深赫紅蓮獄景 涅槃如安緋想天國
アンケートありがとうございました。
まだ募集しているので好きなキャラや能力を教えていただいたりすると幸いです
他にも好きな対戦や好きな章なんかも教えてもらえると嬉し初です
現時点得票数は神薙さんが過半数をしめており、2番目が真百合さんです。
作者の認識と読者の認識があって満足
【実を言うと一手、切札があるのだ」
「……」
神薙の表情を私は見ていない。
笑っていただろうか? それとも怒っていただろうか?
「なぜここまで使わなかった」
耳では分からない。
だが、心であれば分かる。
その音に喜怒哀楽全ての感情を孕んでいる。
予想外のことが起きた喜び
知識があるからこその怒り
定められた裏切りの哀しみ
それでも期待する楽しさ
【これは、最強の一手……ではない」
練習すら出来ない切札にして鬼札。
正真正銘最後の禁じ手。
【グーではなくパーなのだ」
度々話題になったことがあるじゃんけん理論。
グーチョキパー三竦みは、それぞれがそれぞれに勝つ状態は誤り。
最強であるグーがパーに勝ちを譲っている状態。
ナメクジは蛇に勝てないし、象は人に勝てない。
相克は強者の都合あってこそ。
「さっきまではグーだ。衣川早苗の最強をお前にぶつけた。だがそれでは勝てなかった」
当たり前だ。
究極無敵に強いグー相手に、めっちゃ強いグーじゃ勝てない。
せめてすごく強いパーの方がより勝ち目がある。
【私はこれからパーを出す。でもそれは最強ではないのだ。最強ではない一手で挑むことをどうか許してくれ」
「いいぜ。やって見せろ」
私にとっての最強は今まで見せたものだ。
ランダムな相手に100戦やれば絶対に勝率はさっきまでの方が高い。
それでも、まだこっちの方がチャンスがある。
これからやるのは、神薙専用の戦術。
一世一代の付け焼刃。
【真百合」
覚悟を決める。
「はいはい。後は任せたわよ】
真百合は自分の獄景を可能な限り濃縮させる。
一方で獄景が獄景足りえる要素、景色の変換を放棄した。
真百合の獄景は、身を守ること以外でもう及ぶことはない。
「色々受け入れてやると言った直後に否定するのもどうかと思うが、流石に宝瀬真百合はいた方がいいだろ」
神薙に道理は通じない。
だが道理は理解している。
その常識外れのスペックに反して、真っ当なことを言い放つ。
【そうなのだが……仕方がないのだ」
「なぜだ」
これは分かった上で聞いている。
発言には最大の注意を。
尊敬と敬意を払って、事実を告げる。
【足手纏いだから」
水は消え獄景の炎が多くひしめく世界のはずなのに、すんと空気が凍る。
【正確には違うのだぞ。私がこうしてやっていけているのは真百合のおかげだ。超悦者の先も獄景も、真百合の補助がなければ上手くは使えん。こうなっているのは真百合のおかげだ」
例えるならロケットのエンジン。
【私が本気でシンボルを使うとなると、どうしても真百合は邪魔なのだ」
飛び立つまでは必要だが、飛び立った後は切り離さないといけない。
【じゃあ、始めるが頼むから不意打たないでくれ。私は不意打たないと勝てないがお前は不意打ちをしなくても勝てるだろう?」
時間がかかる。手間がかかる。
こんなもの戦いでは使えない。
誰が相手だって勝てない。
「好きにしろ」
【助かる」
私は目を閉じた。
握りこぶしはもういらない。
産まれたばかりの星をそっとつかむように、優しく手を開く。
私達に神はいない。
祈る相手はくたばった。
だから神薙、これはお前に贈る一つの祝福だ。
【我は聖なる冒涜者、光あれと私は告げる。
吾は敬虔な破戒僧、天上天下に私は告げる。
唯一にして八百万の汝よ
私に汝を教えてくれ
我は汝を愛している。
吾は汝を赦している。
我は汝を産み、吾は汝と共に生きていく。
我は汝に裁きを与え、吾は汝の罰を受ける。
私は変わらず私であり、我は汝である。
我は天を照らす光として
私はここに在ると知れ
深赫紅蓮獄景――涅槃如安緋想天國」
これが、私の到達点。
炎は燃え変わり、光で世界が満ち溢れる。
物質は光に昇華し、有るのはただ、人と宝石のように煌めく光のみ。
「…………」
今だから告白するが、これは成功するかどうかは確実ではなかったぞ。
これはぶっつけ本番で、理論上は成功するかもしれない現象である。
普通に失敗することもありえた。
世の中に奇跡というものがあるなら、たぶんこれのことを指し示す。
衣川家が裏で糸を引いているパチンコだと大当たりの演出がでるだろうし、他所だと天使がファンファーレを吹きに降臨するだろう。
その誰もなしえなかった奇跡をなした私の率直な感想は、
しくじった
の一点であった。
