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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
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月夜に沈む



「…………」

「…………ふふ」

「…………くそ」

「…………」


 沈黙。


 そうだ。簡単なことだ。


 真百合は狂わされ、月夜さんが殺され、神薙は封じ込められた。


 現状を整理すれば簡単なことだが、俺達の敗北だ。


 こういう空気の悪いとき、口火を切るのは月夜さんの役目だった。


 だがもう彼女はいない。


 だから、誰も何も言わない。


「……月夜はさ、遺書用意してあるって」


 第一声はシュウが。


 そういえば月夜さんの最後の言葉はシュウがきいたんだ。


 だからシュウがいったことはきっと彼女の言葉では最後なんだ。


「そうだな。見に行くか」


 俺達は4人で彼女の部屋に行く。


 月夜さんが住んでいる家は、生活保護で生計を立てている人が住んでいそうな、

集合住宅だった。


 そこの立地が一番悪い所が彼女の住所。


「開けるぞ」


 管理人の許可はあとからとろう。


 そう思いながら扉を開けて、絶句した。


「ねえ。部屋間違えてない?」


 真百合の軽口は、あながち間違えていない。


 空室だった。


 いや、正確にはモノはある。


 だが生活感が何もない。


 例えるなら新築のレオ〇レスに入った気分。


 棚の中に下着が数枚残っているだけ。


 ゴミ一つなかった。


「あ」


 学生鞄の中を物色し、数枚の手紙が見つかる。


 宛名には大きく、俺達4人の名前が書かれていた。


「読むか?」

「そうだな。読もう」

「………」


 各々勝手に自分宛の手紙を開封する。


******************


拝啓 嘉神さんへ

この手紙をあなたが読んでいるということは、わたしはすでに死んでいることでしょう。

死因ははっきりしませんが、恐らく神様に殺されたんでしょう。


そのことで嘉神さんは心を痛めているかもしれません。


ですが気にしないでください。わたしは仲間を守れて死ぬことができて、ほっとしています。


わたしは最後の力を振り絞り、早苗さんや時雨さんを救ったんです。


後悔はありません。


だから嘉神さんも、あまり気にしないでください。


わたしは納得して死にました。


生き返そうとしないでください。


そんなことに熱意を覚えるのなら、もっと別のところで発散してください。


ボランティアとかおすすめです。


もっと他人を大切にしましょう。


悪人を殺すことと、他人を許すことは必ずしも不一致じゃないはずです。


誰かを殺そうかどうか迷ったら、少しだけわたしのことを思い出してください。


どうかこれだけが、


わたしの最後のお願いです。


どうか聞き入れてください。


以上、月夜からの言葉でした。


追伸、学園の花壇の中にもう一つメッセージがあります。でもまだ開けちゃだめですよ。これ以上なくもっとどうしようもなくなった時に探してください



******************


「ふっ」


 なんというか、らしい。


 いつも言いたいことだけを言って勝手に終わっていく。


 手紙の中でも月夜さん節が響いていた。


「そっちは」


 次に読み終えたであろう早苗に、手紙の内容を聞く。


「いつも通りの幸だった。それと無能な私にいくつかアドバイスをくれた」


 やはり一人一人に書いている内容が変わったか。

 そうだ。全部手書きで書かれていた。


 彼女なりの言葉で、俺達に自分の気持ちを送ったんだろう。


「真百合は?」


 普段の彼女なら速読が得意で、便箋数枚なんて簡単に読み終えているところだが


「読まないわ。興味ないし」


 魔女になった彼女は読まないという選択をした。


「……そうか」


 これが全く状況を知らずに、かつ他人なら殺していたかもしれない。


 だが俺は真百合のことを知っており、今現在置かれていることも知っている。


 今はシンボルの毒に侵されているに違いない。


 だから俺が好きなんていう世迷言を譫言のようにほざいている。


 きっともっと落ち着いたときに、いつもの真百合に戻ってくれるはず。


 強力なシンボルだった。


 ロードする能力、言い換えるとなんでもできて、なんにでもなれる能力。


 神薙ですら倒せるんだ。


