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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章前編 悪意差す世界/スベテが終えた日
344/353

本物より強い怪物(ニセモノ)と本物より強い××(ホンモノ)

「エックス・セル・フィネストラ」


 討伐宣言と同時に発言したのは人の名前で、一瞬視えたのは翡翠色の魔法使い。


 広がるは一面に煌びやかな花畑。

 見るだけで人を幸せにするような光景。


 (花粉症の人を除き)幸福の象徴が一面に広がる。


 違和感。


 これの意味が分からない、花畑そのものに意味はないことが分かるが、だったら何でこんなことしているか分からない。

 リミットはもう私に効かないというのに。

 なのに訪れる理不尽な力。


 削られる。

 生まれて初めての不安感。

 心がドリルで粉砕される感覚。


 確かな喪失。


【なんだこれは」

「ただの魔法だぜ。勿論この新世界に魔法という概念は採用していないが、だからと言って俺が魔法を使えないわけじゃない」


 全ての能力を無限に持っている能力としてではない。

 純粋な技術や素質で、存在しない概念を再現している。


【ネームド、か」

「そういうことだ。ある意味同じ境地というわけだぜ」


 私のシンボルは、本物以上にそのキャラが思うことを思うことで、定義としてそいつになり替わる本物以上の偽物。

 神薙のネームドは、神薙にとって不合理な動きを真似することで、そいつの到達点の先を見せる本物超過の本物。


 似た技術、似た思想、似た理屈。

 出力だけが、圧倒に異なっている。


「正体は奇麗な花畑を出す魔法だぜ。気づいている通りこれに全く意味はない」

【だったら何だこれは」

「使っているのは俺の魔力じゃない。衣川早苗の、魔力だ」

【ふざっ」


 スタミナとかMPは、自分のもので消費しろ!


【他人の魔力で! 魔法を使うな!」

「俺の魔力を使ってもいいのか? ご所望ならやるが」


 …………


【だとしても他人の魔力で魔法を使うのは無法だろうぞ!」

「魔法使いだぜ。古今東西どこにあろうが、魔法を使える奴の称号だ」


 ゼッタイに違う。

 魔法使いに謝ってほしい。


「ちなみに、魔力じゃなくて精神力を魔力に置換して使ってる。非効率で」

【道理で初めての感傷か」


 この心の傷は真百合が受けたら秒も持たんだろう。

 というか人が受けていい痛みじゃない。


 全人類に分割しても発狂死するんじゃないのか?


【なんでこんなことを、らしくないぞ」

「怪物を倒すのに、スリップダメージを用いるのは人として当然だろう?」


 心に毒を仕込んだ。と奴は言う。

 らしくない、一撃で倒せるくせして、それを回避するために、自分が嫌いな精神に干渉する攻撃を行うなんて。


 だが分かる。

 今は自分のポリシーよりも、楽しみたいのだろう。


 悪いと思っていてもやめられないことはある。

 私はやらないが、やる人の気持ちは分かる。


「日陽火コロナ」


 背景に映るは昼行灯のサムライ。

 兄という妄言に取りつかれた世を捨て世からも捨てられた遺物。


 それは分かったのだが、どういう攻撃なのか分からない。


 もっと詳しく言えば、私の全細胞を斬った斬撃だというのは分かった。

 それが何かは分かっていない。


「剣を持たねば斬れない。剣を振らねば斬れない。バカらしいと思わないか?」

【これもそうだが、サムライなら剣を持て」


 奴は無手だ。それが一番強いのは分かっている。


 離れた肉体は心の力で引っ付けるが、再度微塵に切り刻まれる。


「一振りで一回しか攻撃できないなんて弱くね?」

【せめて剣を振ってからのたまってくれ!」


 そういいながらある部分を理解した

こいつらは神薙に合ったことがある人たちだ。

 

