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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
5章 嘉神一樹の同窓会ならび主人公が知ろうとしなかった物語
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Ⅳ-Ⅱ 月夜幸がサブヒロインな理由

 4月からのアニメ豊作すぎて今からワクワクが止まりません。


 ブラックネタとマジキチ表現あり。いつものことですが念のため。

 月夜幸。多幸福感ユーフォリアというギフト持ちで天涯孤独の女の子。


 私は彼女を初めて見た時気弱な女としか思わなかったが、彼女の闇は深いことを知っている。


 この子は危険だ。


「どうしたんですか? 返事くらいしてくださいよ。宝瀬さん」

「真百合でいいわ。その変わり私も幸と呼ぶから」


 今でも私は宝瀬が嫌いなのは変わらない。


「嫌です。そんな親しい名の呼び合いなんてあなたとしたくありません」


 誘いを断られたのは初めてだった。


「あなたは知らないかもしれないので伝えておきます。わたしはあなたが嫌いです」

「……後学のためにその理由教えてもらってもいいかしら」


 面と向かって嫌いだと伝えられたのも初めて。


 他人になんか興味ないけれど、わずかだけ残っている好奇心が私に質問をさせた。


 いえ、違うわね。彼女の多幸福感ユーフォリアが私をそうさせたのだろう。


「そうですね……わたしがあなたのことが嫌いな理由を話す前に少し迂回しながら話しましょう。わたし、天才って三種類いると思うんです」

「………………」


「一番イメージしやすいのは嘉神さんのようなタイプ。自分の力を全力で使い、周囲を引っ張るタイプ。アンチが湧きやすい主人公型の天才とでもいえるでしょう」

「……」

「次はわたしのタイプ。あくまでタイプの話ですので実際はそうじゃないというのは分かってください。自分の能力をあえて使わず、必要な時まで耐え忍び、いざとなった時に開放する強いて言うなら黒幕型の天才です」

「それで、最後はなに?」


「あなたのようなタイプです。多分個体数が最も多いタイプでしょう。あなたのことですから良く聞いてくださいね」


 彼女は低身長ながら私を見下していることを隠さず


「能力があるだけの無能・・



「まさに今のあなたがそれ。能力があるだけの無能。あなたは誰よりも頭がいいのでしょう。ですが今の状況を見てください。一年留年してるじゃないですか。しかもここ底辺じゃないにしても二流高校ですよ」

「それにはちゃんとした理由が……」


 宝瀬の長女は、高校までは決められたところに行かないといけない決まりがある。


「知ってます。ですがそんなのどうだっていいんです。あなたを評価するのはあなたじゃないんです。他人なんです。どんな言い訳をしようがそれが理に適っていようが、二流高校に留年したただの愚かな不良女。それがあなたに貼られたレッテルでそれが真実なんです」

「…………」

「ですがなおたちが悪いのがあなたに能力があるってことです。あなたを知っている人は皆口を揃えて天才だっていうんでしょう。わたしもそう思っています。あなたは間違いなく天才です。頭も良くて運動神経も良くAPPは19くらいあるでしょう。異性からも同性からも好かれ、完璧というはあなたのためにある、いいえ、あった。それくらい昔のあなたは凄まじかった」

「…………」

「ですが今の有様は何をするわけでもなく、ただそこにあるだけの存在。ブランドだけの宝の持ち腐れ。そういった人間のことをここ【なろう】には的確な表現があるんです」


 【なろう】がなんなのか私には分からないが、喧嘩を売られていることだけは分かった。






劣等生・・・。劣等生。劣等生。大事なことなので3回言いました。あなたは劣等生です」






 結局4回も言われた。


「能力があるだけの無能、劣等生。それがあなただ」

「待ちなさい。いい加減黙って聞くの飽きたわ。私そろそろ反論しても」

「どうぞご自由に私もあなたの反論を反論しますから」


 黙って聞いていれば適当なことを。


「私はここではちゃんと生徒会長として仕事をしているわ」

「で? だったら何なんですか? 何度も言いますが世間一般ではここは二流高校ですよ。そんなところの生徒会長なんて、九州にあるカタカナ四文字の高校の落第生の方が、能力があると思われるに決まっているじゃないですか」

「でも実際能力があるのは私の方よ。誰が何と言おうが」

「だから何度も言わせないでください。あなたの能力あるなしなんて関係ないんです。どれだけそう見えるか、それが一番重要なんです。社会では有能に見える無能の方が、無能に見える有能より優れているんです」


 それはこの日本だけ。


「それがこの国の悪いところよ。中身を見ない」

「はぁあ? どんだけあなた無能なんですか? なんのために資格や免許があると思ってるんですか? 上っ面で相手の力量を判断するためにあるんです。たとえあなたがF1ドライバー並の運転技術を持っていようが、BJだろうが上っ面が無いと世間一般では弾かれます。むしろ迷惑がられます」

