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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章前編 悪意差す世界/スベテが終えた日
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人類の人類による人類のための会議2




「自己紹介が終わったところで、もう一つ共有をしよう。それは黒白の悪魔の能力についてだ」


 あいつを討伐するのに、あいつの能力を知らないというのはおかしな話だ。


「これについては王よりも狩人からの発言の方が信ぴょう性がある、頼めるか」

「ええ。問題ないです」


 視線がおれに集中する。今更緊張なんてしねえが、ここにいる誰か一人でもその気になれば、世界を簡単に崩壊させることができると考えると、自分のいる場所が少し高みになって見える。


「まずあいつのギフトは、口映しマウストゥマウス、キスをした相手の能力を使えるようになる。これを知らない人はいないでしょうが念のため」


 能力の起因はそこからだ。

 なぜそうなるかを共有しておかないと、あとで知らないなんて言う事態になる。


「そして告白します。おれたち外道三輪はあいつとキスをしている」

「つまり、君の混沌回路カオスチャンネルも使えるということかい?」


 天堂さんがほとんど知らない立場として意見を出してくれる。


「それについてはNOと断言できます。なぜなら混沌回路カオスチャンネルはギフトではなくシンボルだからです」

「シンボル。先ほどはなんとなく流していたが、はっきりさせてもらっていいかな」


 こういう場だ、おれが知っている情報はすべて共有しよう。


「みんなが使っている能力はギフトで間違いありません。しかしとある儀式をした際に使えるようになる能力がシンボルです」

「ギフトと何が違う?」

「まずはメリットから。シンボルそのものには干渉できない。コピーは勿論奪うことができない」

「それは『法則』としてか?」

「いえ。おそらくはもっと上。『物語』として」

「何度も済まない。『物語』とは?」


 天堂さんは本当に何も知らないようだった。


「能力の上下関係はご存じですか」

「ああ。それは知っている。『論外』を最下層として『時間』『運命』『世界』『法則』と続いていく。能力同士が相反する場合、上位の能力が優先される、また2つ以上差が離れた能力に対して能力者はその能力を無視できる」

「ばっちりです。でしたらその先にもう一つ、『法則』の上に『物語』が存在するというご認識を持ってください」


 他にも強者がいるがここに呼ばれない理由はこれだ。


 あいつは『世界』以下の能力に耐性を持っている。

 効かない能力をいくつ集めても意味がねえ。


「『法則』以上の効果じゃないと効かないし、仮に効く力があってもキスをした相手の能力を得る能力により、防御力も高いというわけだ。それこそ宝瀬嬢の世界を遡るギフトだって使えるわけか」

「そうだけど、反辿世界リバースワールドならわたしが殺せば死んだままだから」

「了解。すべて理解した」


 これでようやく話を戻せる。


「あいつの能力は数十ですが、最も気にするべき能力は1つ。多幸福感ユーフォリア、こと戦闘に、戦争においてこの能力の右に出る能力はないと断言できる」


 衣川がわずかに反応する。

 この能力の恐ろしさを口で説明するのは難しいが、知っている人からすればおぞましさに目をそむけたくなる能力だ。


「能力は最善になる行動をとることができる能力、とでも言っておきましょう。これがある限り不意打ちや奇策なんてものは通用せず、逆にあっちからの戦略は必ず成功する」


 まるでそれが主人公の策のように。

 1万の兵相手に100人で囲っても勝利できる。


「おぞましい。それが真ならばオレらに勝ち目はないぞ。弱点や補足はないのか」

「あります。発動条件です。多幸福感はあくまで最も幸せになるように行動をさせる能力、そのため基本的には民意に反するような行動はとることができません」

「悪魔の存在が民意に反しているとおもんですけど。自分は」

「そうですね。あくまで最終的に幸福にすることが重要になります。瞬間的には影響しないので、例えば愚民政治とかをして民を洗脳するアクションなら簡単に取れるはずです」

「下衆め」


 帝王が王らしくない言葉を残すが、気持ちは分かる。

 実質人類が人質に取られているものだ。


「次に気を付けるべきは、人形に害を押し付ける能力と、同時に壊さない限り破壊されなくする能力。他人にダメージを押し付けることも非常に厄介ですが、このコンボの突破が厳しい」