 超越し、到達し、逸脱した輩たち。

 世界を置いていったくせに、神薙に置いて行かれた衆


 新世界がなければ、私の代わりにここにいたかもしれない人たち。


「つまり、勝てと言ってるのか」

「そうなる、次はこれだ。不可思議有子」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

【----ッ!」


 見えたのは金髪にそめた日本童


 ぞっとした。

 女は九つの穴があるから「女」と書く逸話があるが、その穴という穴全てに液体窒素を流し込まれたかのような感覚だった。


 目の前に広がるのは神薙信一の集団。

 夥しく広がる連なる彼らの圧は、これが幻覚でないことを確かに語っている。


 何もかもが終わったと判断してしまうほどの質量と数多。


 ――――ちがう。


【っん。待て。大丈夫だ。シンボルを持つことに代償があるとするなら、それは完全な個であること。神薙信一は一人しかいない。だからこれは、偽物」

「その通り。アリスという女は自分が不思議な国のアリスの登場人物だと思っている一般童。自分や他人が思っているアリスという概念を自分として出力する特技をもっている」


 新世界の理に、たった一人で実現したのか。


【愉快な奴だな! 殴った後で紹介してくれ!」

「任せろ。参ったといわせた後に好きなだけ紹介してやるぜ!」


 もうここには二人しかない。

 人も神も超悦者も、その先に到達したものですら、私達を認識できない。


 時雨も、四天王も、帝王も、真百合ですら置いてきた。


【それに的を増やしてもいいのか!?」

「問題ない。当たらない」


 当たったら勝ちというルール

 無限に存在する体積なはずなのに、当たりはしない。


 ふざけやがってと思う。

 私が作った無限を超える光の掌よりもはるかに多く顕現しているというのに、何一つ当たらない。隙間なんてないはずなのに、定義の上を言って当たらない事象を引き寄せてくる。


 ぺしりぺしりと、じゃらしで叩くような弱い攻撃を、私の手に伝わる。


 痛みならば耐えられる。なら痒みやこそばゆい衝撃ならどうだ。その判断だろうが


【効かぬといっておろうが!」

「女騎士っぽい容姿してるんだから、こういうの負けると思ったんだが」

【抜かせ!」

「だったらこれはどうだ。シャンクパドマニール・カラブアラブラーク / 阿頼耶沙」


 奴の掛け声とともに天から召喚されるは、合金の巨大ロボット。


「科学技術の英知の結晶。レア鉱石をふんだんに使った人型兵器だ。どうだ、かっこういいだろ」

「ま、まぁ」


 ロボットはかっこいいと思う。

 ただ全長がでかすぎて、宇宙の端から端が足幅になるのはどうなものか。


「いけロボット、R(リアル)IインパクトPパンチ


 愛着があるかないか分からない名前で、宙から超巨大のパンチが振り落とされる。


「因みにこの素材、こんにゃくより柔くオリハルコンなんかよりも堅く、気体液体個体の性質を併せ持ち、酸化も還元もせず、電気も通さず熱も衝撃も内部には通さない。更に搭載しているエンジンは星の開闢から終焉までを1秒でシミュレートできる人工知能を搭載しているんだが何か言うことは?」


 めっちゃ早口で言ってる。


【それは人肌よりも強いのかぁ」


 振り下ろされる拳に合わせ、私も拳を掲げる。

 一瞬の沈黙、一瞬の崩壊。


 ロボットは光の粒子となって消えて斬った。


 そのままの勢いで、奴に拳を叩きこむ。


「だよなぁ、七南那奈々菜」


 〇の●が○○○○


【●だ? これは」

「七南那奈々菜、名前があるということはそれを観測し名づけた存在があるということ。必然、そこには上下関係が存在する。故に、彼女の前では名前のある存在が、支配下に置かれる。名前のある行動、名前のある存在は決して俺には届かない」


 ●●●●○○、××


【天上天下唯我独尊、私がここに在ることに、上も下もありはしない」


 私は衣川早苗だ。

 それが先で、理屈や能力が従属する。


「力業か? もっとスマートに解決しろよ」

【お前もそうだろうが! 神薙ぃ!!」

「じゃあ、趣向をかえてやろう」



挿絵(By みてみん)



 な、なんだ?


「挿絵? いや、こんなこと起きてない……」


 口で言っても違うのは分かるが、これどうすればいい?

 どうやって防げばいいか分からん。

 絶望的なことだけしか分からん。


 それが何なのか分からぬまま、


 起きることが起きたことが理解できない。

 何をされるのか全く分からない。


 英語で話されても分からないように。


 起きる事象が異なる言語で置換されるようなものか。

 メタを認識できない人間が何をされるのか分からないように。


 何が起きているか分からない。


「―――――!」


 とりあえず分かったのは、敗北したこと。

 無惨に散り、敗れ去ったことだけ。


「最果ての絶頂。全ての能力を無限に持っている能力。これをオートマトンとして考えて人の数よりも少ないと考えた。実にgoodだ」


 私達が攻略したと思っている、最果ての絶頂だと?


