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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章前編 悪意差す世界/スベテが終えた日
347/353

信世界の中心で○○を叫んだカイブツ

初めて海外の方から感想いただきました。

その方から翻訳だと読みづらいのでもっと優しい言語で書いてほしいとご意見をただきましたが

多分日本人も同じ感想なので、それは仕様です。


 手も足も存在しない私にできることは想うことだけ。


 なにかこの場を切り返す良い策を、考える。

 考えた結果向いていないことが分かった。


 私が出来るのはその人がそう思うことをなぞること。

 道筋を考えたりするのは私の苦手分野だ。


 得意と言えばやはり真百合。

 何か突破口はないか、真百合との空亡惡匣の攻略法についての会話を頭の中で振り返る。


 全ては時にして最大にはならない。

 この世にはマイナスという存在がありそれを含めた総和は含めない総和よりも小さい。


 だからこそ、空亡惡匣の「全てですら己の一部」理論には隙があり、全てを語る相手にシンボルは勝つことが出来る。


 あの時はシンボルがなぜうまれその優位性はなんなのか、が話の主題だったのでそこで打ち切ったが、話そうと思えばもっと続けることが出来た。


 私達は分かりやすく話をするため、マイナスという概念を出した。

 人類すべての総資産を足すことは、金額の最大値にはならない。

 マイナスを省いた額の総和の方が大きくなる。


 ただマイナスという存在を考慮しなくても、“全て”は最大にならない。


 ごちゃごちゃいうより一例を出す。


 1から9を全て足すより、9を9回足した方が大きいし、FをF回足した方が大きい。

 子供っぽくいうなら、全世界の資産よりも、全ての人間が1兆円の資産を持っていると仮定し、その場合の総資産の額が大きい。


 これが神薙の信世界の理屈。

 現実的にあり得なかろうが、理論的にはあり得るのだからそれをなし得ないのは怠惰であり情弱。


 この世のありとあらゆる数字で表せるものを、そのものの最大値、つまり無限を用いて置換する。

 人の数も想像の数も力の強さも皆無限。


 大小を決めるなら最大値以外いらないし、最多以外不足

 1~8の要素を強引に9に変え、さらにそれを総冪する。


 1111層の階層からなる旧世界は無限層に置き換えられ

 妄想から生れ落ちる新世界は一つの空想で同型が無限に産み落とされる。


 零にして全が空亡惡匣なら

 一にして無限が神薙信一


 そう考えると、合計値は最大値になるとは限らないの喩えをもしかしたら真百合は分かっていたかもしれない。


 この信世界に言いたいことはあるが、ひとまずその言葉は次に奴に合った時だ。


 今はまだ勝負は終わっていない。

 私はまだ忘れていないし、諦めていない。


 ○○を救う。そのために、神薙をなぐ………


 これもダメなのか。

 ―――――思考が出来ない。

 やり方が分からない。


 手も足もなくなったのだから、そんな理屈ではない。

 信世界に■は存在しない。それに至る行為もできない。

 そのための手段をとることが出来ない。


 ××も同じくなくなった故、戦う行為が起こせない。

 抜け出そうにも◆◆がないから上下がない。

 より強い力で抗うその概念がない。


 考えてみれば当たり前のことだ。支配者は下々に抗う抵抗や革命する手段を残すのは愚策と言える。

 刀狩り、銃刀法、上は下に戦う術を用意することを良しとしていない。

 ならば神が人にあらがう余地を残している時点で、本来統治としては失敗している。


 信世界なら、それが存在しないし存在できない。

 この理論値の世界に抗うなんて間違った思想は産まれてこない。

 あったとしても、それを行う手段が存在しない。

 革命や反逆を出来る出来ないではなく、あり得ない考えられないまで落とし込んでいる。

