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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
9章 永劫に沈まぬ太陽
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嫉妬と悪意の交差点

平成最後の投稿です

令和時代もよろしくお願いします。


 仮にギフトが無かったら。


 そんなIFをこの世界に住まう人間は誰しも一度考える。


 物流がどうこうとか、武器の発展がどうこうとかそういうことを普通は考えるが、正確ではない。


 この命題の真の意味は「才能の標準偏差が小さくなった世界はどうなる」ということ。


 天才が生まれない世界をあなたはどう考えますか? 


 そしてどうしますか?


 私のステータスをそのまま引き継げるという前提で話す。


 きっとその世界はどうしようもなくつまらないから、

 きっと私はいつかその世界を滅ぼすでしょう。


 だってそうでしょ。


 この才能がものをいう世界ですら、真っ当な人間で私以上がいなかった。


 どいつもこいつも馬鹿らしい。


『流石は宝瀬』


 うるさい。

 普通に経済活動を行っていれば、資産を一つの企業が2割持つなんてことありえないでしょ。


『すげえな真百合。お前は女の希望だ』


 阿呆なの?

 私と同じ女だからって、それで女性の地位が変わるわけないでしょ。男女2択しかないのに、20億分の1の乱数で参考になるなんて気でも触れているわ。

 あなたたちがやるべきことは例外の1を褒め称えることじゃなく、凡夫である自分達のスキルを向上させること。


 標準偏差を大きくすることだってことに、なんで分からないの。


『あなたは花より美しい』


 臭いのよ。豚。


 可憐なものを見るときのドレスコードがなっていないのわ。


 どいつもこいつも。


 レベルが低い。


「つまらないのよ。お前たち」





 と、こんなことを私は白い部屋事件以前に思っていた記憶がある。




 今振り返ってみるととても恥ずかしい。


 結局数の力技ではどうすることも出来なかったし、この程度の才能で不平不満を言えば今より標準偏差が小さい時代に生きたあの男に笑われてしまう。


 でも恥ずかしいと改めることはあっても、根本が変わることはない。


 私は今でも私と彼とその周辺とごく一部を除いた有象無象をゴミだと思っている。


 まあ逆を言えば、そのごく一部になれれば私は友好的になれると思っている。


 どう頑張っても私には本当の意味で人付き合いをする機会が少ないと思う。


 人であるなら私は貧乏だから身長が低いから思想がどうだからで差別する気はない。


 だから、幸。


 私はあなたを友だと……思っていた。



*****************************



「なぜ真百合がここに?」

「早苗は顔そっくりな面白いことを言うわね。私がいる場所なんて嘉神君がいるところに決まっているじゃない」


 普段以上にとげのある発言。


 そりゃ仲は良くなかったが、こんなに殺意がこもっていたと聞かれたらNOだ。


 目の焦点があっていない。


 こっちを濡れた目で見て、あっちを乾いた眼で睨んでいる。


 何やらおかしい。


「まあ、別に早苗はそんなもんだし、どうでもいいわ」

「そ、そうか」


 冷血。


 数か月前に一度だけ見せたその真百合だ。


「私が何で怒っているのか、分かってる? ねえ幸」

「……はい。ですが」

「誘おうとしたけど、嘉神君が忙しいだろうから誘わなかった」

「そ、そうです。だから」


 俺は上級国民になってからいくつか気づいたことがある。


 俺達は何をしようが間接的に人を殺す。


 なにか商品を批評した時、ハンコを押した時、道路を渡った時、街角で右に曲がった時。


 これらが有象無象にとって致命傷。


 それを真百合は生まれた時からやってきている。


 記録していないだけで、記録されていないだけで。


 彼女が生まれてから死んだ人間すべてが、


 魔女に殺されたんじゃないかって思えてきた。


 そう思わせるほど、今俺の目の前にいる少女は、人を殺していた。


「じゃあなんであなた私に伝えないの」

「え……」

「報告連絡相談。そんなこともできないの」

「あ、あの……これはあくまで個人的な付き合いでして……」


 しかし女はほんと大変だ。


 普段あんなに聡明な真百合が、生理によってこんなに愚かになるなんて。


 いくら真百合の生理が重いとしても、毎月賢者すら愚者になってしまう痛みを一般人が受けるとしたら、ミジンコクラスの知能になってしまう。


 俺なら恥ずかしくて死んじゃうかも。


「えっと……どうなってるの」


 2人で買い物をしてきたシュウと至さんが、帰ってきた。


「え? なんで代表が?」

「誰あなた。消えて」

「す、すみませんでしぃた」


 脱兎のごとく逃げ出す。


 一般人的としては真百合を怒らせるのが一番怖いのだろう。


「遊園地怖いんじゃなかったの」

「怖いから、克服するために誘ったんです」

「そう。偉いわね」


 やばいなあ。

 空気がやばいから周囲に人が集まってきて噂される。


 仕方ない。


「ふん!」


 なんかこう、人体に駆け巡るふわっとした気を飛ばして園内にいるすべての人間を気絶させた。


 これで問題を起こしても安心。


 いや安心じゃねえわ。


 この二人は戦闘力がないが、それはこっち基準。


 この建物何て余裕で吹っ飛ぶし、暴力以外のヤバさがエクストリームなので、俺でも抑えきれるか分からない。


「それなら、なんで早苗を誘ったの。それが絶対に許せない」

