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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
8章 人という名の
226/353

悪魔に人の心は分からない sideA

 空気そのものが凍ったような静寂。そりゃそうだ。


 あまり美しい方法とは言えないが、さっきまでは帝国民が応援していた結城海の勝ち確の状況だった。


 しかし現実は違う。


 完璧に致命傷(殺してはいないだろうが)が入った。


 サッカーで例えるなら引き分け狙いで時間を稼いでいたが、いきなり奪われそのまま決勝ゴールを決められたようなものだ。


「いやっほーい」


 審判ですらあっけに取られている。

 審判が決着の合図をする前にフィールド内に入るのは、ルール的には問題あったりするが、誰も文句は言えない。


 続行可能であるならばバリアが未だに張り続けている。

 それが無くなり第三者が入ってこれるということは、そういうことだ。


 誰がどう見てもKO勝ち。


「「わーしょい。わーしょい」」


 複製体を生成し、シュウを胴上げ。


 盛り上がるべき空気の中


「……何をした」

「えっと。誰だっけ?」

「九曜白夜だ。忘れたのか」


 あー。そういえばそんな人いた気がする。

 帝国四天王。


 人類で6番目に強いとされている人。


「教えるわけないじゃん。種もなければ脳もないのかよ」


 今回シュウがやったことは至極簡単なことだ。


 いつも電気に追加している性質を別のもので代用した。


 別のモノとは光や重力といった自然現象。


 すべての攻撃を防ぐバリア。

 しかしそのバリアは本当にすべての攻撃を防げるのか。


 答えはYESだ。ただしその時は中にいる使用者が死ぬ。


 光による攻撃を防ぎきってしまえば、真っ暗闇の世界になる。

 温度による攻撃を防ぎきってしまえば、絶対零度の世界になる。

 重力による攻撃を防ぎきってしまえば、無重力の世界になる。


 つまり理から外れてしまえば、理からも守ってもらえなくなる。


 仮に絶対防御が名前の通りなら、黒光りするバリアではなく完全なる黒の球体になり重力の影響もシャットアウトするため明後日の方向にバイバイキンしてしまう。


 つまり見えている、そしてそこにいる。

 それだけで絶対防御とはいいがたい。


 まあ今回はスポーツ競技としての勝負だから本気で戦うとなると真っ黒のバリアになっていた可能性があるが……ま、その様子はなさそうだったから杞憂だな。


「嘉神さん。次の試合がありますのでフィールド外から離れてください」


 レフェリーが俺を窘めるが無視。


「次の試合? そんなものはいらないだろ」

「何を言う!」

「分かっているくせに、とぼけちゃって。もう勝負ついているから」

「ぐっ……」


 やはり気づいていたか。


 以前にも言ったが帝国式勝ち抜き戦は初戦が非常に重要。


 それをこっちがとった時点で勝ちはもう決まった。


 まずシュウに勝てるのは九曜白夜くらいである、

 残りの3人はいわば数集めの要素が強い。


 だからその3人ではシュウに勝つことは出来ない。

 仮にできるのなら初戦の相手はそいつになっているだろうからな。


 そして帝国は三累権の法則により、3連勝すれば次の1戦は確定敗北となる。


 つまり帝国がシュウに勝つ方法は、九曜白夜を出すか、3連勝させるかの2択でしかない。


 では九曜白夜を出す場合を考える。

 シュウが勝てば考えるまでもなく終わり。

 逆に負けた場合、月夜さんと真百合で棄権させ今度はこっちが三累権を使う。


 4連戦目は確定敗北のルールにのっとって、九曜白夜を倒し残りの有象無象を俺が掃除する。


 この場合が一番勝率は高いかもしれないが、恐らく帝国の目的であろう俺と九曜をぶつけることが出来ないため無意味。


 では九曜白夜を温存すればどうだろう。


 この場合はもっと簡単。

 シュウが3つ試合をとることになる。


 そして4戦目に確定敗北をすることになるが、4戦目の相手が有象無象なら俺が出て勝ち。九曜白夜なら女三人で不戦敗をさせ三連勝をさせて勝ち。


 どの場合でも俺の勝ちだし、九曜白夜との戦闘は出来ない。


「やっぱり勝ち確じゃないか」


 あー長かった8章もこれで終わりかー。


「終わりませんよ。まだ8章は」

「ん?」


 月夜さんが何かを言い出した。


「弱い犬ほどよく吠えるというが、どうやら獣になると強くても吠えるらしい」

「ほう」


 何やら発言が一々かっこいい人が突っかかってきた。