 どこまでも人のことを考えない理論上最大の世界だった。


 人が愚かで劣等である。

 だからこそ成長し進化できる。


 昨日の自分に勝てるということは、明日の自分に負けるということ。


 そういう本音が聞こえるようだ。


 最大値を取らない存在は、その時点で信世界によって成長進化をしてしまう。

 私がこうして頭だけ残っているのは、心の強さが神薙の最大値より上回っているからで、そうじゃない他の全ては信世界ベースに置き換わった。


 ま、とはいってもやることは変わらない。

 心が強いだけでここまでやってきた。最後まで心の強さでシンボルを扱おう。


 …………


 私はこれまで絶望したことがないしこれからもしない。

 ただ神薙に挑んで初めて無理かもしれないと思い立った。


 シンボルが私の思う効果を発揮できない。

 連想されるのは酸素が薄い部屋のろうそく。電池がきれかかったライト。


 その答えはすぐに分かった。


 シンボルは個性。

 何を思い、何を考え、何をするか。

 その人その人間のアイデンティティ。


 一方、信世界はどうだ。


 愚かさを否定する信世界。欠点や弱点を補い最高のカタチにする信世界。

 彼らに凹凸はなく、全てが大きく丸い。

 だから信世界の住民は新世界の住民より、はるかに強くはるかに賢い。


 だが同時に、欠点が無いということは個性が無いと同義ではないか。

 数学が得意と言うことは、それ以外全てが数学より劣っているということで、それこそが個性だ。

 たとえ全教科100点という特性を出したところで、それをクラス全員やってのければ個性足りえない。

 個性とはつまるところ、長所ではなく短所なのだ。

 私達が長所として見せているのは、まだ人に見せられる部分だけ。


 99でカンストしたステータスは個性的とはいわない。

 信世界は長所しか存在しないのだから、個性がない。


 だからシンボルもその効果が薄れる。

 ただ一、神薙を除いて。


 今の私がこうして賢い思考が出来るのも神薙のおかげだから分かる。

 もうすぐ潰されるのだと。


 新世界は神薙信一が旧世界の遺物を捨てられず、神薙信一のスケールで再現した世界。

 始まりの神の理によって作られた、矛盾し異常が発生する不完全な現実を、無理やりアップデートした存在。


 信世界とは、

 神薙信一が他者に合わせることを止めることによって起因する本来の正しい世界。

 誰もが頂点で欠けることのない完璧な世界。

 成長する余地がある以上、万物は必ずこの領域にたどり着き、そして悟る。

 ここは生きて平和で満ちて平等。

 私達は無限大無限個の世界を生むだけの機関に進化する。


 無論、それに抗う手段はおろかその概念すら存在できない。

 劣等から産まれる個性は存在しない素晴らしき世界。


 誰もケチをつけることが出来ない。

 愚かな私達は、強く賢くなるために、必ずここにたどり着く。

 道の終点、理屈の回答。


 だからこれに文句をつけるのはただ一人。


「つまんねぇだろ」


 信託が下りてきた。

 私達だけが改善し、神薙に合わせる。


 だから奴だけは変わらない。


 ただそこにいる。それだけで、此の世の果てと直面した気分になる。


 ここまできて思ったことを率直に言おうか。


 お前、普通にやっても空亡惡匣に勝てるじゃないか。


「初めから、勝てないとは言ってないぜ」


 私の記憶だと厳しいって言っていたぞ。


「最終傀を使えば必勝。究極の超悦者を使えば確殺。最果ての絶頂では無理なだけだ」


 …………まぁこいつはいけしゃあしゃあと。

 すこし壁を見せたと思ったら、すぐこれだ。

 はるか高みで笑ってみせている。


 自分を人間だと魅せることが目的だから、初志貫徹しているともいえるが。

 本当に言えるか?


「俺はσφの討伐は人間の領域で到達可能だということを示し、俺が人間であることを証明したい。証明することができない最終傀は論外として、究極の超悦者も神薙信一を用いた証明であるから循環証明となり不適格」


