鮮血の聖女と群青の魔女 1 append純白の死神
この章でインフレ含めいろいろやらかすのでよろしく
あと感想をいただくととてもうれしいですし更新が早くなりますが
展開については返信できないと思うので、そこはご了承ください
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
深海の凍り付くような沈黙をやぶったのは真百合からだった。
「なに。こんな汚いところに呼び出して」
誰にも見られない場所と言われたらここしかない。
母上の先代の頃にはよく利用されていたらしい拷問室。
今日私は真百合を呼び出した。
「えっと、そのだな。最近体調はどうだと。どうやら私達あいつの子供を妊娠しているらしいのだが」
「結論から言って」
「……助けたいのだ。あいつを」
「無理」
即答されてしまった。
「難しいのは分かるが、このふざけた世界改変を」
「違う。改変じゃない。もっと違う何か」
ばっさりと私の意見を切り捨てる。
「彼がこの世すべての害悪というのは初めからそうだった。魔王を倒せば世界に平和が訪れるように、彼を殺せば人類はあらゆる苦から解放される。そうなった描写がないだけで、それはもうひっくり返らない」
「どうにかならないのか?」
「ならないわよ。最終傀は最上の何か。早苗は分からないだろうけれど、彼を描写することが許されていない」
「その描写?というのは分からないが、なんとかは……」
「私が何もしていないと? 可能性にかけて上回る何かの知識を取得しようとしたけれど、何もなかったわ」
真百合のシンボルで好きな何かを取得できるが、それでも無理だったのか。
改めて、神薙信一には絶対に勝てないことを思い知らされる。
「無駄な時間だったわね」
「そうか。すまん、無駄ついでにもう一つ聞きたいんだが」
「何?」
「神薙を倒すにはどうすればいいと思う?」
「 」
絶世の美女の口があんぐりと開き呆然とする。
「真百合もそういう顔するのだな。驚いたぞ」
「あなた、正気?」
「正気だぞ1+1は2」
「もっと難しいことでアピールしなさいよ 2の8乗は?」
「16」
「ゴミ 夏目漱石の有名な著書は?」
「読んだことがない」
「そう 実は早苗だったりするの?」
「だが太宰治の走れメロスなら好きだぞ」
「残念。早苗が太宰治なんて知っているわけないから偽物ね……うわっ、キャラ設定に走れメロスが好きって書いてあるじゃない」
「信じてくれたか?」
「ええ。どうしようもない頭だということだけは信じたわ」
真百合にとって私はそうなんだろう。
どうしようもなく頭の悪い存在なのだ。
「しかし意外だったぞ。正直話すこともできないくらい落ち込んでいると思っていた。元気そうで何よりだ」
「……私もびっくりよ」
「どうやって持ち直した?」
「言いたくない」
「そうか、真百合がそういうのなら聞かない」
「そもそもなんで倒そうなんて発想が出てこれるのよ。あの神薙信一よ」
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「というわけで、衣川早苗と宝瀬真百合は俺を倒そうと企んでいたわけだ」
「……勝手に私達の過去を回想しないで。それを分からないキャラでもわかるように説明しないで」
「ま、真百合」
「あなたは黙っていなさい。何を言われても口を開かないで」
い、いきなり過去回想を挟まれたと思ったら途中でおれたちの間に割り込んでくる。
この理不尽はそれだけで
「この後も過去回想は続く。なぜこんなことをするのか。どうしてこうも無謀と思える選択肢をとったのか。彼女達の勝ち筋は何なのか。それが次話にするが戦闘中に回想をするのは読者に対して忍びない。基本回想はつまらないものだからだ。故に定期的に俺達の状況を進めながら回想を進めておこうと思う」
この人が神薙信一本人であることを証明し
「うそでしょ?」
「そんなばかな」
「だましたのかっ?」
皆がそうであると実感を持つには充分であった。
あいつが悪なのは公然の事実じゃなく神薙さんが意思をもってそうしたこと、それを知っていた二人はおれたちを裏切って攻撃しようとしたこと、その二人によって神薙信一に牙を向けさせられたこと。
情報が多すぎて整理できねえが、超悦者の戦闘態勢だけは維持する。
振り返れば分かる。
無効化能力を距離に指定したのは、神薙さんを範囲に含めたかったから。
思えば断定したのも先輩からだったし、その同調も衣川は早かった。
「本当にうまいわね。勝手に過去回想なんて作って。それっぽいことを信じさせるなんて。随分と悪知恵が働くのね」
しかし未だ先輩と衣川だけが戦意を持っている。
「息をそろえなさい。彼は私達にとって神薙信一が絶対であることを利用して、戦意をなくそうとしているの」
確かにそういわれるとそうかもしれないが。
どうしてもこの理不尽さには悪魔は出せない。
「現状は把握した。悪魔は生まれついての悪ではなく、生まれついての悪ということに成ったらしい。だが帝国側はそれでも奴を殺すぞ」
先輩の詭弁を完全に無視して、目の前のそいつが神薙さんとして帝王は主張する。
「むしろ安心したといっていい。神薙信一がそうしたということは、悪魔を殺せばいいというのは夢幻ではなくなった」
「かわいそうに、現実と幻想の区別がついていないなんて。帝国1位も落ちたのものね」
凄然としているが、いくらなんでも厳しいだろ。
ここにいる全員もう先輩のことを信じられる人はいない。
「どうやって俺が人類最高峰の攻撃を耐えたか説明しようか。それが現実的だったら俺が神薙信一だという証明にもなるだろう。俺視点つまらなかった攻撃の順に採点形式で明かしておこう」
いや誰もアンタが偽物だと疑ってないです。
「まず嘉神育美の空ノ少女。この能力は能力を無力化する、執行力についてはこの中で最上位だが……同じ攻撃するなボケ」
「ひぃぃい」
もう戦意喪失しちゃってるし。
「他のみんなはともかくとして『物語』持ちはメタ視点で読めるのだから、過去やった攻撃と同じことをするな。対策が容易だろうが」
「で、でもあたしそれしかできないし」
「貴様の人生だろ。どうできるかどう応用するかは自分で考えろ。当事者はお前なんだぜ」
「そんな天堂君みたいにプライベートに関与なんて……あっ」
「人類の代表として参加している以上可能な限り努めるのは当然だし、できないなら誰かに相談するくらいすればよかっただろ。そもそも能力の強化はいつでも転職できる仕事ではなく、離れることのない人生そのものだ。転生前ガチャでHR引いただけでかまけすぎ」
相変わらず辛辣だと思うが誰も擁護しない。
彼女の名誉のために言うが、それはみんなそうだと思っているからではなく、神薙さんに意見を出すことの無意味さを知っているかだ。
「そんな頭の悪い相手の主張なんて根本的に間違えている。現実に実を結ぶことはない。IQ2000相当の俺が言うから間違いない」
ま、まあ理論上IQは2000超えることもできるし間違えてないのか?
「自分より愚かか怠けている相手に対してそれは違うと突きつける言論 弾劾論破(フォルスSA)」
なんかまた変なの増えてる。
「国民的漫画が強いから特殊能力を無効にするんだ。賢いから特殊能力を否定しても問題ないはずだぜ」
あ、はい。そうですね。
「唯一評価できるのは宝瀬真百合の指示に従って対象をキャラクターではなく距離にしたこと。無い知能なりに賢い人に従うのは正しい選択だ。30点」
これいつかはおれにも点数がつけられるのか。
いやだなあともう完全に達観の域に達していた。