「しかしどうやら巨大な魔は足元の小石に気が付かないようだ。その小石が貴様の計画を破綻させる要因とも知らずに」

「ふうん。何それ」

「簡単なこと。オレが時雨に勝てばいい」


 ・・・・・・・


 お前が時雨に勝つだと。


「まあな。それが出来ればそうだろうな。ただそれが出来ないから2戦目に出てきているんだろ」


 勝てるなら初戦に出す。

 勝てないと自分たちで考えたから初戦を避けた。


 論理的思考で考えてこいつの発言は矛盾している。


「どうやら誤りを訂正しないといけないらしい。こちらが結城を初戦に出したのはいかなる場合でも対応できると考えたからだ」

「その計画立てたやつは、今どんなアホ面してるんだろうな」


 もしくは泣きそうな顔か。


「こっちは初戦に時雨驟雨が来るという読みでオレが参戦するルートもあった。この意味を分からないほど愚かではないだろう」


 ……


「時雨驟雨。いっておく。オレは強い。逃走は知だ。恥じゃない」


 この野郎。

 俺の時雨にそんなこといったら……!


「おもしれえじゃねえか。いつき、どのみちこっちは戦うんだ。これ以上のごたごたは余分だろ?」


 簡単にのるのは分かっていた。


 しゃーない。


「シュウがそういうなら」


 しかしだ。


 シュウの戦い方は挑戦者の戦い方。

 常にワンチャンスを狙える格上を食えるスタイル。


 だが逆に格下だろうがワンチャンス取られることに気づいていないのか?


 シュウにまともな防御手段はない。

 完全に攻撃に特化している。


 だから万が一、億が一、シュウが不慮な事故にあうこともあり得るとすら思っている。


 そしてその時世間一般の評判はどうなるか。

 シュウの評価が下がってしまわないか。


 不安だ。


 どうしよう。


 ・・・・・・


 決めた。



「さあさあいよいよ二戦目は、一人暗部VS時雨驟雨。武器の使用はあるでしょうか?」


 このどんよりとした空気の中でもアナウンスを続ける……常葉という無名のアイドル。


「ある。これを使用したい」


 提出した武器はカッターナイフ。

 超悦者が使う武器として殺傷能力は十分。


「だったらおれも、頼む」


 シュウから預かっていたナイフを手渡す。


「おっと、刃物同士の激突か!?!? これは流血必至のバトルになりそうだぁああ!!」

「うぉぉぉぉ!

「血が見たいんだ!!!!」

「きゃー すてきー」


 それぞれの歓声が沸き上がる。


 帝国民頭沸いてるな。


「ところでいつき。どうやっておれに連絡を贈ったんだ?」

「ああ。歴史を知るギフトでそういう能力者がいないかを検索。そのあと獄楽浄奴アンダーランドで生き返しものにした」


 『世界』以下限定だが、その気になればいろんな能力を手に入れられる。


「じゃそろそろ時間だから」


 シュウがリングの中に入る。


 続いて俺も準備に取り掛かる。


 えっと……。

 よし。


「嘉神さん。本当にそれをやるつもりですか」

「あ、月夜さん的にはNGなわけ?」

「あまり推奨しません」


 そうだろうよ。


 今から俺がやろうとしていることは、そういうことだ。


「でも仕方ないだろ?」

「責任は自分でとってくださいよ」


 はいはい。分かってる。


「では第二試合 、ファイト!!」


 場内の盛り上がりとは裏腹に、俺の脳内は冷え切っていた。









 動きの遅かった第一試合とは打って変わって、第二試合は超速の戦闘だった。


 秒速一光年がぎりぎり単位になるかどうかの超速戦闘。


 相変わらず実況のことなんか考えない戦い方だな。


 さてさて、俺がシュウの為に出来る最善のことは何だろう?


 応援? それは仲間としての当然の行動であって、プラスにもマイナスにもならない行為だ。

 バフをかける? 反則。

 デバフをかける? 反則。


 アドバイス? 前回は良い手だったが、今回は悪手だ。


 今回シュウの対戦相手は、動きが異常に速い。

 光速越えの戦いの最中、アドバイスを聞いている暇はない。


 いや、あるにはあるが、そこを突かれる可能性があるので、むやみに話しかけることが出来ないのが正解か。


 だからこそやれることは限られている。

 俺は俺がやるべきことをやるだけ。


 支倉見実から奪い取ったデータ採集のギフトで、あいつのデータを入手する。


 名前は九頭竜リク

 誕生日は8月11日 おとめ座。

 好きな飲み物はドクターシュガー

 家族構成は……うん。


 これだ。


 九頭竜リクには妹が一人いる。

 大層可愛がっているそうな。


 ……


 狙うっきゃねえよなあ?