 証明をすっ飛ばす最終傀も、神薙信一を用いた究極の超悦者も、神薙の都合で使えない。


「とはいえ、ネームドやリミット程度では足りないわけだ。力不足で申し訳ない」


 私ですらある程度の攻略が出来たこの二つは、明確に神薙の中では劣っている。

 他人のスケールアップ。全ての能力の拡張。

決して、空亡惡匣には届かない。


「だから、今の俺が証明のために戦うとしたら、信世界だ」


 全てを自分だと主張する空亡惡匣

 全部書き換え改善する神薙信一。


 どちらが上か。


 全てを足し合した空亡惡匣、全てを掛け合わせた神薙信一。

 1から10を全部足した場合。

 10を10回かけた場合。


 まっとうに考えれば神薙の方が強い。

 文字通り次元が違う。


「σφは俺の世界も自分の一部だと抵抗する。俺は全部に対して改良を行う」


 理論値も含めた空想も、全部が自分と空亡惡匣は主張する。

 そしてまた神薙も空想相手に理論武装で改良する。


 どちらも雲の上の理論だが、速度が違う。

 空亡惡匣は全部を足して、また足しての繰り返し。

 神薙はかけて変えてかけての繰り返し。


 理論が違う、次元が違う。


「勝つ自信はある。というよりほぼ確実に勝てる」


 自明の自白。

 普通に考えれば、十中八九、九分九厘、神薙が勝つ。

 数字を出せば空亡惡匣が勝てるのは文字通り、無限分の一


 ただ違う。完全なゼロじゃない。

 ∞分の一だろうが、数学の定義上は0だろうが、


「だが絶対無欠じゃない」


 次元が混じる1点がある。その事実がある以上、信世界だけでは戦えない。

 次元一つ落とせば負ける要素がある。だからこそこれだけでは挑めない。


人間証明これはあくまでも俺の勝手だ。ほんの少しの取りこぼしをする余地があるのなら、この選択は選べない」


 そうだろうぞ。お前は愚行に走っているが愚者ではない。

 他の誰ならともかく、空亡惡匣には絶対に勝つ勝負しかしない。


「信世界を更に伸ばせばより確実になるだろうが、そもそも信世界を好いてはいない」


 それもだろうぞ。こんなマジレスビート、好みじゃないのは分かる。

 個性の否定なんてお前が一番嫌う所だろう。


 何もしないと信世界になる。だから最果ての絶頂で己を縛る。

 その結果出力されるのが新世界。それでも変わらず頂点。


 強すぎるというものも難儀なものだ。


 友もいる。愛するものもいる。子供だっている。ただ対等な者がいない。


 とっくに諦めているとしても、せめて次に来るものは好きな人であってほしい。

 間違っても、神薙信一に最も近しい存在が空亡惡匣なのは嫌なのだ。


 自分ではなく、他人に空亡惡匣を倒してほしい。


 諦めと達観からくる、妥協の願い。

 可哀そうだとも不幸だともいわん。


 神薙の強さがあれば全ての問題を簡単に解決できるだろう。

 そのデメリットが孤独なら、甘んじて受け入れる。


「で、だ。早苗は自分がσφを倒すといった。この有様でか?」


 返す言葉もない。

 空亡惡匣はこの状態でも数手を差すことはできる。

 最終的には力の差で押し切られるだろうが、何もできないわけじゃない。


 一方私はどうだ?

 何もないし何もできない。


 ただ思うだけの存在。


「全てを自分だとのたまうσφ相手に、シンボルを誤認させて複数のシンボル持ちとして相手をする。発想はいい。最終傀を持つ俺にはできない手段だ。だが、心なき存在に無力。俺は人を起点に強くなるが、人でないモノに対しての返し手が圧倒的に足りん」


 私のシンボルは神薙だからぶっ刺さった部分もあるだろう。

 人を重視する奴だから、私の奥の手が通じた。


 だが空亡惡匣は人と関わらないものも一部とするし、人とそうじゃないものも区別しない。

 衣川早苗が心を起点としている以上、心がないモノ、本来の意味でのAIやただの物質や現象に無力。

 言わんとしていることは正しい。正しすぎてどうしようもない。


 衣川早苗は空亡惡匣に絶対に勝てない。


「だから、どうする? どうしたい?」


 …………


 腹もないし、喉もないし、口もない。

 のっぺらぼうの私は何も音を発せない。


 奴がここにいるからだろう。信世界はより濃くより固くなった。

 これ以上は、私が保たない。


 これまでは神薙が心を読んでくれた。

 これからも勝手に心を読むこともあるだろう。


 今もこうして思っていることを読者視点で見れるだろう。


 私の思い、私の決意。

 だからこれはきっと無駄なことだとしても、意味なんて無いとしても


 最後の一滴を振り絞る。


『共に、戦おう』


 私の答えを、心で伝える。

 光も音もない世界でどうやったかは言葉にできない。


 念での通話か、もしくは幻聴を利かせたか。


 新世界で――確実に勝てるようその――出目を潰す。

 ほんの一手の――――補佐をする。


 届きうる隙間――そこを埋めよう。

 確実に勝てないかも――――しれないと――不安視しているお前に、確実――に――勝てると――思わせてやる。


 人は――人と人とが支え合って――――出来ている。

 もしくは上の人が下の人を――足蹴に――している。


 どういう由来なのか―――――無学な私には分からないが


『そうしないと、きっと寂しい』


 共闘こそ――――人の特権じゃないか。


「そうか。ならば、俺の答えを言おうか」


 光も音もないから、奴の意思だけを聴き

 信世界に呑まれ――衣川早苗の存在は崩れ落ちた。






























 新世界は数刻をもって形を思い出し

 生物はその在り方を取り戻す。

 光も音も復帰し、記憶も全部ロールバックが行われる。


 奴が保存したその時の状態に戻されたのだと分かる。


 ここが世界の中心で奴の前に私がいる。


 かつて仲間だった強者は、今はもはや畏れや敬いをもって私を見る。

 決して届かないと思われる領域に愚かにも挑み、それに触れた阿呆の娘だ。関わることを避けるのが吉と考えているのだろう。


 そんな眼鏡をかけているから、誰も私の足元に気づけない。


 それは確かに五体満足の身体があった。

 名前も既にある。

 髪は……修正液で塗りつぶされたような真っ白になっているが、これが本来なのだろう。

 純度100%のまじりっけのない男だ。


 私が愛した男だ。


 死ぬよりもひどい目にあっていたであろうこいつを

 できるだけ優しく抱きしめた。


「おかえり。一樹」

「……………………ただいま」




前編が終わり、中編が始まる。

この章が一番長いって明言してるしセーフ


ちなみにもう○○あつかいしなくていいよ。

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― 新着の感想 ―
少しきになったことがあって 信世界について ・この世のすべてが「無限」に置換された世界 ・事象や概念などが完全になくなった世界 ・個性がなく長所しかない完璧な世界 というのはわかったのですが、神薙さん…
[一言] やっとこもとに戻ってきた元?主人公。もう、強さ的にはぶっちぎりでマユサナに差をつけられてしまったが、こっから挽回できるのか。もうあんま強くなさそうに思えるキスして能力をコピーする設定はどこか…
[気になる点] 新世界は 人が漫画や小説を読んだり、ゲームをしたら想像・妄想で無数の世界(宇宙)が創造され、その世界の人々も同様のことが可能かつ上位の世界の創造が受け継がれてそれが無限に連鎖して増えて…
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