決戦試験 1
引っ越し(5か月ぶり3回目)+年末
5年に一度行われる大会。
オリンピックにギフトを加えたような大会。
結果による影響はすさまじく、下手をすれば常任理事国から外される。
その中で国の発言力に関わるといわれる決戦。
5vs5の異種勝ち抜き戦
基本的には勝ち抜きだが、3連勝したら次の試合は確定敗北。
引き分けは両者敗北だが、大将は1度だけ引き分けによる敗北を免除される。
国の威信を全振りした大会だが、実をいうと日本側の参加者が確定していない。
確定しているのは俺とシュウと早苗、補欠として真百合。
真百合はそもそも参加できるのか参加してもいいかはわからない。
決戦は1週間で決着がつく。そんな短期間に複数回シンボルを使わせるわけにはいかない。
はっきり言って、俺と帝王が同格で真百合が俺より強い以上、帝王が真百合に勝つことはない。
だから真百合を出せば(正確には真百合を帝王にぶつければ)日本は勝てる。
だが、それもまずい。
真百合は俺の上に立つ気はないとのことで、ランクを操作した。
金の力ではなくシンボルの力。
俺達以外の誰一人、真百合が帝王より強いことと、ランキングを出し抜けることを知らない。
いくら真百合でも、このレベルの炎上案件を沈下することは厳しい。
纏めると、真百合を出した場合のメリットは、1勝どんな相手でも必ずとれる。
デメリットは、連戦が出来ない為俺達の負担が増えることと、勝ってもめんどくさいことになる。
だから参加するにしても、補欠として参加させておきたい。
一応補充要因としての参加は可能とされている。
そうなると俺とシュウとあと早苗。
残り2名の参加者が決まっていない。
決まっていないのなら募集をしないといけない。
と、いうわけで。
面接をすることにした。
枠は最低1人、最大4人。
集団面接に通った何人かを俺達役員が面談する。
就活をするより先に、人の就活をするなんて思わなかった。
面談をするうえで、ルールを事前に決めている。
俺と早苗と真百合とシュウで10点ずつ(正確には俺と月夜さんで5点)で採点し、上位何名かを再度面接する。
簡単なルール、猿でもわかる。
こんこんこん
ノックは3回
「どうぞ」
俺が入室を促し、スーツの人、私服の人、スポーツ服の人、甲冑の人。学生服。
全員が席にたどり着いたことを見計らい
「こんにちは、死ね」
俺は拳銃で脳天を狙い発砲する。
ちなみに残りの3本は生やした。
全員の額を直撃し、遅れてバババババンと発砲音が鳴り響く。
「うるさいなこれ、次からサイレンサー使おう」
どさどさどさどさどさと全員が倒れる。
4体が血を流し即死した。
「外れか」
生命反応は……ん?
「うっぅ うぅぅ」
そういえば甲冑を着ていたか。
その結果致命傷の一歩手前になったわけだ。
「な、なにを」
しかしどうやらそこまで。
こちらの真意には気づかない。
「必要ないかもだけど言っておくね。日本の代表として参加するうえで、拳銃程度の攻撃をどんな手段であれ防げないのは論外だ。だからこのタイミングで死ぬようなら足切りだよ。さあ頑張れ。未来ある日本の若人よ」
1000人を超える人を面談するとなると、こんな手段をとる。
「じゃあ、このまま面談を始めるね。えっと火中毬栗君。なんで甲冑きたの?」
「目立ちたかったから……ぐっっ」
あ、死んだ。
「しかしなかなかいい奴だった。生きていたら7点はつけていた。シュウはどうだ?」
「……おれは5点だ。顔を見ないことには話しにならないし、顔を見せねえことには代表にはなれねえだろ」
「一理ある。真百合」
「5点.可もなく不可もないから」
「じゃあ、早苗」
「4点、この実力での参加は流石に可哀想すぎる。それより一樹」
「はいはい」
生やした腕から血を噴出さして
「うぅぅ」
「いって」
「ぅぁ」
「ぐぅう」
鬼の血、鬼神の血。
死んだ人間すら生き返せるようになった。
しかも不調な所も完治できるようにもなった。
「面談結果は後日郵送でお伝えします。労働機関」
5人同時にロボトミー? 脳手術を行い、今回の記憶も改竄。
順番による優劣はつけない。
「じゃ、次の方どうぞ」
ぞろぞろと人が入ってくる。
その中で一人俺が知っている人がいた。
父だった。
「回廊洞穴 惨事元」
次元の穴を一つではなく、無数に無限に角度をほんの少しずらして作り出す。
そうすることによって穴ではなく、球体の歪が出来上がる。
その中で俺が突入し、突進。
ガオンという擬音が聞こえ周囲の家具を飲み込んだ。
「不滅神話」
しかし残念なことに父さんに衝突したところで、突進は防がれる。
「どんな能力だっけ」
「息を止めている間ムテキになれる」
法則か。
直近はそこまで強くない相手をしていて、少し前はどうしようもない相手と戦っていたから忘れていた。
能力は大きく分かれて6つと1つ。
『時間』関係、『運命』や因果、空間や異次元などの『世界』、『法則』という概念、そしてメタや理不尽の『物語』、そしてそれ以外のどこにも属さない最弱『論外』
