未来に向かって
新作「パステル・アート・ディストピア(略してPAD)」
を掲載しました。
GWが残り少なくなってきましたが、その間は毎日更新します
ちなみにですが、ネタにつまったり作者に更新が難しくなる事情が出来た場合、あちら側をエタりますので安心してください。
まあ5年以上ほぼこの小説だけを書いているので、信用はあるはず。
とはいっても俺の選択肢に変わりはない。
「俺が地獄に行く。話を聞けば猶更だ」
最初の案で問題ないのだ。
「理由を」
「月夜さんは獄落常奴を失うといった。一理ある。俺が地獄を知れば夢幻は使えなくなる。でもそれってまずいことか?」
能力を失うわけじゃない。
「地獄は確かに存在する。その空間内であらたに能力を派生させればいいだけのこと」
「なるほど。それだけですか?」
「まだある。むしろだからこそ俺が地獄に行くべきだとも思っている」
多分これが最もな理由。
いくら月夜さんでもこればっかりは否定できない。
「地獄を支配する。つまり地獄内では無敵。ワンチャンス、俺が神にでも勝てるかもしれない」
多分地獄に行けば、俺は全能だ。
この瞬間なら神様にだって勝てる(かも)。
「そうでなくても確実に早苗を連れ帰ることが出来る」
全能なんだ。それくらい支配で何とかして見せる。
「採点してほしいですか?」
「どうぞどうぞ」
100点の自信がある。
ひょっとすれば120点200点だって
「マイナス1億点です」
……ぼろくそいわれた。
かなしい。
「マイナスはともかく1億点ってなんだ。出来の悪いクイズ番組じゃないんだぞ」
「出来の悪いのは頭でしょ? 嘉神さんの」
「ぷっ」
狐が俺を笑った。
「ぷぷっ。人の悪口で笑うなんて最低だ。俺がお仕置きしてやる……むふぅ」
「おい。お主様の方が笑っているだろ! ひぃ 関節固めはやめろ!!」
まあいいや。
許す。
因みに神薙さんには怒っても仕方がないので怒っていない。
「能力を派生ですが、ありえません。時雨さん」
「え? おれか?」
「あなた本来の地獄を知っているでしょ?」
え? マジで?
「知らねえ。勘違いじゃねえのか?」
「6章あたりです」
「具体的に言えば6章の閑話で俺が話をした」
6章って、時系列的には半年前、リアル的には4年以上前のことじゃん。
「覚えているわけないだろ」
「いや、嘉神さんは知らないんですけど、時雨さん的には時系列しか考えないんで、ワンちゃん覚えているかなあって」
こういうときメタいこと出来ると不便だよな。
どうしても時系列を振り返るとき、リアル時間を参照してしまい記憶がおぼろげになってしまう。
「……すんません。おぼえてないっす」
「そりゃ俺も詳しくなんて言ったかは忘れたから別に気にしてないぜ。ていうか覚えていたらそれはそれでキモイ」
おいこら。まてい。
シュウが必死こいて思い出そうとしたのにその態度は何だその態度は。
「内容は重要じゃないんです。ほんとうに大したことを言っていないんで」
「それで」
「大したことを言っていないということは、大したものが無いってことです」
…………
俺に詳しく理解されないよう、出来るだけ遠回しな説明だ。
「実質失うと思っておいた方がいい可能性が微粒子以上のレベルで存在します」
以下ではなく以上なので、バスケットボール大でも隕石クラスのレベルでも嘘は言っていない。
「これが0点の方です。次はマイナス1億点の話です」
こんだけ否定されてもまだ0点らしい。
「まず獄落常奴で、地獄を支配して有利をとろうとする。この考えだけは正しいです。相手が3柱でなければ」
「……」
「あの能力は『世界』 そして3柱は『物語』の能力を持っています」
いままでずっと俺をまもっていた耐性が、ついに俺に牙を向けた。
「どんなに有利を持とうが、耐性を前にしたら意味がない」
「それだったら、猶更持っていても意味がないんじゃないか?」
いつかは使えなくなるギフトなら、今使い潰してもいいんじゃないか。
「間違いではありません。ですが2つ言わないといけません」
「なんだ?」
「まず1つ、帝王に勝つためにはやはり必要でしょう」
帝王は『法則』の能力。
有利を取られるが、耐性を作られていない。
間違いなく有効であるだろう。
これから戦うであろう相手のことを考えれば、まだ捨てるのは早い、そういいたいらしい。
「そして……いえ。これはやめておきましょう。わたしが以前言ったことの真逆なことになりますので」
「なんだ?」
月夜さんが言っていたことってたくさんありすぎて、前振りにすらならないんだよなあ。
「マイナス1億点の内容ですが、嘉神さんの説明は刹那的すぎることです」
「刹那的?」
「はい。いいですか、あなたは未来を見ていない」
ああ。これ俺説教されるやつだ。
しかも長くてかったりいやつ。
いやだなあ。シュウの前で説教されるの。
「聞いてます?」
「あ、はい聞いてます」
仕方ない。さっさと聞いて終わらせよう。
「嘉神さん、あなたは未来を見るべきなんです」
「……」
「この世に今を救えないくせに未来なんて救えるわけがないだとか、明日のことはどうでもいい。今この瞬間を生きるとかそんなことをさも高尚なように叫ぶフィクションのキャラが五万といます」
5万はいないと思う。
5百から5千未満だと。
「あり得ない。死んだ方がいい」
その5百に人差し指をむけやがった。
「アニメや漫画が世間から嫌われるのはそういうところです。サブカルは未来を見させない」
「…………」
※個人の感想です。
「大人たちが口を酸っぱく未来の為に勉強しろという言葉を聞かず、アニメやゲームばかりする人生の浪費。それがサブカル」
や、やめろ。
「お金が足りなくなるのが分かっていて、今一時を楽しみたいから回し続けるパチンカスと同じ考え。ああ、そういえば最近のパチンコはサブカルをメインに稼いでいましたね。図らずしも勝手に社会が証明してくださいました」
基本ネット小説を読む人はサブカルが好きなのに、それを否定してどうする。
読者あっての作品だぞ。
「未来に投資しなさい。自分の将来に援助しなさい。それが正しい生き方。正しい選択。その上で再び聞きます。あなたさっきギフトなんてどうなってもいいから今この瞬間が大事だって言いましたよね」
語弊がある気がする。
そんな間抜けな言い方したっけなあ?
