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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
4章 八重崎咲と文化祭
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文化祭 3

「「「え?」」」


 キランと光った後いきなり妹を掴んでいた男が消えたため、その取り巻き達が慌てだす。


「あんまりこういう使い方はしたくなかったんですけどね」


 そう言って妹は床に落ちていたスケッチブックを拾い広げ男たちに中身を見せるようにする。


「お仲間さんは、ここにいますよ」


 広げたスケッチブックの中に、あの男の絵が描かれている。


 ただ絵というにはあまりにもリアルで、しかもその絵は停止せずに動き回っている。


『ここはどこだ!見えない!何も見えない!』


画用紙からからあの男の声が出ている。


 画用紙内に閉じ込められたと考えるべきか?


 どんなに動こうが、それは三次元の出来事、画用紙内という二次元に閉じ込められてしまったらどうしようもない……か。


「次はこちらからいきますが安心してください。さっきのようなインチキは行いません。あなた方に合わせて手加減してあげます、二次色の筆レインボードリーム


 今度は何かが書かれているページを広げ、ギフトを使う。


 スケッチブックから小人が数体出てきた。


「やっちゃいなさい。ただし無力化するだけで殺しちゃだめです」


 その命令を小人が聞き、男たちを襲い始めた。


「この小人!強いぞ!」

「振りほどけねえ」

「当たり前です。この子たちは一人で自動車持ち上げることが出来るらしいんですから」


 らしいってなんだよ。


 男たちにギフトを使う暇を与えず、小人たちは男たちを押さえつけた。


「これが最後です。降伏しなさい」

「分かったから、拘束を解いてくれ!」

「本当ですか?」

「本当だ!!」


 解放するにしても俺なら骨を数本折っておくが。


「分かりました。わたしも格下相手に少々大人げなかったと思っています」


 中学生のくせに偉そうな妹。


 そして取り巻き達に男が描かれていた画用紙を渡した。


「これ、30分経ったら元に戻せるようにしておきますからさっさとわたしの前から消えてください」


宣言通り本当に三分で終わらせていた。


「そこで覗き見ている兄さん」

「……」


 ばれていたようだった。


「覗き見るなんて失礼だな、俺はもし妹が負けるようなことがあったら颯爽と助けにいく準備をしていたわけで――――」

「わたしがあんなやつらに負けるわけないでしょ」

「そうかもしれないけどな、念には念をというやつだ」

「仮にも471位ですよ。わたし」

「超者ランクのこと?」

「はい。300位になった兄さんには負けますけど」

「は?」

「驚きました。500位から一気に200も上がるなんて」


 待て待て、それ初耳。


「知らなかったんですか」

「忙しかったんだ」


 これは本当。


 毎月更新されるのは知っていたが更新された時が文化祭の準備で忙しかったため期を逃したのだ。


 あんまり興味ないのが大半だが。


「で、覗き見たのを許す代わりに兄さんのギフト教えてください」

「嫌だ」


 ギフトを教えるというのは情報アドバンテージを捨てるのと同じだ。


 妹とはいえ他人、安直に教えることはできない。


「じゃ、こうしましょう。兄さんがわたしのギフトを当てることが出来たら教えなくていいです。ただ分からなければ教えてください」

「…………いいだろう。ただし質問は何回だ?」

「質問は無しで。何せ兄さんは勝手に戦いを見てたんですのでそれをヒントに。回答権は3回でどうです?」

「5回」

「3回」

「5回」


 お互い譲らない。


「4回で」


 妹が妥協したが


「5回だ。譲らない」


 大人げない兄がいたのだった。


「あーもう、分かりました。5回でいいですからちゃんと教えてください」

「絵」

「え?」

「絵を使うギフト」

「いきなりほぼ答えださないでください」

「じゃ、終わりで」

「いえ、正確にいえば違います。残り4回」

「二次元を三次元に昇華、三次元を二次元に劣化させるギフト」

「99%答えじゃないですか!」


 面白みがないとぶーぶーすねる妹。


「あーもういいです。降参です。答えは二次元を三次元に劣化、三次元を二次元に昇華させるギフトです」


 ダメな妹がいた。


 でもまあ、十分に強いギフトだ。


 発動するのに媒体が必要という欠点があるが、それを加味しても


「何が質問5回ですか。3回以内に収めないでください」

「はっはっは。妹が兄に勝てると思っていたのか」

