宝瀬真百合 3
バナナはおやつに含まれるかどうかですが、私は含まない派です。
目が覚めたらなぜか宝瀬先輩の顔が近かった。
それに頭に柔らかい感覚がある。まるで膝枕をされている感覚だ。
いや、どうやら本当にされているようだ。
「てか何で俺なんかを膝枕してるんですか」
「嘉神君が頑張っていたから御褒美よ」
正直、寝にくいのでやめてほしかったのだがそんなこと言ったらさすがに失礼というのは理解している。
「じゃ、あと十分間寝させてください」
俺は目を閉じようとしたのだが、
「殺気!」
緊急避難で何らかの攻撃を回避した。
「早苗かよ」
例の如く例の如く、俺を殺そうとしたのは早苗だった。
「今度は一体何のようで俺を殺そうとした?」
「うっ……何でもない。ただ虫が付いていただけだ」
ここ無菌室であるから、虫はいないだろう。
「負け犬だから遠吠えとは、なかなか面白いじゃない」
「だまれ」
どうやらまた早苗と先輩喧嘩したらしい。今度は一体何のようだろうか。
「そういえば、あれから何分経ちました?」
「約四十分よ」
それは結構経ったな。
「それで、能力は戻りました?」
「ええ」
笑顔で言う。
何時ぞやの作り笑顔ではなく満開の笑みだった。
「じゃ、約束通り処刑を開始しようか」
するとまたチャイムが鳴った。
今度は男の声で明らかに慌てていた。
「みなさん。ただ今バスの準備が出来ました。扉を開けますので指示する方向に向かってください」
ようやくか。俺は欠伸をしながら言われたとおり進行する。
「先輩。みーちゃんはどうなるんですか?」
死んでしまった五つの死体。俺が取りこぼした命。
「そうだな。きっと埋葬されるんだろうな」
家族には何と連絡するのだろうか。
「天谷。みーちゃんがただのクラスメイトなら今から会いに行って手を合わせてやりな。友達なら今この場所で合わせろ。そして親友なら、葬儀で泣いてやれ。恥ずかしかったら一緒に泣いてやるから」
今一度見たが、誰が誰だか分からなかった。
ある程度の耐性のある俺も目を背けたレベルの損壊だったからな。
「仲がいい程、内側は隠すべきだよ」
友達だからこそ、仮面を被る。
「さてと、宝瀬先輩。さっきからそわそわしているんですけど何かあったんですか?漏らしそうなんですか?それとも生理ですか?」
俺の下品なジョークにもお構いなしに
「嘉神君には分からないでしょうけど、やっと私は次に進めるのよ。諦めないでよかったわ」
本当にうれしそうだ。見てるこっちまでうれしくなる。
「個人的には明日からクラスの連中が俺を見る目が気がかりですけどね」
ただこっちはそう楽観的にはいられない。
口映し露見したからな。避けられるのは明白だ。
「嘉神君。明日学校行く気なの?」
「当たり前でしょ。先輩はサボる気ですか?」
生徒会長なのにサボりとは感心できないな。
「こんな事が合っても学校に行こうとするのはどうかしてますわ」
四楓院先輩は五十分前に俺とキスしたため俺の方を向かずに話す。
緊急のためとはいっても彼女には本当に悪いことをした。
宝瀬先輩がやれと言っていなければ彼女は断り続けていただろう。
「そう言えば一樹。お前は結局今幾つのギフトを持っている?」
えっと、死体どれがどれか分からなかったからな。
「十一個」
しかもそのうち死体からのコピーは、六つ。生身の人間より死体の方が多いというネクロマンサーもびっくりな履歴だ。
ただ俺は後輩のギフトを知らないから使えと言っても使うことはできないが。
今度福知に聞いてみるか。
「どんどん一樹は反則じみてきているぞ」
うん。こればっかりは否定できない。
人質を取りながらアナウンスの指示に従いようやく俺たちは外に出られた。
外にはすでにバスが止まっておりいつでも出発できるようになっている。
警察に連絡したかったが、警察関係者にもこの事件の関係者がいる。