「まさか……」

「そうです。あいつは人形に不壊属性を付与して自分を守っています。しかもそれは1つじゃなく、100はあると考えていいでしょう。そのすべてを破壊しない限りあいつにダメージを負わせることはできません」


 これがあるからあいつは無敵だし、まっとうな方法で傷をつけることができない。


「無敵じゃないか。どこでそんな能力を」

「支倉の一件で」

「くそ、あいつら……余計なことを」


 実際帝国と支倉は犬猿の仲だったから、こういってしまう気持ちは分かる。

 おれも世界を見ていない時期は、敵を敵としか認識できなかったし。


「それについては私から意見がある」


 衣川がおれの意見を遮って発言する。


「私のシンボルなら、突破することが可能だ」

「なるほど。必中で一度にぶん殴ればいいわけか」


 あいつの防御の天敵が衣川なんて皮肉もいいところだ。


「気にしなくてよくなったっとことか」

「いや、初動は私からに限定される。そしてそれを気づかないあいつではないはずだ」


 そう。おそらくあいつは自分の能力の天敵が衣川だということは知っている。

 今どこにいるか分からないが対策は絶対にしているはず。


「次はあいつがおそらくこれまでで一番使ってきた能力。回廊洞穴、空間に穴を作り好きに移動する能力」

「あー。よく使ってる」


 攻撃にも防御にも移動にも使える、本人も一番便利な能力だと言っていた。


「主な使用方法は移動。次元に穴をあけ好きなように移動する。しかも移動する際は穴に落ちるという方法じゃなく、穴を操作して移動します」

「面倒だな」

「後は穴を斬撃のように2次元のような穴ではなく、穴を360度に展開し、空間を削り取る球を作って攻撃したりしていますね」


 『世界』での攻撃は『法則』持ちでも耐えられねえ。


「続いてあいつの最大攻撃について。クラスは一つ下がりますが、獄落常奴の能力が範囲や殲滅として逸脱している」

「聞いたことある。誰の能力だったか」

「10年前の楢木ちゃんでしょ」

「あー。あの子か。獄中で死んだって聞いていたが、そういうことか」


 おれもどういう経緯でこの能力を手に入れたかは詳しく聞いていないが、ろくでもない経緯で手に入れたことだけは分かる。


「その能力については知らんな。どういう能力だ」

「地獄の支配」


 いつ聞いてもいつ言っても、人が持っていい能力じゃない。


「自分が思う地獄を再現し操作する。仏教徒なら閻魔様が、キリシタンならサタンを自由自在に操れる」

「それで、仏にも唯一神にも唾を吐くような悪魔が、いったいどんな地獄を支配している」

「無間地獄」

「……」


 さすがの帝王様もこれは予想外だったか。


「何がやれるか具体的な説明はしません。基本的に業火を操ることを好んでいますが、大体はただ大体即死します」

「ほんと、ろくでもない能力しか持っていませんね」

「あとは次元変換とか、それに伴う現実改変ですか」

「次元変換からどうやって現実改変に持っていくんだ?」

「えっと、まず念写の能力と次元変換の能力で何かを創造する、そういうことを未来視します」

「あいつ未来視なんて言う能力もっていたか?」

「持ってたはずよ。未来視は『運命』扱いだから見たところで変えられるのが見えているから、普段使わないようにしているとは聞いたわ」


 ここにいる全員『運命』への抵抗力は持っているのでその考えは正しい。


「その後、やるつもりだったことをやらない。ただその現象の未来は残っているから『運命』として改変が起きる」

「よくできている。最悪なほどに」


 ただここにいる人たちは全員『運命』の改変なんて効かねえから意味がねえが。


「他にも歴史を知る能力とかだっけか、同時進行する能力とかありましたね」


 数が多すぎておそらくだが本人も把握していない。

 把握していなくても使えるのが理不尽極まりないが。


「歴史を知る能力?」

「まあ、あんまり本人も使わないので、確かなことは言えないですけど」


 意外な能力に意外な人が突っ込んできた。


「元の持ち主は生きているのか?」

