勇者と悪魔 sideD
まさかの九曜白夜視点でお送りします
自分にとって嘉神一樹は好意的な相手ではない。
ただ何となく嫌いにもなれなかった。
その理由を考えて、少しだけ分かった気がする。
彼は間違ってしまった自分なんだ。
何かどこかでボタンを掛け違えた。
その掛け違いを、今も引きずっている。
ああはなりたくないと思いながら、どうすればあそこまでの領域にたどり着けることが出来るのだろうかという疑問。
軽蔑と称賛の相反する感情が渦巻いていた。
だが
「飽きた。能力を暴いて終わりにする」
この瞬間称賛は侮蔑へと変化した。
こいつは自分が言ったこと。
そして自分が何を賭けているのかわかっての発言か。
沸々と怒りのようなものがこみ上げる。
「何を寝ぼけたことを! そんなこと出来るわけがない!!」
帝王にすら自分から明かすまで見破られることはなかった。
だが理論的に不可能とはわかっていても、目の前にいる男は理論からはみ出ていることを注意しておかねばならない。
「もう一度見せてくれない? ご自慢のギフトを。そしたら解るから」
あり得ない。
不可能に近い。
だが本当にそれが出来そうな男なんだ。
目の前にいる男が、異形に見えて仕方がない。
勝てる気が、しない。
「白夜――」
だが勝たないと自分の大切な仲間が奪われてしまう。
答えははるか前に決まっている。
「九一一一!!」
考えられるすべての想いを、この傘に込める。
「シュウと似たような能力。だが違う。その能力はより直線的で単純」
未来が分かっているかのように攻撃をかわされる。
自分も『運命』を踏みつぶしながら、攻撃を続ける。
「武器を強化する能力――――」
はずれだ。
よかった。やはりはったりだったか。
「ではないのは当然。そんな能力では1桁にならない。ではいったいなんだろう」
『時間』を止められたかのように一発攻撃を受けてしまう。
だが時間停止は自分に効かない。
やはり『世界』停止を頻繁に使われるときつい。
「さっきの一撃は絶対の剣だった。直撃したら残機を一撃で消し飛ばしかねない。そう感じることのできる一撃だった」
間違いじゃない。
そのつもりで自分は剣を振った。
「自分の願いをかなえる能力、とは違う。だったら直接願いを攻撃にかえて攻撃するべきだ。それが分からないほど馬鹿じゃない」
「…………」
当たってはいない。
だが……
「だったらこれはどうだ!!」
今度は傘を機関銃としてぶっ放す!!!
「九一一一!」
普通に撃っても当たらないのは分かっている。
だったら1秒間に光年距離を1億回往復できる速さで
『世界』すら捕らえられない自由さで追撃するつもりで!
「くらえええええ!!!」
目の前にいた嘉神一樹は突如として消え去る。
『世界』を停止したんだろう。
それはいい。
だがどこにいる?
当たったのか。
それとも
「『世界』停止中ですら超光速で追尾してくる。正直初めてだ。このギフトを直接的に破られたのは」
すぐ後ろにそいつがいた。
「追尾弾の弱点はやはり動きを相手に制御されること」
「!!!!」
その背後に自分が撃った弾が。
あれに当たるとまずい。
だが問題ない。
だって自分には効かないつもりの攻撃なんだから。
数発直撃するが問題ない。
残り数発あいつに命中さえすれば。
「獄落常奴―業火」
攻撃そのものが炎によって食われた。
「俺はどの攻撃が九曜白夜に命中するか分からないように誘導した」
「それがどうした」
今度は燃えないつもりで撃つ!!
