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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
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悪意と敗北




「…………正気か」


 長い間の沈黙。


 その果てに、神薙は一度聞いたことをもう一度問うた。


「正気だよ。正気のまま歩の悪い賭けをする」


 メープルは別の回答でもう一度答えた。


「お兄ちゃんさ、僕がそんなに頭良く見えてた?」

「ああ。愚妹程度だと思っていた」

「残念だけど、買いかぶりすぎだ。嘆きの叫びを聞き続けて、勝てない勝負に挑むほど、頭は良くない」


 俺はシンジの本気を垣間見た。


「これまでずっとシンジの育成のために、暗躍してきた。結果、過去を含めて3番目に余裕になれる強さを手に入れた」


 だが結局それでも、神薙に勝てない。


 あくまでこれまでのこれは、神薙さんと戦うための準備。


 戦って勝てるなんて一言も告げていないのだ。


「でもさ、勝てないなら勝てないなりにやりようはある」

「それが、これか」

「そうだよ。兄弟で永遠に殺し合ってくれ。そうすれば僕らはこの世界を謳歌できる」


 俺は今までどれくらい長く戦ってきた?


 一時間、二時間。


 それくらいだ。


 弱点をさらすようで悪いが、そんなに長く戦ったことがないので、自分の継続戦闘力をしらない。

 だがこれは弱点なのだろうか?


 敵なんて倒すだけだ。継続戦闘力の保証は自分では倒しきれない敵と主張している。いうなら弱点だ。


 いやそもそもだ。


 戦うって引き分けじゃね?


 だって俺が一般人と戦うことはない。


 それと同じ論理を神薙はずっとしてきた。


 戦わずして勝ち続けた男だ。


 そんな男が闘うということは


「永遠に戦い続けるって、つまりそれは敗北だろ」


 この時点で敗北じゃないのか。


「だから朕らは、永遠に父上と戦いを続けよう。それがそれこそが三神の使命だ」

「そういうこった。まあ、俺様がずっとメインで戦うんだが】


 神薙信一には勝てない。


 ならば引き分けでいい。


 それこそが、神様が出した結論。


 そして神薙が分けるとということは、人類の守護者がいなくなること。


 終わりじゃないのか、これ。


「お前は俺を知っていると思っていたんだが」

「知っているさ。僕は他の二人と違い、知の方に特化しているからね。お兄ちゃんよりもお兄ちゃんを知っている」

「それなのに、出した答えがこれか?」

「それは、俺様を倒してから言おうか! 兄貴ぃ!】


 超絶な巨大な剣(俺の目をもってしても横も盾も厚さも端を見ることが出来ない)で、神薙に切りつける。


「武器ダメージ0のリミット 紅蓮守人クリムゾンガーディアン――柱」

「武器ダメージ0の能力を使えなくなるルート 毒紅蓮守人クリムゾンガーディアンアポトーシス


 結局神薙は右手を使ってシンジの一閃を受け止める。


 情報が多すぎる。


 神薙は自分の能力で武器ダメージを0にしたはず。

 しかしシンジが使った能力はなんだ?


 そもそもあれはシンジの能力か?