理を歪めている以上、矛盾や相反が起きることがよくあるが、それを解答がこれ。
『論外』『時間』……『物語』の順に優先度が高くなる。
今回の場合だと、空間を飲み込む『世界』よりも概念として無敵になれる『法則』の方が強い。
だから防がれた。
これはどんな人間にも適応され、俺のように公平公正な人間と、父のように糞ロリコンが戦ったとしてもクラスが異なれば勝つのはより上位の者。
神薙さんですらこれは逆らえないらしい(ただしあの人は『物語』の能力を無数に持っている)
「何しに来た。冷やかしなら帰ってくれない?」
「応募したんだ。正規の手順で。そして書類選考に受かったからここにいる」
…………
事前に目を通してなかった俺が悪いと言えばそれまでだが、糞の前で自分の非を認めるわけにはいかない。
「それより一樹。他の人もいるんだ。一端自分の席に戻ってフォローをしておいた方がいいんじゃないか。かわいそうだ」
誰だこいつ。
こんなかっこいい奴は俺知らない。
いや一度だけあったな。
初対面の時、無駄にオーラがあった。
得体の知れなさがあった。
「まさか。こいつ」
俺の戦慄を証明するかのように
「かっけえ」
「よく見たら嘉神さんと似てる」
「親族? じゃあ強いよ」
こういう雰囲気が醸し出される。
「おいおい。まさか」
「ああ。恐れ入った。こればっかりはどうしようもない」
父さんは無能だ。
カタログスペックはものすごくよいが、それが結果に伴わない。
何をしても悪手になりかねないし、ろくなことをしない。
有体に言えば学歴だけで使えない奴。
だがそれだけじゃない。
「お仕事は何を」
「一種のフリーランスをやっております。案件は詳しく話すことは出来ませんが、数十億の資金が動く業務を何度も経験しました。無論、その案件の中には鉄火場での仕事も含んでおり、その経験は今回の大会に生かせると自負しております」
嘘はついていない。全て事実だ。
だが俺は知っている。
こいつこの数か月は働いていないし、案件だって神薙さんからしている借金を返済するための仕事だ。
神薙さんが暗殺依頼を出したのは自分の子供を何とも思っていない外道。
そいつを秘密裏に処理しているだけ。
なんなら神薙さんの指示通りに動くだけの簡単な仕事だ。
俺は内情を知っているがこう突っ込めるが、知らない人からすると
「ムリじゃん」
「最悪、こんなの内定きまったんじゃ」
集団面接で後の人間をやる気をそぐくらいに
『『『面接が上手え……』』』
面接がうますぎる。
初対面の人に自分の落ち度を隠す能力が段違いだ。
この場で俺ら5人(月夜さん含む)だけなら失態を晒すのだろうが、ここには初対面の人間が4人いる。
その人たちを騙すために、いつもの無能オーラが見えなくなっている。
こうなったら圧迫してぼろを出させるしかない。
「で? 言えないって結局ないと同じだと思うけど」
「そうですね。直近ですと沈黙の666と呼ばれる事件の解決策の提案と実行に一役買いました。お忘れですかね」
…………
「「…………」」
嘘は言ってない。
ギフトを毒にされたので、ギフトを封印した結果自由に動けるようになった。
結果俺とシュウが解決した。
ああそうだ。
一役は買っただろう。
「「…………」」
でもあんたそれ以外何もしてないよな?
いやそれを指摘してもいいんだが、この場でそれを指摘するのもまずい。
それは赤の他人が4人もいるから。
あそこの内情を暴露するのは情報安全の都合上良くない。
それで否定しないものだから
「す、すげえ」
「折角だしツィッターでつぶやこ」
もうそれが確定のように話が進む。
無能な味方が一番厄介という言葉がある。
それはその味方を先に殺せばいいと思っていた。
なるほど。そうじゃないんだな。
本当に厄介なのは外せない味方なんだ。
こうなったら仕方ない。
「はあ? その程度の経歴で日本代表になれると思ってんの?」
圧迫して追い返す。
「もちろん思っておりません。私がやるべきことは代表になることではなく、あなた方4傑のサポートです。この嘉神一芽にお任せください」
「このぉお」
「何より、精神的圧迫に強いのが長所です」
「嘘をつくんじゃない」
「何分、取引先にこってり絞られましたので」
普段神薙さんから圧迫されている奴だ。俺程度ではそよ風に吹かれた程度の重圧しか感じないか。
場数が違う。
人を騙して、人の信頼を裏切った数が違う。
付け焼刃では勝てない。
こうして面接が終わった時
「採点」
「「「…………」」」
誰も口を開かない。
真百合を除く全員が絶句していた。
何も知らなければ満点だった。
彼を知らなければ十点だった。
能力もコミュ力も背景も完ぺきだった。
「ふざけんなよ」
「何も知らなければ、恐らく私も騙されていた」
悔しい。
こんな奴に騙されかけるなんて。
「興味ないけど、嘉神君の父親だから8点」
真百合が口を開く。
「9点」
「10点」
「仕方ないか。9点」
残り9割強残っているが、これ以上の点数を取る人はでないだろうという実感があった。