「…………」


「能力というのはですね、他人のために使って初めて意味があるものなんです。持ってるだけじゃ意味ないんです」


「……」

「実は自分には力があってその力を隠してた。それは確かにかっこいいかもしれません。ですがそんなことする余裕があるのなら周りの迷惑を考えてください。あなた一人の社会じゃないんです」

「それはただのなれ合いよ。能力のあるものが勝つ。強いものが好きなように生きる。それが当たり前じゃない。それを否定したら、進歩は望めないわ」


 反論しながら、自分でも分かる。


 こいつには勝てない。


 そしてこれが多幸福感ユーフォリアの力…………


「なれ合いを否定したら駄目ですよ。それがこの国の素晴らしいところなんですから。それがあるから日本は馬鹿みたいに平和なんです。否定するなら他所にでも行けばいいじゃないですか。幸いあなた能力・・あるんですし」

「…………」

「でもあなたは出来ない。嘉神さんがいるここでしか生きていけないから。それ自体を否定するつもりはありません。ですがここにいる以上、もう少しなれ合ってください。たかが数百回犯されただけじゃないですか。たかが数千回殺されただけじゃないですか。悲しむのは桁を後四つ増やしてからにしてくれます? 」

「…………あなたは私の何を知ってるの!? 何様のつもり!! 」

「人間様ですよ。わたしは人間だ。あなたと違う。人間は他者なくしては生きてはいけない。なのにあなたは他者そのものを排除しようとしている。そんなの人間じゃない。いいえ、畜生以下の存在だ」


 悪魔のような意見だ。


 でもそれでも私は反論できなかった。


「人間は他人の奴隷なんです。社会の奴隷なんです」

「……私はそれでも人間じゃなくてもいいから、嘉神君の奴隷でいたい。負け犬以下の家畜でも生きていたいの。あなたには分からないでしょうね。生きる権利すら奪われた人間の生存欲求が」


 月夜幸は私の嘆きを聞き、何を思ったのか慈悲深い笑顔を作った。


「ではここで問題です。職場恋愛禁止どころか就職するまで一度も異性経験があってはならず、上司以外には無闇に異性との関わりを禁じ、洗脳され基本年中無休且つ無給、特に祭日は大忙し。そのくせ倍率は平均三倍以上。しかも落ちたら一生他の職に就けず蒸発を強いられている。そんな職業な~んだ? 」

「何よ急に」

「シンキングタイムは10秒。お答えください」


 そんなこと言われてもね……


「アイドル? 」

「ぶっぶー。答えはヒロイン」

「……何よそれ。ライトノベルの話? 」

「はい。すごいですよね。ワ○ミが真っ白に見えるレベルだと思いませんか? こんな職をやれる人はマゾかキチガイのどちらかです。あ、あなたは両方でしたね」


 多幸福感ユーフォリア抜きにしてマゾとキチガイに反論できなかったのが悔しい。


「わたしがサブヒロインなのはこういう理由からです。わたしは多少頭がおかしいところがあるかもしれませんが、マゾでもキチガイでもありません。人間です。わたしたち三人の中では一番まともだと自覚しています」

