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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
3章 月夜幸と宗教戦争
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ハッピーバースデー

伏線回です。回収できるかどうかは分かりませんがとても重要なものです。

「ひがやあああああ」


 俺は恐怖により、全力で走り出す。


 右方から車が。


「ぐぼぁあ」


 ワゴン車に轢かれた。


 くるくると回転しゴミ捨て場まで綺麗な放物線を描く。


「おおしゅじんこうよ、しんでしまうとはなさけない……」

「勝手に殺すな」


 ただ全身打撲で、所々骨折している。


 って、今の誰だ?


「俺だぜ」


 この声は……神薙信一!


 俺が彼について知っていることはただ一つ。


 この男は変態だということだ。


「言っておくが、嘉神一樹が飛び出してきたんだぜ。だから俺は悪くねぇっ!」


 おっしゃる通りなのだが、なんかこいつが悪い気がしてきた。


 それにしても……神薙さんの素顔を初めて見たのだが、ふさわしい形容詞を思い付かないほどのイケメンだった。


 何て言うんだろうか、ミロの彫刻から足が生えて動き出すくらいのイケメンだ。


 格好は着物を着ている。


 俺は普段Yシャツだがきっとこの人は着物派の人間なんだろう。


 これはハーレムが作れるのも仕方ないな。


「それで、神薙さんはこんなところで何してるんですか?」

「女を連れた大の大人相手に『何をしてるんですか?』だなんて聞くのはどうかと思うぜ。だが一応答えてやる。答えは当然、ナニをしていただぜ」


 そうだな。うん。そうだそうだ。


「乗れよ。追われてるんだろ」


 うわっ。姉さんは走ってきた。


「はい。お願いします」


 神薙さんに腕を借りて乗車する。


 中には二人の女性が。


 3Pか。


 一人は、確か完全消去オールクリアのシンボル持ちで、もう一人は椿さんだったか?