「だが悲しいかな。最果ての絶頂の能力というのは、文章で書かなくてもいいんだぜ。文章で表現できない、つまるは画像媒体での異能」

【読者何やっているか分からんだろ!」

「でも攻撃としてそこにある。表記もある。理解できないだけで、害意がそこにある。因みに回避とか防御は出来ないから。対抗したいならその媒体で主張したらどうだ」

【出来るか!!」


 そこまでわからん! し読めん!

 まさか文字媒体以外で攻撃されるとは思ってなかった!


 真百合との使ってくる能力の予想も立ててなかった。


「とはいえこうできるとは言ってないからな。出題側の不備だ。最果ての絶頂の攻略はしたことにしていいぜ。だが一画はもらう」


 結局何が起きたか分からず、ただ負けた事実だけが残る。


 残り1画しかない。

 これ以上の遅延は出来ない。


「次はどうする? 呪いか? 道具使ってもいいぞ。未来技術もありかもな。ゲーム世界理論を展開するのいいな。それともやっぱりフィジカルで挑むか? なぁあ 早苗! もっと俺を楽してくれるよなぁあ」


 奴の狂喜は最後まで見れなかった。

 至極当然、この世すべての力を用いようが、対峙した時点で、対峙するまでが限界。


 ここが今の私の到達点。


「限界か?」


 最強らしくない発言だった。

 携帯を床に落としてしまった、怯えたような声色。


【そんなこと言うな。私は怒っている。だが向ける感情は感謝だ」


 そしてもう一つ。

 未来永劫孤独にしてしまってすまない。


 なんてことはない。私達がもっと強ければ、こうはならなかった。

 今ならわかる。


 心の頂点に達した私は、神薙の心もわかる。分かってしまう。

 唯一無二の同類。


「生きていてありがとう。一人にさせてすまなかった。私達はまだまだやれる」

「……」


 そりゃそうだ。

 当たり前だった。

 なんでみんなこんなことを、思ってやれなかったのか。


 神薙だって泣くのだ。


【お前は人だよ。私よりかは」


 心という一点で、私を人に分類できる人はいない。

 力ならば神薙、心ならば衣川。


 ただそれだけの話だった。


【……………だが、これで最後だ。正真正銘、次私がやることを防がれたら今これ以上はない」


 1か月間ずっと練っていた作戦。

 その最終プランに移行した。


 これが終わったら私は策がない。

 諦めず足掻く以外の手段がない。


「そうか。だったら、どうしてほしい」


 大好きなデザートを最後に残した幼子は、舌なめずりをしながら待っている。

 プリンにカラメルソースがかかるのを待っているように。


【出力勝負がしたい。これから私は殴る以外の手段でお前を攻撃する。黙って受けて欲しい」


 結局はこうなった。

 私がどれだけ他をぶっちぎろうが、神薙との差は歴然。


 真っ当な手段で届くことはなかった。

 あとは神薙の判断。

 私が空亡惡匣に対抗しうるか否か。


 思わなければ受けないだろう。

 何しろこれを受ける理由がない。


 もう十分遊んだか、また次も遊びたいと思うか。


 向こうからあと一歩歩み寄ってもらわないといけない。


「もう一声」

【投稿日が2/22。お前の誕生日だ。特大の一撃をくれてやる」

「やれ。もらう」


 両腕を大きく広げ一切の回避行動をとらないポーズをとった。


 奴は私が何をするか分かっている。

 これは本来なら防ぐ攻撃だ。


 正真正銘、衣川早苗の最後の切札だから受ける。


 これは最後の祈りだ。

 大きく息を吸う。深呼吸は一度でいい。


 心はもう全快。

 全心全霊の一撃。


「倖せ(ソング)」


 長さだけなら誰よりもずっと思い続けていた。

我が親友のシンボル。


「の(オブ)」


 誰よりも幸せを願ったお前と

 誰よりも強い心を持った私による


「――――ユキ!!!」


 幸せにするシンボル。


 人も神も変わらず、幸せになることは耐えられない。

 快楽? 悟り? 絶頂? そんな形容はできない。


 至高の幸福。


 刹那にして永く、須臾にして遠い。


 どうなったか見る余裕はない。


 達したと信じて振りぬくしかない。




 私の、拳は―――――






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― 新着の感想 ―
[気になる点]  だからとっとと全ての能力がシンボル化した精神状態にしてろよと思いました。 [一言]  早苗の精神力が過大評価されていると思いました。
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