たらればの話をするなら、不意打ちはさっきではなくこのタイミングでするべきだったと、そう思う。
速攻発揮正宗も超悦者も今は使えないけれど、走って殴る、それが起き得たかもしれない。
そう見えとれるほど、神薙は私だけを凝視していた。
事前の取決めも忘れて、今、ほんの一瞬、確実に呆けていたのでありんす。
「――――椿ぃ!」
そのほんの一瞬の間の後、ここにはいない、ただ長年連れ添った伴侶の名を叫ぶ。
その先の言葉は私と彼女しかわからない。
言葉はいらない、確かな信頼がそこにあった。
神薙は分かった。私が何をしたいのかを。
これから起きることが何なのか。
それが不都合になる場合もあるのもわかっている。
だが奴は、
「クッハハハ」
笑う。
あるのはただの万感。
私に対する祝福と喝采。
神薙が通ることのなかった一つの到達点。
そこに私がたどり着いたことを知ったからだ。
「あああああっ ヒッヒヒヒ、ハハハハゥク、ク、まじかこいつ、こいつめ、ぁあああ。やりやがった!」
200年ぶりに、下手をすれば一生分に、もっと言えば生涯初めて
笑っている。
手を叩き、腹を抱え、口を押え、心からの大爆笑。
さっき椿さんを呼んだのは自分が攻撃されたからではない。
感情の起伏だけで磨り潰される私達を守るためだ。
治すことに関しては頂点の椿さんが全力でこの世の修繕を行い続けている。
これは神薙にとっての攻撃ではない、ただの感情の揺れ動き。
存在しない重みで獄景の先に生まれた光が踏み潰されている。
普段は抑えているその重みが漏れただけでこれだ。
力の差は依然変わらない。
私は神薙よりも弱い。
でもそれでいい。
これがシンボル
本当の意味で正しい形
人類と神薙の罪の業
「あー面白れぇ。腹を抱えて笑うなんて産まれて初めてか。ちょぉ楽しいィ。っと、あー。さて。これ言わないといけないのか」
笑いのピークは過ぎたのだろうが、未だに肩を震わしながらケラケラと笑い続ける。
その後ようやくひりだされた言葉は
「気持ち悪ぃ。人の心ってご存じでない?」
私に対する明確な罵倒。
ただしこれは、頂上に立つ者としての発言ではない。
先輩が後輩に対して飲み会の席での酔った勢いでの一言、その領域の叱責だった。
【知ってなければ出来ないが。それよりいいのか。読者が置いてきぼりだぞ」
「よくない。見せるか」
神薙は分かっている。真百合は知っている。
だが神薙は読者に自分が人間だと知ってもらわないといけない都合上
何が起きているのかを読者にもみせないといけない。
人がどれだけできるかを。
私の在り方を。
「しっかりやれよ」
神薙がここで使うのは最果ての絶頂のリミット。
それも有象無象のリミットじゃない。
【いいだろう。 「たとえ“俺”の指がポッキリおれようとも、受けてみせる」」
あいつが使うのは勝利一直線の単純にして強力な能力
単純無比ゆえ対策はない。
「 創世慈 勝利するリミット」
炎も氷も力ですらない。
ただ簡単に勝つことだけを追求した無粋な能力。
神薙が使うのだから、それらを防いだという主張に到達することはない。
幾ら私が超悦者や獄景で強化されようともだ。
しかしながら、勝利するリミットで私の腿に一画が書かれることはない。
「なにをした、衣川早苗」
下手なリアクションだ。こうなることが分かっていたというのに。
「なぜ俺は「勝利する能力」が使えない」
使えたら勝っている。
使われていたら負けている。
だから答えは使えない状況にするしかない。
無論、無力化とか忘却させたなんて干渉を俺ができるわけがねぇし、誰も出来ない。
ただ1つだけ――誰も出来ないが1つだけある。
こうなったら使えないと本人がいった条件がある。
嘘の可能性も考えていたが結局は真実だった。
【全ての能力を無限に持っている能力。しかしながら“全て”には1つ例外が存在する」
シンボルは全ての例外になる以上、私のシンボルは含まれない。
【「 創世慈 それは俺のシンボルだ」」
神薙ではなく私がそれを言う。
速攻発揮正宗を捨て、そういうシンボルということになっている。
「速攻発揮正宗を捨て勝利に特化するシンボルにしいたとでもいうつもりか? だったら別の能力をすればいい。さっき有効だった実績のあるリミットを使うぜ」
すごい説明口調で自分の考えらしきものを発言する。
こんな馬鹿らしいこと言うんだなと感心するが、神薙にとっては普段の言動と変わらんか。
閑話休題。
とはいえ、勝利しようがそれが現実でなければ意味がない。
その主張は正しいからこそ、私が使う。
ならば“オレ“になろう。
親父を罵倒された怒りを力に込めて叫ぶ。
「神神が必死で紡いだ一分」
