神殺しの道筋
シュウを部屋においてから、すさんでしまった銀河を元に戻す。
「しかし一樹。本当に銀河破壊まで出来るようになったのか」
早苗は殴るだけしか能がないので、こういったことは見ているだけだ。
「まあな。理論上は早苗も出来るはず」
攻撃における超悦者の限界は、宇宙破壊。
だから早苗もやろうと思えばできる。
「お互いに強くなったな」
「まさか」
絶対的に強くはなっただろう。
だが超えてしまった人々を見えてしまった。
「私も手伝っても?」
「駄目だ」
真百合の能力は強力だが、使いすぎてはいけない。
彼女を宝瀬真百合とするために、出来る限りシンボルを使わせたくない。
だが天才である彼女ですら、ここまでやってようやく同格。
「ふざけてやがる」
神々の悪意。
人類が他の全ての生命体を攻撃しているからという言い訳で、俺達に好き勝手攻撃する連中。
「絶対に許さない」
今回は月夜さんが犠牲になった。
たまたま俺の中で生きていてくれている。
だから怒りはない。
しかしだ。しかしである。
次同じようなことがあったら、また同じようなことになるとは思わない。
「あいつらを殺すよ。俺の視界に入らないように」
「しかしだ一樹。私はよくわからないが、私達がこれから何かをして勝てるのか?」
早苗の言い分は尤もだ。
あいつらは神。
人ならざる者。
俺達は神薙によって生かされている。
神の上に人があろうが、今俺達の上に神がいるのは揺るがしようのない事実。
それは分かっている。
「でも殺す」
「どうやって?」
「簡単な話。簡単に神を殺せる奴に聞くさ」
二人は俺が何をしたいか分かったようだ。
「だが一樹、あいつは……いや、そうか。あれならありえるのか」
理屈ではない。
その外にいる存在。
そいつに頼る。
いつぞやと同じく正規の手段で山を登る。
「初めて来たときは、早苗と二人きりだったな」
「うむ。確か地上げを……ではなく土地購入の交渉するためにいったんだ」
「控えめに頭おかしいことやってるわね」
真百合のまともな突込みは久しぶりに聞いた。
どうやって手入れをしているか分からないほど完璧な日本庭園に到着。
「待ってたぜ」
「なんだ。案外普通の格好をしてるんだな」
神薙信一が洋服を着て出迎えていた。
普段着は脱ぎやすいからという理屈で着物を、初登場時は全裸だったのに今回は大分おとなしい。
「それにしては背が縮んだようだが」
普段なら2m20㎝はあるのだが、2m弱にしか見えない。
「そりゃそうだ。これは俺が20の時のデータを基にした人造人間だぜ。お前の知っている神薙信一じゃない」
本体は天頂で柱神とやり合っている。
とはいえ、あの神薙が何の準備もしていないとは思えない。
対策くらいは用意してある。
「それで何しに来た?」
「言わなくても分かっているくせに」
「言わせたいんだよ。俺は」
性格が悪い。
「行動は力だ。自分の意思を行為で示せ。俺がやることはその力をちょっとだけ増やせるように手伝うことだけだ」
「ふっ」
真百合が嘲笑うかのように笑った。
「どうした真百合? いつもと同じ嫌味のような自己評価の低さだぞ? そんな今更笑う展開だったか?」
「別に、能無しは黙ってなさい」
真百合には何が見えたんだろうか。
「行動か。まずは俺が何をしたいかを示せばいいのか?」
「そうだな。言ってみろ」
俺がしたいこと。
二度と奪われないように、俺がするべきこと。
それは
「あんたの妹を殺したい」
柱神、メープルを殺す。
「そうか。頑張れ」
「力を教えてほしい」
「貸してほしいの間違いか」
「いいや、あってる。あんたの力で殺したところで意味がない」
ギフトで殺すことは可能だろう。
実際、完全白狂すればいいところまでいけてた。
でもそれじゃだめだ。
それをするには何かを失って初めてなるもの。
失わなければ使えない力。失わないようにする力とは相異している。
何より気に食わない。
異世界転生におけるスキルの出所を主人公が気にしないように、俺もこのギフトの出所が神薙のモノだとしても気にしない。
だが、この意思は
「シンボルを、俺にシンボルを使えるようにしてほしい」
俺の手で実行しないといけない。
「そして俺の愚妹を殺すか」
「ああ。殺す。俺の手で俺の力で殺す」
神を殺す。