「なんだかなあ。鏡を見ている気分だ」
しかし攻撃する前に傘の上にのられ、止められる。
「お前の行動は矛盾している」
「何の話だ」
「最初にあった時もそうだ。最初俺が分身できることを驚いたように見せて、結局自分もできている」
分からないと思ってギフトを使ったのに。
「出来ないことが出来るようになっている」
「それが なんだっ!」
「お前の対応は後手後手なんだ」
それは……以前帝王様からも指摘されていた。
「こういった思考は能力に引っ張られやすい。あんたの能力も後手の能力。正確には後手でなんとかできる能力だ。そう考えるとあとは自分で考えつく」
少しずつ
「後の先の能力」
ほんの少しずつ。
「願いをかなえる能力」
確かに
「自分の意思を現実にする能力」
自分の能力に近づいてきている。
「それらしいことをする能力」
そして――――
「つもりの能力」
答えにたどり着かれた。
「これか。これが正解か」
もはや自分に興味を持っていない。
さっきまで獲物を追っていた目とは違う。
「だから傘なのか。確かに俺も子供の頃は雨傘を剣にして振り回していたな」
もはやその目に何も映っていない。
捕らえた獲物を咀嚼し、楽しんでいる。
「自分がそのつもりでやったことを、そのまま現実に反映する」
時には傘を万物切り裂く剣のつもりでふり
時には傘を追尾ミサイルのつもりで撃ち
時には傘をすべての攻撃を防ぐ盾のつもりで開く
それが自分の九一一一
「だ、だったらどうした」
知られることに対する弱点が少ない。
「そうだね。弱点は比較的少ない。でもないわけじゃない」
禍々しさを感じる焔を無数に浮かべる。
あの焔を直接触れるのは危険だ。
傘で薙ぎ払い消し飛ばさないと。
「これに対してお前が出来ることは少ない。例えば傘で消し飛ばすとか」
「……」
「これが弱点の一つ。連想ゲームみたいな能力だから、思考がものすごく読みやすい」
なんだこいつ。
なぜこんな簡単に自分の弱点を言い当てられる。
人の弱みに付け込む能力が、人並み外れている。
悪魔は単に代名詞だと思っていた。
だが現状あまりにも
悪魔的すぎる。
「確かに重ね掛けが可能な分シュウより強いかもしれないが、一対一だと読まれやすい。つまりお前はシュウより強いがシュウより勝てない。これだったら最初の一戦でお前が出てきてもシュウが勝っていたな」
もはや終わった試合のように感想戦を始めだす。
「結論。お前は俺とシュウを足した後4で割ったような男だ。つまるところ、お前はつまらない」
敵としてすら見ていない。
「もうわかっただろ。お前は俺に勝てない。だったらせめて潔く降参したらどうだ」
戦況は五分だったかもしれないが、今こうしてみると分かる。
目の前の悪魔は本気を出してはいない。
初めからこっちの種を明かすつもりだけで戦っていた。
仮に本気で戦っていれば、一瞬でケリがついていた。
頭脳
能力
精神
何もかもが上をいかれている。
嘉神一樹。
「しかしその能力だと俺の作戦に引っかからない可能性があるな。うーんま、おいおい考えるか」
モンスターのように憎む相手ではない。
悪魔のように恐れる相手だった。
黒白の悪魔。
こんな奴にいったいどうすれば勝てるんだ…………
「実をいうとさ、あの女別に興味ないんだよね。だから今降参するなら賭けの話は無しでいいよ。その代わり条件があって――――」
悪魔が出す条件だ。
きっとろくでもないものなんだろう。
でもあいつを失うくらいなら悪魔と取引をしてもいいんじゃ…………
「白夜――――! 負けちゃいやぁ!!!」
そうだ。
何をしている。
諦めるな。
自分にはまだ姫がいる。
姫が信じてくれている。
自分に残っているモノ。
数えられるほどの宝物。
「頑張れえええ!!」
普段は大人しい結城海が声を荒げ
「挫けるな! 白夜!」
難解な言葉を使わず素直に九頭竜リクが声援を送る。
「絶対に勝って。アタシまだあんたに伝えないといけないことがあるの!」
覚悟が足りなかった。
何をしてでも、勝つ覚悟。
最高の友と、そして
「分かってる。でもごめん。先に自分がいうね。大好きだ恵梨!」
自分の幼馴染で最愛の、『吾妻恵梨』に思いを告げる。
もう負けない。
みんなの期待を背負っているんだ。
「自分はお前に勝つ!」
恵梨からもらったハンカチを握りしめる。
不思議と力を感じた。
破れかぶれかもしれない。
だが分かっていても止められない一撃はある。
自分の傘を偽装しろ。
これは、全てを断ち何物にも捕らわれず持ち主を万物から守り風の加護により素早さが上がり続け決して消えないなんだかよく分からない剣
「アン・ブレードぁぉおおおおおお!!!!」
「……………ふっ 」
音を置き去りにした攻撃は、悪魔の言葉を聞き逃した。
数秒後に本日最高潮の歓声が鳴り響く。
嘉神一樹は昇天して倒れていたからだ。
「みなさん、ご一緒にカウントをしましょう!」
アイドルがカウントをとり始める。
「1! 2! 3!」
まずは観客が
「4! 5! 6!」
友である九頭竜と結城が
「7! 8! 9!」
遠くからみていた四天王や帝王すらカウントを数えている。
これで決着。
「自分の勝ちだ!!!!」
両腕を上げガッツポーズをとった瞬間、悪寒が走った。
自分の勝ち……?
だが待て。
何かがおかしい。
なんだこの言いようのない不安は。
取り返しのつかない何かをしてしまった気がする。
ふと、日本側の観客席を見る。
憐み。
これから潰される養豚場の豚を見るかのような憐み。
なんだ?
勝っているのは、これから勝つのは自分のはずだ。
何を見逃している?
こいつの反撃か?
いや、ピクリとも動かない。
完全に気を失っている。
それがどうして?
分からない。
「10!!!! けっちゃーく、決着ですっぅ!!!!!」
寒気が止まらない。
自分は本当に勝っているんだよな?