「うー。以前姉さんにも同じこと言われました」


 すねる妹は存外に可愛かった。






 問題らしい問題はこの後起きなかった。


 予定通りギフト持ちがギフトを使ったり(具体的には時雨の雷電の球ライジングボールで火の玉等)、若干の寸劇をしたりした。


 パスタの予備材料がきれたのは午前の部が終わる20分前だったので、区切りがいいためそこで店を閉めた。


 売り上げは目標の倍どころか三倍以上の500売れた。


 追加請求したクラスで黒字になったら、請求額を返金しないといけないが、それを加味しても誰もが稼いだといえよう。


 必要最低限の後片付けを終わらせ、午後の部の自由行動に移る。


 俺は片付けの指揮を執っていたため着替える時間が無かった。


 この時間だと午後の部の人が着替えているので邪魔しちゃまずい。


 その間やることないので一人クラスで残りの後片付けをすることにした。


「手伝うか?」


 早苗。


「いやいい。暇だからやってるだけだし」

「そうか」


 早苗は何も言わずに机を運び出す。


「私も暇だからな。もしよければ午後一緒に回らぬか?」

「別にかまわないが」

「そうか」


 淡々と言っている早苗だったが妙に顔が赤かった。


「それでどこか行きたいところはあるのか?」

「特にないが、一年に顔出しを約束したから早めに出しておきたいのだ」

「じゃ、一年から回って行くか」


 で、着替えて一年十組が出している店に向かう。


「何やってるんだ?」

「占いだそうだぞ」

「地味だな」

「ただギフトを使った占いと大きく書かれていたから期待していいのではないか?」


 関係ないが俺のいた中学でほぼ100%の未来予知するやつがいたな。


「ここか?」

「うむ」


 見るからに胡散臭い。


 文化祭でなければ近づこうとすら思わないだろう。


「お二人様でですか?」

「ああ。二人」


 確か……暦美砂だったっけ?


「ではこちらにどうぞです」


 カーテンを潜り中にいたのは怪しげなフードに身を包んだ女の子。


 別名天谷真子。


「お姉さま!来てくれたんですね!!」

「うむ」

「ではこのお香を、ちょっと気分がハイになったり眠くなったりしますが安心して眠れます」

「それは遠慮しておこう」

「では……チッ」

「俺を見てあからさまに舌打ちするな」


 なんかもうものすごい嫌われているんだよな。


「やぁ。久しぶり」

「…………」


 何と言うんだろうか……ゴミを見る目ではない。


 そんな生易しいものじゃない。


 ギャンブルに明け暮れてその結果自己破産し、土下座してでもお金を借りようとしたかつての元カレを見る目のような、凄まじい目だった。


「あまにゃー」

「あ゛?」


 マジ切れ。


 怖い怖い。


「占ってくれないか?100円払うから」


 機嫌を取る。


「……」


 ここでやりあうよりさっさと従った方が早く俺が帰ると思っただろう天谷は黙ってサイコロを1個振る。


 1個振っただけなのにいつのまにかサイコロの数が増えていた。


 天谷の数を増やすギフト贋工賜杯フェイクメーカーを使ったのだろう。


「出ました。先輩は死にます」


 酷い占い結果だった。


「何年以内に?」


 俺はドヤ顔で質問してやった。


 オチは読めてるんだよ。甘かったな。


「……冗談です。死刑になります」


 あんま変わってない。


 というかこいつ絶対に占ってない。


「なあ天谷、ギフトを使って占うって書いてあったんだが、お前のギフトに占い効果あったのか」

「無いですがそれがどうかしましたか?ギフトを使って占うと宣伝してはいますが、占いにギフトが関わっているとは言ってません。現にサイコロを振るときにギフトは使いましたが、占い結果についてはノータッチです」


 外道ゲスい。


「詐欺だ。訴えてやる」

「騙される方が悪いんです」


 強かな一年だ。


「俺の態度は別にどうでもいいけどさ、お前ちゃんと仕事しているのか?」


 営利目的はないとしても最低限のことは守ってもらわないと。


「当たり前です。いくら豚でもあんまり存外に扱ったら人権団体が黙っちゃいません」


 あ、俺人間と見られてないらしい。


「じゃあクラスの男は何してるんだ?今んとこ見てないんだが」


 占い屋敷は人が少ないというのは分かるが……だとしても男がいないのは少し気になった。


「あ、豚どもは放し飼いにしています。準備と後片付けは全部男にやらせてます」

「お前最悪だな」

「いいんです。ギフトを使って占うと宣伝した以上ギフトを使わないとですが、ギフトを使える男は一人しかいないんです。サポートに回るのは当然です。分かったらさっさと帰ってください。でもお姉さまはここにいていいですよ」