「だが残念ながらそれなら許さない」
「なぜだ?」
「主人公理論だ。忘れたとは言わせない」
この世の全てのモノには中心があり、その中心の為に有象無象が存在する。
「この地球では嘉神一樹を中心としている。だが全体としては柱神メープルを中心としている。それを殺してしまえば」
「どうなる?」
「俺以外の全てが滅ぶだろうぜ」
そりゃそうだ。
あんたは絶対に滅ばない。
「でもさ、殺してからすぐに滅びるんじゃないだろ」
「ああ。安心しろ。大きければ大きいほど遠心力により保つ時間は長くなる」
「それってさ、100年よりも短いのか?」
「長いだろうぜ。間違いなく」
宇宙は60億年前に、この世界に至ってはそれ以上続いてきた。
人間を60歳までと考えるのなら、この場合の100年は約0.3秒
時間にしてはわずか。
だが俺達は人間、100年もあるのなら
「じゃあさ。勝手に誰かがなってくれるだろ」
のちの子孫が歴史を作ってくれる。
「それがだめなら、神薙さん。あんたが準備しておいてほしい。後任の神様をあんたの手で祀り上げてほしい。あんた好きだろ? 人間様の都合で神が作ったシステムを愚弄するのが」
今まで神妙な顔をしていた神薙だったが
「シンボルの件は了承していないが、仮に嘉神一樹が俺の愚妹を殺した時の後片付けはやってやろう」
良い笑顔で了承した。
「それで、結局シンボルはくれるのか?」
「駄目だ」
断られてしまう。
「理由は二つ、一つはそもそもとして、嘉神一樹は俺に借りがある」
分かっていた。
「早苗の件だろ?」
早苗の意識を戻すため、俺はこの人に頼んだ。
その借りを返さないまま、頼みごとをするのは礼儀知らず、そういっている。
「その主張は文句なく正しい。だから俺はあんたに頼む。借りを返させてほしい。そしてもう一度俺の頼みを聞いてほしい」
状況によっては土下座する覚悟だった。
「いいだろう。その覚悟があるのなら条件を出す」
「じゃあ」
「だが今すぐは無理だ。1か月後になる」
「なんで?」
すぐにでもシンボルを手に入れて殺してやりたいのに。
「俺が出来ないからだ」
ここにきてちゃぶ台をひっくり返される。
「今の俺を見たら分かるだろ。俺は神薙信一であるが、本体ではない。シンボルは俺か愚妹が直接関わらないと与えることは出来ない」
これもまたぐうの音も出ない言い分だった。
今神薙の本体はシンジとやり合っている。
俺にシンボルを与える暇はない。
「だから1か月ちょっと待ってほしい」
「1か月?」
その一か月で何が変わる?
「俺がシンジに勝って戻ってくる」
「………え?」
言っている意味が分からない。
「あんた引き分け前提で戦わされているんだろ? それなのに1か月でケリがつくっておかしいだろ?」
それくらいのポテンシャルは確かに感じたぞ?
「別におかしくはないぜ。終焉のシンボル大断焉で最果ての絶頂と孤高の自家発電を攻略した。それは間違えない。だが、根本的なことをあいつは間違えている」
それってもしかして
「シンボル?」
神薙さんのシンボル
最終傀
噂では最強最悪の神を葬ったと言われる。
異能力の到達点
真百合がこれに勝てる能力は存在しないと断言した能力。
父さんは何て言ったっけ? なんか言っていた気がするけど忘れた。
人や視点によって色んな言い分はあるだろうが意見は一致している。
最強
それを使えば
「俺のシンボルを評価しているところ悪いが、別にシンボルを使う必要はないぜ」
「ええ?」
「俺がシンボルを使わないといけないのは、糞カス脳カラ神である名前を言うことが最大の侮辱という風説がある、σφだけだ」
どんんだけ嫌いなんだよ。
真百合が早苗を嫌っているが、それ以上に嫌っていそう。
「たまに事故で使ってしまっている状況にはなるが、基本俺はシンボルを使わない」
割と使っている場面が多かった気がするんだが……
「じゃあなんで?」
「俺がシンボルを使う前に、愚弟の心が折れるからだ」
心が折れるだと?
「お言葉ですけど、シンジは早苗の精神を元に完成させた。そう簡単に心が折れるとは思えないんですが」
だから神薙に張り合えている。
「それに関しては嘉神一樹には関係のない話だ。信じられないのならこうしよう、クリスマスまで決着がつかなければちゃんと倒す」
クリスマスだって?