「嘉神君が一番まともよ。いくらなんでもそれだけは認めないわ」

「あなたの耳は節穴ですね」


 これ以上話をしてはいけない。


「帰るわ」

「まあまあそう怒らずに。綺麗な顔が台無しです。これでも見て心を落ち着かせてください」


 私の携帯にメールが来た。


「何よこれ……私この携帯には嘉神君以外からの着信全て拒否していたはずなのだけど」

「それ最早携帯じゃないでしょ」


 もう一台あるから生活には支障が無いわ。


「添付ファイル見てください」


 しぶしぶ見てみたが


「なに! これ!!」


 私と嘉神君がキスをしている写真だった。


 夕焼けをバックに嘉神君が私を抱きかかえてキスをしている。


 嘉神君の写真は万単位であるけど(そしてそれぞれがどの写真かちゃんと把握している)けれど、こういう思い出の写真は数少ない。


 衛星軌道からとった一枚しかなかったし、真上からなのであまりいい写真とは言えなかった。


 でもこれは違う。カメラ機能で撮ったのもかかわらず、何が伝えたいのかはっきりわかる。


「これあげますからもう少しお話ししましょうよ」

「あなた実はいい人ね。場所を変える? 」

「………………いろいろあなたを罵倒しましたけど、わたしがあなたの一番嫌いなところは、あなたは上っ面すらも考えていないことなんですけどね」


 やれやれと首を横に振っているが今の私には関係ない。


 この後どうしよう。


 オ○ニーは当然するとして焼き増しが必要だ。


「おいちょっと待て。お前ヒロインだろ。もうちょい品を持て」

「な、何よ? 」


 キャラがいきなり崩壊した。


「すみません。あまりの酷さに絶望してました。えっと……R-15ですし、伏字使ってますし大丈夫ですね。はい。早とちりでしたごめんなさい」


 自分でキレて勝手に納得する人。


「そんなに好きなら次は嘉神さんの話をしましょう。いいでしょ? 」

「ええ。いいわ。ただあなたが知っていることで私が知らないのはほとんどないと思うのだけど」


 嘉神君検定準一級。ただし問題を作るのも解くのも私一人しかいない。


「そうですね。ですのでお互い知らない所を考察しましょう。嘉神さんの過去についてです」


 そしてなんで準一級なのかというと私は彼の過去を知らないのだ。


 いや、大半は知っているのだが10年前の彼の足取りだけが全く掴めていない。


「まず嘉神さんの破綻した【正義】についてです。あの人にとって正義とは」

「困っている人を助ける。仲間を助ける。そして何より」

「「悪人を消す」」


 恐らく嘉神君にのって正義とは割合なのだ。


 100人のうち10人悪人がいる集団と、1000人のうち500人悪人がいる集団どちらかを殺せと言われれば後者だし、100人のうち50人と1000人のうち100人ならば前者……のはず。


「故に嘉神君は仲間を助ける。仲間は真っ白で、純度100の正義なのだから」

「全く酷い具合に破綻してますが、そうなった理由は何だと思いますか? 」


 それについて私は分からないが、何かがあったとだけは言える。


 10年前に何かがあった。その何かが彼を変えた。


 彼の行動は10年前を境にはっきりと変わっている。


 そして、彼の父親も10年前に殺し屋に転職している。


「さあ? 案外先天的なものじゃないのかしら」


 そしてこの情報をこの女に渡すわけにはいかない。


 私の僅かに残っているプライドがNGだと呟いている。


「…………わたしの【公僕】は後天的なものです。似たようなタイプなのであの人も似たような経験をしたと思っていたんですけどね。宝瀬さんも後天的なものでしたっけ? 」

「私は違うわ。確かにあの事件でトラウマを持ったけれど、だからと言って私の【愛】は生まれつきなものよ。そう宿命づけられているのだから」


 月夜幸の言葉を借りるのならヒロインの家系。


 先天的なものと後天的なものを両方持っている。


「あなた嘉神さんのどこが好きなんですか」

「愚問ね。全てが好きよ。

それでも強いて言うなら


死んだ虫を見下す冷ややかな眼が

他人の血を吸い続けた冷たい手が。

何度も死体を蹴ってきたその足が


その眼で見下されたい。その手でぶたれたい。その足で踏まれたい。


たとえ一日水を口に出来なくても彼の汗を舐められるのなら我慢できる。


仮に二日眠ることを禁止されても、彼の臭いを嗅いでいられるのなら幸せになれる。


万が一三日物を口にしなくても、彼の糞尿を得られるのなら間違いなく一週間生きていける。


そう確信をもって言えるくらい、嘉神君のことが好き」


「お……おう…………どうしよう。この人わたしの想像のはるか上をゆくキチな人でした」


 今日初めて月夜幸が狼狽え始めた。


 何だかよく分からないけど勝った。


「いえ……あなた誰より負けてるんですけど………気分が悪くなりましたのでこれで最後です。どこがではなくて何であなた嘉神さんのことが好きなんですか? わたしは顔と将来性です。仮にあの人よりタイプな人がいて将来性がある人がいればそっちに乗り換えます。サブヒロインなんで一途である必要はありません。ですがそれが普通のことです。一般的な人間はこうなので。で、狂人のあなたは、どういう理屈で愛し始めたのですか?」


 なんて的を射ていない質問をするのだろうかこのアマは。


 そんなの答えが決まっている。


「恋愛ってのは理屈じゃないの。切っ掛けさえあれば気がつけば好きになっている。そういう理不尽なことなの。切っ掛けはいろいろあるけれど、それ以外はどうしようもない理不尽で、理解不能なことなのよ」


 私の場合は少々強烈なものだったけれど、きっとそれじゃなくても私は彼を好きになれた。


 彼女は私の答えを聞くと、なぜか悲しそうな顔をしていた。


 例えるならそれは死を理解できない子供に父親を死を伝える母親のように。


 優しくそして残酷な宣告を下した。


「よくわかりました。これ以上授業に遅れると欠席扱いにされるので一言残して去っていきます。恋愛は理屈じゃない。なるほど確かにそれが真理なのでしょう。感情に理屈を求めたわたしがあなたより無能でした。ですが宝瀬さん。その言葉あなたにも返ってきますよ。恋愛が理屈じゃないのなら、あなたの大好きな嘉神さんがあなた以外の誰かを好きになる理不尽があっても仕方のない事なんですよね?」





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