【「それは今、オレのシンボルだ」」
使われたら負ける。勝ち目がない。
だが他人のシンボルは使えない。
「な、なにがおきているのだー」
へたくそ。
三下のふりをするなら笑いながらやるな。
「すまん。椿を召喚していいか? 聞き役が必要だ」
「仕方あるまい。お前の笑いが収まって落ち着いたら呼べ」
一瞬で椿さんがここに召喚される。
彼女は今何が起きているかわかっていない様子だった。
同じ時、同じ場所にいるはずなのに、最も近くにいる存在だというのに神薙が何を楽しんでいるのかが分からない。
それは彼女にとってのコンプレックスなので速やかに回答を送る。
「シンボルは本人の存在証明。持ち主の特徴思考意思人生といったその人らしさが能力になる。それが他者に対して干渉されることは決してない。これは神薙ですら最終傀を使わなければいけないほど、圧倒的に優位である」
本人が確かに証言した話だ。
私が心を直接狙え
時雨が価値を付与し
真百合が愛される自分になりたいと望む。
それは絶対の不文律。
「だが内部からの干渉に関してはどうだ? 私達がシンボルを共有できたのだってそうだ。そして、それだけじゃない」
今だから言える。
私達がやったシンボルの共有はおまけだった。
私の切札は、その先にある。
「私はかつてこう聞いた。シンボルを変える方法はあるのか。そして椿さんはこう答えた
『人間性や人格考えたなんかをかえれば可能』だと」
「そういう意味では言ってないです」
私は確かに聞いたし書かれているから私の方が正しい。
【だから人格を一時的に変えてみたのだ」
「は?」
椿さんは戸惑い、真百合はあきれ、神薙は笑う。
【私は他の人が思っていそうなことをトレースし、ロールプレイし、エミュレートしたのだ。やったことはそれだけだ」
読者の皆は想像したことないか?
自分がこのキャラだったらこういうことするってことを。
本質的にはそれをやっているだけで
【言うまでもないが超越者で拷問されても口を割らないとか何万回ループしても正気を保っていられることは出来る。その程度の強さではないぞ」
皆と違うのは出力が違う。
心という質量も体積もゼロの存在を使って
世界や理を何度も塗りつぶせるほどの強さと大きさ。
ゼロに何をかけてもゼロだが、それでも無限の出力をかけ続けようやく手にした現象。
獄景も超悦者の先も全部合わせて心の強さだけに注力した。
【シンボルは人間性に紐づく」
神薙たちがいった。
みんなもそういった。
「確かに私はその人じゃない。性別は女でカードゲームだってやらないし海賊でもない。偽物ですらない。ただ一つだけ優位なものがあるとするなら、そいつ以上にそいつが思うことを思えるってだけだ」
記憶を完全に失えばその人はその人になりえないのか。
解釈がわかれるだろうが、わたしがやっているのは逆。
指紋認証は指で、パスワード認証は記憶で錠前扉は鍵でそいつだと判定する。
恐らくシンボルはその人間が人間らしさが幾つも重なり合って認証するのだろう。
誤魔化しようの効かないはずだった。
ただ一点を想定していなかった。
意思は私の方がが正しくはるかに強いことを。
本物以上に本物が思うことを思える存在がいることを。
【本人以上に本人が思うことを思えば、シンボルは私がそいつだと認識する」
お前達は本物で、お前達の人生もスキルも全部お前達のものだが
その感情は私の方が強く持てる。
その強い意志は私の方がはるかに強い。
そのトラウマは私の方が感じやすい。
たったそれだけの話だ。
【纏めるぞ。私が自分をキャラAと認識し、そのAが思うことを強く思えば、私のシンボルはAのシンボルということになるのだ」
口にすれば簡単なことだ。
人が出来ることをやっているだけだったのだ。
【だから勝利するリミットが使えなかったのは、勝利する能力を持つようなキャラをイメージして、自分がそいつだと思いそいつが考えることを強く思う。だから私はそいつだし、私はシンボルを使えるからそいつがシンボルを使えた場合の能力を使えるということだ」
現状私以外できないだけで、練習すれば出来るようになる。
しかもここにいる皆は人たちの中での頂点。
案外すぐにまねできるかもしれん。
「い、言っている意味がわかりません」
椿さんは存在してはいけない怪物を見るかのように怯える。
「馬鹿みたい】
(仲間のうえ知っているはずの)真百合は罵倒する。
「……ふざけるな」
見ていただけの帝王は初めて怒りの言葉を口にする。
そして最後
「人の心とかないんか?」
最強の笑う声だけは依然変わらずにいる。
因みに作者が一番苦手なのは早苗さんです
理由、怖いから