「もうちょっと早めることできません?」
「駄目だ。あえてその日までって指定したんだ。察せ」
分かっていっている。
「はいはい。それでいいよ。でもさ、そん時あんたの妹はどうするんだ?」
多分人間と同じくらい贔屓しているだろ。
「俺は殺さない。そしてあいつが殺されても手を出さない。これで文句あるか?」
「ありがとう。最高の返事です」
俺がメープルを殺す。
それまでは何もしないと約束をしてくれた。
「それじゃあ、あんた俺に頼みたいことはなんだ?」
それを達成すればシンボルをくれるんだろう?
「そうだな。これを」
取り出したのは錠剤がはいった瓶
「これを飲めってことか?」
「嘉神一樹じゃない。宝瀬真百合がこれを飲め」
「いやよ」
「こうやって嫌がるのを何とか説得して、朝昼晩1回ずつ飲ませろ」
「いや、どんな薬か言ってくれないと飲ませるなんて」
出所の分からない薬を飲めなんていえないだろ?
「神薙印の精神安定剤」
「さすがですね。今俺が一番欲しかった奴ですねはい」
真百合の問題も案外簡単に決着がつきそう。
「もう一つ、宝瀬真百合のシンボルだが、日に1回、週に3回、月に10回までの使用にしてほしい」
「私?」
「ああ、宝瀬真百合がこの指示を守るようサポートをする。そうすれば借りをチャラにして、新たにシンボルを与えよう」
とんでもない。
こちらからすれば願ったりかなったりだ。
初めから真百合にシンボルを使わせる気はない。
ただ自分の能力。黙って聞くとは思えない。
だが、こうして具体的な安全ラインを用意して、そこを意識して守ろうと言ってくれれば、真百合も意識をしてくれるはず。
やはり神薙さんはなんだかんだで優しいところがある。
こうして俺達にも利を与えながら課題を出す。
これならば信頼して――――
「――待て」
ふいに早苗が割り込む。
「これ以上縛りを緩くすれば意味はないし、強くしても守るとは思えないから、条件の変更は受け付けないぜ」
「そっちではない。その件について私では意見の出しようがないからいうのは一言だ。『どうか真百合をよろしく頼む』」
真百合は早苗を本気で嫌っているが、早苗は真百合を本気で嫌っているわけではない。
「任せろ。それで本当に言いたいことは?」
「とぼけるな。なぜ月夜を見殺しにした。今こうして人を気に掛ける優しさがあるのなら、なぜその優しさを月夜にも与えなかった?」
神薙さんは真百合にシンボルを与えたことに対してキレた。
だが月夜さんが殺されたことについては一切言及していない。
「宝瀬真百合には健常でいてくれないと困るからだ」
「ならばなぜ!」
「月夜幸については何も思っていない」
「…………!」
「正確には月夜幸に特別な感情は抱いていない。死んでしまってかわいそうだとか、うんちしている姿は可愛いねとか、そういったごく当たり前の感情を持つだけだ」
「糞野郎」
俺が言ったのか月夜さんが言ったのかは定かではない。
「それは四六時中俺が思い続けている感情だ。この世にどれくらいの人間がいるとおもっている? その全てに手をかけていたら、人類は俺の手で不老不死になってしまうぜ」
言いたいことは分かる。
神薙さんが何処かで妥協しないと、人類は本当の意味で神になってしまう。
それを神薙さんは享受しない。
「今度は俺から聞きたいことがある」
心臓にナイフが突き刺さったような感覚がした。
その正体はすぐにわかる。
「そりゃ俺は味方だぜ。ちゃんとお願いしたら願いを一つくらい叶えてやる。最終目的がお前達の夢や現実と競合していない。むしろ談合しているといっていい。
だからこそ
天敵からお前達を救ってやる。
大敵からお前達と戦ってやる。
外敵からお前達を守ってやる。
その上で問おうじゃないか」
早苗の頭の悪さよりも
真百合が狂ったことよりも
月夜さんが死んだことよりも
シュウと仲違いしたことよりも
「俺が完全な味方だなんて思い込んでないよな?」
こいつと戦う可能性がまだ残っていることに、俺は絶望した。
これにて9章終了です。ありがとうございました。
半年で終わったので、比較的短かったですね。はい。
残すところ10章11章(一番長い)最終章(一番短い予定)です。
そして10章ですが、この小説最大の謎であり伏線である
神薙信一のシンボル 最終傀の能力が明かされます。
ぜひお楽しみください。
ここまで長々と書きましたが、読んでくださった方々、感想を書いてくださる方々、
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします(出来れば感想とかレビューとかほしいです)




