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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
10章 最強の終極
307/353

大いにして、大恥なる祖

 鶏頭の酷い陽キャに絡まれたが、すぐに試合をするわけはない。

 結局帝国と試合で当たるのは決勝、つまり2週間後。


 それまではトーナメントを消化したり、別の競技に出たりする。


「一樹」

「どうした? 恥ずかしいから外を出歩くなって命令したんだが」

「いや、命令したところで聞くわけないだろ」


 効けよ。どういう頭しているんだ。


「決戦の1回戦あるじゃん。あれ、時間が少し延期されるって」

「あ、そう。何時間くらい?」

「1日。なんでも帝国がハッスルしすぎてスタジアムの復元に時間がかかっているらしい」


 基本的に壊れないように作っているはずなんだが。

 まあ、やりすぎることもあるだろう。


「ほうん。じゃ、午後の予定は無し?」

「ああ。そういうことだから、宝瀬嬢でも誘ってデートにいけば」

「……」


 今の真百合はデートというより介護に近い気がするので気があまり休まりそうにない。


「実際一樹どう思ってるんだ。憎からず思っているんだろ?」

「戸惑ってる。例えるなら心にかかっていた霧が、ハリケーンによって強引に吹き飛ばされた感じ。視界はクリアになったが、同時に他のものも吹き飛ばされて、今の考えが正しいかどうか分からない」


 自分の父親らしき存在に、割と真面目な人生相談をしてしまっている。


「オレ的には玉の輿的な意味で宝瀬の娘と付き合ってほしいんだがなあ」

「母さんは反対しているんだろ」

「ああ。まああんまり気にするなよ。結局一樹がどうしたいかが重要なんだから」

「…………そう」

「まあ、付き合わないにしてもあんまり粗末には扱わないように」

「しないけどなんで? 女の子を大切にしようなんていうわけ?」

「いや……ほら、ぶっちゃけた話、あの子アレのお気にじゃん」

「…………まあ」


 いくら鈍い俺でもここまでくると分かる。神薙さんは明らかに真百合のことを気にかけている。

 作者の贔屓とか関係なく、明確に神薙さん個人に理由がある。


「でもさ、なんであの人最初の頃は真百合に厳しかったんだろ」


 例えば白い部屋でのコロシアイの件。

 計画したのは支倉で、裏でフラグを操作していたのがメープルと神薙。


「支倉が真百合を狙った理由は終わった話だ。だが神薙はなんだ? あいつはギフトを与える立場だろ? 反辿世界は有用なギフトであることには違いないが、支倉の件を知っていたのなら真百合に与えるべき能力じゃないだろ」


 気づかなかった? まさか。

 設定上は武力だけでなく知力もNo.1


 技術力で宇宙人を撃退したほどの知能をもっている。


 物を作る知能と、謎を見破る知能がイコールで結びつくわけないのは自明だが、ある程度の相関はあると考えている。

 少なくとも、そんな単純なことを見落とすか?


 例えるなら数学者が17+18を間違えるようなものだ。

 そりゃ数学者だって間違えることはあるだろうが、ここまで単純な問題は落とさないだろう?


「助けて月夜もん」「そうするようにお願いした人物がいるからです」


 相変わらず情報という観点において、この能力の上にも右にも出るものはいない。


「シンボルって何だと思います?」

「その話またするの?」


 何度もしたと思うので、箇条書きをする。


・一人につき一つ。

・能力はギフトと変わらない(むしろこの場合神薙さんが使う能力と変わらない強さと言い換えられるか)

・使用する際、スタミナではなくSANチェック

・模倣や奪取といった干渉が出来ない

・完全に独立する(並行世界が発生しない)


「重要なのは干渉できないということや独立するってことです」

「そうなんだ」

「わたしたちはいいんです。例えば嘉神さんは初めから一人しか存在しないので」


 並行世界といえば、以前狩生に聞いたことがあった。

 シンボル持ちがその世界にいる場合、IFが生じなくなる。

 また新たにシンボル持ちが産まれた場合、IFが収束する。


 だから幾何と重ねられた世界オーバールックオーバーラックは、システムの仕様により本来の力を出せない残念なシンボルになってしまっていると。


「でも最初の最初。正確には2番目のシンボル使いである神薙信一はそうではない。あの人には少ないですが確かにIFがあった」


 俺達にあの人の過去を知ることはできないが、昔はああじゃなかったのは分かる。

 遊ぶという行為を行わない、常に最善最適。

 感情よりも利益や効率を優先したのだろう。


「完全なる一になる、そのための生贄が最上、そのための犠牲が宝瀬真百合さんの御先祖、更にそしてその残骸が、私の血族になっているだけです」


 不意に後ろから声をかけられる。


「初めて見ました。あなたが神薙さんと一緒にいない所」


 バストサイズが俺の知りうる限り最強。

 その胸で巫女とか、エロい事しかできないでしょ?


