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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章前編 悪意差す世界/スベテが終えた日
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鮮血の聖女と群青の魔女 4


「これからラバーズと話をする前に、何を聞くかや最低限知っておかないといけない知識を共有するわね。無い頭を使ってよく覚えなさい」


 真百合はSWOT分析の隣に認識合わせと書く。


・空亡惡匣は200年前に君臨してた邪神である

・空亡惡匣は最終傀によって封印されている

・シンボルは一人一つ ※メープルという例外あり

・シンボルは個人の特性によって能力が決まる


「私が聞きたいのは空亡とシンボルについて。最悪この2つが聞ければいい。余裕があればあれの過去や獄景や超悦者の先の件についても言語化できるのならしておきたい」


 白板に「空亡」と「シンボル」をぐるぐると囲む真百合。


「うむ。異存はない」

「それを聞くには一番状況を知っていそうな人、つまり」

「神薙椿」


 確かこの人が一番付き合いは長いと言っていたし、シンボルも『物語』と言っていた。

 他とは一線を画す存在と言ってもいい。


「と、もう一人。妖狐の神薙薊にも来てもらう」

「問題ないが、理由はなんだ。1人でもいいと思うのだが」

「端的に言うならケアよ。嘘をつかれたりしたとき、2人いるなら嘘を見つけられる可能性が上がるわ」


 なるほど、確かに納得する。


「……納得した?」

「ああ。納得した」

「それとけんか腰にならないでね。私達はあくまで話を聞く側だから。ろくでなしの陣営だけど、間違っても自分から吹っ掛けないように」

「当たり前だろ。私は買うことはあっても売ることはない」

「ならいいわ。後はあなたの理性に期待する。じゃあ、呼び寄せて」

「今からか? 私は日を改めて直接伺いに行くと思っていたが」


 それが最低限の礼儀だと思うのだが。


「今から。私忙しいのよ。どうせあいつら何もしてないでしょ」


 確かに神薙が先生をしているときもほとんど何もしていなかったし、事実上世界トップの頭である真百合よりも暇なのも納得する。


「分かった。ここに呼び寄せるのは忍びないが、仕方ない。ではいくぞ」

「どうぞ」


 私のシンボルは必中の拳。

 本気で殴ることはしなくても、拳が必ず命中する。

 どこで何をしているかは知らないが、『法則』として当たる。


「速攻悪鬼正宗」


 一突き。込める思いは2人の女。

 人と狐が手をつないだ状態で、私は軽く殴った。


「……ん?」

「……はぁ」


 予定通りに黒髪の正統派な女性と小麦色の女狐が私達の目の前に出現する。


 女狐の容姿は以前あった時と比べ大きく変わっていた。

 元九尾ということもあり、以前まで隠していた尻尾は暗い拷問部屋のここでも黄金色に輝きその存在感をこれとなくアピールしている。

 ちゃんと数えていないが尻尾の本数も九本ではなく、百は優に超え、ひょっとしたら千まであるかもしれない。


 とはいえ中身の方はあまり変わっていないらしく、状況が飲み込めていないようだ。

一方で椿さんはあきれたかのような表情をしていた。


「不躾に呼び出してすまない。あなた達にどうしても伺いたいことがあり呼び出させてもらった。火急な要件故答えていただけないだろうか」


 アポイントメントもなしにいきなり呼び出したのだから、初めのあいさつはできる限り丁寧に行う。


「こっち世界の調整で忙しいんですけど」

「調整?」

「ほら。ご主人様はうっかり妹ちゃんぶっ殺し? たじゃないですか」

「あ、ああ」

「そのせいで柱がいなくなって世界がやばいんですよね」


 私達の知らない所でとんでもないことに成っていた。


「神薙……あんたらの男がなんとかするんじゃないのか」

「本当にヤバかったらするんでしょうけど、世界の調整とか管理とかは神っぽいから嫌だってやりたがらないんですよね」

「最低じゃない。自分がまいた種でしょ」


 私も真百合と同意見だ。

 よくわかっていないが、世界をこういう風にしたのだから自分が後始末はするべきだろう。


「でもあなた達にできるの? 神薙の所為で一人じゃ絶対に管理できないくらい広くなっているでしょ」


 私達は人間だが、平均的な人間ではない。

 神薙が空亡を討伐した影響で神薙自身が強くなりすぎ、他とは異なる存在になった。腕っぷしや異能力も当然として、縮尺もかつてとは異なる。


 主観として私の身長は170cmだが、よその世界のcmとは大きく異なる、文字通り次元が異なってしまっている。


 私の意思一つで下位世界の住民の安否が決まるし、なんならギフトのコストも下位世界の住民が払っている。


 自分の近くに人間がいないと寂しいから+神の統治が気に食わないから+自分の力を浪費したいからで、人間が世界を作れる『新世界』と言われるあほみたいな世界のシステムが作られたと知っている。