「飛ばすぜ」


 神薙さんがアクセルを思いっきり踏む。


 Gがやばい位にかかる。


「あの……病院連れてもらってもいいですか?」


 骨が臓器に刺さっているっぽいので急いでほしいのだが。


「椿、治してやれ」

「はい」


 一瞬で治った。


「治癒能力ですか?」

「はい。私のシンボルは治癒です」


 ん……何か微妙。


 瞬きをするよりも早く臓器を含めた体の傷を治すのはすごいと思うのだが、一度勿体ぶった割には、たいしたことない気がする。


「どうしたんですか?」


 神薙さんが肩を震わせて笑っていた。


「この後、その思考を改めさせるのが楽しみで仕方無いぜ」

「心を読まないでください」

「失礼なことを言うんじゃないぜ。俺は地の文を読んだだけだぜ」


 小説じゃないんだから地の文とか言うな。


「そうそう。小豆。一応あれ消去しとけ」

「はい。了解です」

「何の話ですか?」

「お前の話だぜ。月の影響の一部を消去した」


 おお。


 これで津波の心配はないな。


 今日も安心して眠れる。


「って、何で知ってるんですか!?」

「………野外プレイをしていたらいつの間にか月がデカくなっていたのに気付いたという体で頼むぜ」


 絶対に今作った言い訳だ。


「おお。後ろをみな」


 振り返ってみると姉さんが走って追いかけていた。


 ハイヒールは脱いでいる。


 メーターを見てみると八十キロは出ていた。


「お、か、し、い、だ、ろ」


 なんだあの姉は。


 いくらなんでもネタの範囲を超えている。


「捕まってろ」


 神薙さんは更にアクセルを踏む。


「うぉおお」


 Gがやばい。宇宙船に乗っているみたいだ。


 乗ったことないけどな。


 ただそれにしても俺の家計おかしいだろ。


 ロリコンの父から始まりブラコンの姉、BLの妹、更には拷問好きの母だ。


「何で俺の家系は俺以外変態なんだ」

「突っ込まないぜ。俺が突っ込むのは穴っぽこだけだ」






 何とか姉はまくことができた。


 姉はだが。


「そこの車止まりなさい!」


 警察が追ってきた。


 そりゃ、時速二百で飛ばしてたらこうなるよな。


「嘉神一樹。ここで一つ俺の話をする」


 急に変なこと言いだした。


「今から二百年以上前の話、俺がかつてエロゲの主人公だった頃、一度に七人の女を孕ました。そしてとある事情のために世を捨てた。最終的にその子孫は嘉神、衣川、宝瀬、時雨、王陵おうりょう、枯野、空亡そらなきに名を変更した」


 これ物凄く重要な話だ!


 二百年以上前とか、俺達の苗字が入っているとか、王陵とか、マジで重要な話過ぎてここで話すべき内容じゃない。


「結局、神薙さんは何を言いたいんですか?」

「つまり俺は免許を持っていなんだ」

「………」


…………おい。


「当然運転技術はあるぜ。何ならゴーカートでF1に出て優勝してもいい。が、それと運転免許を持っているかどうかは別だろ?」

「そうですけど………」


 すげえ降りたくなった。


 いや、降りたいのは最初からか。


「分かったか?俺は捕まるとさらに面倒なことになってしまう。だから逃げる」

「えっと……ギフトだかシンボルか知りませんけど何か能力使って逃げたらいいんじゃないですか?」

「はあ。そんなものに頼ってばかりじゃ人間的に駄目になるぜ」


 そうかもだけどな………


 ギフトを多数持っている俺には耳の痛い話なのだ。




「着いたぜ」


 うまく警察の目を掻い潜り目的地までついたと思ったのだが


「ここ衣川さんの家ですよ」

「ああ。知ってるぜ」


 そう言って嘉神さんは俺にラッピングされた小箱を投げ渡した。


「今日は衣川早苗の誕生日だろうが」

「あ」


 そうだった。


 何でこの人知ってるんだよ。


「キャラ紹介(一章まで)の欄に書いてあっただろうが」


 だからこの人は何を言っているんだ。


 たまには俺にも理解できる言葉で話してほしい。


 ただ早苗の誕生日は五月五日なのは間違いない。


 そして今はもう十一時五十分。


 あまりこの時間に訪問するのは良くないことだが、ここまでアシストしてもらった以上はやらざるを得ない。


 俺はインターホンを鳴らす。


「誰だい?こんな時間に?」

「俺です。嘉神一樹です」

「何しに来た」

「早苗の誕生日を祝いに来ました」

「へえ。命拾いしたね」

「え?」

「もし娘の誕生日を忘れていたなんていったら組のモンをけしかけていたよ」


 そのドスの聞いた声に鳥肌が立った。


 あぶねええ。フラグ回避できた!


 神薙さんありがとう。


 俺は頭を下げる。


「ふっ」


 神薙さんは右手でサムズアップをした。


 俺も右手でサムズアップする。


「ついでにこれもやる」


 投げ渡したのはスマホのバッテリーだった。


 至れり尽くせりだ。


「行って来い」

「はい。ありがとうございました」





「うむ。何の用だ一樹」

「ハッピーバースデーを言いに来た」

「そ、そうか。わ、わすれてたぞ」


 絶対に嘘だ。


「一樹は覚えていたのか」

「当たり前だろ」


 嘘です。


「だったらメールの時何かあったのかと聞いたのはどういう意味だ」


 ギクッ!