「私もできれば一緒にいたいのですが、あの戦闘中に同じ世界にいても、邪魔になるだけなので」

「邪魔になるのか」


 邪魔と言わざるを得ないほど、シンジは神薙さんと戦えているのか。


「生涯初めて、あの方にとっての家族喧嘩です。邪魔をしてしまうのは野暮でしょう」

「俺から見れば、正直神薙さんの方が不利だと思っていた」


 どんな力を使っても上回れ、

 どんな力を使っても負荷にされ

 どんな力を使っても未知になる。


 故に、ひょっとすれば負けるんじゃないかと思っていた。


「あり得ないですね」


 本人の複製にも否定されたが、この人たちには何が見えているのだろうか。


「ですので、ご主人様がいないからっておいたはしない方がいいですよ」

「……そう」


 当たり前だが、おつきの人は人間であり神様じゃないか。


「撫子さん撫子さん。逆に聞くけどなんか企んでいるよね」

「ええ。ご主人様の希望を叶えることが、巫女の務めですので」

「現状どうなの? 問題なく進めている?」

「順風満帆とは言えませんが、順調といったところでしょうか」


 そもそもとして神薙さんが企まないといけないことはなんだろうか。


「それで何の御用ですか?」

「とくには。強いて言うのならお眼付をやっているところです」

「よほど信頼無いのですね」

「私としては、殿方は多少やんちゃした方が好みなのですが」


 悲報。真百合のあれはこのヒトの遺伝だったらしい。


「ですがいざというときに止める役も重要なのです」

「まあ」

「でもまあ、だいぶ遅かったかもしれませんが」

「え? もう?」

「いえ、あなたではなく……何でもありません。忘れてください」


 忘れろと言われたのだ。

 忘れる努力をしよう。


 すごく忘れた。


「あ、撫子さんじゃないですか。ご無沙汰しております」

「そこまで忘れなくていいんです」


 じゃあ思い出す。


「最後に確認だけ。人間にはご主人様によってプロテクトがかかっています」


 それは地球外の人外によって傷つけることが出来ないという呪いのような加護。

 いざとなれば神薙さんを擬態としたゴーストが全身を包み、防御する。

 そしてその身体能力をもって、外敵を排除する。


「そのプロテクトは無論私達女中達もかけられています」

「でしょうね」

「そして、それは人間のものと原理は同じですが、発動条件が緩くなっているとお伝えしておきます」


 確かこの人のシンボルは創造。

 どんなものでも作り出せる能力だが、それでも戦えば俺が勝つ。


 神薙のハーレムの人と相手して、負けるかもしれないのは癒者と女狐。

 それも俺の方に有利が付く。


 横槍が入らない戦闘になった場合、どっちが勝つかではなく何秒生き残れるかという戦いになる。


 ただチート戦線、異常あり。という作品にとって、勝敗議論の最優先は神薙さんが参戦するかどうかになっている。


 それをお互いに分かっているとしての、先の発言だ。


「そんなの無くったって俺はあなたに危害を加える気はありませんけどね」

「そうですね。そうだと思いますが」


 そう言い残し巫女さんはこの場を去っていった。


「仕方ないか。あんたの言うとおりに真百合と遊ぶか」

「そうしてくれ」


 最初はそういう話をしていた。

 特にやることはないし、否定することもないだろう。


 真百合と連絡を取り二つ返事をもらった。


「どこ行く?」

「どこへでも。強いて言うならば……落ち着けるところがいいわね。美術館でもどうかしら」


 ラブホテルなんて言われたらどうしようと思っていたが、意外にまともすぎる返答が来てビビる。


「何か企んでない?」

「……私は何も企んでいないわ」


 一瞬の間があったが、いいだろう。


「帝国国立博物館でも行くか」


 そこには帝国が人材派遣をして稼いだ、世界各国の遺産が展示されている。


「そうね。そこにしましょう」

「どこまで力を使う?」

「移動中に声をかけられるのは億劫だから、博物館前までは飛びましょう」


 デートは移動時間を含むとあるが、流石にこういうのは面倒くさい。


「じゃあ、とりあえず『世界』の耐性は落としてくれ」

「はい。どうぞ」


 真百合は既に『物語』の能力者。

 次元移動は彼女の許可がないとできない。


「携帯の電源は切っておきましょう」

「そうだな。マナーだし」


 美術館では静かにしないと。



 以前早苗の家には美術品の蔵があるといったことがあるが、この美術館にも同等かそれ以上のものが飾ってあった。



 昔の聖人の晩餐の様子が書かれてある絵画や、美の女神が生誕する様子を描いた絵画。

 クリスタルの頭蓋骨や、なんと書いてあるかよくわからない手帳。


 そういった名品珍品が所かしこに並んでいる。


 その中に一つ


「蟲刀・纏蛾」


 例のあの人が製作したであろう刀が、飾ってあった。

何だろうと思い、壁に貼り付けられれている看板を読むと、一言


『触れたら死ぬ』


 分かりやすい。


「これ俺でも触れたら死ぬのかな?」

「いえ。そこまでのものじゃないわよ」


 意外だった。

 Tengaシリーズは神薙さんが作ったものだから


「これは宇宙人を討伐するための刀のようだから、今の私達からすればちょっとびりびりするくらいね」


 最強格の天我は後期の作品で、こっちは前期の作品ってわけか。


 こんな感じで面白そうなもの、興味深いものを真百合と見て回った。


「思ったより楽しめたな」

「そうね。また行きましょう」


 何でもできる俺達にとって、こういったエンターテイメントは何よりの娯楽になる。


 とりあえず博物館から出た後は、携帯の電源をつける。


 早苗やシュウから連絡が来ていた。


「……?」


 何だろうと思い文面を見ていると


「どこいってるんだ。決戦は始まっているぞ」

「…………マジ」

「マジみたいね」

「…………知ってた?」

「正直日本が初戦で負けることとあなたとデートに行くことを天秤にかけたら」


 どうやら俺は父らしきものに騙されたらしい。





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