 勿論犯罪になるようなことはしないが、超法規的な行動をとろう。


 とりあえず分身を残しいったんこの場から離れる。


 目的地は九頭竜妹がいる屋敷の中。


 へえ。意外といいとこ住んでんじゃん。


「どちら様ですか?」


 その子の様子は普通とは少し変わっていた。

 正確には健常者とは見えなかった。


 目を一度も明ける様子はなく、左腕は肘から先がない。

 恐らく足も義足だ。


「名乗るほどじゃないさ。君のお兄ちゃんの関係者かな」

「まあ。お兄様の?」


 嘘じゃないし。


「そうなんだ。君のお兄さんが今親善試合に参加しているのは知っているか?」

「はい。一度もわたくしには伝えはしませんでしたが」

「実はさ、その試合中で重傷を負ってしてしまってさ。急いで病院に来てほしいんだ」


 正確にはこれから怪我をすることになるんだがな。


「まあ、それは。ですがどうしてわたくしに?」

「……言いづらいんだが、ひょっとしたらこのまま目を覚まさないかも」

「…………嘘、ですね」

「信じたくない気持ちは分かるが----」

「そういう意味ではありません。あなた嘘をついていますよね」


 ばれてえら。


「……」

「沈黙ということはやはりですか。あなたの目的は何ですか?」


 プラン変更。


「泥棒かな。ただし君を奪いに来た」

「まあ、何と情熱的な」

「随分と余裕そうだけど、こういうの経験済みだったりするわけ?」

「人並みには」


 人並みか。

 難しいところだよな。


「俺個人の用事は終わったんだけど、何か言いたいことか聞きたいことはあるか?」

「……でしたらこれからの用事を教えていただけると助かります」


 うーん。

 状況はあと数十秒伸ばした方がいいか。


「君は九頭竜リクの妹だろ。仮に君の体の一部を定期的に送り付けたらお兄ちゃんはどんな気持ちになるかなって」


 仲がいいことは既に把握済み。

 きっと気が動転するんだろうな。


「……正気?」

「あ、もちろん君そのものに攻撃はしないよ。俺が欲しかったのは君の情報。どんな体をしているか、どんな指をしているか」


 こういうのは直接見て確かめないと。


「今現在も君の指を一本ずつ創って送り付けている最中なんだ」

「……」

「動揺するかな。してくれるといいな」


 せっかく作ったんだから効果があると嬉しい。


「気狂い」


 初めて明確に罵倒された。


「お兄様がそんなもので動揺するとでも?」

「するだろ。しなければ今度は首でももっていくだけだ」

「……」

「あ、逃げようとしても無駄だからね。今この空間は特殊な事情・・・・・により俺以外の誰も入ることは出来ないから」


 ただし神薙は除く。


「だから君の安否は誰も確認できない。あ、俺が分身だってこと見破られちゃった」


 向こうも馬鹿じゃない。

 異変に気付いたか。


 ただそろそろだな。


「つまりわたくしを人質にしたということですか」

「いや何でお前なんかの為に俺がそんな罪深いことをしないといけないんだ。単なるアリバイ作りだって。勘違いしないでよね」


 目の前で生首を作る。


「ねえねえ。君のお兄ちゃんは、君そっくりなこの顔になんて落書きをしたら怒り狂うかな? かたわ? 役立たず?」

「……キチガイ」

「あ、そんなひどい言葉を書かせるんだ。以外にドSだね」


 本人の希望通りにその言葉を書く。


「じゃ、そろそろ佳境だから。さよなら」


 もう興味ないし会うメリットもないので、これで二度と会うことはないだろう。




 戻ったのと同時に、この似非生首を九頭竜リクにだけ見えるよう細心の注意を払って見せつける。


 ちゃんとその額に書いた文字を見えるようにした。


 おお、きれてるきれてる。


 でもだめだよ。シュウから目を離しちゃ。


 ほら。致命傷が気持ちのいいところに。


 その場で崩れ落ちる。


 あーあ。


 おわっちゃった。


「いやっほーい」


 ハイタッチからの胴上げ。


 しかしそれを邪魔しようとするものが。


「てめえええええええ」


 九曜白夜だった。


 激おこだった。









本当は数話使いたかったですが、リアル時間がかかりすぎたので駆け足になりました。

時間が出来れば描写を追加するかもしれません。

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[一言] 主人公が外道すぎる、、
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