 しかも厄介なことに最下層が200年前の世界と同じサイズらしい。


「そこはマクロツール使って自動化していますので」

「マクロツールは何でもできるわけじゃないでしょ」


 世界の管理といってもやっていることはパソコンでポチポチすることなようだ。


「私達がやることは、ツールに死んだ人間のデータ取り込んで、下位世界のいらない世界、つまり人間が関与しない世界を抽出して排除。人間がピンチの世界には神薙さんインストールバッチ適用して修正+下位世界に適応するための修正パッチを保存するだけなんで、作業自体は10秒もかからないです」


 そこまでシステム作ってるなら、自分でやれよと思う。


「でも世の中10秒に1人は死んでますし、ちょうど尻尾がたくさんある狐がいるので、そいつに尻尾を使わせ動かしている感じです」

「その尻尾にそんな意味が」

「違うぞ。妾が一時的に柱神の代理をしているからこうなっただけで、尻尾の用途は後付けだぞ」

「それって旧柱神メープルと同じことをしているのか?」


 本来聞くべきではないことを尋ねた。

 ○○を助けるための情報収集だが、我が親友幸が死んだ要因として、私は知らなければいけないと思ったからだ。


「いいえ。あの娘は手動、というには変な話ですね。遍在して私達の保有する世界の中に介入して、世界を調整していました」

「遍在ってなんだ」

「いつでもどこでも好きなところにいるところができる能力。覚えてません? あなたモンスターとは戦いましたよね?」


 言われてみて思い出す。

 確か見るからに不快なモンスターが私達を襲うから、全部一纏めで殴り飛ばした。


 それだけで終わったから全然印象になかったが、なんかたくさんいることなんだろう。


「要は影分身ということで、まとめてぶん殴れば倒せる相手か。納得した」

「遍在に対してそう言えるのは、あなたの強みですからね。誇っていいですよ」


 結局私ができることはそれだけだ。


「というわけで私ものすごく忙しいんですよね。質問もしたことだし帰っていいですか?」


 だめだ。ついアイスブレイクとして全く関係のない話をしてしまった。

 私達が今聞かないといけないのはシンボルと空亡について。


 世界の現状についても気になるが、優先順位はあの二つのはるか下。


「それについては本当に申し訳なく思っている。だから可能な限り早く答えてほしい。真百合、頼んだ」


 私がやるよりかは真百合がした方がスムーズに事が進むと思った。


「私がお聞きしたいのは3つ」


 3つ?

 シンボルと空亡についてじゃ?


「あれ? あなたさっき2つって言ってましたよね」

「ええ。そうだったけど、さっきのやり取りを見てもう一つ聞いておかないといけないことが出てきたわ。

でもそれは優先度としては3番目だから、先に答えてほしいの」

「嫌です。何で私がこの雌豚に知恵を授けないといけないんでしょうね」

「妾も同意する。宝瀬真百合よ。お前は近くなりすぎている」


 あ、しまったと後悔する。

 そういえば真百合ってラバーズからは嫌われていた記憶がある。


 これは失敗だった、私が間を取り持つべきだったか。


「ふうん。そう。じゃあ、質問だけするわね、答えなくていいわ」

「お、おい待ってくれ。真百合と話したくないのなら私が間を持つから――――」


 シンボルと空亡の情報をもらわないと、○○を助けられない。

 その焦りが、真百合の冷徹な笑みを見ても、止めるという選択肢を即座にとることを出来なくしていた。


「あなた達って実際は神薙信一に愛されてないわよね。何なら私の方が愛されてるでしょ」


 雨が降っているかを伝えるかのように、核爆弾の豪雨が降り注いだ。




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