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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
283/353

悪魔と聖女と魔女、そして狩人 1

誤字報告をしてくださっている方

本当に助かります

返信機能がないのでこの場でお礼を申し上げます




 俺の気持ちと裏腹に、天候は曇天だった。


「天気って変えちゃダメなわけ?」

「非推奨ですね。世論の印象は、天候操作は珍しいことになってますので」


 帝国では天候操作をしているが、スキー場や農場といった一年中同じ天気にする必要がある場合に限っている。


 自分の意思で好きなように変更できる能力者はいない扱いだ。


「仕方ないか。運動会とかうるさそうだし」


 雨を降らせたい人も晴れにしたい人も両方いるはず。


 だからノータッチが一番平和か。


「基本的にわたしは地上では活動しないので、わたしに話しかけないでくださいよ」

「分かってるって」


 強引に選択した制服を携え、月夜さんの葬儀に向かう。


「早いな一樹。まだ1時間前だぞ」


 喪主である早苗だけがすでに会場に到着していた。


「まあな。手伝えることはあるだろ?」

「ああ、頼む」


 4人でしか行わないとはいえ人生最後のイベントだ。


 できる限り綺麗にして見送りたい。


「それにしてもよくこんな場所とれたな」


 かなりいい所の葬儀屋だ。


 人数がもっと増えれば1000万くらいは払わないといけないくらいの高そうな雰囲気がある。


「私もそう思う。ただ最初にOKを出してくれたのがここだったから」

「なるほどな。それとその格好よく用意できたな」


 学生なので、スーツではなく学生服で冠婚葬祭に参加する。


 しかし早苗は、喪服で参加していた。


「実家が実家だから、こういう服は揃えている」


 名ばかりヤクザ。

 実質衣川教実行部隊。


 早苗に説かれた集団。


「ところで見たか」

「ああ、ニュースのことだろ?」


 月夜さんが死んだことは大々的にニュースになっていた。


 そんなにおかしなことじゃない。


 彼女は超者ランク9位の実力者。


 日本で4番目に凄いとされている人だ。


 仮にギフトという概念がない日本なら、序列的に総理が死ぬくらいのイベント。

 世界的に言えば、先進国の王様が死ぬくらいの訃報。


 それくらい衝撃的なことだ。


 それくらい彼女に価値はあったのだ。


「ただ途中から真百合にネタを食われたが」


 テレビに真百合が出た瞬間、注目は完全にそっちに移動した。


 TRPGで表すなら、今、真百合のAPPは25くらいある。


 常人が直視すれば、正気ではいられない。


 超悦者でやっと意識を残せるレベルなんだ。


「まったく、もう少し幸のことも報道してほしかったものだ」


 こういう精神に関わる事柄は早苗に全く効果がない。


 超悦者の精神耐性<<<<神薙さんの精神力<早苗の精神力


 唯一神薙さんに勝っていると明言された存在。


 だから仮に真百合のAPPが2万あったところで、早苗の精神は動じることはない。


「それで俺は何を手伝えばいい?」

「料理……は……一樹は無理だったな」


 万能の俺だが家事だけは出来ない。


「だったら……どうしようか。家事が出来ないという条件で手伝えるものがないぞ」

「……」


 早苗からの戦力外通告。


 クッソむかつく。


「このやろー」

「ひゃぁ にゃにをしゅる」

「ほっぺ引っ張った」


 この不細工面、どこにさらしても恥ずかしくない。


 だからか?

