか」

「なかなか酷い事ばらすじゃないの」


 神様が何なのか私には分からないが、言い方から察するに人間の上の存在と考えるのが妥当だろう。


「あなたは明らかに私を助けることが出来た。出来なかったとは言わせません。知らなかったとも言わせません。先ほど確認はとりました。なのにあなたは助けなかった。それを嘉神君が知ってしまったら、彼はどう思うと思いますか?」


 当然、怒る。


「彼とあなた、どちらが強いのかそれは私には計り知れません。ですが、戦うような事態になるのは避けたいんですよね」


 先ほど、『物語』とこの人は言っていた。


 そして、嘉神君から聞くに『物語』と『物語』は戦ってはいけないと神薙信一が言っていた。


 また聞きなのでもしかしたら語弊があったのかもしれないが、そこまでずれたことは言っていないはず。


「……………あのさ、こういう新キャラが旧キャラを蹂躙して『こいつ、一体どこまで強いんだ!?』みたいな流れになるんじゃないの? あたし結構重要人物なんだけどな」

「知りません。あなたも私と同じ、能力があるだけの無能なだけです」


 能力があるだけの無能。


 今私はそれを痛いほど身に染みて感じている。


「ちょっとあたしに対して扱い酷くない?」

「それについては本当に申し訳なく思っています。私事なんです。どうしても私は母親というものを信用できない」

「……そう」


 母の愛を私は知らない。


 私はあれの口からはっきりと告げられた。


『おまえはあの人を縛るための鎖』

『あの人から愛されるあんたなんていらない』

『さっさと嫁いでいなくなればいいのに』

etc.


 もちろん世間一般でそんなこと言う人間はまずいないだろうし、私の母だけが特殊なのは重々承知している。


 それでも私は母親という存在が汚れとしてこびり付いてしまっている。


 だから私はこの嘉神育美より、先日酷いことをされた嘉神一芽の方が仲良く出来るしそうなりたいと思っている。


「私も本当は貴女と仲良くしたいんです。家族ごっこを貴女と共にするのも一興なのでしょう。ですがそのためにお互いの信頼が必要です。さあ育美さん、早く私に彼の秘密を」

「……嫌だね。絶対にいや。理由は3つ。

あたしがあんたが気に食わないから。

あたしがあんたを認めないから。

あんたじゃあいつとは相性が良くないから」


 ……………


「それは……聞き捨てなりません。一つ目と二つ目に関しては私がどうこうできる問題ではありませんが、三つ目に関しては大丈夫だと思いますよ。私が彼好みに変わればいい、それだけの話なんです」


 何の問題もない。


 簡単な事。


「ちげえよ。ばーか。真百合ちゃんも何も分かっていないんだね」

「何がですか?」

「あんたはあいつに求めるだけで、何も与えちゃいないんだよ。恋愛っていうのは互いに高め合うものだ。互いに出来ないことを補って、出来ることを高めていく。なのに真百合ちゃんのそれは一方的な搾取。一樹くんと真百合ちゃん二人でできることは、他の人間よりはるかに多い。でもそれは個々のスペックが高いだけで、一人ずつ何かをやった方マシなレベルで、互いに落とし合っている」


 とってもありがたいお言葉だ。


 道徳の教科書に載せておきたいくらい。


「お言葉ですが、恋愛というのは教科書じゃないんです。理屈じゃないんです」

「ほんとあんたはばかだね。あいつは教科書しか読まねえよ」


 これ以上話すことは無いと思ったらしく席を立つ。


「待ってください。まだ話は終わっていません」

「教えない。絶対に教えない。とはいえばらされるのもごめんだし、こんな所でギフトを使う気にもなれない。穏便に済ませてやるよ」


 そういって嘉神さんは一つのブロマイドを取り出した。


「これ見せてやるから黙ってて」


その写真の中には三人の笑顔が。


 画面右側に若かりし嘉神一芽。


 やはり、容姿はこっち側だ。


 その隣には今と全く変わっていない、嘉神育美。


 最後に、二人を挟んで、小さいながらも満点の笑顔を掲げるのは


「嘉神君」


 真っ白な髪をした私の神様だった。



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