 俺は急いでアドリブを考える。


「それはだな、早苗があまりにも楽しみにしているから普通にしたらサプライズにはならないだろ。だからあえてギリギリまで祝わないという仕様にしたんだ」

「そ、そうなのか」

「そうなのだ」


 嘘です。


「驚いた?」

「うむ。忘れられたのかと思った。寂しかったのだぞ」

「早苗、早苗はそういって寂しかったかもしれないが俺は今忘れていたという心外なことを言われて落ち込んでいるんだ」


 嘘です。


「すまぬ」


 早苗は俺に頭を下げた。


 うわぁ。さすがに罪悪感があるわー。


「じゃ、そろそろプレゼントを渡そうかな」

「なぬ!祝いの言葉だけではなかったのか?」

「当たり前だろ。俺を誰だと思っている?」


 十分前まで忘れていた男だ。


「誕生日おめでとう」


 俺は箱を渡していた。


「何が入っているのだ?」


 知らん。何しろ俺が買ったものじゃないからな。


「開けてからのお楽しみだろ」

「では開けていいか」


 うーん。神薙さんを信用してない訳じゃないが、ここで変なものが出てきて場の空気が悪くなるのは嫌だからな。


 そうなった場合に備えて俺は早くここから離れたい。


「恥ずかしいから俺が出ていった後にしてくれ」


 うん。何もおかしなところはないな。


「そ、そうか。ではどのようなものかヒントを教えてくれ」

「むむ」


 どうしよう。こうも期待を込めた目を向けられるとな。


 曖昧に返すか。


「あんまり高いものじゃないからそう期待はしないでくれ。ただそれでも喜んでくれたらうれしいものだ」


 完璧だろう。


 これで悪くても良くても違和感がない。


「じゃ、また明日。学校で」


 なんとか誤魔化せただろう。


 俺は帰るとき早苗が走って向かってくる音を聞いた。


 怒ったのかと思いダッシュで逃げる。


 外にはワゴン車が。


 なんと神薙さんは待っていてくれた。


「乗るか」

「はい」


 俺は逃げるために急いで車に乗った。


 すぐに電話が鳴った。


「一樹?あれはどういうことだ!?」

「気に入らなかったか。ごめん。ごみ箱にでも捨ててくれ」

「違う!嬉しかったのだ!本当にありがとう」


 そうか。だったら逃げるのはミスだったか。


「だがあれはどういう意味だ?」

「どういう意味とは?」

「本当に私がこれを貰っても良かったのか?」

「当たり前だろ」


 俺は何をあげたんだ?


「真百合じゃなくてもか?」

「何で宝瀬先輩の名前を出しているんだ?今は俺と早苗の時間だろ?」

「す、すまん」


 謝りながらも、にやけているような感じだった。


「これを私は明日からつけるべきだろうか」


 おお。どうやら身に着けるものらしい。


 アクセサリーかな?


 誕生日プレゼントとしては妥当なところか。


「いや、校則で身に着けたらいけないってもんがあったからな」

「そうか。ところで一樹、お前は法律に詳しいのか?」

「早苗よりは」

「む。まあいい。それで男女はいつ結婚できるのか」


 何故このタイミングで?まあ聞かれたから教えるが。


「男女ともに十七だ。昔は男子が十八で女子は十六かつ親の同意が必要だったが、今は同意なしで両性とも結婚できる」

「ところで一樹は何歳なのだ?」

「十六だが」

「誕生日は?」

「一月二十三日」


 今この話は重要だろうか?


「だいぶ先ではないか」

「まあ。こればっかりは仕方ないだろ。俺も早い方がよかったんだ」


 もしかして早苗は俺にお返しをしてくれるのだろうか。


 うん。きっとそうだな。


 楽しみにしておこう。




「送ってくれてありがとうございました」

「気にするな。俺とお前の中だぜ」


 特にオチはなく神薙さんは俺を家まで送ってくれた。


「早苗の件ですが本当にありがとうございます」


 一体誰だ。この人を信頼するなと言った奴は?


 噛ませロリコンだったな。


「神薙さんは裏表のない素敵な人です。はい、復唱」

「神薙さんは裏表のない素敵な人です」


 全くだ。こんないい人他にはいないな。


「では、縁があるからまた会おうぜ」


 そう言って神薙さんは去って行った。




 主人公が外道のように見えるかもしれませんが、神薙さんが表裏のない素敵な人のせいでそのように見えてしまいます。

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