そもそもコロシアイをさせられましたなんていうことを110番しても信じる奴はいない。
ただ宝瀬先輩の家は超が三つ付くほどの金持ちで、宝瀬家が本気で潰しにかかれば関係者全員抹殺できるらしい。
さすが、日本財政二割だな。
携帯電話は全員分破棄され番号は忘れたらしい。
宝瀬先輩が実家に帰った時、俺たちはようやく勝つことができるのだ。
俺は運転手を見張るため最前席に座る。
個人的には、時雨たちとババ抜きをしたかったのだが、みんなする気が無いらしく仕方がないので隣にいる宝瀬先輩と話すことする。
何故か宝瀬先輩は俺の隣に座ると言って頑なになって俺にべったりなのだ。
早苗は天谷の面倒を見ているが、まるでそれに近い感覚だった。
ただ俺と宝瀬先輩とは全くと言っていいほど接点が無い。
精々、ギフトホルダーというくらいだ。
だから今まで聞くタイミングを逃していた先輩のギフトについて聞いてみることにした。
「結局、先輩のギフト何なんですか」
「知りたい?」
「ええ。教えてください」
絶対に教えないと思っていたのだが
「反辿世界というの。簡単にいうと『世界』を巻き戻す能力よ」
『世界』という言葉に違和感を感じた。
「巻き戻すって時間のことですか」
「合っていると言えばあってるけれど、間違えていると言えば間違えているわ」
どっちだよ。
「『時間』と『世界』の違いについて時間かかるけれど説明する?」
俺は迷ったが今は聞かないことにした。
他に気になることがあったからだ。
「でも何でさっきまで使うこと出来なかったんですか?普通に始まる前に戻ったら良いだけじゃないですか」
「使用制限があるのよ、そもそも本来の反辿世界――――――」
何かを言おうとしたのだろうが急に青ざめる。
バスが橋の上から転落した。
シートベルトをしていない俺は、吹き飛ばされる。
運転手は絶命していた。
そっちか。バスに仕掛けをせずに、運転させる手を奪い、俺たちを消しにかかったか。
ガラス越しに海が見えた。
予想外だ。こっちには衆議院議員という人質があった。
ただその人質ごと殺しに来たとは。
日本人は人質がいると行動できないという先入観ゆえのミスだった。
ただ仕方ない。どんなに後悔してももう遅い。今は生きることを考えろ。
あれしかない。回廊洞穴を使う。
ただ俺が作れる穴の大きさは今の所半径一メートルが限界だ。
更に距離も怪しい。俺が場所をイメージできて安全なところは学校の校庭しか思いつかなかった。
ここから約50キロ離れている。
そんな遠くにあのくそ難易度のギフトを使うしかないというのか。
ただもうやるしかない。ここで成功しないと、何のためのギフトなんだ。
成功してくれ。頼むから。最後これだけなんだ。
「回廊洞穴―――!!!!!」
結論から言うと回廊洞穴は成功した。
バスが衝突する直前に見た光景は間違いなく我が博優学園の校庭だった。
俺は衝撃で吹き飛ばされたあと、窓ガラスを突き破って地面に激突した。
後頭部を守り二転三転。そして停止。
俺自身ボロボロになっているが、動くことのできないダメージは追っていない。
今俺はバスの外にいるので後ろを振り返る。
バスは何とかバスと言えるギリギリの原型を保っていた。
「大丈夫か嘉神!?」
「大丈夫。何の問題もない」
傷は鬼人化で回復しながら時雨に中の様子を尋ねた。
「そっちは?」
大丈夫とは思うが、質問してみた。
「…………嘉神、お前は悪くない」
「え?」
その返答は予想外だった。
「これは事故だ。だから………気にすんな」
何を言っているんだ時雨。
「どけ」
俺は無理矢理バス内に入る。
多くの人が動いている。つまり助かっているのだ。
ただ一人を除いては。
たった一人。その一人だけがピクリとも動いていない。
「早苗?!」
早苗だけが血だらけで倒れていた。
遠足は家に帰るまでが遠足です。