「元の能力者がすでに死んでいるのはどれだ?」

「……確実に言えるのは、多幸福感、獄落常奴、回廊洞穴、卑那人形ですけど、どうかしたんですか」

「んー。いや気にしないでくれ。歴史を知る能力者は死んでいないのか」

「あー。はい。死んでないです」


 確か……博優学園の後輩の能力だったはず。

支倉がやらかした沈黙の666で死んでいなければ生きていた。

 確か死んだのはレズピアンの複製能力者だっただけで、その人は生きていた。


「そうか……そうか」


 天堂さんが何やら悩んでいる。


「何を悩んでいるんですか」

「僕は囚人を自由に使える立場だからね、何かコンボがないか考えていた」


 帝王とは別の意味での支配者だ。

 本人ができなくても、別の人の力を使えばできるかもしれない。

 出来ることのみを考えるおれとは違い、支配者はできないこともできる可能性があるので、考えることはおれなんかよりも多いだろう。


「実際何かありました?」

「最後のピースがうまくはまらなくてね。とりあえず自分たちでやった方が確実ってところだよ」


 この人のことはこの人が一番よく分かっているだろうから深く追及はしない。


「もういいかな。あいつができることを知った所でわたしがそれを無力化すればいいんだし」


 ここにきて悪魔の生みの親がすべての土壌をひっくり返す。


「能力の無力化でできることすべてを無力化すれば解決するでしょ。初動だけ早苗ちゃんに頼ってあとはわたしが無力化して、残り全員で殺せばいい。人形とか地獄とか馬鹿らしい。これが一番現実的でしょ」

「今現在能力を無力化しない理由は何」


 先輩が母親に対して意見を出す。

 どこ吹く風でその意見に母親はこう返した。


「『物語』として衝突する可能性があるから。あいつの能力がキスをした相手の能力を得る能力で、わたしが得た能力を無力化した場合、能力同士の相反が発生する」


 これはおれがあんまり知らないことだが、『物語』同士の衝突は避けないといけない。

 良くない何かが目覚める。と言われている。


「だから真百合ちゃんも気を付けなよ。能力を直接干渉するのは悪影響かも」

「そうね。貴重なご意見どうもありがとう」


 心なさそうに返答する。


「それが最も有効な手段であることは理解した。しかしどうも王は貴様のことを信頼できん。王の価値観では貴様ら夫妻は肝心な時に役に立たない」

「王領くん。ちょっとそれ本人の前で言う? ハラスメントだよ」


 確かに会議を通しての罵倒はよくないだろう。

 マネジメントの本で人を叱るときは個人的な場所で話をするよう書いてあった。


「本筋はそれでいいにしても、別の案も並行して進めたい」

「でもさ、それ以外ってなると……真百合ちゃんがする?」


 正直精神的に一番堪えているのは先輩だし、できる限り力は使わせたくない。


「いいわ。もしあなたが失敗したら次は私が彼の力を無力化しましょう」

「……ならばいい」


 帝王も死神より魔女を信頼しているようだ。

 実際それは俺もそうだし。


「みんなひどくない?」

「オレは育美を信頼しているぞ」

「一芽くん。ありがとう。やっぱ持つべきは理解ある夫くんだよ」


 こうして作戦自体はきまった。


 衣川の拳が作戦開始の合図。

 育美さんがあいつの力を無力化したのち、各々が最大火力であいつを滅ぼす。

 育美さんが失敗した場合は、先輩が同じことを行う。


 決行は明後日。奇しくもあいつの誕生日

 場所は帝国の最北端の島


 生き残れる可能性は、たぶん半々。


 そのため皆、明日は思い残すことが無いように過ごす。


 おれは……携帯を取り出し電話をかける。


 4コール鳴り響いたが電話に出ない。

 電話を切って次のアクションを考えようとしたその時、折り返しの電話が鳴る。


「時雨君、どうしたんだい?」

「好きです。明日死ぬので一日付き合ってください」


 告白して玉砕してくるか。





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