「何だ兄貴。何が自分の体には精液が流れているだ。普通に血が流れてんじゃねえか】


「…………」

「つうか今、わざとやっただろ】

「まあな。一応確認しておきたかった」


 神薙はリミットがきかないことを分かっていた。


 なぜ効かないかその理由は知らないが、やった理由は説明してくれる。


「簡単な話だ。シンボルには巨大なストレスがかかる」


 真百合を見る。


 シンボルを使いすぎるとさっきのようなことになる。

 スタミナの概念はないが、シンボルにはSANチェックの概念がある。


 使いすぎると狂う。


 それはまるで何日も鏡の前で「お前は誰だ」と問い詰めるかのように。


 その傾向はシンボルが強ければ強くなるほど大きくなる。


「問題ねえ! そのために!】


 より完成された一撃でもう一度武器を奮う。


「そのために衣川早苗を誘拐した。そしてその間自分を完成して、俺以上の精神力を手に入れた」

「…………!」


 俺達は早苗と真百合を同時に誘拐した理由を、全く誤解していた。


 同時に誘拐した理由は、早苗の方に神薙の介入をさせないため。


真百合を誘拐した理由は、神薙が力を使わないといけない能力者を作り出すため。


 早苗を誘拐した理由は、神薙に対抗できる力を得るため。


 全てが全て計画通り。


「あたりまえだけど、お兄ちゃんに勝てないから引き延ばしにしようなんて馬鹿な考えを本気で信じないでよ」

「それこそ馬鹿な! あれは月夜さんがいったんだ! 彼女が間違えるわけがない!!」


 3柱が笑った。


「お前まさか僕たちがあれより弱いと思っていたのか?」


 それを言われたらもう俺達はどうしようもない。


「さてと」


 メープルはマイクを取り出す。


「みんな。いよいよ待たせて悪かった。待ちに待った戦争の時間だ」


 どこかだれか俺から見てもゴミにむかっていとおしく演説を始めた。


「思い出せ。僕らがやられた屈辱の数々を。その主犯はここにいる悪鬼羅刹の一匹。それを今僕らが全身全霊をもって抑え込む」

「だから全部でいい。力を、力を貸してほしい。今この瞬間のためにお前らは恥辱をなめ屈辱を喰らいながら生きながらえた!」

「全部を賭けろ! 死ぬのはここだ! 今この時この瞬間で父の価値も子の価値も決まる!」

「すべて僕に投げ出せ。敵は強大。誰一匹欠けることは許されない!」

「これは戦争だ。だが決して有利なものじゃない。玉砕を覚悟した刹那のギャンブルだ」

「だが聞け。苦節二百年、金輪際これ以上のチャンスはない。これ以上の逆襲は二度と、起きない!」

「僕は全部を賭けたぞ。お兄ちゃんの駒として生きながらえる甘い糞のような神生を捨てて、たった一つの調和のために全て擲った!」

「次はお前らだ。たとえそれが誰の彼にも忘れられることだとしても、僕だけは今この瞬間だけは覚えている」

「つべこべ言わずに、ついてこい! あとは全部僕が引き受ける」


 なんだこれは。


 なんでこいつらがこんなに正しいんだ。


 なんでこいつら、悪意がないんだ。


 俺達を滅茶苦茶にしたのに、なぜそう平然としていられる。


「あ、そうだ。どうでもいいことだったから忘れてた」


 本当にどうでもいいかのように、燃えないゴミを捨てる日を思い出すかのように、メープルはこれをいった。


「このゴミ、引き取ってくれ」


 手渡されたそれはボーリングの玉のような大きさで

 しかしそれは見た目以上に軽く


 ただ細い毛が無数に伸びたそれに


 俺は目が合ってしまった。


「うぉわぁああああああああ」


 思わず尻もちをついてしまう。


 それは生首。


 女の首。


 月夜幸の亡骸。


「ぁぁ」


 それは偽物ではない。


 そしてそれは終わっていた。


「ぶちごぉろしてやろぅおおお」


 何も感じない。

 すべてが白くなり


「嫌」


 白くならずに、白ける。


「真百合?」

「嫌よ。あんなのが死んだのが原因で、あなたが完全になるなんて絶対に嫌」

「あ、あんなのって」


 自分の仲間が何を言っているのかがわからない。


「あんなのって……あんなのって……」

「だーめ。そんな誰かを強く思うなんて私が許さない」


 そうだ。


 ここには無自覚の悪意が蠢いている。


「あなたは私だけを思えばいい」


 美しく妖艶な魔女。


「あ、こっちの用事は終わったから、かえってくんない? 邪魔だから」


 残虐なる慈愛の女神。


「あっぁ 皆TUEEEEEE」


 強さのみに惹かれた神。


 どいつもこいつもまともじゃない。


「狂ってやがる」


 ただそれだけ吐き捨てた。


「じゃ、帰りましょう。私達の星へ」

「あっ」


 不意に、そして否応なしにつれ攫われる。


 それに逆らう力はなく、ただずるずると引きずられていく。


 その先に



「あと1回相手する機会があると思う。悔しかったらまた遊んでやるよ」



 ただその悪意だけを心象に残して。





「…………」

「…………」

「…………」

「……ふふ」

「    」


 死者1名

 発狂者1名

 行方不明1名


 そして○○○○1名


 こうして、俺達ははっきりと、




 無惨に敗北した。






9章はもうちょい続きます

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