「恥を知れ恥を。これが日本を背負う男の考えですか。そんなんだから日本は社員のことを考えずサビ残が横行するんです」
「絶対にそれだけは関係のないことが分かる」
ひょっとして月夜さん、あの手この手で俺を非難したいだけなんじゃないの。
「まあ、そんなことはどうでもいいんです。嘉神さん、ここまでいって早苗さんの方に行きたいですか?」
「それは……」
いきたいとはいえなかった。
だが、別の方にも行きたいとも思えなかった。
「そんなに結論を出したいですか」
「結論?」
「そうです。ここまで言ってまだ地獄に行きたいなんていうのはもう理由は一つしかありません。真百合さんよりも早苗さんを大事にしている、それだけのことです」
「そんなこと……!」
ないなんて、言えなかった。
あるとすら言いかけた。
「いいですよ。折角ですしここで決着をつけましょう」
「決着?」
「あなたは自分の本心と向き合う時期が来ました」
俺の本心?
俺の真心?
「あなた本当は早苗さんのことが――――」
「わぁああああ かったから やめえぇろおおお!」
自分でも何をしてしまったのかは分からない。
少しやったことを考えると、絶叫しながら月夜さんの口を強引にふさいでしまっていた。
「す、すまん。ちょと口臭がきつくて……!」
「ぶぢごろがすぞワレ」
キャラが変わるくらいにガチギレされた。
「文字しかない小説で! そんなこと言われたら実際にそうだって勘違いされるでしょ!」
思いのほか効果があってびっくり。
「いいですか! わたしはベジタリアンです。お肉や魚は食べませんし、ニンニクだって食べる習慣はありません。現在は昼過ぎで朝起きた時でもありません! 歯磨きも朝昼晩におこなっています! つ・ま・り全然臭わないってことです! わかったら訂正! いいですか!!」
人は成功体験によって成長する。
今回の一件で、体臭を指摘したら大方の特に女性はかなり動揺することが分かった。
女が敵になった時、口臭でけなして隙をつくろ。
「わたしはナチュラルな香りです! いいですか!」
ナチュラルって自然だろ?
自然ってことは泥臭いってことになるんじゃない?
言われてみれば畑にすみついた野ウサギのような香りがするよね。
「分かった分かった」
と思ったが、口にしなかった自分をほめたい。
嘉神一樹、能力だけじゃなくその黄金(メッキ)の精神も日々成長を重ねているのだ!
「それで何の話してたっけ?」
「本当に……何の話でしたっけ?」
「いつきか月夜、どっちが天国にどっちが地獄にいくかって話だ」
シュウ。待たせてほんとすまん。
「それで、どうします? また問答を繰り返しますか」
正直ここまで来てしまうと誘導されている。
「本当に早苗の心配はないんだな」
「はい。あり得ないと思っていいです」
多幸福感が証明した。
「まあ、俺が言うと反則に近いが、別に嘉神一樹と月夜幸のどちらが地獄に向かっても、衣川早苗の結末は変わらないぜ」
この人がそういうのなら……そうなんだろう。
「分かった。じゃあ、俺は天国に行くとする。それでいいな」
「はい。分かってくれて何よりです」
ここまでで大分時間を食ってしまった。
制限時間はないと言え、そろそろ行動しないと失礼に当たる。
「何か必要な物はない? 特に月夜さん」
彼女は普段武器を持ち込まない。
「じゃーん」
裁縫針を指の間に挟む。
「以前時雨さんに用意してもらいました」
「そうなんだ」
「ああ。5つほど性質をつけてほしいって」
どんな性質かは聞かないでおくか。
別班の俺が聞いたところで意味ないし。
「もう、いいのか?」
「はい。もういいです」
本来俺達に準備はいらないが、まあこういう時だ。
確認も大事。
というか確認を神薙さんがするんだ。
以外。
「じゃ、いきますか」
3人は地獄に繋がる裂け目を潜っていく。
「あのさ」
何となくもう少し話したくなった。
「なんですか。体臭の話なら……」
「今度はさ、真百合も誘って5人でいこうな」
今回の発端は真百合をのけ者にしてしまったこと。
こっちも彼女を思ってのことだったが、それでも彼女がどう思い考えたかが一番重要なこと。
間違ったことをしたとは思っていないので謝るつもりは毛頭ない。
だから、償いをしよう。
ともに。
一緒に遊べば、きっと気は晴れてくれる。
「そう……ですね」
華やかにそして儚げに笑って
「楽しみです。セッティングはお任せします」
みんな向こう側に行ってしまった。