 嫌われまくりな俺だ。


「あ、そういや天谷。クラスのギフトホルダーの能力教えてくれない?」

「なぜですか?」

「何となく」


 実際は何となくではない。


 一応何人かの後輩の能力使えるはずなので教えてほしいというだけだ。


「誰が教えますか」


 だよね、知ってたし期待なんてしていなかった。






早苗と一緒に出店を回る道中で真百合とエンカウント。


 真百合は生徒会の仕事があるとかで、午後の部は途中からしか参加できないと自分で言っていたが、その仕事はたった今終わったらしい。


 そして偶然俺達と出会ったとの言い分。


 であった時真百合はスマホで地図を見ているような動作だった。


「まるでGPSで俺の位置を探索していたみたいだな」


 と冗談めかしていう。


「……」


 真百合らしくないひきつった愛想笑いを返した。


「一緒してもいいかしら?嘉神君」

「俺はいいけど早苗は?」

「私は一向に構わんぞ」


 先客は早苗だったので許可をとるのが筋だ。


「じゃあ、拒否する必要もないし一緒に回るか」


 そうやって右手に早苗、左手に真百合という構図が出来上がる。


 両手に花?


 なわけないな。


 別俺達付き合ってないし。


「嘉神君はどこに行ってきたの?」

「まだ一年十組の占い屋敷だけ」

「そう。どうだったのかしら?」


 事の顛末を話す。


「全く酷いよな。ギフト教えてくれたっていいじゃないか」


 俺は軽い冗談のつもりだったのだが


「私、知っているわよ」

「え?」

「一年のギフト」

「は?」

「『は?』って言われても知っているものは知っているとしか」

「なんで?」

「自分が在校している生徒の情報は多少把握しておきたいじゃない?」

「何で知ってるの?」

「むしろ嘉神君は何で知らないと思えるの?」


 そうだった。


 別に忘れても何でもないんだが、真百合は日本の十パーセントを占める宝瀬財閥の娘だ。


 俺が知らないことでも知っていて当然だろう。


「教えた方がいいかしら?」

「えっと……」


 いざ本当に聞けるとなるとヘタる俺。


「頼みます」


 敬語に戻ってしまった。


「多分嘉神君が知りたいのは


大山仮生『獲った獣の皮算用アニマルマネジメント』人間以外の動物になるギフト。

暦美砂『教観福音書アポカリファ」』歴史を知るギフト。

空見伊織『八目十目サイトシーク』周囲を認識するギフト。

平絵心『絵に描いた画用紙キャンパスライフ』念写するギフト。

不動氷菓『氷結の女王フィギュアステイ』動かないギフト


の5つだと思うわ」


 うん、多分それで合ってる。


 俺が知りたかったのは依然コロシアイした時に事故でキスをしてしまった五人だ。


 一応システム上一か月以上前から使えたはずだが知らない物は使えないのでたった今から使えるようになった。


「私ずっと嘉神君が聞いてくるのを待っていたのだけど」


 待っていたらしい。


「何でこのタイミングなの?」

「気まぐれ」


 それ以外なかった。


「一樹は、あんまり自分のギフト信用していないのだな?」

「まあな。実際あんまり自主的に使う能力じゃないし、ギフトが無くても生きていけるのは間違いないわけだしな」


 他愛の無い会話。


 ずっと続けていたい平和な日常だった。


「嘉神さん、早苗さん。一緒でしたか。よければご一緒させてもらっても?」


 その後月夜さんが加わり


「ワタシも着いて行っていい?」


 八重崎も加わる。


 5人で回る出店。


 少し周囲からの目線が気になったがそれでも楽しいっていえる日常。






 当然なことながらそんなものが続くわけなかった。






 かき氷の早食い大会に参加し(3年5組主催)優勝した。


 ただその代償は大きく、腹を下してしまう。


 WCに駆け込み用を足し、手を洗う。


 その後何となく鏡をみた。


 後ろに女子中学生がいた。


 正確にいえば『中学生っぽい格好をした中学生の容姿をした女に見えるものがいた』だが。


 服装なんて自由に変えられるし、俺の周りには年齢詐欺をした女が多いので見た目中学生は中学生でない可能性が非常に高い。


 とはいえここは男子トイレだ。


 乙女禁制の未開の地。


 いくらなんでもこいつが女じゃなくて男の娘というオチはないだろう。


 だから注意しようとした。


 だが俺が声をかける前にたった一言その女は――――


「やっはろー。僕ちんだよ」





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