 だから俺は……早苗が


「遅くなったわね」


 インターセプト。

 そんな言葉が一瞬脳裏をかすめる。


「真百合か。そっちは大丈夫なのか?」


 何せ彼女は世界の半分を所持している企業の事実上の長。


 俺らよりもやらないといけないことが多すぎる。


「私がやらないといけないことは全て終わらせたわ」

「それは超悦者でか?」

「ええ。ただしその先のものを使って」


 超悦者のその先か。


 話を聞くに、通常の超悦者が妥協の全能なら、その先は言い訳の全能。


 イ〇ローなら3打席で5本のヒットを打てるように

 ウ〇ージさんなら最強生物を自殺に追い込めるように

 霊長類最強の女性が男に生まれていたらタックルで人を殺せたように


 たとえどれだけ不可能でも、そいつならできると思わせる。


 だから真百合も、彼女ならそれくらいできると思わせてしまえば、シンボルなんかを使わなくても何でもできる。


「真百合、あまりこういうことを言いたくないがその格好はどうなんだ?」


 早苗の言うことは正しい。


 真百合の恰好は黒いドレス。


 葬儀に出る恰好ではない。


「別に私葬儀に出るつもりでここに来たわけじゃないから」


 無論そんなこと真百合は分かっていてこの格好をしている。


「ねー嘉神君」

「…………」


 何をトチ狂ったのか、真百合は俺のことが好きらしい。


 だから俺以外何を言っても話を聞かない。


「真百合。喪服か学生服に着替えてくれ」

「分かったわ」


 一瞬真百合が消えたかと思うと、次の瞬間には着替え終わっていた。


「これでいい?」

「ああ、似合っているよ」

「ふふっ ありがと♡」


 こうでも言っておかないとやがて俺が真百合を制御できなくなる。


「一樹仕事ができた。真百合の介護を頼む」

「……ああ。だが結局手伝いは?」

「私が幼いころ、月に6回葬儀に参加していた。思い出しながらすればなんとかなる」

「そう、じゃあ頼んだ」


 結局早苗が一人で全部葬儀の準備を行った。


 その間、俺は真百合とコミュニケーションをとるだけで時間を潰した。




 およそ1時間後、予定された時間ギリギリにシュウがやってきた。


 真百合と違って特段変わったところは……少し目頭が晴れているくらい。


「大丈夫か?」

「……」

「おーい」

「あ、ああ。いつきか」


 どうしよう。

 全然大丈夫じゃない。


「わりい、考え事してた」


 多分月夜さんのことだ。


 そういやこれ月夜さんの葬儀なんだよなあ。


 俺の中で生きているから実感があまりわかない。


「準備できているし、すぐに始めるけど大丈夫か」

「あ、ああ」


 どうせ参加するのは俺ら4人だけ。


「これより我が友月夜幸の告別式を開始する。本日はお忙しい中集まっていただきありがとうございます」


 読経も弔辞も弔電もすべて早苗が読み進める。


 長いようで短く、短いようで長い時間が過ぎる。


 そして焼香の時間。


 月夜さんは無宗教故、衣川家由来の弔い方になっている。


 まず早苗が


「…………」


次いでシュウが


「ぅ……ぅぅ」


 続いて俺が


「………」


最後に真百合が


「………」


焼香を上げる。


 シュウだけが焼香中にも涙を流していた。


 だからずっと葬儀場では、シュウの泣き声だけが響いていた。


「なあ、本当にシュウに伝えたらだめ?」

「ダメです」


 俺の中に月夜さんがいるってことを、シュウに伝えたい。


「でもまあ、皆さんの心の中にいるってことくらいならいいですよ」

「そうか。ありがと」


 そうと言われれば善は急げ。


「シュウ。月夜さんは俺達の心の中で生きてるんだよ! だから泣くな!」


 できるだけ元気よく、明るく、はきはきと。


「馬鹿ですねえ。ほんと」

「え? なんかいった?」

「なんでも」


 なんか自分で言った気がするが……気のせいか。


「一樹、まだ式は終わっていないぞ」


 そういう早苗も大して気にしていない。


 そりゃそうだ。


 早苗は友人が死ぬくらいで傷つくことはない。


 そんな軟便みたいな精神を持ち合わせていない。


「でもそうね。きっとたぶん、私以外の誰かの心の中で生きているのでしょうね」


 真百合は最早興味なく、涙一滴流さない。


 俺は月夜さんの死を乗り越えたので、もう悲しまない。


 だからきっともしも、これを第三者が見たのなら


 シュウだけが悲しんでいるだけに見えるかもしれない。


「もちろん、第三者だけじゃなく、当事者でも勘違いするんでしょうね」

「ええ? なんだって?」


 最近耳が遠くなったかなあ。


「ふざけんなよ」


 不意だったかもしれない。

 だが予定調和かもしれない。


 いや、多分どこか


 蝶々が飛んで羽ばたいたくらいの要因だったんだろう。


 誰かが投げキスをした、そんな些細なことで変わった話なんだろう。


「お前ら! 人の死を何だと思っている!!」


 それはたぶん言ってはいけないセリフで



 俺達が五輪で無くなり、そして四輪でも無くなるような



 決定的なセリフになるかもしれない。



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