 その負荷は俺が考えるよりもきっと重い。


 だから絶対に真百合にこれ以上シンボルを使わせるわけにはいかない。


 今まで助けてもらってきたんだ。


 これくらいの面倒は俺だって見れる。


「シュウは? どうだった?」

「…………」


 シュウは何も言わない。


 いやそもそも、手紙を開いていない。


 あれからほとんど口を開かない。


「いくら何でも開けないと読めないんじゃないか?」

「………なんでだ」

「なんでって?」

「なんでおれをせめねえ。おれがもっとちゃんとしていれば月夜は助かったかもしれないんだぞ!!」


 なんて優しい。


「気持ちはわかるけど、無理だろ。いくら何でもハヤテとメープルと同時に勝てるなんて思っていない」


 月夜さんを殺したのは最後に確認したハヤテか、それとも首を持っていたメープルか。


 どちらかの可能性が高い。


「さすがに自分たちの誰にもできないことを強いる馬鹿はここにはいない」


 一番強いであろう俺がそこにいても勝てる気がしない。


 それが事実である以上、シュウの自責はお門違いだ。


「………でもよぉ」

「いいっていいって。俺からすればよく逃げてくれた。無駄な犠牲を出さずに済んだ」


 あれは無理だ。むしろ月夜さんが頑張ってシュウを助け出してくれた。


 俺はその遺志を受け継がないといけない。


 だからどんなにつらくても前を向いていく。


「ところで、葬儀はどうする?」


 急に早苗が現実的なことを言い出した。


「葬儀?」

「私の遺書には、親しい人だけで1回だけ開いてほしいって書いてあった」


 遺言だ。ならばやるしかない。

 俺達が拒否する理由もないし。


「明日、やろう。いいよな?」


 予定は作る。

 これ以上の予定は存在しない。


「……すまん、そうしてくれ」

「ええ。まあいいでしょう」

「ええ。せっかく嘉神君に会える口実もできたことだし」

「「「…………」」」


 真百合は本当に興味なさそうに答える。


 これを見ると、神薙さんがシンボルについて細心の扱いをとっていた理由がよくわかる。


 これはギフト以上に人が使っていいモノじゃない。


 ギフトが悪意の塊なら、シンボルは狂気の塊だ。


「でもよく考えてみたら私別にここから家に帰る必要もないわよね。大黒柱は貧弱極まりないから、ぶっ殺して乗っ取っちゃおうかしら」

「真百合。別に父さんを殺すのは構わないが、プライベートはプライベートだ。少しの間一人になりたい」


 もう両親に何も期待はしない。


 だから別に真百合が居座っても構いはしない。


 だがそれはそれとして、今は本当に一人になりたかった。


「分かったわ。そこまで言うのなら私も頑固じゃないから」


 とりあえず、俺が言うと何とか理解は示してくれる。


「それじゃあ、いったん解散ということで」


 なかば逃げるように俺は一人になる。


「……………」


 周りに誰もいなくなり、完全な一人になったのを確認して


獄落常奴アンダーランド


 自分の地獄に引きこもる。


 ここには誰もいない。


 蠢くものはあっても、そいつらは人じゃない。


 ただの音を発するものだ。


 だから何をしても問題ない。


 問題ない。


「すーはー」


 落ち着こうと深く深く何度も深呼吸して


 それでも自分の感情を抑えきれなくなって


「あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 泣き叫んだ。


「ふざけんな! なにが神様だ! こんなのが神の所業だっていうのか!」


 自分の亡軍を壊し続け八つ当たりをする。


「こんなのいるか! かえせ! 月夜さんを返せ!!」


 地獄をどんどん壊して、更地にしていく。


「くっそ! 神薙も神薙だ! 最強ならあんなのも指一本で殺せよ! なんで手古摺ってんだ! あんたがあいつを倒せればそれで終わった話じゃないか!」


 神薙さえちゃんとしていればこんなことならずに、


 何もかも変えられずにすんだ。


「ちくしょおぉおぉぉぉぉぉ」


 泣いて

 叫んで

 喚いて

 吠えて


「はぁ はあ はあ」


 精一杯癇癪を起したところで






















「こらこら。そんなことしてはいけません」




 彼女の言葉が聞こえてきた。




(阿鼻叫喚の)感想が多い

モチベが上がる

更新頻度が上がる

感想が増える

以下サイクル



素晴らしい流れ

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