「わたしたち幼馴染ですよ。……こういうときに誘わないと意味がないでしょ」

「そうね。そうよね。その通りだと思うわ。でも話をそらさないで。早苗を誘ったんじゃなくて、早苗だけを誘っていることに……怒っているの」


 外道五輪参謀の会話ではない。


 中身が心なしかつまらない。


「いいじゃないですか! 嘉神さんと早苗さんと遊園地に行ったって!! なんであなたに私の行動を逐一報告しないといけないんです!!」


 そしてついに、月夜さんもキレた。


「そう、いうなら今この場で伝えたらいいじゃないですか! そうすれば全部終わるのに!!」

「なんですって!」

「わたしが伝えてもいいんですよ! あなたが! わたし達が! 嘉神さんのこと!! どう思っているのか!」

「やってみなさいよ! こっちだって何回トライしたと!」

「幸? そのわたし達で、私も入っているのか? さすがにちょっと困るぞ?」

「早苗さんもなんですか! 絶対に自分が勝つからって! そんなかまととぶって!」

「そうよ! あんたがいなければこんなことになっていないのよ!」

「なぜか私に?」

「うるさいわね。泥棒猫!! あんたなんか死んじゃえばいいのに!」

「いった。真百合! せめて握りこぶしで殴れ! 目つぶしをするな!」

「ああそうね。お望みなら!」

「いややれという意味ではなく、いった。ほんと痛い、やめるのだ」


 止めないとまずいと思っていても動けなかった。


「止めるぞいつき! さすがにここまでくると見過ごせねえ」

「あ、ああ」


 目の前に起きていることを真っ当に受け入れることが出来なかった。


 どうすればいい。


 なにがあった。


「なんかすげえな。こいつら」

「朕には理解できん」

「そうですよね。愛だの恋だの言っている暇があれば修行でもすればいいんです」



 そいつらはいつのまにかそこにいた。



 ああそうだ。


 物事が強引に動かされる渦に飲み込まれる間隔。


 あの時もあの時もそうだった。


 そして今も三度


 残虐なる悪意が俺達を飲み込む。


「姦しいってこのことか。静かにしてやるよ。俺様が」


 何かをしたでもない。

 何もせずに早苗と真百合の意識を奪った。


「シンジ……ハヤテ」


 人ならざる者。


 そしてごくわずかのこの世界で存在を許された神。


「トコハちゃんもいますよー」


 そして、神薙が関わらない神の最上級。


 3神がなんでこんなところにいる――?


「戦闘態勢!!」


 碌なことにならない。


 持てる力をすべて使って、こいつらに――――


「それが、本気か?」

「なんだ。つまんね」


 歯牙にもかけない。


 こっちを見ていない。


 興味を失われた。


「帝王にすら勝てない男に、最早朕に勝てる道理なし」


 そういいつつ、片目を髪で隠した男が自分の手首を切り落とし----


 背景が変わった。




 樹木




 幾星霜と生い茂る枯葉が周囲を覆い被せる。


 最も目に引くのが逆さまの大樹


 枝が大地をむさぼり、無数に広がる根っこが天を貫く。


 先月俺はトコハの翼をみた。


 その上で言える。


 目の前のそれはその遥か格上。


 夢幻と同じような能力で、能力だけの強さならこっちの方が上だろう。


 だがそうじゃない。


 夢幻は試験官に入った猛毒

 目の前のそれは汚染された濁流


 格と桁が違う。


 人では勝てない。

 神でも勝てない。


 神薙でなくては勝てない。


 いや、ひょっとしたら


 神薙に対抗する術になるかもしれない。


 だから


「あ……ぁ」


 気が付いた時、3歩後ろに下がっていた。


 それはシュウも同じところであり、唯一意識があり遠くから見守っていた至さんは完全に気絶している。


獄景スーサイド これがこの現象の名】


 国を星を宇宙を時間を運命を世界を法則すらも蝕む


 そいつだけの領域。


「別段これそのものに意味はない。ただどんな能力よりも力の差を伝えるのに便利なだけだ】


 そうだろう。

 今目の前にいるそれに、戦略戦術戦法そんな言葉は思い浮かばない。


 あるのは逃走服従自害 この3つの感情のみ。


「ぁぁ なんて美しいんでしょう。ああ。こんな世界に抱かれてみたい」


 相変わらず頭のおかしい女神がいるがそんなこと気にしてられない。


「いきなりそれを展開するとはやる気満々じゃねえか。俺様も続いていいか?」

「やめろ。シンジにはシンジの役割がある。お前は力を使う場所はここじゃない】

「別に脅しくらい消耗にはならねえだろ」

「言い方を変える。貴様が獄景スーサイドを展開したら、朕がただではすまん】


 はっきり言って今俺は目の前にいる目隠れした男は、神薙に対抗できると思っている。


 その上でこいつは、自分の方が弱いという趣旨の発言をはっきりとした。


「さてと、シンジ。後は手はず通りだ】

「了解っと」


 シンジと呼ばれるそいつは両腕を広げるかと思いきや、空間を握りしめ、そして引きちぎった。


「失礼するぞ】


 ハヤテは早苗を肩で背負う。


「おい、早苗をどうする気だ!」

「そのことは後でシンジにきけ】


 マニュアルに示された通りの動き。


 分かり切ったことをしている動き。


「では、また」


 トコハは真百合を浮かせ抱きかかえる。


 そして


「「ごきげんよう」】


 2柱は引き裂かれた空間に消えていく。


「ま、待て!」


 慌てて止めようとするがもう声は届かない。


「つれさられた……?」


 こうもあっけなく


 早苗と真百合は向こう側に連れていかれた。






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