神薙信一と孤高の自家発電と最果ての絶頂
「まずは、謝罪から始めよう」
神薙信一は、頂点世界の中心、白より明るく黒より暗い空間で、でそう言葉を漏らした。
「………………は?」
父と兄の喧嘩を観測していたシンジはその言葉を聞き、状況を認識し、そして理解を放棄した。
先ほどまでは地球の柱の妹がトーナメントで無双していた。
自分たちの手番なるのは数十話先。
そういう話の流れだった。
だが
「な、なにが起きた……? なんで兄上が……母上が……既にやられている?」
現状こうなっていた。
無様に無惨に、屠られた。
最強と最強の戦い。それは何か月何年と続くはずの戦いのはずだった。
神薙信一が最強と呼ばれる所以、
すべての能力を無限に持っている能力。最果ての絶頂。
人の数だけ強くなる能力。孤高の自家発電。
前者は逆に利用し、弱点とすることで、後者は自分自身を究極進化して対処出来ていたはずだった。
攻略は既に終わっていた。はずだった。
彼に比類する相手が存在しないゆえに、上限が存在しないと思われていたが、シンジがいたことで話が変わるはずだった。
無限の力と、無限に成長する力。
尽きるか果てるか、その我慢比べになると神は思考していた。
いや、それでもやはり果てる方が先かもしれないが、長所を致命傷に変換したシンジに有利が付く。
これは至極真っ当な話。ハヤテが所持している情報で、これ以上の真実はない。
先に答えを言っておくが、全知全能でもより強いそれで否定されれば、簡単に崩れる。
今回もそれだ。
ハヤテもシンジも騙されていた。
「まずつまらない戦いを延々と見せられ、更にそこから何も起こらず、数か月も経過してしまったことを」
神薙信一が何を言っているか理解できる。
ハヤテも『物語』の能力者の都合上、メタ発言に対応できる。
多くの読者のために伝えておく。
前回の更新から3か月。エタったという言葉を適応するに、十二分の月日。
それは神々からすれば最上以上の成果。
あのタイミングでエタれば、神薙信一はこの頂点で永遠に戦い続ける。
ギフト持ちも、弱い能力者がギフトを使って終わる。
最良のタイミング。
このままエタっていれば、神々の勝ちだった。
「なわけないだろ。地の分で嘘をつくんじゃないぜ」
神薙信一には作者でも勝てない。
そしてもちろん読者でも勝てない。
「読者に対する謝罪の次は、愚弟や愚息のお前たちに謝罪をしよう。俺は1つ嘘をついた」
億劫そうに、めんどくさそうに、最強は謝罪する。
「な、なにを……?」
「人の数だけ強くなる能力。孤高の自家発電。これは嘘だ。俺はそんな能力は使っていない」
終極はハヤテが思っていたのと別ベクトルで謝罪をした。
ハヤテに話の流れがつかめない。
なぜ今こんな話をする。
話がつながっていない。
「人間の意識や妄想によって世界が作られる。これは本当だ。人間の思考が連鎖し更に世界が作られる。これも本当のことだ。だがその人間一人一人の力を1つの全能として俺が内包している。これは嘘だ」
それが否定したのはそれの強い謂れ
「そういった方が整合性が取れるだけで、そういっておけば俺が単に強いことを誰も疑わないだけで、何の種もなくただ純粋に、それ以上に強い」
否定したのは所以のみ、逆にそれ以上の強さを宣った。
シンジは神薙信一の強さを人の数だけ強くなった強さであると逆算していた。
その強さを基準に自分の強さを完成させていたため、どう足掻いても神薙信一に届くことはなかった。
これが、神薙信一を即座に攻略できなかった理由の一つ。
「俺の謝罪はこれで終わりだ。次は兄として、父としてお前達の間違えを正そう」
「だ、だから」
理解が出来ない。
誰も何が起きたのか分かっていない。
「まず、最果ての絶頂。この能力について勘違いをしている」
「だからなんで兄上がーー」
「察しが悪いぜ。ここまで露骨で見せたんだ。俺の息子を名乗るなら俺が何をしたか、気づけ」
これは最後の試練。
初めから詰んでいた神々の審判。
「俺は最果ての絶頂のことをすべての能力を無限に持っているといった。嘘じゃない。だが、どう使っているかは明言していない」
否定したのは使用方法。
「精神以外で防御はしていないと……」
「そうだ。よく覚えている。だが攻撃はしているんだ」
「それは……σφのことか」
その名を聞いたとき、神薙は露骨に気を悪くしていた。
「それこそまさかだ。あいつに能力は意味がない」
「じゃあ、誰に?」
狼狽えながら、それでも現状を何とかましな方に引き戻そうとハヤテは藻掻く。
「俺にだよ。俺は俺にデバフをかけ続けている」
「----」
「少しは考えろよ。俺が存在できる世界観で、お前達が存在できるわけないだろ」
落ち葉が滝に飲み込まれるように
隕石がブラックホールに吸い潰されるように
本来森羅万象ありとあらゆる存在が、神薙と同位になることはない。
可能としているのは神薙による森羅万象へのバフと、己自身へのデバフ。
「俺は愚弟と遊ぶ前から、燃え続けていたし、凍え続けていたし、死に続けていた。そうしてようやくお前達と会話できた」
此方は何度も明言している。
神薙信一は別格。
シンボルなんかなくても、彼以外のすべてが敵になったとしても
「お前達は無限の能力を好きなタイミングで終焉させることにより、プラスをゼロに、ゼロをマイナスにしていたつもりだろう。だが事実は違う。俺はプラスの能力なんて使ってないし、同時にマイナスしかかけていない」
勝利するのはこの漢。
「だから最果ての絶頂の攻略は、あれで正しい。100点をやろう。だがお前たちは間違えた。目の前にいる俺の強さが、そんなものですむわけないことに気づけなかった。その結果起きたのが、シンボルの、リソースの無駄遣いだ」
ハヤテは漸く、やっとの思いで理解する。
初めから勝ち目なんてなかったと。
「俺は確かにこういったぜ。俺の弱点を暴いてどうすると」
「そして、母上は下限だともいっていた」
当時言葉の意味が分かっていなかったが、今やっと伏線が回収されたことを思い知る。
「母上は知っていたのか。知っていて騙していたのか」
言われてみればそうだった。
最果ての絶頂を説明したのはメープルだった。
神薙信一からは自分からこういう能力で、まともな方法で使ってるなんて一言も言っていない。
彼が言ったのは持っていることだけ。行っているなんて一言も宣言していない。
「これが本来の、俺と愚息の決着の理由だった。それが分かっていたから俺はあいつと遊んでいた。理解はできたか」
「あ、ああ。そ、そうなのか」
端からの真実。
頂からの現実。
初めから勝ち目なんてなかったのは分かった。
だが今神薙信一が何をしたのか分からない。
「『時間』は止まっていない。『運命』も決まっていない。『世界』は変えられていない。『法則』も定まっていない! なんだ! 父上は『物語』でなにをした! 何をすればこうなる!」
「はあ。正直な所、愚息にはあまり期待してなかったんだ。なぜだと思う」
明らかに失望したかのように、神薙信一は言葉を漏らした。
「その発想が愚かなんだ。その発想は原始的だ」
それは自分の息子の宿題を見て、出来の悪さを実感するような、落胆をこめた言霊だった。
「仕方ない。ほとんど答えを出しているようなものだが、当てさせてやろう。俺のシンボル、最終傀を」
「……ぁ」
まともな思考は持てていない。
だがそれでも、己の存在をかけて答えなければならない。
答えなければ、『 』が待っている。




